ハルカミライのわかりやすい歌詞が心地いい
──ソングライターとしてはお互いをどう見ていますか?
林 学は“なんかわからんけどわかる”を形にするのがめっちゃ上手。難しい言葉じゃなくて、みんなが知ってる言葉をメロディに乗せて人の心を打つのが上手なんだよね。それがすべてじゃないけど、みんなが知ってる言葉を使うって一番大事だと思う。
橋本 わかりやすい言葉を使うっていうのは意識してる。比喩表現とか詩的な表現もときどきは差し込むけど、「もっと解けないかな、もっと簡単にできないかな」って考える。スタジオに何曲か持っていってメンバーに聞かせても、わかりやすい曲のほうが「いいね」って言われる確率が圧倒的に高くて。メンバーがパッと聴いて、パッとわかって「じゃあ作ろう」って作っていくのが心地よくて、どんどんそういう曲を作るようになっていってるんだと思う。あとはそういう曲はライブでみんなで歌っても気持ちいいし。
──リスナーを意識してわかりやすい言葉を使っていることはありますか? 例えばわかりやすい歌詞のほうが聴いた人の共感を得やすいとか考えたり。
橋本 いや、共感してもらおうと思って曲を書いているわけではないので。でも人間って、生まれてから死ぬまでにだいたい同じようなことを思うじゃないですか。楽しいとか苦しいとかその度合いは違うかもしれないけど、同じようなことで苦労して、同じようなことで楽しくなったりうれしくなったりする。そう考えると、僕だけが思ってること、君だけが思ってることってそんなにないんですよ。だから俺だけが思ってることを書けば、君だけが思ってることになるんですよね。共感を求めようとして100人、1000人に向けて書いたところで、1000人には届かない。でも1人……自分自身だったり恋人や友達に向けて書けば、その曲に共感してくれる1人がたくさんいるんです。
Hump Backの歌詞はロマンチック
橋本 ももちゃんは逆に、俺が避けてきている詩的な表現が上手だよね。ロマンチストじゃん?
林 そうなんかな? 自分ではわからん。
橋本 「拝啓、少年よ」の歌詞だってさ、問いかけ、問いかけ、問いかけが続いてからの「空がキレイだぜ」って。この流れがもうロマンチック。「ひび割れ青春」とか「駄々こね少年」とかもいいよね。語呂もいいし。
林 うん、本当に語呂とか語感で歌詞を書いてて、自分自身ではあんまり詩的な表現だって思ったことなかったな。
橋本 最初読んだときは「意味わかんねえ」って思うんだけど、聴いてるうちに自分のものになってくる感じ。さよならポエジーの曲とかもそうだけど。歌詞を読んで、自分の中で読み解いていくと「そういうことだったのか」ってわかってくるんだよね。それが詩的な歌詞の強いところだと思う。
林 さっき学に言ったけど“わからんけどなんかわかる”が一番美しい歌詞の形やと思っていて、だから自分ですら「わからんけどなんかわかる」って思いながら曲を書いてるんです。でもライブでやっていくうち、人生経験を重ねていくうちに「この歌詞ってこういうことやったんやな」ってあとからわかっていくんですよね。しかも「この曲、今日はこういうことや」って、その日ごとに意味や解釈が変わったりして。
橋本 わかる。昔書いた歌詞、あとから「すげえな」って思うよね?
林 思う! それこそ「拝啓、少年よ」は歌詞を書き溜めてるノートに書いてあったことそのままな感じで。言葉のストックとしてあっただけで、曲にはなってなかったんだけど、十代のときに書いた言葉なんだよね。今読んでみて「なるほど、こういうことか」ってやっとわかった気がしたから、今回曲にした。そういう意味では、自分の中から自然に出てくる言葉をそのままを書くようにしてるだけなんだけど、それが詩的なものになってるのかも。
友達へ向けた「拝啓、少年よ」
──「拝啓、少年よ」は十代の頃の書き置きからできた曲とのことですが、その言葉のストックを今の林さんはどう解釈したんですか?
林 解釈と言うか……この言葉たちを改めてメロディに乗せて曲にしてみようかなと思ったときに、1人の友達の顔が浮かんだんです。その子は高校のときに仲良かったバンドの子で、高校を卒業してもバンドを続けていたけど、少し経ったらバンドを辞めて、結婚して、結婚に失敗して、その後周りの誰とも連絡を取らなくなった。当時は一番仲良かったし、もちろん連絡取らなくなるなんて思ってもなかったから、その子のことを考えて書いた言葉じゃなかったんですけど、今読み返したらその子の顔がずっと浮かんで。だからその子に向けて、改めて砕いて歌詞にしたって感じです。ほんまに連絡が途絶えてて、電話してもLINEしても、家に行ってもリアクションがなかったんですけど、この間3年ぶりくらいに連絡が来て。ひさしぶりに飲みに行きました。
──その子が今、バンドをやってないことは寂しいですか?
林 全然。生きててくれたらそれでいいなと思いました。でもこの曲を聴いて何か思ってほしいなとは思います。「もう1回夢を追いかけろよ」とも全然思わへんし、押しつけがましいことは一切したくないけど、私は当時やってたバンドを今も続けていて、君のことを歌にしたよっていうのはわかってほしいなと思います。
橋本 そう思って読むと……。
林 ふふふ(笑)。
橋本 この曲を聴いた人はそれぞれに自分の友達のことを思う。そういうことだよね。
──まさに先ほど橋本さんがおっしゃった、“僕だけの思ってること”は聴いた人の“君だけの思ってること”になるという話と一致しますね。
林 大学にすごく面白い先生がいてて。その人の授業で、中島みゆきさんの曲を題材にして「この曲で描かれている場所や風景、イメージを絵でも文章でもいいから書いてみてください」って白い紙が配られたんですよ。で、私は「どう考えてもこれやろ」って思って、病院のベッドで寝てる女の人が窓から雪景色を見てるって書いたんですけど、ほかの人の回答を見たら思った以上にバラバラで。「捉え方って100人おれば100通りあんねんなあ」って思って。その授業があったからか、自分の曲に対してもどうとでも受け取ってくださいって思いますね。誰かの気持ちに合わせようと思ったらキリないですもん。
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現実派の林と空想派の学
- Hump Back「拝啓、少年よ」
- 2018年6月20日発売 / VAP
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[CD]
1200円 / VPCC-82347
- 収録曲
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- 拝啓、少年よ
- ナイトシアター
- 今日が終わってく
- VANS
- ハルカミライ「それいけステアーズ」
- 2018年3月14日発売 / THE NINTH APOLLO
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[CD]
1080円 / TNAD-0100
- 収録曲
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- それいけステアーズ
- デイドリーム
- 春はあけぼの