ナタリー PowerPush - 細野晴臣
「歌うのが好きになってきた」ソロ活動40年を振り返る
「トロピカル・ダンディー」(1975年) / 「泰安洋行」(1976年) / 「はらいそ」(1978年)/ 「コチンの月」(1978年)
細野さんはトロピカルダンディーだ
──「HOSONO HOUSE」の次は、「トロピカル・ダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」「コチンの月」と立て続けにソロ作品をリリースしています。この辺りの作品はエキゾチックな雰囲気が強く出ていて、細野さんのオリジナリティが強く感じられます。
そうね。「トロピカル・ダンディー」辺りから、ソロってことを意識してアルバムを作るようになっていったかもしれない。
──中でも「トロピカル・ダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」は「トロピカル3部作」と呼ばれていますけど、「3部作」として意識して作っていったのでしょうか?
いやいや、それはあとから言われたこと。
──では、純粋にエキゾっぽいサウンドを志向していたんですね。
もうこの辺りは、エキゾチックミュージックが大好きでしたね。マーティン・デニーやラテンをたくさん聴いていました。だから自分の中では、ロック離れした時期です。「HOSONO HOUSE」が好きだった人は離れていったかもしれない。
──この3部作のレコーディングメンバーはそうそうたる顔ぶれですね。「トロピカル・ダンディー」にコーラスで南こうせつさんがいたり。
この頃は、大貫妙子、矢野顕子、山下達郎って人たちがコーラスをやってくれていた時代です。今見ればすごいですけど、当時はごく自然に、特に意図せずにこういったメンバーが集まったわけですよね。仲間うちで作っていったんで。
──この時期は「HOSONO HOUSE」の制作時のようなバタバタ感はもうなくなっていた?
なくなっていました。まあ、自分の中ではすごく変化が激しかったですけど。例えば「トロピカル・ダンディー」は、クラウンレコードに移籍することが決まって、そこでソロを作ってくれって依頼されて「さあ何やろうかな」って考えながら作り始めたんです。それでセッションで1曲作ったんだけど、レコーディングで挫折しちゃったんですよ(笑)。その原因は、僕がプレイヤー志向だったというところが大きいんですけど。その頃はSLY & THE FAMILY STONEとかばっかり聴いていたから、演奏するとファンクになる(笑)。
──フレーズなどがファンキーになってしまうということですか?
うん。それと、作る曲自体がそういうものになってしまうんです。で、オケを作って、歌ってみてもスライのようには歌えない(笑)。どうしても「HOSONO HOUSE」的な歌い方になってしまって……その頃は自分でも歌い方がまだわからなくてね。だから1曲録ってそれをボツにして、レコーディングを中断しちゃったんですね。ファンクはできないな、ソロではって。どうしようかな、と。まったく方向性に見当がつかなくなっちゃったんですよ。
──それでまたレコーディングを再開するきっかけになったのは?
それはね、久保田麻琴が家に来て、「細野さんはトロピカルだよ」って言ったんですよ。本当に的確なこと言う。「細野さんはトロピカルダンディーだよ」って言うから、それをそのままタイトルにしたんだけど。
──「トロピカル・ダンディー」って細野さんのことだったんですね。
そうなの。で、自分でその言葉から得たイメージを再構築したというか、今まで考えていなかったことをコンセプトとして考え始めたんですね。それでいろいろなことがよみがえってきたり、あるいは明確になってきて、好きでよく聴いていた「マーティン・デニー」っていうキーワードが出てきて。それから「エキゾチック」って言葉に初めて気付いたというか……まあ、そういうものをやり出したんですよね。それで一気にレコードのA面だけ作ったんです。B面までは手が回らないなって思って、前に作っていたフォーク的な曲を入れたんだよね。当時のメディアはレコードだから、A面とB面で分けられたんです。
──久保田さんの言葉が呼び水になって、いろいろなイメージが膨らんできたんですね。
うん。だいたいいつもそうやって人が教えてくれることが多いですね。
──しかし細野さんの周りにいる人たちは、本当によく細野さんのことを観察していますよね。
わかりやすいんじゃないですか? 人から見たら(笑)。でも、そういう人たちの言葉でいろいろ気付かされることがありますね。
──細野さんはそういう人たちを集めるようなところがあるように思います。
そんなにいっぱいはいないです(笑)。でも、困っていると来てくれますね。ありがたいことに。
- ニューアルバム「Heavenly Music」 / 2013年5月22日発売 / 3150円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64031
- ニューアルバム「Heavenly Music」
収録曲
- Close to You
- Something Stupid
- Tip Toe Thru The Tulips with Me
- My Bank Account Is Gone
- Cow Cow Boogie
- All La Glory
- The Song Is Ended
- When I Paint My Masterpiece
- The House of Blue Lights
- ラムはお好き? part 2
- I Love How You Love Me
- Radio Activity
細野晴臣(ほそのはるおみ)
1947年生まれ、東京出身の男性アーティスト / プロデューサー。エイプリル・フールのベーシストとしてデビュー。1969年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とバレンタイン・ブルーを結成し、翌年バンド名をはっぴいえんどに改名する。はっぴいえんど解散後はソロ活動と並行し、林立夫、松任谷正隆らとキャラメル・ママを結成。荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースを行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。YMO「散開」後は、映画のサントラを手がけるほか、松田聖子や山下久美子へ楽曲を提供しヒットメイカーとしてもその名を知らしめる。2000年代に入ると、高橋幸宏とのユニットSKETCH SHOW、忌野清志郎、坂本冬美と結成したHIS、SKETCH SHOWに坂本龍一を迎え結成したHuman Audio Spongeなど、さまざまなユニットで音源を発表。還暦を迎える2007年にはHARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS名義で「FLYING SAUCER 1947」をリリースしてソロ活動を再開。さまざまなライブイベントに出演する一方で、2013年5月に往年のスタンダードナンバーをカバーした「Heavenly Music」を発売した。