ナタリー PowerPush - 細野晴臣

「歌うのが好きになってきた」ソロ活動40年を振り返る

「HoSoNoVa」(2011年) / 「Heavenly Music」(2013年)

40年経って、歌うのが楽しくなってきた

──その後は「HoSoNoVa」「Heavenly Music」と継続してアルバムをリリースしていますが、どの作品でもボーカルをとっています。

アルバムを作る動機っていうのは、まずは自分が楽しいかどうかですからね。自分で歌うのが楽しくなってきているんですね。

──「HOSONO HOUSE」の頃は歌うのが嫌だったのに?

つらかった。むりやり歌っていた。でも40年経って楽しくなってきた。やっと歌えるようになってきた。

──それは、自分の思うように歌えるようになってきたということですか?

そういうわけでもないんだけど。ライブをやり続けてきたので、声が出るようになってきたってことかな。裏声が出なくなったり、失ったものも多いんですけど。その代わりに失ったものを補うような感じで高い声が出たりね。「あれ? こんな声出るんだ?」みたいな発見もある。歌って面白いですね。楽器と同じですから。吹き続ければ鳴るようになる管楽器みたいなものですね。

──歌うことが楽しくなっているのが、「HoSoNoVa」や「Heavenly Music」での歌モノ路線に反映されているんですね。

うん。特に今回の「Heavenly Music」は全部歌が入っているし、ミックスでも今までよりは歌を前に出していて。できあがりを聴いたら、「これ、ボーカルアルバムだ」って思って。そんなふうに思うのは初めてでしたね。

──初めてですか?

2011年4月20日「HoSoNoVa」

そうですね。前作の「HoSoNoVa」を聴き直したら「ボーカルアルバム」っていう印象はないんですよね。やっぱり、サウンドを追求していたんです。今回ももちろんサウンドも緻密にやってますけど、結局歌をいっぱい出したんで、後の音響のことは気にならないというか話題にならないというか。

──「Heavenly Music」はカバーアルバムになっていますけど、細野さんがこういった作品を出すことは、原曲をたくさんの人に紹介しているっていう側面もあると思います。

うん。そういう面も多少意識して作っていますね。やっぱり知ってほしい……というか、こういう時代の音楽、普段聴くとっかかりないでしょ?

──意識しないとないですね。

情報がこんなに出揃っているのに、自分でそういうものを見つける切り口がわからない。それじゃあ情報がいっぱいあったって意味がない。まあ、僕は生まれた世代が戦後ですから、アメリカの音楽が体に刷り込まれている。だからそういうの知ってるんで、知ってる人がやればいい。あと、一番僕が思っているのが、ミュージシャンに聴いてもらいたいってこと。それが強いですね。僕とやっているメンバーに聴いてほしいってことが一番初めに思うことなんです。

モノラルっぽい音像が一番好き

──「Heavenly Music」は、細野さんのオールタイムベスト的な楽曲から選曲されていると捉えてもいいのでしょうか?

どうかなあ? いろいろ好きな音楽がいっぱいあって、やりたい曲もいっぱいあるんですけど。とりあえずできる曲をやりましたね。

──できる曲というのは?

できる曲というのは、歌える曲。でもその中で、「Close to You」と「Something Stupid」は歌うつもりはなかったんです。

──そうなんですか? でも「Close to You」は、以前、ジム・オルークさんがプロデュースしたバート・バカラックのトリビュートアルバム(「ALL KINDS OF PEOPLE - LOVE BURT BACHARACH」)でも歌っていましたよね?

細野晴臣

そうですね。でもあれは頼まれなかったら歌わなかった。あの作品、実は「Close to you~」のところを「Close to me~」って歌っちゃっていて、ジョークのようになっている(笑)。

──気付きませんでした。

あれね、ジムが仮歌で「Close to me~」って入れていて、信じてその通り歌ったら、「あれは冗談だったんだよ」って後で言われて。それ、言ってくんないとね(笑)。そのあと、自分でもライブでやることになって、自分の歌いやすいようにアレンジしたら今回の形になったんです。

──本作はミックスも細野さんが手がけていますよね。モノラルっぽい音像の中に、漣さんの楽器や細野さんのコーラスなどがステレオで入ってきて面白いと思いました。

うん。基本は真ん中にどしっとさせて。でも僕だけじゃなくて、ノラ・ジョーンズのバックバンドをやっている連中のソロの作品を聴いたら、同じくモノラルっぽい音像でしたね。今のポップスはすごく音像が左右に広がっていますけど、僕はやっぱりモノラルが一番好きですね。

ニューアルバム「Heavenly Music」 / 2013年5月22日発売 / 3150円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64031
ニューアルバム「Heavenly Music」
収録曲
  1. Close to You
  2. Something Stupid
  3. Tip Toe Thru The Tulips with Me
  4. My Bank Account Is Gone
  5. Cow Cow Boogie
  6. All La Glory
  7. The Song Is Ended
  8. When I Paint My Masterpiece
  9. The House of Blue Lights
  10. ラムはお好き? part 2
  11. I Love How You Love Me
  12. Radio Activity
細野晴臣(ほそのはるおみ)

1947年生まれ、東京出身の男性アーティスト / プロデューサー。エイプリル・フールのベーシストとしてデビュー。1969年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とバレンタイン・ブルーを結成し、翌年バンド名をはっぴいえんどに改名する。はっぴいえんど解散後はソロ活動と並行し、林立夫、松任谷正隆らとキャラメル・ママを結成。荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースを行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。YMO「散開」後は、映画のサントラを手がけるほか、松田聖子や山下久美子へ楽曲を提供しヒットメイカーとしてもその名を知らしめる。2000年代に入ると、高橋幸宏とのユニットSKETCH SHOW、忌野清志郎、坂本冬美と結成したHIS、SKETCH SHOWに坂本龍一を迎え結成したHuman Audio Spongeなど、さまざまなユニットで音源を発表。還暦を迎える2007年にはHARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS名義で「FLYING SAUCER 1947」をリリースしてソロ活動を再開。さまざまなライブイベントに出演する一方で、2013年5月に往年のスタンダードナンバーをカバーした「Heavenly Music」を発売した。