ナタリー PowerPush - 星野源

星野源「エピソード」の裏舞台+ヒャダイン対談「真麻最高」

星野源の2ndソロアルバム「エピソード」が完成。ナタリーでは彼の魅力を徹底的に探るべく、2時間を超えるロングインタビューを行った。

インタビューは2部構成で、前半は星野源単独インタビュー。そして後半は、星野の提案により実現したヒャダインこと前山田健一との対談だ。遠く離れた存在だと思われがちな2人の、意外な共通点とは……?

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 中西求

「ばかのうた」ではどん底に暗い自分を出してみよう、と

──ソロ活動が本格化し始めた最初の頃は、どこか申し訳なさそうな感じというか、遠慮がちに活動していたようにも見えていたのですが、前作(1stフルアルバム「ばかのうた」)がリリースされたあとのツアーでは、ソロアーティストとして堂々としたパフォーマンスに変化したな、と感じました。メジャーからソロ作を発表することで、なにかしらの変化があったのでしょうか。

最初の頃はとにかくおびえてたんですよ。恐くて。歌を作るのは好きだけど、自分の声が嫌いだったんです。オリジナル曲は中学生の頃からずっと作ってたんですけど……。

──人前で発表したいという気持ちにはならなかったんですか?

はい。自分の声が嫌いだという気持ちが大きくて。歌が本当に大好きで、歌を聴くのが好きだからこそ、この声ではないなって。SAKEROCKを組んだときも、自分が歌うという選択肢がそもそもなかったんですよ。

──別のボーカルを立てて、歌モノバンドをやろうという考えは最初からなかった?

インタビュー風景

なかったです。SAKEROCKは初めて自分の意志で作ったバンドで、「面白いことがやりたい」っていう思いだけがあったんです。「変なことやりたいから、こんな人を集めよう。今までにない音楽を作るぞ!」っていう気持ちだったんで、身の回りの面白い人を集めるのが最優先で、そこにたまたまボーカリストがいなかったという。「これはイイ!」と思うボーカリストがいたら、インストバンドじゃなかったかもしれない。自分では、たまに誘われて人前で弾き語りをすることはあったんですけど、ちゃんと活動するつもりはなくて。

──歌に対する興味は常にあったわけですよね。

「歌いたい」っていう気持ちはずーっとありました。でもSAKEROCKをやることに一生懸命だったので。その活動の中で、いつの間にか「歌いたいなあ」という気持ちと「恐いなあ」という気持ちがどんどんどんどん、どっちも膨れ上がってきちゃってたんですね。

──SAKEROCKが当初の目論見どおり「面白いことをやるバンド」として評価されたことも、ソロ活動の原動力になったのでは?

何度か「歌をやりなよ」って言ってもらえることもあったんですけど、SAKEROCKは自分のアイデアで動くバンドだしリーダーとしての責任があるので、代表作と言える作品ができるとかそういう状態になるまではやりたくなかったんですよ。で、2008年に出した「ホニャララ」というアルバムは、SAKEROCKのみんなで「代表作を作ろう!」という意気込みで作って、自分でも代表作だと胸を張れる内容になったんです。「やりたいことやれたなあ」という気持ちでいるときに、ちょうど声をかけていただいたのは、確かにタイミングがよかったかもしれません。

──「ばかのうた」を出すとき、自分の中の葛藤は?

最初はソロを作るならインストと歌、半分ずつって考えてたんですよ。だけどスタッフにそう話したら「なんで?」って言われて。「恐いから」と説明したら「1回、どん底に暗いものを作ってから言いなよ」って。じゃあどん底に暗い自分を出してみよう、と思って作ったのが「ばかのうた」だったんです。

自分の人格ごと受け入れてもらえたような

──星野さんは音楽だけでなく、役者や文筆業などマルチに活動していますよね。でも、他分野で表現活動していながら「俺が俺が」感があまりないように見えるのが以前から不思議で。自分をさらけ出してまで伝えたいタイプには見えないのに、いろんな手段で表現をしているのはどういう衝動なんだろう? と。

どう処理していいかわからないドロッとしたものは、昔から自分の中にずーっとあって。でも、みんなは外見や普段のトーンで見るから「いい人だよね」「普通だよね」って言われるんです。ずっとそういうふうに言われてきて、でも内側ではドローっとしてる。で、中学1年生のときに演劇に誘われて初めて役を演じたら、何かがちょっと解消した気がして。だけど人前に出るのはすごくハードルが高い。でも「演劇はセリフだから自分じゃない」っていう言い訳ができたんですよ、自分の中で。曲も中学の頃に作り始めたけど、歌は自分そのものだから、これはちょっと人に見せられないなと。

──ソロでやる以上、ワンマンライブでは観客の視線もすべて自分に注がれるわけですよね。そういう状況には慣れましたか?

慣れました。「ばかのうた」のリリースツアーをやったあたりから、自分の中で「あれ?」っていう感じがあって。「ばかのうた」は本当に孤独な1人の世界だったんですよ。ドラムで大地君(SAKEROCK 伊藤大地)もサポートで入ってくれたけど、すっごいよそよそしくて(笑)。「ヘルプで来ました」っていう感じに……してくれたんですよ、わざと。僕を甘えさせないように。とにかく「自分の中のものを全部出すぞ」みたいな気持ちで挑んだら、なんというか、お客さんの中にナナメに見てる人がいない感じがしたんですよ。すごく素直に受け止めてくれてる感じがしたんです。それがうれしくて。それまでは多分、僕自身が斜に構えてたんだと思いますけど。

──それ以前は、ライブで歌うとき、どこか申し訳なさそうにボソボソと歌うイメージがあったんですけど、あのツアーではある意味さだまさしのような立ち居振る舞いで(笑)。歌もMCも生き生きとしてましたよね。

なんか、自然とそうなったんですよ。ちゃんと向き合いたいってお客さんに思わせてもらえた、というか。ライブのあとも、予想をめちゃくちゃ超えるたくさんの人にアルバムを聴いてもらえたんですね。自分が一番出したくなかった部分を必死になって出した結果、受け入れてもらえたから、自分の人格ごと受け入れてもらえたような気がして。

──確かに、予想外のところからのリアクションもありましたよね。夏帆ちゃんがテレビで紹介してくれたり(笑)。あれはなにかのタイアップとかではなく、単に彼女自身の希望だったそうで。

あのオファーの電話を受けたとき僕は外にいたんですけど、声出してびっくりしましたもん。「ええーっ!?」って。デニーズの前で(笑)。すごくうれしかったです。

2ndアルバム「エピソード」 / 2011年9月28日発売 / 2940円(税込) / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-63781

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CD収録曲
  1. エピソード
  2. 湯気
  3. 変わらないまま
  4. くだらないの中に
  5. 布団
  6. バイト
  7. 営業
  8. ステップ
  9. 未来
  10. 喧嘩
  11. ストーブ
  12. 日常
  13. 予想
星野源(ほしのげん)

星野源

1981年1月28日、埼玉県生まれ。高校2年生のときに大人計画主宰・松尾スズキのワークショップに参加し、俳優としての活動をスタートさせる。2000年にはインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」が発売。2010年にシンガーソングライターとしてメジャー1stアルバム「ばかのうた」を発表した。2011年9月28日に2ndフルアルバム「エピソード」をリリース。また、音楽活動と並行してテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」、連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」、映画「ノン子36歳(家事手伝い)」といった数多くの映像作品に出演するなど、俳優としても活躍。2011年10月21日より放送のドラマ「11人もいる!」に出演する。

ヒャダイン / 前山田健一(まえやまだけんいち)

ヒャダイン / 前山田健一

1980年7月4日、大阪府生まれ。京都大学卒業後、2007年より本格的に音楽活動を始める。作詞・作曲・編曲家としてアーティストに楽曲提供する一方、ニコニコ動画に「ヒャダイン」名義で投稿した楽曲が注目を集める。2009年には倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」と作曲を手がけたシングル2作でオリコンウィークリーチャート1位を獲得。2010年にはももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」、麻生夏子「More-more LOVERS!!」、アニメ「みつどもえ」関連楽曲などで独自の作風が脚光を集めた。同年5月にブログにて「前山田健一=ヒャダイン」を告白し、さらに幅広い活動展開に。2011年にはヒャダイン名義によるシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でメジャーデビューを果たした。同年8月3日に2ndシングル「ヒャダインのじょーじょーゆーじょー」をリリース。