ナタリー PowerPush - 星野源
星野源「エピソード」の裏舞台+ヒャダイン対談「真麻最高」
なぜこの2人?
ヒャダイン ……さて、僕は今日なぜ呼ばれたのでしょうか。
──あはは。この特集を組むにあたり、星野さんに「会いたい人は誰ですか?」と訊いたら、挙がってきたのが「ヒャダイン」という名前だったんです。
ヒャダイン それは光栄です。ありがとうございます。でも、そもそものアプローチからして真逆と言える方だと思いますので「なぜ呼ばれたんだろう?」と不思議で。確か同い年なんですよね? 僕は1980年7月生まれです。
星野源 僕は1981年の1月生まれです。同学年ですね。
──実際のところ、星野さんはどうしてヒャダインさんを指名したのでしょう?
星野 単純に好きだからっていう(笑)。あの、いつも聴いております。すいません。すいません。
ヒャダイン ありがとうございます。すいません。すいません。
星野 以前からニコニコ動画で、ヒャダインさんの楽曲は聴いてたんです。それで「日常」のテーマソング(「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」)を聴いて「同じ人だ!」って。それと以前……1年くらい前かな? 僕のサイン会に来てくれた男の人から「ももいろクローバーをよろしくお願いします!」って言われたことがあって。
ヒャダイン えっ!?
──ももクロファンの布教活動が(笑)。
星野 「星野さんはももクロ絶対好きだと思うから、ぜひ聴いてください!」って言われて聴いてみたら、これはすごいなと。そしてしばらくして「前山田健一=ヒャダインなんだ!」といろんなことがつながって。それで今回名前を出させていただいたら、受けていただけて本当にうれしかったんですけど……なんで受けていただけたんですか?
──あはははは。
ヒャダイン えーっと、まず、なぜ呼ばれたのかを確認するため(笑)。それから、その真逆だと思える人が僕に興味があるってことに、純粋に興味があったからなんですよね。
──星野さんにインタビューをしに来たと。
星野 なるほど(笑)。
ないものねだり
──ちなみにヒャダインさんは、音楽を作る上で最初の起点になったのはどういう音楽でしたか?
ヒャダイン 今につながるものを挙げるとしたら、PIZZICATO FIVEですね。そこからちょっとおしゃれな音楽が好きになって、よく聴いてました。
──以前、雑誌でルーツミュージックを紹介されている中にもピチカートを入れてましたよね。数あるアルバムの中でも「ハッピー・エンド・オブ・ザ・ワールド」を挙げられていたのが、いかにもヒャダインさんらしいなと思いました。ブライアン・ウィルソン直系の“駄目な僕”的なメンタリティではなく、「いつもゆかいな小西康陽さん」の影響が大きいのかなと。
ヒャダイン ええ、ええ。でも実は内省的なこともやりたいし、やりたかったんですけど、性分なのか音楽をもってそれを表現することができないんですよね。星野さんのアルバム、さっそく聴かせてもらったんですけど、まずはそこが僕は「うらやましいなー」と。私小説的であるし内省的であるし。すごく絵が浮かぶし、アーティスティックだし。そういう音楽がやりたくてもできなかった人なんですよね。だからすごく憧れがあって。
星野 逆に僕はヒャダインさんみたいな快活な歌が作りたかったんです。でもできなくて。声はこんなんだし、僕は勉強が嫌いで、いまだに楽譜も書けないし、打ち込みの機械も「わかんねーや」って言ってやめちゃうような性格で。ギター1本で作るくらいしかできないから、自然とこういう音楽になったんです。ヒャダインさんの音楽はすごくいろんな要素が詰まってますよね。でもその中に1本強い芯が感じられるし、どんな人なのかずっと気になってて、とにかく話が訊いてみたかったんですよ。
ヒャダイン これ、ホントにないものねだりの対談になると思うんですけど(笑)、星野さんの音楽でいいなと思ったのが、少ない言葉で物語を大きく想像させるところ。僕の場合かなり直接的なんですよ。ど直球のストレートを全力でたくさん投げ込むタイプ。僕は人を楽しませようとするだけ、オンリーなんですよね。それがシンボリックに表れてるのがももいろクローバーの「ココ☆ナツ」だと思うんですが、あの曲はサビで「コココココ……」しか言ってないんですよ。なんのメッセージ性もなくて、映像すらも浮かばないんですよね。若干夏っぽさが感じられて、ただ楽しいイメージが残るだけ。
2人の音楽的共通点は?
星野 「ただ楽しい音楽」なはずのヒャダインさんの音楽を聴いていて、泣きそうになるときがあるんですよ。「ココ☆ナツ」なんて特に泣けてくるんです。それはヒャダインさんの性格やセンスがにじみ出てるのかなと勝手に思ってるんですけど。
ヒャダイン ときどきそれ言われるんですよね。
──確かに。それが作曲法などの観点からテクニカルに作られているのか、興味があります。
ヒャダイン 星野さんの曲を聴いていて、ひとつだけ大きい共通点があるなと思ったのが、コード進行なんですよね。コードの当て方が似てると言うか、自分の好きなコードばっかなんですよ!
星野 あ、僕もそうです。ヒャダインさんの曲は「こう動いてほしい」というときにこう動いて、1番と2番の動き方が違うときも「そうそう、2番目はこうですよね」っていう。
ヒャダイン そう! 僕もそこが心地よくて。「湯気」なんて最高に心地いい。初っ端のコードが好きなんですよ。あの浮遊感がある感じが。
星野 ありがとうございます! なんていうか自分で歌ってると、自分の曲に飽きちゃうんですよ。だからコードをいっぱい使って飽きないようにしてて。理論的には間違ってることも「これ面白いな」って残しちゃったりするんです。そういうのの繰り返しでどんどんどんどんコードが増えていって、いざ歌うときは大変なんですけど(笑)。
ヒャダイン ですよね。「どうだったっけな?」って(笑)。理論的に作ってるわけではないので、もしかしたらそのコードの奥に胸キュンが隠れてるのかな。
星野源(ほしのげん)
1981年1月28日、埼玉県生まれ。高校2年生のときに大人計画主宰・松尾スズキのワークショップに参加し、俳優としての活動をスタートさせる。2000年にはインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」が発売。2010年にシンガーソングライターとしてメジャー1stアルバム「ばかのうた」を発表した。2011年9月28日に2ndフルアルバム「エピソード」をリリース。また、音楽活動と並行してテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」、連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」、映画「ノン子36歳(家事手伝い)」といった数多くの映像作品に出演するなど、俳優としても活躍。2011年10月21日より放送のドラマ「11人もいる!」に出演する。
ヒャダイン / 前山田健一(まえやまだけんいち)
1980年7月4日、大阪府生まれ。京都大学卒業後、2007年より本格的に音楽活動を始める。作詞・作曲・編曲家としてアーティストに楽曲提供する一方、ニコニコ動画に「ヒャダイン」名義で投稿した楽曲が注目を集める。2009年には倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」と作曲を手がけたシングル2作でオリコンウィークリーチャート1位を獲得。2010年にはももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」、麻生夏子「More-more LOVERS!!」、アニメ「みつどもえ」関連楽曲などで独自の作風が脚光を集めた。同年5月にブログにて「前山田健一=ヒャダイン」を告白し、さらに幅広い活動展開に。2011年にはヒャダイン名義によるシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でメジャーデビューを果たした。同年8月3日に2ndシングル「ヒャダインのじょーじょーゆーじょー」をリリース。