音楽ナタリー Power Push - 布袋寅泰
津田大介が聞く、35年間の“Emotions”
布袋寅泰の音楽活動35周年を記念したベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」がリリースされた。この作品はBOØWYとしてのデビューから現在に至るまで、布袋が発表してきたさまざまな楽曲51曲を収録した、35年の歴史を振り返るにふさわしい大ボリュームのベスト盤となっている。
このアルバムのリリースを記念し、ナタリーでは改めて彼の軌跡を振り返るロングインタビューを企画。聞き手にはBOØWYや布袋の音楽をデビュー当時から聴いてきた津田大介を迎え、布袋の音楽に対する思いやギタリストとしての意識の変化など、幅広い切り口で語ってもらった。
取材 / 津田大介 文 / 伊藤雅代 撮影 / 小原泰広
当たり前の毎日は当たり前に来るものではない
──僕が前回布袋さんにお話をお伺いしたのが5年前、音楽活動30周年のときだったんですけど……。
そうでしたね。この5年の間に東日本大震災が起きたり、世の中にもいろいろな変化があって自分自身もイギリスに移り住んだり、大きな5年間だったと思うな。
──布袋さんの35年間を振り返る前に、まずこの5年間についてお伺いしてもいいですか。5年前に東日本大震災がありました。震災の影響を受けていないミュージシャンっていないと思ってるんですよ。もちろん、震災とは関係なく自分の音楽をやるだけ、という人もいるでしょうが、それも1つの影響の受け方だと思いますし。布袋さんの中で、あの震災はどういう意味を持っていましたか?
音楽家としてとか、音楽に対する気持ちがどう変化したかということより、やっぱり1人の人間として「当たり前の毎日は当たり前に来るものではない」ってことに直面した出来事でしたよね。ちょうどそのとき30周年のツアーもあったから、「うつむいていないでポジティブに前を向いて行こうぜ」「君たちは夢を追い求め続けているか?」というメッセージを音楽を通じて問いかけていたんだけど、震災を経てその問いがそのまま自分に返ってきた気がしたんですよ。実際に行き詰まりみたいなものも感じていたし。ツアーは30周年ということで懐かしい曲もやっていて、BOØWYの「DREAMIN'」をやりながら「みんなほんとに今でも夢を追いかけてるか?」って呼びかけたとき、「そういう自分があきらめているじゃないか」って思ったんですよね。それで今やらなきゃこのまま続けられない、という衝動に駆られて「よし、まだ遅くはない」と考えて向こうに渡って。だから震災っていうのは、自分が目覚める大きなきっかけにはなりましたよね。
──ロンドンに移住されて大変なことも多いと聞きました。ご自身の中で音楽の聴き方やギターとの向き合い方などで変わった部分はありますか?
そんなに大変なことばかりではないですけどね(笑)。すごく楽しんでやってますよ。まあ、向こうのやり方と日本でのやり方はひと言で説明できないぐらい違うし……逆に言うと日本が特別なんだけどね。楽しみつつも悔しい思いもしていて、今一番悔しいのはライブに人が入らないってこと。ここまでのキャリアがあっても向こうでは何の意味もないし、1人ひとりに自分の音楽を伝えて、1人ひとり客を増やしていくしか方法はない。100人入るライブハウスに50人しかいなかったら、悔しいけど次は絶対100人に来てもらうぞっていう思い、それはものすごくエネルギーになりますね。そこがやっぱりイギリスに渡ることで自分にとっての新しい刺激、新しいエネルギーとして存在していて、僕が今リアルなミュージシャンであるという証になってます。
ギターに対する美学や美意識は絶対に変わらない
──布袋さんは常に自分の夢を追いかけるため試行錯誤し続けているという印象を強く持っています。試行錯誤は面白くもあると思いますが、一方で結果がどう出るかわからない分つらい作業でもあると思います。その過程で悩むことはなかったんでしょうか。
何かを作るのに悩むってことはなかったかな。もの作りは楽しいことだし、自由ですからね。つらさはあまり感じたことはないけど、例えば今回のベストアルバムで言うとDISC 1は普通のギタリストになることを拒んでオリジナリティを求めた結果、リズムやビートを刻むというスタイルにたどり着いたことがサウンドに表れている曲が中心です。もともとはハードロックが好きで、ギターを弾くこと自体に興味があったけど、パンクやニューウェイブの時代とぶつかることでそういう方向へ向かったんですよ。
──なるほど。大きな音を出したいという原始的な欲求が最初にあったけど、エッジの効いたギターが醸し出すスタイルに魅せられた部分もあったわけですね。
ただ、皆さんは布袋寅泰って言うとそういうシャープでビートが立ったロックンローラーっていうイメージが強いかもしれないけど、僕のいろいろな面を知ってくれている人にとってはDISC 2やDISC 3の曲のほうが布袋らしいと思うかもしれませんね。
──わかります。BOØWYだって曲の幅はとてもたくさんありますからね。今回のベストアルバムや昔のアルバムを聴き直してみたんですが、布袋さんの音楽はまったく古くならないというか、当時聴いていたときよりもしっくりくる部分があるんですよね。その理由は何なのか考えると、やっぱり布袋さんのギターが大きいんじゃないかと思うんです。常にオリジナルな音を出し続けていることが中心にある。
僕はギターを弾くときにピックは持ってるけど、半分以上は爪で弾いていて、その痛さとか緊張感みたいなのが好きなんですよね。ギターをいつも指先に感じていたいというよりも、あえて一定の距離感を作っておいて、いざ持ったときの瞬発力を楽しみたくて弾いてるところがあって。あと同時に僕はギターのフレーズや音色よりも、音の速さや出方、切れ方のほうにこだわるタイプだし、そういうところが一貫して僕のスタイルになってるんだと思います。最近はメロディアスなソロも弾くけど、自分の中のギターに対する美学や美意識っていうのは絶対に変わらないしね。
──BOØWYを経てソロ活動に移行しても、そこは変わらなかったですか。
まあ変えたくないし、自分のギタースタイルが好きですからね。ただ、バンドのときはボーカルがいて僕がいる、その間のやり取りがあったけど、ソロになるとイントロから最後まですべて自分というのがね。それはそれで苦労もあるし、ステージ上ではほとんど曲芸に近いことをやってるときもあるけど、ギタリストとしての自分をボーカリストとしての自分が追いかけているようなイメージで。曲のビートが強いし速いし、ギターの音にもスピード感があるから、そこに乗せる言葉や歌声も強さやスピード感が求められる。だからDISC 1に入ってるような曲では、ギタリストとボーカリストのバランスを取りながらセルフプロデュースするのが大変ではありましたね。
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- ベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」 2016年6月22日発売 / Virgin Music
- 初回限定盤 [CD3枚組+DVD] 5400円 / TYCT-69103
- 通常盤 [CD3枚組] 3780円 / TYCT-60081~3
DISC 1 Beat
- バンビーナ
- 8 BEATのシルエット
- BEAT EMOTION
- サイバーシティーは眠らない
- POISON
- STILL ALIVE
- DIVING WITH MY CAR
- NOCTURNE No.9
- スリル
- CAPTAIN ROCK
- CHANGE YOURSELF!
- 風の銀河へ
- CIRCUS
- Don't Give Up!
- RUSSIAN ROULETTE
- IDENTITY
- 嵐が丘
DISC 2 Heart
- LONELY★WILD
- さらば青春の光
- YOU
- ラストシーン
- PROMISE
- SURRENDER
- NOBODY IS PERFECT
- Come Rain Come Shine
- DANCING WITH THE MOONLIGHT
- 命は燃やしつくすためのもの
- BORN TO BE FREE
- ESCAPE
- GLORIOUS DAYS
- FLY INTO YOUR DREAM
- DEAR MY LOVE
DISC 3 Dream
- Battle Without Honor or Humanity
- STARMAN
- テレグラム・サム
- C'MON EVERYBODY
- ミッション:インポッシブルのテーマ
- IMMIGRANT SONG
- MATERIALS
- How the Cookie Crumbles(Feat.Iggy Pop)
- BACK STREETS OF TOKYO
- TRICK ATTACK -Theme of Lupin The Third-
- HOWLING
- MIRROR BALL
- Departure
- VELVET KISS
- BE MY BABY(Live from Budokan 2011.02.01)
- BAD FEELING(Live from London at Roundhouse 2012.12.18)
- NO.NEW YORK(Live from Takasaki clubFleez 2016.03.05)
- Dreamin'(Live from Guitarhythm Live 2016.04.07)
- GUITAR LOVES YOU
初回限定盤付属DVD
【BEAT 1】~すべてはライブハウスから~
- IMAGE DOWN(高崎clubFLEEZ)
- BAD FEELING(高崎clubFLEEZ)
- New Chemical(名古屋E.L.L.)
- SPHINX(名古屋E.L.L.)
- HOWLING(京都磔磔)
- やるだけやっちまえ!(京都磔磔)
- バンビーナ(京都磔磔)
- RUSSIAN ROULETTE(京都磔磔)
- DANCE CRAZE(高崎clubFLEEZ)
初回限定盤付属DVD
ミュージックビデオ
- 8 BEATのシルエット
布袋寅泰(ホテイトモヤス)
1962年2月生まれ。1982年にBOØWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。2016年にはアーティスト活動35周年を記念したアニバーサリープロジェクト「8 BEATのシルエット」を始動し、その第1弾として3月に全国ライブハウスツアーを開催。6月22日にベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」をリリースし、7月3日には地元・群馬県高崎市でフリーライブを行う。