ナタリー PowerPush - 星野源

自分なりのJ-POPチューン「夢の外へ」

昨年9月に発表されたアルバム「エピソード」、今年2月にリリースされたシングル「フィルム」が連続ヒット。シンガーソングライターとしての圧倒的な評価を獲得した星野源から、3rdシングル「夢の外へ」が届けられた。「自分のリミッターをぶち壊したい」という思いで制作されたタイトル曲は、楽しさと狂気がせめぎ合うバンドサウンドの中で「夢と現実」をテーマにした歌が広がっていく、極上のポップチューンに仕上がっている。「エピソード」「フィルム」から本作に至るまでのモードの変化、子供の頃に熱中していたというJ-POPに対する思い、“ものづくり”に対する真摯なスタンスなど、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類

今、すごく楽しい

星野源

──2ndアルバム「エピソード」のヒット以来、活動の状況もかなり変わってきたと思うのですが。

うーん……。あの、楽しいです(笑)。やりたいことがやれているし、しかも、ひっきりなしにいろんなお仕事をさせてもらっていて。こういうプロモーションもそうですけど、すごく楽しいですね。20歳くらいからボンヤリと妄想していたこともできていて、かつ、その間にやっていたことも継続できているっていう。

──時間がなくて大変ということは?

あ、それはあります(笑)。「自分がもう1人いたらいいのに」というのはすごく思いますけど、今のところはそれほどつらくないですね。忙しくて体がしんどいっていうのはあるけど、忙しくてやりたいことがやれないというわけではないので。やりたくてもやれないということのほうが多かったんですよ、今までは。単純に予算の問題だったり、環境の問題だったり……。今は関わってくれる人も増えたし、やっぱり楽しさのほうが上ですね。

──今回のシングル「夢の外へ」にも、星野さんの「今、やりたいこと」がしっかり反映されてますよね。「エピソード」「フィルム」からの流れもくまれていて。

そうですね。「エピソード」の制作は、自分の中の一番ドロドロした部分と向き合うような内容だったし、作り終えたときに「これ、受け入れてもらえるのかな?」っていう心配もあったんです。「ばかのうた」のときもそうだったんですけど、また違ったドロドロというか、もうちょい厳しめというか……。でもリリースして、それをたくさんの人に受け入れてもらったと感じたときに、自分の中でひとつ終了した感じがあって。

──一番きつい時期を抜けた?

「エピソード」のストイックな作業が昇華されたというか。そのあと、「ちょっと疲れたから、そろそろ楽しいことをやろう」と思えたんですよね。楽しい曲を作りたいなという方向にどんどん向かっていって、その中でできたのが「フィルム」だったんです。制作の時期は続いてたんですけどね。「エピソード」を作り終えて、2カ月後には「フィルム」を録っていたので。ストイックな感じを少し引きずりつつも、「もっと面白いことをやりたいなあ」という気持ちもあって。だから「フィルム」ができたときはすごくうれしかったんです、やっと明るい曲ができたぞって。でも、今になって考えてみると、まだちょっと「エピソード」を引きずっていたというか……。インタビューのときに「今回は明るい曲ですよ」って言うじゃないですか。ライターさんも「そうですね」と言ってくれるんだけど、よく見ると表情がちょっと曇ってたり(笑)。

──(笑)。星野さんの気持ちとは温度差があった、と。

「あれ、納得してないな」っていう(笑)。自分としては前向きな曲を作ったつもりなんだけど、多分枠組みみたいなものが残ってたと思うんですよね。無意識のうちにリミッターがかかっていて、自分の範囲内に納めていたというか。それをブチ壊したいと思って書いたのが、今回の曲なんです。

──なるほど。やっぱりそのときのモード、気分が反映されてるんですね。暗い気分のときに明るい曲は書けないというか。

大抵暗い曲ばっかり作ってるんですけどね。どういうときに明るい曲ができるのか、自分に訊いてみたい(笑)。まあ、パーティチューンを作れるような音楽家ではないですからね。インストだともっとハジけられるんだけど、自分の歌が乗ると余計に……。だからやれることがすごく少ないミュージシャンだとは思います。

J-POPが大好きで大好きで

──でも「夢の外に」は気持ち良くハジけたポップチューンですよね。テーマのひとつに「J-POP」があったそうですが。

はい。大好きですから、J-POP。もう大好きで大好きで。

──星野さんのJ-POP原体験というと?

えーと、一番初めはB'zの「LADY NAVIGATION」だったと思います。元々、いとこがB'zが好きだったのでその影響もあるんですけど、自分で「これはカッコいい、欲しい」って思ったのが「ZERO」っていうシングルで。そのシングルに「恋心(KOI-GOKORO)」っていう曲がカップリングに入ってるんですけど、どちらも超名曲なんです。それをずーっと聴いてましたね。

──B'zのどこに惹かれたんですか?

まず、すごくメロディアスですよね。あとね、歌詞もすごいんですよ。ヘタレだったり、ダメな男の歌も結構あって、なんて言うか、信憑性があるなって思ったんですよね。これはダメな部分がある人じゃないと書けないなって感じる部分があって。稲葉さんって、カッコいいだけの人じゃないんだっていう。ユニコーンも大好きです。やっぱりこれもいとこがきっかけなんですけど、「服部」を借りてきて、聴き倒して。ユニコーンは中1か中2のときに解散しちゃうんです。「オールナイトニッポンで重大発表」って新聞に書いてあって、「あ、解散なんだ……」って。あとは親の影響でサザン(オールスターズ)もずっと聴いてたし、「やまだかつてないテレビ」系の曲もよく聴いてました。あ、WANDSも! 「時の扉」はガンガン聴いてましたね。

ニューシングル「夢の外へ」 / 2012年7月4日発売 / SPEEDSTAR RECORDS

収録曲
  1. 夢の外へ
  2. パロディ
  3. 彼方
  4. 電波塔(House ver.)
初回限定盤 DVD収録内容
  1. 「夢の外への中へ」(監督:山岸聖太)
  2. Music Video「夢の外へ」(監督:山口保幸)
  3. Live『星野源の全国ツアー「エピソード2以降」』
  4. レコーディング&Music Videoメイキングなど

星野源(ほしのげん)

1981年1月28日埼玉県生まれのシンガーソングライター、俳優。代表的な出演作はテレビドラマ「11人もいる!」「ゲゲゲの女房」など。2000年には自身が中心となりインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」を発売。2010年に1stアルバム「ばかのうた」をリリース。翌2011年には2ndフルアルバム「エピソード」を発表し好評を博す。2012年2月には3rdシングル「フィルム」を、同年7月に資生堂「アネッサ」のCMソング「夢の外へ」をシングルリリース。J-WAVE「RADIPEDIA」では月曜日のナビゲーターを担当している。