ナタリー PowerPush - 布袋寅泰
“後編”の幕開けを告げるロンドン移住後初アルバム
上巻から下巻へ
──1曲目の「Cutting Edge」にしても、アンディ・マッケイ(ROXY MUSIC)のサックスがすごくジェントルで、ベースはファンキーで、そのせいか布袋さんならではのピッキングハーモニクスもすごくなめらかに聞こえますよね。アルバムの冒頭から非常に明確な形で「大人のロック」を提示されているな、と思いました。
やっぱりそれも、ありのままの自分が出た結果だと思います。意図的に狙ったわけではないですからね。50歳の自分にとって気持ちいいビートが、若い人にとっては斬新に聞こえるかもしれないし、だったら作為的になる必要はないのかなと思ったんですよ。あらゆる面で自然体なんですよね。それでいて妥協した部分は見当たらないし、すごく自分らしい作品ができたと思います。「布袋寅泰第2章」のスタートにふさわしいアルバムですね。
──「布袋寅泰第2章」というのは、「50歳からの後半戦」という意味でしょうか? 僕には少なくとも「第5章」ぐらいには突入しているように思えるのですが。
(笑)。上巻から下巻へ、といったほうがいいかもしれないですね。映画だったら、前編と後編。往々にして後編って静かじゃないですか。「キル・ビル」じゃないけど、かなりにぎやかな前編に対しての後編。そこには、自分の人生を味わったり、見つめたり、もう少し静かな感情がにじみ出てくる。僕はこれからもチャレンジし続けていくし、そこには挫折だって待ってるかもしれないけど、それでも心は静かになりましたね。とにかく物事がよく見えるようになったんですよ。
──ただここまでとがった大人というのもほかにいないと思います。「50歳になっても更正しない不良」的な凄味も感じますし。
心が静かになることで、研ぎ澄まされる部分というのもありますからね。「後編」に突入したというのは、決して「何かが終わった」という悲観的なものではなくて、むしろ次の幕が上がったっていうワクワク感のほうが強い。だから自分自身への期待は相変わらずギラギラしてますよ。80歳まで演奏しているとは思わないけど、昔の自分に言わせれば50歳まで演奏するとは思ってなかったわけだしね(笑)。
今後の10年はワールドツアーを視野に入れていく
──デヴィッド・ボウイの新作は聴かれましたか?
もちろん。ボウイにしても、ストーンズにしても本当に元気だし、年上のミュージシャンがあそこまで元気だというのは、なんだか困っちゃいますよね。ストーンズのデビュー50周年ライブというのをたまたま最前列で観れたんですけど、すごかったですよ。まさに鋼の心臓。「布袋にもこのステージができて当然だと思うなよ!」って言われた気がして。あれは本当に圧倒されましたね。
──リスナーにしても高齢化が進んでいますよね。こないだCDショップで買い物をしていたら、通路の真ん中で棒立ちしている50歳ぐらいのオジサンがいて、そのときは「この人邪魔だなぁ……」と思ったんですけど、あとでよくよく考えると、あの人は老眼でタイトルが見えなかったんだなっていう……。
今後は自分にもそういう障害が出てくるかもしれないね。この肉体と精神を維持してのステージという意味においては、正直あと10年かなって思う。でも10年あったらアルバムを5枚は出せると思うし、ツアーだって何本かできるでしょ。ストーンズだって矢沢(永吉)さんだって、たぶんこういうことを考えながら活動してると思うんですよ。僕は今までまったく未来のことを考えずにやってきて、いつも行き当たりばったりだったので、自分がこういうことを話すのはなんだか不思議な気持ちがしますけど、日本のファンを大切にしながら、ワールドツアーも視野に入れての10年というのは、けっこう休みがないじゃないですか(笑)。そのためにも身体や気持ちは前向きに維持しておかないと。
自分ならではの引き出しがモノを言う
──前向きな精神の維持には、新しい刺激を入れる、というのもひとつの方法ですよね。その意味では、ももクロへの楽曲提供など、若い感性との交流が布袋さんに影響を与えるということはありますか?
うーん、その部分では意外と淡々としてるかもしれないですね。仕事はきっちりとやるタイプなんで、自分の快感よりもどのチョイスがみんなにとって最大の幸せなのかってことを考えてしまう。もともと人には尽くすタイプだしね。……実は最初、ももクロとの仕事に関してはお断りしようとしてたんですよ。でも依頼があったその晩に、クリス・ペプラーさんにお会いする機会があって、何気なく相談したら「絶対やったほうがいいよ! ももクロさすがだよ。ここにきて布袋さんに頼むなんて!」という熱い反応が返ってきて、そこでビシッと自分のスイッチが入ったんです(笑)。依頼してくるほうは、僕の持ってる何かを欲してそうしてくれてるわけじゃないですか。決して筒美京平先生のようなイメージの曲を書いてほしいわけじゃない。で、そこから自分なりのチョイスを考えていったときに、今回はある種の「男らしさ」を要求されていることがわかったので、いわば「ギターという刀」を使って、ももクロよりも一歩前に布袋が鳴るっていうコラボレーションを目指したんです。僕は皆さんが思っているほど男らしくはないんですけどね(笑)。
──確かに自然体で制作された今回のアルバムとは、クリエイティブの種類が違いますね。
そこはやっぱりありとあらゆる音楽を聴いてきた自分ならではの引き出しがモノを言うんです。王道なものからものすごくマニアックなものまでを吸収・消化した上で、自分ならではのカラーを出せるようになってると思うし、作り手としていろんなジャンルの音楽に愛情を注げるという強みはあると思います。それがアイドルであろうが、演歌であろうが。
- ニューアルバム「COME RAIN COME SHINE」/ 2013年2月6日発売 / EMI Music Japan
- 初回限定盤 [CD+DVD] / Amazon.co.jpへ
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TOCT-29124
- 通常盤 [CD] / 3000円 / TOCT-29125
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CD収録曲
- Cutting Edge
- 嵐が丘
- Don't Give Up!
- Never Say Goodbye
- Come Rain Come Shine
- My Ordinary Days
- Daisy
- Higher
- Stand Up
- Rock'n Roll Revolution
- Dream Again
- Promise
初回限定盤DVD収録内容
- 「Don't Give Up!」Music Video
- 「Promise」Music Video
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月生まれ。1982年にBOOWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に吉川晃司とのユニット・COMPLEX結成や他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。2011年にはアーティスト活動30周年を記念したプロジェクトを展開し、さまざまなアーティストとコラボレーションしたアルバム「ALL TIME SUPER GUEST」をリリースしたほかスペシャルライブを実施した。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。