HY「366日」はなぜ愛され続けるのか?“私”と“あなた”の思いが交差する新バージョンの魅力も解説

結成25周年イヤーを迎えたHYが、平年には存在しない366日目、“うるう日”にあたる2月29日に、代表曲「366日」の新バージョンをリリースした。

2008年に発表され、国民的な人気を獲得した「366日」。新バージョンは「366日(Official Duet ver.)」と名付けられ、4月にスタートする「366日」をモチーフにしたフジテレビ系月9ドラマ「366日」の主題歌として使用される。本稿では発表から約16年経った今も幅広い世代に愛され続けている「366日」の魅力を改めて紐解く。

文 / 森朋之

“アルバムの中の1曲”が失恋ソングの代表格に

2008年に発表されたHYの5thアルバム「HeartY」の収録曲「366日」。4thアルバム「Confidence」から2年間の制作期間を経て届けられた「HeartY」には、HYの音楽的な成熟が反映されており、仲宗根泉(Key, Vo)の作詞、作曲、歌唱によるバラード「366日」は、本作の充実ぶりを象徴する楽曲としてリリース当初からファンの間で話題を集めていた。

“アルバムの中の1曲”だった「366日」にスポットが当たったきっかけは、同年12月に公開 / 放送された映画&ドラマ「赤い糸」の主題歌に起用されたこと。楽曲を携帯電話でダウンロードして聴く人も多かった当時、配信累計が450万を超えるダウンロード数を記録し、カラオケでも大人気に。この時期から仲宗根は“ラブソングの名手”としての認知度を高めていくことになった。

「366日」はアーティストの間でも高く評価され、清水翔太、川崎鷹也、上白石萌音をはじめ数多くのミュージシャンがカバー。清水のカバーバージョンには仲宗根自身がピアノとコーラスで参加している。さらに川崎が仲宗根とのコラボ歌唱動画を公開、上白石がHYのアルバム「CHANCE」のリリースイベントに出演するなどのコラボレーションも生まれた。BMSG所属のREIKOがオーディションの2次審査で歌ったことも話題を集めた「366日」。世代とジャンルを超えたアーティストが歌うことでさらに幅広い層のリスナーに浸透したことは間違いないだろう。

オリジナルのミュージックビデオの再生数は2980万回超え。コメント欄には今現在も「心に刺さる曲」「今日失恋して聴きに来ました」「この曲を聞くと涙ぐんでしまう」といった言葉が寄せられている。リスナーが自分自身の思いや体験と重ねて聴けるのも「366日」が世代を超えて支持され続けている大きな理由だろう。なおこの曲は2018年にリリースされたHYの再録アルバム「STORY~HY BEST~」にも収録されており、より深みを増した仲宗根のボーカルを堪能することができる。

人間の生理に根ざした身体的な表現

「それでもいい それでもいいと思える恋だった」
そんなフレーズで始まる「366日」は、もう会えなくなってしまった“あなた”への思いをつづった失恋ソング。具体的な関係性やシチュエーションは明確には描かれていないが、だからこそ聴き手はさまざまな想像を巡らせ、“自分の歌”として引き寄せることができるのだろう。

過去のインタビューで「基本的に経験したこと以外は歌にできない」という趣旨の発言をしている仲宗根。「366日」を制作したとき、彼女は悲しい恋愛ソングを書くために、当時付き合っていた恋人と別れたのだという。ソングライターとしてのすごみが伝わるエピソードだが、そうして身を削って書かれたからこそ、「366日」には痛みを伴うような悲しさが宿っているのだと思う。その根底にあるのは、失恋を経験し、つらい思いをしているリスナーに寄り添いたいという思いだ。

「怖いくらい覚えているの あなたの匂いや しぐさや 全てを」という生々しい描写も強く心に残る。視覚、聴覚などの五感のうちもっとも記憶に残りやすいのは嗅覚、つまり匂いだと言われる。しばらく思い出さなかったのに、ある匂いをきっかけにふと別れた恋人のことが脳裏によぎる──そんな経験をしたことがある人もいるだろう。人間の生理に根ざした身体的な表現もまた「366日」の特徴であり、聴き手の想像力や思い出を刺激するファクターだと思う。

アレンジには弦楽器やピアノなどの生楽器の響きがしっかりと生かされている。アコギの切ない響き、ボーカルに寄り添うリズムセクション、歌詞の情景と心情を際立たせるサックスを含め、バンドメンバー、ゲストミュージシャンがこの曲に込められたものを深く理解して演奏しているのがわかる。中心にあるのはもちろん仲宗根の歌。豊かな抒情性、心地よいダイナミズムを共存させたボーカル──ソウルミュージックやゴスペルの素養も感じさせる──こそが、やはりこの楽曲の核なのだ。

“私”と“あなた”の思いが交差する新バージョン

「366日(Official Duet ver.)」は、オリジナルの「366日」にHYのメインボーカル新里英之(Vo, G)のコーラスを加えたデュエットバージョン。歌い出しは仲宗根が務め、「初めてこんな気持ちになった」から始まるパートを新里が歌う。Bメロとサビは2人で歌いつなぎ、ハモリを響かせる。歌詞自体は女性目線で描かれているのだが、新里の声が加わることで“私”と“あなた”の両方の思いが交差し、すれ違う様子がダイレクトに伝わってくる。もともと普遍的な魅力を持った楽曲だが、このデュエットバージョンはさまざまなジェンダーのリスナーに強く訴求するパワーが備わっていると思う。

最後のパートの仲宗根と新里の掛け合いも大きな聴きどころ。お互いの歌声に触発されるように感情の濃度を高め、その瞬間に生まれるボーカルを響かせているのだ。特にラストの「今はただあなた…あなたの事だけで / あなたの事ばかり」における、フェイクを交えた仲宗根の歌にはぜひ耳を傾けてほしい。このバージョンを聴けば、25周年を迎えたHYの表現の深まりを実感できるはずだ。

「366日(Official Duet ver.)」ジャケット

「366日(Official Duet ver.)」ジャケット

アニバーサリーイヤーを彩る「366日」の物語

4月から放送されるドラマ「366日」は、楽曲「366日」に着想を得たオリジナルストーリー。主人公の雪平明日香(広瀬アリス)が、高校時代に思いを寄せていたクラスメイトの水野遥斗(眞栄田郷敦)と再会し、12年越しに恋が実るも予期せぬ悲劇が起きる。叶わぬ恋をテーマにした楽曲「366日」からどんな物語が生まれるのか心待ちにしたい。

HYは本日2月29日に東京・Billboard Live TOKYOでプレミアムライブ「HY 366DAYS Premium Live」を開催し「366日(Official Duet ver.)」を初披露。さらに3月22~24日に地元沖縄の沖縄県総合運動公園で主催の野外音楽フェス「HY SKY Fes 2024&前夜祭」を行う。「今を生きる子供たちに何かステキなきっかけを作りたい」というテーマのもとこれまで4回開催された同フェス。今回はAwich、加藤ミリヤ、川崎鷹也、氣志團、水曜日のカンパネラ、スガシカオ、ちゃんみな、DISH//、槇原敬之、MONKEY MAJIK、MONGOL800らの出演がアナウンスされている。

その後もアニバーサリーイヤーに伴うさまざまな活動が控えているHY。「366日(Official Duet ver.)」から始まる25周年イヤーにぜひ期待してほしい。

公演情報

HY SKY Fes 2024

2024年3月22日(金)沖縄県 沖縄県総合運動公園・多目的広場(前夜祭)
<出演者>
HY(アコースティック) / 由薫


2024年3月23日(土)沖縄県 沖縄県総合運動公園・多目的広場
<出演者>
HY / 加藤ミリヤ / 水曜日のカンパネラ / スガシカオ with FUYU / DISH// / 槇原敬之 / MONGOL800 / MASA MAGIC
オープニングアクト:冨岡愛


2024年3月24日(日)沖縄県 沖縄県総合運動公園・多目的広場
<出演者>
Awich / HY / 川崎鷹也 / 氣志團 / 肝高の阿麻和利 / ちゃんみな / MONKEY MAJIK / ありんくりん / MASA MAGIC
オープニングアクト:名無し之太郎

プロフィール

HY(エイチワイ)

2000年に沖縄で結成されたミクスチャーロックバンド。2003年にリリースしたアルバム「Street Story」がインディーズながら100万枚以上の大ヒットを記録。2010年と2012年には「NHK紅白歌合戦」に出場した。2013年には沖縄で自主レーベル・ASSE!! Recordsを設立し、本格的に地元に拠点を移す。2019年6月に20周年プロジェクト第1弾としてニューアルバム「RAINBOW」をリリース。同年9月にギタリスト宮里悠平が脱退した。4人体制となったバンドは、コロナ禍の2020年に全5回の配信ライブ「HY HOME LIVE」を実施。2021年に地元である沖縄県うるま市の観光大使に就任した。結成25周年イヤーに突入する2024年、ヒット曲「366日」が広瀬アリス主演で月9ドラマ化。同曲の新バージョン「366日(Official Duet ver.)」が2月29日に配信リリースされた。