ナタリー PowerPush - 布袋寅泰
“後編”の幕開けを告げるロンドン移住後初アルバム
2012年夏にロンドンに移住し、「世界への夢」を実現するために精力的な活動を展開している布袋寅泰。そんな彼が移住後初となるアルバム「COME RAIN COME SHINE」を発表した。
今回ナタリーは、新作のリリースにあわせて一時帰国中の彼にインタビュー。ロンドンでの日々や50歳という節目を迎えての心境、そしてこれからの夢を聞いた。
※文中にてバンド名を「BOOWY」と表記していますが、2つ目のOは/付きが正式表記となります。
取材・文 / 江森丈晃 撮影 / 福本和洋(※p.1、p.3除く)
Don't Look Backの精神が邪魔をしていた
──アルバム完成おめでとうございます。
ありがとうございます。
──今回はとても開放感のある作品に仕上がっていて、とても驚きました。この抜けのよさ、密室感のなさというのは、やはり環境の変化、ロンドンに移住されたということが大きいのでしょうか?
もちろんそれもあると思いますけど、ほかにもいくつかの要因が重なってますね。まずロンドンのことから話すと、とにかく普段の生活がのびのびしてるんですよ。なんといっても自由に出歩けるのが楽しくて、(日本では)いつも人の視線を受ける側だったのが、ロンドンでは誰も僕のことなんか知らないわけだから、地下鉄に乗っていろんな人の仕草を眺めるだけでも大きな刺激があるんです。最近はOyster Cardというのがあって、これはイギリス版のSuicaみたいなものなんですけど、僕にとっては完全にプラチナカード。興味のある場所を見つけては路線図をチェックして、バスや地下鉄で出かけていくんです。
──夜型の生活ではないんですね。
もう卒業しましたね。子供の学校のためにも家族全員で早起きして、散歩したり、ワークアウトしたり。時差があるから日本との連絡もメールやSkypeで午前中に済ませて、午後は自分の仕事に費やしてます。オフの日は美術館に行ったり、友達のバンドのライブに行ったりしてますよ。家族全員で移ったので、当初は生活サイクルをつかむのに精一杯だったけど、ようやく落ち着いてきましたね。
──確かにきちんと光合成しているからこそのサウンド、という印象を受けました。
(笑)。ただそういう健康的な生活のおかげでこういうアルバムに仕上がったというのは少し短絡的で、そもそも僕は20歳ぐらいの頃からバリバリのロンドンっ子だったし、移住が劇的に自分の音楽を変えたとは思わないんですよ。もし変わるとしたら、頭から爪先までロンドンの住人になった次のアルバムからになると思うし。……たぶん今回の変化というのは、自分がどんなミュージシャンでありアーティストなのかというのを、より大きな視点で俯瞰できるようになったからだと思うんです。僕はまだネットなんてない時代から、自分なりに海外のシーンやファッションや音楽にアンテナを張って、新しいものをどんどん自分に取り入れることで進化してきたところがあるんだけど、この歳になってここまで自分のスタイルが確立すると、今度は自分の個性に向き合って、それをじっくり磨いていくというモードにシフトするんです。外からのインプットに夢中になるというよりは、自分自身のアウトプットの輪郭というのが、すごくよく見えるようになってきて、そこにこそ楽しみを見い出せるようになってくる。それは自分が次のフェーズに突入したということだと思うし、50歳という句読点を経て、自分をうまく振り返るいいチャンスが巡ってきたってことなのかな。……ソロになったばかりの頃は、BOOWY的なものは意識的に排除しようとしていたし、常に新しい自分のスタイルを更新していかなきゃならないと思っていたんだけど……。
──やはりそこには同じことを繰り返したくないという課題や危機感があったわけですね。
ありました。ただ、今こうして振り返ってみると、いくらなんでも進化し続けることを課しすぎたかもしれないという反省も見えてくるんですよ。やみくもに研ぎ続けてきたDon't Look Backの精神が邪魔をしていた部分というのがわかってくる。
設計図通りに仕上がることを回避
──誰が聴いてもそれとわかる布袋サウンドを維持しつつ、毎作ごとに変化を続けていくというのは本当に大変なことだったと思います。
その点、今はいい感じに肩の力が抜けて、自然と原点回帰できている感じがしますね。気負いがなくなったことが、サウンドにも大きく影響している。COMPLEXのチャリティライブ(2011年7月30、31日に東京ドームにて開催)でも楽しみながら演奏できたし、自分の気持ちの深い部分に眠らせていたもの、凍結していたものが、ここにきてようやく溶け出してきたというかね。
──レコーディング環境の変化ということではどうでしょうか?
もちろんそれも重要です。今までのレコーディングというのは、ひたすらスタジオに缶詰になって構築していく短期集中型だったんですけど、今回は渡英が重なったこともあって、結果的にわりとゆったりとしたスケジュールで作業できたんです。その変化もアルバムの風通しに大きく作用していると思いますね。偏執狂的なサウンドを突き詰めていくと、なかなか全体像には目が行かなくなってしまう。例えばギターひとつにしても、いったんOKを出したものが気に入らなかったりすると、そこにエフェクトをかけたり、デジタルで編集し始めたり、ポストプロダクションの袋小路にハマってしまうことが多かった。でも最近は「だったら録り直せばいいじゃん」と思えるようになったんです。元来すごく凝り性なものだから、そういう当たり前のことに気付くのにも、これだけの時間がかかったんですよ。いつもがんばりすぎちゃって、デモテープの段階から100の力で作り込んで、そうなると言葉も100、歌も100にしなきゃいけないから、どんどん温度が上がっていって、最後は沸点だらけの作品になる。そういうものは自分で聴き返しても楽しめないし、どこか息苦しいものになってしまうんですよ。ここにきて「力を抜くための力」がついてきたってことなのかな。
──生ドラムのグルーヴというのも、今回のアルバムの特徴ですよね。
そうですね。セッションの気持ちよさからくる開放感というのが、ジャケット写真の表情にまで出てると思います。今回はアルバムコンセプトもあまり考えなかったし、なるべくデジタルレコーディング以降の「出来過ぎ感」は排除する方向で、いわば几帳面な自分を追い越してやろうという心構えで録音したんですよ。いつもは打ち込みで、リズムの粒をビッチリと合わせちゃうところを、今回は最初から生ドラムを起用することで、設計図通りに仕上がることを回避したというか。
──それは布袋さん自身が驚ける余白を残しておくということですよね。
そうです。
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- ニューアルバム「COME RAIN COME SHINE」/ 2013年2月6日発売 / EMI Music Japan
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- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TOCT-29124
- 通常盤 [CD] / 3000円 / TOCT-29125
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CD収録曲
- Cutting Edge
- 嵐が丘
- Don't Give Up!
- Never Say Goodbye
- Come Rain Come Shine
- My Ordinary Days
- Daisy
- Higher
- Stand Up
- Rock'n Roll Revolution
- Dream Again
- Promise
初回限定盤DVD収録内容
- 「Don't Give Up!」Music Video
- 「Promise」Music Video
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月生まれ。1982年にBOOWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に吉川晃司とのユニット・COMPLEX結成や他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。2011年にはアーティスト活動30周年を記念したプロジェクトを展開し、さまざまなアーティストとコラボレーションしたアルバム「ALL TIME SUPER GUEST」をリリースしたほかスペシャルライブを実施した。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。