音楽ナタリー Power Push - 布袋寅泰
津田大介が聞く、35年間の“Emotions”
BOØWYは4人でしかできないものだった
──ここからは改めて布袋さんの歴史を振り返らせてください。まずソロデビューアルバムとなった「GUITARHYTHM」が1988年に出ましたけど、当時中学2年生だった僕はこれを聴いたときにすごい衝撃を受けたんですよ。コマーシャルなアルバムというよりも、ほんとにいろんなことが詰まってる刺激的な作品だった。布袋さんにとってもやり切ったアルバムだったんじゃないかと思うんです。
実験的だし冒険的なアルバムですよね。いきなり歌詞が英語になって、ドラムもなくて全部コンピュータの打ち込みで、ギターもアンプを通してなくて、ロックンロールとはかけ離れたサウンドだったし。BOØWYの何百万枚っていうヒットのあとだから余計にね。ロックの生々しさみたいなものも僕はもちろん嫌いではないけど、BOØWYというフォーマットが終わったあとだからまったく違うものにトライできるし、しなければいけなかった。BOØWYは4人でしかできないものでしたからね。と同時に、アバンギャルド好きな自分を思い切り表現するチャンスでもあったんです。あの当時は予算もかけられたしね。
──オーケストラも入ってますもんね。
そうそう。お金があり余ってるというわけではないけど、アビー・ロード・スタジオでレコーディングするという夢も叶えられた。でもアビー・ロードの中のスタジオは1つも使わずに、ミキシングルームだけで全部作っちゃったという。
──それもまたすごい話ですよね。
ね。それもアバンギャルドだと思うけど(笑)。でもあのときの勇気が、僕のその後の30年を作ったと思いますね。あそこで僕がBOØWYをなぞったり、立ち止まってしまったら、その後の僕はなかった。いまだに僕の代表作だと思うし、世間をびっくりさせてひっくり返してやろうというわくわくした気持ちで作ってましたからね。
──ちなみに、このアルバムが出た当時の世間の反響はどんな感じだったんですか?
すごく熱狂的に「なんだこれは!」って驚いてくれた人もいたし、冷ややかな人もいたんじゃないかな。BOØWYのサウンドやメロディは僕が担っていたところもあったから、それを期待した人たちにしてみれば「違うじゃん!」って思うだろうし。
もっと歌や言葉でカラフルな表現をしたかった
──その布袋さんのやりたかったことを内省的に突き詰めていった「GUITARHYTHM」シリーズが終わって、そのあと1996年に出たアルバムが「King & Queen」。この頃から例えば「スリル」や「バンビーナ」に代表されるように、ヒットチャートの常連になっていきましたよね。歌詞も日本語になって、こういう言い方が適切かわからないんですけど……。
軟弱になってきた?(笑)
──いやいや(笑)。むしろ逆で、すごく男らしいメッセージを強く感じるようになったなと。
あー。キャラが立ち始めた?
──そうですね、なんというか“兄貴キャラ”みたいなものが確立されたのが「King & Queen」あたりからだと思ってるんですけど。ゴルチエの衣装を身に纏ったBOØWYのときのゴシックなスタイルや、「GUITARHYTHM」の洗練されたアヴァンギャルドさが布袋さんの魅力だと思っていたので、ファンとしては正直戸惑った部分はあります(笑)。
それはね、「GUITARHYTHM」シリーズでの流れと関係があって。ソロデビュー作の「GUITARHYTHM」で実験的なものを作ったけど、初めてのライブで真ん中のマイクを目の前にして立ったら、自分がすごく小さくなってしまって。これではまずいと思いつつ「GUITARHYTHM II」で全国ツアーに出たら、サウンドに対する思考が強すぎて自分の声を生かしきれていない、言葉としてのメッセージを乗せられていないことに気付いたんですよ。やっぱりステージに立ったら観客と一緒に熱狂したいし、楽しませたいし。で、それを具現化するために「GUITARHYTHM III」ではもっと肉体的なサウンドを追求して革ジャンを着て。これで“ロックンローラー布袋”の誕生ですね。
──もうこの「GUITARHYTHM」のアーティスティックなジャケットとは違いますもんね。
違うよね。ここで何十本っていうツアーをやることで歌うことがだんだん楽しくなって、「GUITARHYTHM IV」では「さらば青春の光」みたいにメロディや歌詞に気持ちを乗せられるようになってきて。この段階で「GUITARHYTHM」というコンセプトが、邪魔になってきたというか……もっと歌や言葉でカラフルな表現をしたいと考え始めて、さらに自由になれましたね。
──「GUITARHYTHM」とは違って、新しいことをやらなきゃという試行錯誤の発想ではなく、あくまで布袋さんの中から自然な流れで出てきた部分があるということですね。
そう、自分を楽しめるようになってきましたね。キャラに関しては、僕はこんなデカいし、髪の毛も立てていて顔も怖いし、ビートも立ってるから「布袋=怖い、強い」みたいなキャラになってきて、ダウンタウンさんの番組に出るといじられたりして(笑)。まあ、あえていじられるキャラを演じてた部分もあるし、それも楽しかったと言えば楽しかったですね。
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- ベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」 2016年6月22日発売 / Virgin Music
- 初回限定盤 [CD3枚組+DVD] 5400円 / TYCT-69103
- 通常盤 [CD3枚組] 3780円 / TYCT-60081~3
DISC 1 Beat
- バンビーナ
- 8 BEATのシルエット
- BEAT EMOTION
- サイバーシティーは眠らない
- POISON
- STILL ALIVE
- DIVING WITH MY CAR
- NOCTURNE No.9
- スリル
- CAPTAIN ROCK
- CHANGE YOURSELF!
- 風の銀河へ
- CIRCUS
- Don't Give Up!
- RUSSIAN ROULETTE
- IDENTITY
- 嵐が丘
DISC 2 Heart
- LONELY★WILD
- さらば青春の光
- YOU
- ラストシーン
- PROMISE
- SURRENDER
- NOBODY IS PERFECT
- Come Rain Come Shine
- DANCING WITH THE MOONLIGHT
- 命は燃やしつくすためのもの
- BORN TO BE FREE
- ESCAPE
- GLORIOUS DAYS
- FLY INTO YOUR DREAM
- DEAR MY LOVE
DISC 3 Dream
- Battle Without Honor or Humanity
- STARMAN
- テレグラム・サム
- C'MON EVERYBODY
- ミッション:インポッシブルのテーマ
- IMMIGRANT SONG
- MATERIALS
- How the Cookie Crumbles(Feat.Iggy Pop)
- BACK STREETS OF TOKYO
- TRICK ATTACK -Theme of Lupin The Third-
- HOWLING
- MIRROR BALL
- Departure
- VELVET KISS
- BE MY BABY(Live from Budokan 2011.02.01)
- BAD FEELING(Live from London at Roundhouse 2012.12.18)
- NO.NEW YORK(Live from Takasaki clubFleez 2016.03.05)
- Dreamin'(Live from Guitarhythm Live 2016.04.07)
- GUITAR LOVES YOU
初回限定盤付属DVD
【BEAT 1】~すべてはライブハウスから~
- IMAGE DOWN(高崎clubFLEEZ)
- BAD FEELING(高崎clubFLEEZ)
- New Chemical(名古屋E.L.L.)
- SPHINX(名古屋E.L.L.)
- HOWLING(京都磔磔)
- やるだけやっちまえ!(京都磔磔)
- バンビーナ(京都磔磔)
- RUSSIAN ROULETTE(京都磔磔)
- DANCE CRAZE(高崎clubFLEEZ)
初回限定盤付属DVD
ミュージックビデオ
- 8 BEATのシルエット
布袋寅泰(ホテイトモヤス)
1962年2月生まれ。1982年にBOØWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。2016年にはアーティスト活動35周年を記念したアニバーサリープロジェクト「8 BEATのシルエット」を始動し、その第1弾として3月に全国ライブハウスツアーを開催。6月22日にベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」をリリースし、7月3日には地元・群馬県高崎市でフリーライブを行う。