ナタリー PowerPush - 星野源
自分なりのJ-POPチューン「夢の外へ」
狂っていてカッコいいJ-POPを自分なりにやってみたい
──「J-POPは音楽的にも興味深い」と認識するようになったのは、いつくらいなんですか?
10代の半ばになると、洋楽を聴かなきゃみたいな風潮があったじゃないですか。日本なんてダサいみたいな。僕もやっぱりそうだったんです。そういう雰囲気に流されつつも、高校生のときに細野晴臣さんが好きになって、その後、前に聴いてたものを聴き直してみようっていう時期があったんですよ。そのときに、無意識にJ-POPダサいって思っちゃってたけど、やっぱり僕はJ-POP好きなんだな、って再認識して。CHAGE and ASKAのASKAさんの曲なんて、ホントにすごいんです。ありえないコード進行だし、メロディもすごい。よく「○○っぽい」って曲ありますけど、そういうこともできないんですよね、チャゲアスの曲は。あまりにもすごすぎて、誰も真似できないところまでいっちゃってるというか。しかも、それが日本のど真ん中でたくさんの人に知られてるわけじゃないですか。それはめちゃくちゃカッコいいと思うし、オルタナティブな雰囲気を感じるんですよ。
──それを自分でもやってみよう、と。
ええ。今回の曲に関しては、自分が小学生の頃に聴いてたJ-POPに近付けたらいいな、っていう気持ちもありましたね。狂っていてカッコいいJ-POPを、自分なりにやってみたいっていう。ただ、どれだけ背伸びしても、どこまでバーンと飛んでいても、地面に足が着いてるようにしたかったんですよ。
──地に足を着けた状態で、今までの枠をブチ破る……難しそうですね、それ。
そうなんですよ(笑)。でも、だたブチ破るのって腹くくれば誰でもできる気がして。1曲目の「夢の外へ」は、どれだけ地に足が着けるかっていうのを常に意識しながら作っていました。でもそれでも聴いて不安になる人もいると思うんですよ。そういう人にも「大丈夫。今までやってきたことも大好きだぜ」って言いたいというか。3曲目の「彼方」と4曲目の「電波塔(House ver.)」はそういうイメージで作ってるんです。
──リスナーに届いたときの反応を細かく想定してる?
リスナーは1人ひとり違うから、どんなふうに伝わるかはわかんないです。だから「もし自分がリスナーだったら」って仮定するんですよ。新しいことを提示するだけじゃなくて、その前と地続きの曲があったほうが、もっと楽しんでもらえるんじゃないかな、とか。もう1人の俺がガッカリするようなことはやりたくないんですよね、要するに。「おもしれえ!」っていう感じも大事だけど、どこかに安心感がないと……。それはきっと、お金がないのに、がんばってCDを買ってたときの自分の気持ちなんです。20歳くらいのときって、バイトで稼いだなけなしのお金でCDを買ってたわけじゃないですか。なのにガッカリしちゃうようなこともあって。だから、昔の俺だけはガッカリさせたくないな、と。細かくてめんどくさいヤツなんですけど(笑)。そこだけは喜ばせたいんです。
ミックスが終わったら拍手が起こった
──「夢の外へ」の制作は楽しんでやれました?
うん、すっごい楽しかったですね。ミックスが終わったときにスタッフから拍手が起こって、「やったぜ!」なんつって。最初は「これ、どういう曲になるんだろう?」っていう雰囲気だったんですよ。僕の頭の中ではわかってるんだけど、完成するまで周りの人たちにはわからないので。バンドで録ってるときは、ただの激しいテイクだったんですよね。そこにストリングスが入ることで雰囲気が変わっていって。制作が進むにつれて、スタッフの表情が変わっていくのが楽しかったです。「ほら、面白いでしょ?」って。
──ストリングスのアレンジがすごいですよね。まさに「楽しい狂気」というイメージだな、と。
そうなんですよ。ホーンだと楽しい方向に行っちゃうんだけど、ストリングスって、ある地点を超えると怖い感じが加わるんですよね。でもそのバランスもいい感じになって。イメージ以上の仕上がりになりましたね、本当に。
──個人的にはヴァン・ダイク・パークスのストリングスアレンジを思い出しました。すごくポップなんだけど、どこか狂ってる感じもあって。
あ、なるほど。ヴァン・ダイク・パークスがTHE BEACH BOYSといっしょにやってる曲とか……。そういう感じもあるかもしれないですね。ちょっと前に「SMiLE」(ヴァン・ダイク・パークスが参加したTHE BEACH BOYSのアルバム)をずっと聴いてたし。そういえば最近、ボックスセット(2011年11月リリースの「SMiLE COLLECTORS BOX」)が出たじゃないですか。あれ、いいですよね。部屋に置いておくだけで幸せになれる(笑)。
引きずったまま外に出ればいい
──「夢の外へ」は、歌詞もすごく興味深くて。「夢と現実」というテーマは、どこから生まれてきたんですか?
この曲のテーマというより、自分の中の永遠の問題みたいなところがあるんです。小さいときから、普段の生活が楽しいと思えなかったんですよ。マンガとかに逃げて、そこで救ってもらったというか。ちょっと笑ったりすることでなんとか生き延びてきたところがあって。今って、その溝がすごく深くなってる気がするんですよね。いわゆるリア充とそうじゃない人たちというか……。ひと括りにはできないですけど。その一方で、オタクカルチャーも実権を握って、強くなってきてるじゃないですか。自分はどっちだろう?って考えてみると、どっちも大好きなのに、どっちにもいけないなって。
──同じようなことを考えてる人は、きっと多いと思います。
現実だけでもしんどいし、虚構だけでも寂しいし。どう折り合いをつければいいんだろう?っていうのは、ずっと思ってますね。ただ、この曲に関しては「外に出る歌にしよう」と思ったんですよ。「フィルム」は家の中から窓越しに外を見るイメージだったんですけど、今回は本当に外に出てみるっていう。「夢の外へ」という言葉を思いついて、そこにいつも考えていたことがくっついてきた感じですね。
──実際に星野さんにも、「もっと現実にコミットしよう」と決断した時期はあったんですか?
いわゆるオタクでしたからね。髪の毛も長かったし、見た目は完全に宅八郎さんで(笑)。でも、中3のときにモテたいと思って(笑)、それをやめたんです。髪も切って、もうアニメとか観ないようにしようって。言ってみれば過去を切り捨てようとしたんですけど、それは失敗だったなという思いがずっとあって。もう全然モテなかったんですよ(笑)。中身の問題なんだと気づいて。2次元に惹かれる自分がどうしてもいたし、虚構を切り捨てればいいわけじゃないことに気づいたんです。だから「夢の外へ」も「夢なんて捨てて、現実に戻ってこいよ」という歌じゃないんです。違うところに行くときに、今まで持っていたものを切り捨てるのは違うと思うんですよ。そうじゃなくて、引きずったまま外に出ればいいんじゃないか、そういう価値観、選択肢があってもいいよなっていうのは、ボンヤリと思ってます。
ニューシングル「夢の外へ」 / 2012年7月4日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
収録曲
- 夢の外へ
- パロディ
- 彼方
- 電波塔(House ver.)
初回限定盤 DVD収録内容
- 「夢の外への中へ」(監督:山岸聖太)
- Music Video「夢の外へ」(監督:山口保幸)
- Live『星野源の全国ツアー「エピソード2以降」』
- レコーディング&Music Videoメイキングなど
星野源(ほしのげん)
1981年1月28日埼玉県生まれのシンガーソングライター、俳優。代表的な出演作はテレビドラマ「11人もいる!」「ゲゲゲの女房」など。2000年には自身が中心となりインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」を発売。2010年に1stアルバム「ばかのうた」をリリース。翌2011年には2ndフルアルバム「エピソード」を発表し好評を博す。2012年2月には3rdシングル「フィルム」を、同年7月に資生堂「アネッサ」のCMソング「夢の外へ」をシングルリリース。J-WAVE「RADIPEDIA」では月曜日のナビゲーターを担当している。