ナタリー PowerPush - ヒャダイン

シリアス路線はSOS? 多忙なクリエイターの実情

DNAレベルでカッコよくなれなかった悲しみの歌

──カップリングの「パーレー」なんて完全に世の中にツバを吐いてますよね(笑)。この振り切れ方も心配要素のひとつで。

あー。でもこれは、僕がDNAレベルでカッコよくなれなかった悲しみの歌なんですよ。「パーレー!! イエーイ!!」みたいな世界に憧れて、でも実際にパーティに行ってみたら、全然なじめないわけです。違和感しか感じなくて。「自分はここにいてもいいパスポートを持っているんだ」と言い聞かせながら、道端アンジェリカさんのあとにフォトセッションを行ったりとか(笑)。でもDNAレベルでビクビクビクビクしてて、結局「ああ早く家に帰ってゲームやりたいなあ」とか考えちゃうわけです。

──ああ……。

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でもそのパーティを俯瞰視すると、パスポートを持ったセレブリティたちのパーレーも、昔バイト仲間に呼ばれて行った大衆居酒屋の飲み会も、皆さんのスピリットは基本的に同じなんだなと思って。ただ騒いで、共通言語でしゃべって楽しみたい、っていう。ただパスポートがあるかないかで、大衆居酒屋かウェスティンホテルかが決まるわけですよ。僕はその飲み会になじめなかったんですよ。そのとき僕はウェスティン側の人間だと思ってたから(笑)。でもいざパスポートを持ってみたら、大衆居酒屋と同じようになじめなかった。

──野宮真貴さんという華麗なパーティピープルと親しくなったにもかかわらず(笑)。

もう絶望しかないですよね。要するに僕は全ての「集団」になじめないんだっていう……。今もこうしていいおべべを着てますけど、それはがんばってがんばってのことで、やっぱナチュラルボーンな人たちとはDNAが違います。

──それはきっと、どこまで行っても変わらないですよね。サブカル的な特有のこじらせ方で、DNAレベルで一生なじむことはできない。でも、完全にサブカル側なのにパスポートを持って生き生きとパーレーを渡り歩いている綾小路翔(氣志團)さんのような人もいて(笑)。

そうなんですよ。今「musicるTV」で共演させていただいてますけど、イケてる人とイケてない人の対比が見事に出ています(笑)。だからこの「パーレー」は思いっきりツバを吐いてますけど、パスポートがあるのに輪に入れない悔しさを自分で毒づいた歌なんです。

──ヒャダインさんが中心となる輪を作ることも、これだけ交友の幅が広がればもはやできるんじゃないですか?

ムリですムリですムリです。人を誘うというのがどんだけ恐いことか! ……だからもうずっとこのままなんでしょうね。なーんも変わんなかったッスねー。パーレーとかで仲良くなった人とのコネクションでいろいろなことができるようになるんだったら、きっと僕はそれで満足するんでしょうけど。それができないから、別のかたちで新しいつながりを求めるんでしょうね。テレビジョンなどの電波を通じて(笑)。

──去年楽曲を提供した中川翔子さんも、同じようなカルマを抱えたままテレビジョンの世界でがんばってますよね。

カルマだらけですからね(笑)。勇ましい。彼女にもすごくシンパシーを覚えます。すごくがんばってて偉いですよね。

できれば異物のままでいたい

──今回のシングルはどの曲もアレンジ面で大きく冒険している印象があります。アルバム「20112012」の収録曲もそうですけど、ほかのアーティストへの提供楽曲ではできないアプローチにも挑戦しているような。遊んでるし、試しているのかなと。

うん、試してますね。「20112012」のタイトル曲なんかは、時代に逆行するような音楽を作りたかったんですよ。VERBAL(m-flo)さんをフィーチャーするとなったら、普通は最新のEDM的なアプローチになるであろうところを、あえて70'sファンクテイストにしてみたり。自分のプロジェクトだからこそ好き勝手できるというのはありますね。

──おそらく発注される方は、過去にヒャダインさんが手がけた楽曲の中からヒットしたものを例に挙げて「○○風に」というお願いをされることが多いんじゃないかと。そうなると、自然とアプローチの幅も限定されてしまうんじゃないかと思って。

ええ。「ヒャダインさんっぽくお願いします」と言われることもあります。

──このアプローチはまだ試してない、こういう曲を作りたいというアイデアはたくさん抱えている?

ありますね。いろいろと考えています。

──2013年はシリアスな「23時40分」でスタートとなりますが、ソロ活動としては今年どういう方向でやりたいという目標はある程度定まっていますか?

僕は今まで、自分の方向性について考えたことは1回もないんですよ。ショットショットで考えるので、今回はとにかく全く違うアプローチがしたかったと。2013年という区切りで言えば、新しいスタートが切れたなと思います。でも次はもしかしたら、5歳向けのなーんも考えてないような曲になるかもしれませんし、もしくはインストとかになるかもしれない(笑)。ヒャダインがいきなり12人になる可能性だってあります(笑)。

──基本的にはノープラン。

具体的な夢もプランも持たないようにしていますね。持っていたらそれこそ自分で自分の幅を狭めてしまう気がして。なければないほど、なんでもできると思うんですよね。フットワークは常に軽くありたくて。例えばここで急に演技の仕事が入ってきたと言われれば「ハイ、やります」って答えますし、0泊3日でブータンに飛べと言われても行きますし(笑)。あえて固定されたイメージを持たれないように。最近は「ももいろクローバーZのサウンドプロデューサー」という扱いを受けることも、彼女たちががんばっているおかげで多くなってきたんですけど、最近はそういったイメージの限定もされたくなくて。絶対ひとつの形に捕われたくはないんですよ。

──あえて言うなら「方向性を持たない」というのが唯一のプランという。

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常に見ている人を困惑させる状態でいたい、常に「なんじゃこいつ?」と思われていたいっていう。正体のわからないものって不安なんですよ。でも僕はそういう不安を与えるような存在で常にいたい。

──ヒャダインさんが尊敬する人としてよく名を挙げるタモリさんは、まさに正体のわからない不安を残したまま市民権を得ている第一人者というか。

ええ、ええ。理想的ですよねー。

──去年は念願叶って「笑っていいとも!」に出演されましたけど、カルチャーに全く興味のない主婦の方とかは「何?」「誰?」としか思わなかったでしょうね。異物って感じの(笑)。

ですね(笑)。できれば異物のままでいたいんです。

ニューシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」 / 2013年1月30日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / LACM-34060
通常盤 [CD] / 1200円 / LACM-14060
収録曲
  1. 23時40分 feat. Base Ball Bear
  2. パーレー
  3. ピアノ
  4. 23時40分 feat. Base Ball Bear(Instrumental)
  5. パーレー(Instrumental)
  6. ピアノ(Instrumental)
初回限定盤DVD 収録内容
  • 23時40分 feat. Base Ball Bear(MUSIC VIDEO)
ニューアルバム「20112012」 / 2012年11月28日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 3500円 / LACA-39254~5
通常盤 [CD2枚組] / 3000円 / LACA-9254~5
ヒャダイン

1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」などのヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を発表。2013年1月30日には通算6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」をリリースする。