ナタリー PowerPush - 星野源
星野源「エピソード」の裏舞台+ヒャダイン対談「真麻最高」
妄想とリアル
星野 あと、僕はホントに自分の歌だと真面目な歌しか……というか、はじけたものができないんですよ。すっごい面白いことが本当はめちゃくちゃしたいんですけど、どうしてもその飛躍ができない。
ヒャダイン いや、本当に。僕のほうこそむしろ照れ屋なんですよね、たぶん。ここまで私小説的なものをドンと、しかもトラック少なめで、歌中心で、ほとんどリバーブもなしに伝える勇気がないというか。今まで僕が提供した曲も、9割9分9厘が女性ボーカルなんです。男性アーティストへの提供曲で内省的な部分を出しても、全然通らないんですよ。
星野 でも僕の歌詞はほとんど妄想なんですよ。私小説的なものにはあまり興味ないんです。自分を出すのはホント恥ずかしくて。
ヒャダイン 出せてる感じがするんですけどね、僕には。
星野 自分が体験したモヤッとした気持ちや、うれしいこと、悲しいことをそのまま完全に私小説で書いちゃうと、伝わらないなあと思うんです。狭くなるというか、本当にその人だけのものになっちゃう気がして。だからその自分の正直な気持ちを妄想で構築し直すんです。「リアルですね」と言ってもらえるんですけど、基本的にフィクションで、だからこそ歌えるんだと思います。本当に自分の話だと恥ずかしくて……。
ヒャダイン あー、すげえ。まんまとだまされました。
星野 だましてたつもりは全くないんですけれども(笑)。ヒャダインさんの音楽は楽しませたいっていう精神がすごく見えるし、コードの胸キュン感とか、歌詞の一瞬どうしようもなく切なくなる部分とか……派手に盛り上がりながらこんな気持ちになれる音楽って、なかなかないですよ。笑うことも泣くことも、踊ることも全部同時にできるっていうのがすごいなって思うんです。
楽しんでもらわないと死んでしまう
ヒャダイン 僕の場合、音楽を作る切迫感みたいなものがあるんですよ。人を楽しませないといけない、これをしないと俺は生きていけない、ごはんが食べられない。実際、音楽ではずっとごはん食べられなかったですし。楽しませなきゃ、という切迫感が出ちゃってるんですよ、きっと。
──一個人としての前山田さんはどうかわかりませんが、ソロアーティスト・ヒャダインは確かに過剰なまでの歌舞伎者感がありますよね。「ものすごいテンションの人が現れた!」っていう。
ヒャダイン そうですね。そうじゃないと俺は生きていけない、死んじゃうくらいに思ってるんで。
星野 それはすごくよくわかります。テンションは違えど、僕もこれをやめたら死んでしまうんですよ。なぜって訊かれてもわかんないんですよね。でも本当に死んじゃうんです。
ヒャダイン うんうん。死んでしまうんですよ。
星野 同じ気持ちを抱えながら、突き抜けた表現ができるヒャダインさんがうらやましいですよ。
ヒャダイン それはきっと、僕が匿名でスタートしたからだと思いますよ。顔も出さずに2、3年やってたから、捨てるものもなかったですし、嫌ならやめればいいだけの話でしたし。
星野 ああー。なるほど。
──むしろ今、自分で作り上げた「ヒャダイン」というビジョンに付いていくのに、きっと尋常でないエネルギーが必要ですよね(笑)。
ヒャダイン 最近は本当にそう思いますね。「やっべ!」って(笑)。ハイテンションなエンタテイナーとして「ヒャダイン」を作り上げたので、だから戻れない道だなっていうのがあるし。まあ居心地は悪くないし、これで行こうと思います。
松坂・ヒロスエ世代の憂鬱
星野 世代でくくるつもりはあまりないですけど、最近、同い年くらいの人がどんどん盛り上がってきているように感じていて。
ヒャダイン それは僕も感じますね。30歳というのが、芽が出やすい年齢なのかもしれないですけど。
星野 僕たちより下の人って、もっと若い頃から世に出てる気がするんですよ。30歳ってもう切迫感すごくありませんか?
ヒャダイン あります、あります(笑)。
星野 めちくちゃありますよね(笑)。僕、20歳ぐらいですでに異常な切迫感があったんですけど、びっくりするくらい同世代の仲間がいなかった。
ヒャダイン それ、すごくわかります。同じような職業の人で先にドーンって出てる人いなかったんですよね。もっと若くから活躍してる同学年だと中田ヤスタカ(capsule)さんがいますけど、遠すぎて逆にリアリティがない(笑)。
星野 ああ(笑)、違う世界の生き物ですよね。
ヒャダイン 最近ですよね、松坂世代。だから松坂大輔ぐらいなんですよ、出世頭が。あと広末涼子。
星野 そうそう! 今、広末さんはドラマ「11人もいる!」で共演させてもらってます。
ヒャダイン 僕は中学・高校の青春時代を不景気で過ごしてるんですよね。バブルを知らないんですよ。なので高望みもしませんし、そんなに野心的でもないし。
星野 バブルにすがりつきたい人の切なさみたいなものを見て育ったから余計に。
ヒャダイン だから妙に冷めてしまって、あんまり好きな言葉じゃないけど「草食系」とか言われるんじゃないでしょうか。あんまり大きな夢を持たないけど、コツコツやってきたから、30歳前後でなんとなく盛り上がってきてるのかなって思いますけどね。
星野 今までは年上が多かったけど、最近はサカナクションの山口一郎さんと出会ったり、今日こうしてヒャダインさんと話せたり、同世代と接点が持てるのが面白くって楽しくって。
ヒャダイン 僕も最近思うんですよね。こうやってヒャダインとして出てきて、なんかいろんなものが、点と点が線でどんどんつながっていったような気がしてて。
──今日、この一見意外な2つの点がひとつの線につながったのは非常に意義深いですね。
星野 うれしいですね。
星野源(ほしのげん)
1981年1月28日、埼玉県生まれ。高校2年生のときに大人計画主宰・松尾スズキのワークショップに参加し、俳優としての活動をスタートさせる。2000年にはインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」が発売。2010年にシンガーソングライターとしてメジャー1stアルバム「ばかのうた」を発表した。2011年9月28日に2ndフルアルバム「エピソード」をリリース。また、音楽活動と並行してテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」、連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」、映画「ノン子36歳(家事手伝い)」といった数多くの映像作品に出演するなど、俳優としても活躍。2011年10月21日より放送のドラマ「11人もいる!」に出演する。
ヒャダイン / 前山田健一(まえやまだけんいち)
1980年7月4日、大阪府生まれ。京都大学卒業後、2007年より本格的に音楽活動を始める。作詞・作曲・編曲家としてアーティストに楽曲提供する一方、ニコニコ動画に「ヒャダイン」名義で投稿した楽曲が注目を集める。2009年には倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」と作曲を手がけたシングル2作でオリコンウィークリーチャート1位を獲得。2010年にはももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」、麻生夏子「More-more LOVERS!!」、アニメ「みつどもえ」関連楽曲などで独自の作風が脚光を集めた。同年5月にブログにて「前山田健一=ヒャダイン」を告白し、さらに幅広い活動展開に。2011年にはヒャダイン名義によるシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でメジャーデビューを果たした。同年8月3日に2ndシングル「ヒャダインのじょーじょーゆーじょー」をリリース。