ナタリー PowerPush - 布袋寅泰
“後編”の幕開けを告げるロンドン移住後初アルバム
ライブはコントロール不能
──引き出しも多く、職人肌の布袋さんが「どうしても器用になりきれない部分」というのはありますか?
ライブですね。僕はレコーディングアーティストでありライブアーティストでもあるんですけど、いざステージに立つと、スタジオみたいなコントロールがまったく利かなくなっちゃうんですよ。例えばギターを弾きながら歌うじゃないですか。そこで僕は足まで上げなくたっていいわけです(笑)。でも目の前にお客さんがいると自然とそうなってしまうし、そこは全身が形状記憶しているというか……いや、もっと本能的な部分で、本当に抑制が効かなくなってしまって。……たぶんロックンロールというものに出会った瞬間から、そうやって生きていく動物になってしまったんだと思うんですよね。さらにはそういう動物であるにもかかわらず、ワンパターンに陥ることなく、いつも新しいものを提示していかないと後ろめたいものだから、本当にライブは大変なんですよ(笑)。またミック・ジャガーの話になっちゃいますけど、彼が過去のインタビューで言っていたのは「ファンほどわがままな人種はいない」ってこと(笑)。「あれをやったら聴き飽きたって言われるし、やらないならやらないでサティスファクションできないって言われちゃう」っていう。それは僕もロックファンだから痛いほどにわかるんですよ。
──ミック・ジャガーといえば、彼がイギリスのトーク番組「レイト・ナイト・ウィズ・デヴィッド・レターマン」に出演したときに、「50年間ロックンロールで身を立ててきて学んだ教訓十カ条」というテーマに対して回答していたんですけど、その第一条というのが「誰も新曲など聴きたがらなくなる」というもので(笑)。
(笑)。ミックらしい答えだね。
──これはもちろん自虐的なジョークとして発せられた言葉だと思うんですけど、同時にものすごく赤裸々な本心でもあるわけですよね。
すごくよくわかりますよ。そういう意味では、自分は本当にファンに恵まれてきたと思います。決して最先端ではないけれど、かなりアンユージュアルなギタースタイルで、王道からは少し外れた、風変わりな音楽をたくさん作ってきたにもかかわらず、それでもみんながついてきてくれたということに対しては、すごく感謝してます。昔からのファンはもっとBOOWY的なロックを聴きたかったのかもしれないし、もう少しオーセンティックなものを求めていたのかもしれないけど、いつも僕の挑戦に付き合ってくれて、それを理解してくれようとしてくれた。すごく助けられてますよね。ありのままの自分を受け止めてくれる人がいるというのは、本当に大切なことなんです。20年前に布袋モデルのギターを弾きつつBOOWYをコピーしていた学生が、30代や40代に成長して、クリエイターになっていたり、僕の遺伝子を引き継いでくれてると感じることも多いし、僕がデヴィッド・ボウイやロックンロールから受け継いだものをまた別の形で昇華してくれてる人もいて。
──それは、日本中の学生にギターを買わせた布袋さんならではのボーナスなんだと思います。初めてのギターを買う年齢や時期というのは、人生にとっての最初の岐路にあたると思うんですよ。
そうですね。
──そういう重要な瞬間に、ご自分のギタースタイルがあったということに対してはどう思われてますか?
責任を感じてます(笑)。僕はコードも知らないし、小指も使わないし、ごまかしだらけのギタリストですからね。ただ、なんていうのかな、人と同じスタイルを踏まないことの美学みたいなものはきちんと伝えられたんじゃないかと思うんですよ。大切なのは「サムシングディファレント」ってこと。個性を曲げない、譲らないという部分に関しては自信がありますからね。ただ、「ギターでKRAFTWERKに入りたい!」みたいなギタリストが、いわば対極にして王道である高崎晃(LOUDNESS)と並んで音楽雑誌のリーダーズポールを獲ってしまうという事態は異常だったと思うし(笑)、僕みたいな変わり種が日本を代表するギタリストになっちゃったってことに対しては、「すいませんでした!」って気持ちがありますね(笑)。
歌っていなかったら、今の自分はない
──布袋さんはブログに今回のアルバムの全曲解説を掲載されているじゃないですか。それがまさに「生涯ギタリスト」の目線というか、心底ギターを愛してる方の書かれた文章で本当に楽しく読んだんです。
使ったギターの種類からピッキングのコツまで、わりと詳しく書きましたからね。
──ただ、今回のアルバムは「ギタリスト布袋寅泰」の魅力に加えて、シンガーとしての布袋さん、ソングライターの布袋さんというのが、過去最高に対等なバランスで混ざり合った作品だと思うんです。ご自分の中でそういったクリエイティブのバランスを取ったり、意識的に線引きをされている部分というのはあるんですか?
どうだろう……。もしかしたら、そこに明確な線引きはないかもしれないね。もともとボーカルの入った音楽が好きだったし、インストゥルメンタルだけじゃすぐに物足りなくなったと思うし。ただ、言葉というものを通じてギターだけでは伝わらないメッセージを伝えられるようになった反面、それはものすごいストレスだったりもするんですよ。体力的にも、呼吸的にも無理がありすぎる。もちろん自分で選んだ道だし、エンジョイはしてるんだけど、すごい重荷を背負ってしまった感はありますね。
──でも、もはや歌っていない布袋さんを想像するのも難しくなっていますよね。テレキャスターの幾何学模様にも通じるシャープでスクエアなバッキングに、温かくマイルドな歌声、というのが布袋サウンドの要だと思いますし。
うん。もし歌っていなかったら、今の自分はないでしょうね。最初は恐れもあったし、大きなチャレンジに思えたけど、飛び込んでみて本当によかったと思ってます。本当につらいし大変だから、人にはオススメしないけどね(笑)。
- ニューアルバム「COME RAIN COME SHINE」/ 2013年2月6日発売 / EMI Music Japan
- 初回限定盤 [CD+DVD] / Amazon.co.jpへ
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TOCT-29124
- 通常盤 [CD] / 3000円 / TOCT-29125
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CD収録曲
- Cutting Edge
- 嵐が丘
- Don't Give Up!
- Never Say Goodbye
- Come Rain Come Shine
- My Ordinary Days
- Daisy
- Higher
- Stand Up
- Rock'n Roll Revolution
- Dream Again
- Promise
初回限定盤DVD収録内容
- 「Don't Give Up!」Music Video
- 「Promise」Music Video
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月生まれ。1982年にBOOWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に吉川晃司とのユニット・COMPLEX結成や他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。2011年にはアーティスト活動30周年を記念したプロジェクトを展開し、さまざまなアーティストとコラボレーションしたアルバム「ALL TIME SUPER GUEST」をリリースしたほかスペシャルライブを実施した。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。