ナタリー PowerPush - 布袋寅泰
“後編”の幕開けを告げるロンドン移住後初アルバム
僕の書く詞は「俺よこうあれ」
──歌のメッセージ的な部分ということでは、今回も森雪之丞さんや岩里祐穂さん、いしわたり淳治さんという作家陣が参加していますよね。ただ、すべての曲に共通するのは、どの言葉も布袋さんご自身の言葉に聞こえるということで。
はい。
──作詞家の言葉を自分のものにしていく、つまり布袋さんが歌の世界に入り込んでいくプロセスというのはどういったものなんですか? 作詞家の言葉に説得力を乗せていく過程というか。
まさに、僕が今回一番心掛けたのはその部分なんです。例えば森雪之丞さんに作詞を頼む際のことですけど、今までは仕上がってきたものに対して、「ここの言葉を変えましょう」だとか「このコードに対してこの言葉が違う」みたいな意見を重ねていくことで、結局はすべての言葉を自分の色に染め上げてきた部分があって。もちろん森さんは言葉のプロだから、こういう手直しにも100%応えてくれるわけですけど、ただ、そういうやり方でオーダーメイドした歌詞というのは、ものすごく感情移入しにくいものになっている場合が多かったんですよ。言葉は凝っているんだけど、そこに込められたストーリーや情景が複雑すぎてシンガーとしては入り込めない。役者のように完璧なフィクションを演じるには、いつも準備が足りないままに歌わざるを得ないことが多かったんです。だから今回は、最初の打ち合わせでなるべく自分の思いを汲み取ってもらえるように努めて、仕上がってきた歌詞に対してはその自由さを尊重しつつ、1つひとつの言葉を血肉化していくように務めたんですね。それが言葉の説得力としてきちんと伝わってるとしたら、僕の努力も報われたということなのかな。とてもうれしいですね。
──布袋さんご自身の作詞についてはどうですか? 例えば「Stand Up」。ここに歌われている言葉は、「サムライの気高きSoul」という言葉にしても、「立ち上がれ」という叫びにしても、すごく決意表明的ですよね。自分自身を鼓舞するための言葉というか、いわば「サムライ・フィクション」から「サムライ・ノンフィクション」へと向かう布袋さんの心情を表現したものとして響いていると思うんです。
確かにそうです。この曲に限らず僕の書く詞は「俺よこうあれ」というものが主なんですよ。もうそれしか書けないと言ってもいいと思いますし、「Stand Up」は特にその傾向が色濃く出てますね。だからこそ自分にとっては作詞家の言葉というのは大切なんです。自分に対しての歌ばかりだと伝わりにくいアルバムになってしまうし、それを避けるために作詞家それぞれの色彩で、それぞれの布袋寅泰像を描いてもらう、みたいな方法をとっているんです。
──わかります。森雪之丞さんの書かれた「My Ordinary Days」は、楽曲も歌詞もロックオペラのように構築されたものですが、そこにすら布袋さんの生活が透けて見えますからね。
あの曲はすごいですよね。とにかく展開が多くて、僕が好きなTHE KINKSとか10CCのシアトリカルな世界観を自分なりに表現したものなんですけど、結果的には今回のアルバムの中で一番僕らしい曲になったと思います。森さんと話している中で、こんな複雑な曲をいきなり頼むのもどうなのかなって心配したんですが、森さんは「こういうの大好物!」って喜んでくれたし、歌詞の中にはロンドンでの僕の生活が、絶妙なフィクション / ノンフィクションのバランスで投影されているんです。あまり人には見せることのない僕の日常をきちんとピックアップしてくれた森さんと、ミュージックラバー布袋のマニアックさがピッタリと噛み合った曲ですね。
アルバムはランダム感を意識した
──「My Ordinary Days」のような曲にはすごく緻密なデモが必要不可欠だと思うんですが、それはどんな環境でレコーディングされたんですか?
この曲は東京の自宅でやりました。ただメロディや展開に関してはほとんど苦労してないんですよ。まずイントロを作って、それにAメロが呼ばれて、じゃあBメロは急カーブにしようかな、みたいにほとんどひと筆書きでできてしまった曲で。最後まで「いったいどんな曲になるんだろう!」と思いながら作っていったんですよ(笑)。最後にワルツのリズムのスピードが上がっていって、ようやく着地したところで、「あ、できたじゃん!」って。スタッフには「この曲ってどうやって考えたんですか?」って驚かれたんですけど、実は自分でもビックリしてましたね(笑)。ロールプレイングゲームじゃないけど、脚本を読み進めている感じに近い体験でした。
──その結果、アルバム中盤のハイライトになりましたよね。この曲でA面が終わるという印象も受けたのですが、そういうアナログ盤的な構成は意識されましたか?
いや、むしろ意識したのはランダム感のほうですね。今回のジャケット写真にも写し出されてますけど、ロンドンという街はいつも雨が降ったり止んだりしていて、なるべく予定調和として展開しないことで「A Day In The Life」感を出せたらと思ったんです。最近はアルバム単位で音楽を聴く人も少なくなってきていて、シャッフルしたりスキップされたりすることも多いから曲順なんて関係ないって嘆く声もありますけど、それでも日本というのは世界で一番フィジカル(CD)が売れてる国なわけじゃないですか。さっきのレコード屋のオジサンの話にしても、日本というのは、大人も音楽を楽しむ稀な国だと思うんです。この国でのリリースだったら、まだアルバムの流れで楽しんでくれるかもしれないという期待はありますよね。……でも、確かに「My Ordinary Days」から「Daisy」の流れはいいですよね。目の前がパッと開ける感じで。
- ニューアルバム「COME RAIN COME SHINE」/ 2013年2月6日発売 / EMI Music Japan
- 初回限定盤 [CD+DVD] / Amazon.co.jpへ
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TOCT-29124
- 通常盤 [CD] / 3000円 / TOCT-29125
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CD収録曲
- Cutting Edge
- 嵐が丘
- Don't Give Up!
- Never Say Goodbye
- Come Rain Come Shine
- My Ordinary Days
- Daisy
- Higher
- Stand Up
- Rock'n Roll Revolution
- Dream Again
- Promise
初回限定盤DVD収録内容
- 「Don't Give Up!」Music Video
- 「Promise」Music Video
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月生まれ。1982年にBOOWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に吉川晃司とのユニット・COMPLEX結成や他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。2011年にはアーティスト活動30周年を記念したプロジェクトを展開し、さまざまなアーティストとコラボレーションしたアルバム「ALL TIME SUPER GUEST」をリリースしたほかスペシャルライブを実施した。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。