ナタリー PowerPush - ヒャダイン
シリアス路線はSOS? 多忙なクリエイターの実情
ヒャダイン×ベボベ
──実際にアレンジをBase Ball Bearに一任してみてどうでしたか?
今回はサウンドプロデュース的なところまでお任せしたんですけど、全く違和感はなかったですね。完っ全にお任せで、ひとつも口出ししませんでした。一緒にプリプロもして、スタジオで僕が歌いながらみんなで作っていくみたいな。そういった経験も初めてで、「あ、バンドってこういうふうに曲を作るんだ」っていう発見もあって、すごく勉強になりました。今後の制作にもかなり影響は大きいと思います。
──とりわけ小出さんとは、Twitterでのやりとりを拝見していてもかなり息が合っているようですね。彼はロック畑の人で、共通のアイドル趣味を除けば、音楽的にはおそらく結構違う道を歩んできたのではないかと思うのですが。
彼もマイナス側、ドブ側の人間ですからね(笑)。音楽的な波長というのは多分合わないんですよ。聴いてきたものが全然違うので。曲の作り方を見ていても、僕が全くわからないワードを使っていたりとか。でもなんだろう、アーティストとして、ひとりの人間としての根幹の部分に通じ合えるものがあって。いろんな面でシンパシーを感じたり、今の立ち位置に対する不安や戸惑いも共有できていると思います。同業者ではあるけども、極めて友人的な関係ですね。
──音楽的な共通言語を飛び越した友人関係というのもいいですね。
まあ、アイドルの話を始めたら2人とも止まらないですよね(笑)。一方、メールで深い話を打ち明けあったりもするし。ひとりのアーティストとして尊敬していますし、いい出会いだったなと思いますね。
ただの歌の人
──アレンジを一任したことで、サウンド面はもちろんですけど、全体的な仕上がりもこれまでの楽曲とは大きく違いますね。
ええ。僕が彼らに渡したのは、極力簡単に打ち込んだピアノとリズムだけで、コードの付け方から曲の展開から全てお任せしたんです。僕がベボベで好きなのは、1曲がまるで映画のようにきれいに流れていくところ。僕はどうも場面場面をバツッ、バツッと切る癖があるんですよ。こいちゃんにも言われましたね。「(ヒャダインは)1個1個終わらせるよね」って。今回はエンジニアさんまでベボベの音楽を作ってる人だから、声の処理や息のかけ方も全然違うんです。特別な加工をしているわけじゃないんですけど、最後なんて自分の声じゃないみたいな。
──この曲に関しては、ある意味ただの「ボーカリスト」ですもんね。
そうそう、ただの歌の人(笑)。
──「ボーカリストになりたい」という願望を持ったことは一度も……。
ないないない。ないです。だからね、困ってるんですよ。歌番組に出るときはどうしようかと(笑)。困るんですよ。……困るんですよ。どうすればいいんですか。
──あはははは(笑)。
いつもみたいに踊ってごまかせないんですよ!? まあ完全にシンガーソングライター的な動きになりましたけど、これって今までの僕の曲が好きだった人は、きっとすごく嫌がると思うんですよ。「お前がやる必要ないだろう」とか、あるいは「歌がほかの人だったらよかったのに」とか。でも今回は逆にそれを目指してるというか。新しい試みとしていずれやってみたかったことのひとつなので、そういう意見がガンガンくるのを待ってます(笑)。
SOSかもしれないですね
──自分自身が矢面に立つことへの抵抗はないですか?
それはないですね。実際、音楽活動以外にもやたらと足を延ばしていますし。
──テレビ番組のゲストや司会も含め。マンガ家の久保ミツロウさんと出演されたフジテレビ深夜の特番「久保ヒャダ こじらせナイト」は大きな波紋を呼びました(参照:ヒャダイン×久保ミツロウ、深夜のフジで“こじらせ”トーク)。
あれねえ、異常に評判がいいんですよ。でもあれは僕というより久保先生の凄味ですよね、ホントに。
──自宅スタジオにひとりきりでこもっている自分と、多数のテレビカメラを向けられている自分、音楽からも離れたプライベートな自分というのはどうやってバランスを保ってるんですか?
まず本軸として作曲家、クリエイターとしての軸はブレさせないということですよね。本軸に影響がありすぎるようならほかは全てキャンセルしますし。本軸を保ちながら、ヒャダインとして歌ったり、スターダスト所属のタレントとしてテレビに出たりすることには良いことが2つあって。まずは本軸である音楽への意外なフィードバックがあるということ。もうひとつは、ヒャダインという人を前山田健一が客観視して「こいつどこまでできるんだろう」と思えるのが楽しくて。いないじゃないですかこんな人。地味に曲を作りつつ、歌って踊ってバラエティに出てみたいな。「今までなかったもの」って単純に面白いし、「人間ってどこまでできるんだろう」っていう好奇心。あと「俺はどこまでできて、どこからができないんだろう」というのを試してみたいんですよね。1回しかない人生ですから。
──自分で自分を遊んでいる感じはすごくありますね。
遊んでます。その代わりプライベートを全部投げ打ってるんですけど。まあそれは仕方ないとして、本来そっちで得られる幸せの分量を、ほかの新しい可能性に注いでいるような感じですね。
──その現在のプライベートを削いでいる状態を遠くから見ていると「いつか壊れてしまうんじゃないか」と感じてしまうんですよ(笑)。
や、僕も客観的に思いますね(笑)。あーヤッバいなと思うときもありますし、テレビに映る自分を観て「痩せたなー俺」と不安になることもありますよ。
──基本的な装備はハッピーなものだと思うんですけど、根っこは……。
ええ。非常に暗く重く深い。DNAレベルでハッピーな人ではないんですよ。
──そういう意味ですごく心配なんですよ(笑)。ホントに大丈夫なのかなって。
でしょ? 僕も「大丈夫かな」って思うときがあるんですよ。だから若干仕事を減らしてもらいました(笑)。
──だから一連のシリアスな楽曲は、その危険信号が無意識に出てるんじゃないかって予想していて(笑)。
確かにそうですね。「23時40分」なんかはSOSかもしれないですね。ええ、ええ、ええ。確かに。
──でも今日話を聞いて、少しだけ安心しました。まだコントロールはできていそうだなと。
最近は調子がいいんですよ。バイオリズム的に。何カ月か前に来てもらったら全く違う話になってたかもしれないですね(笑)。仕事仕事仕事で相当病んでたので。
- ニューシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」 / 2013年1月30日発売 / Lantis
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / LACM-34060
- 通常盤 [CD] / 1200円 / LACM-14060
収録曲
- 23時40分 feat. Base Ball Bear
- パーレー
- ピアノ
- 23時40分 feat. Base Ball Bear(Instrumental)
- パーレー(Instrumental)
- ピアノ(Instrumental)
初回限定盤DVD 収録内容
- 23時40分 feat. Base Ball Bear(MUSIC VIDEO)
- ニューアルバム「20112012」 / 2012年11月28日発売 / Lantis
- 初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 3500円 / LACA-39254~5
- 通常盤 [CD2枚組] / 3000円 / LACA-9254~5
ヒャダイン
1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」などのヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を発表。2013年1月30日には通算6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」をリリースする。