堀内まり菜|やっと出会えた本当の自分

堀内まり菜がアルバム「ナノ・ストーリー」でLantisよりデビューする。

2014年3月にさくら学院を卒業し、以降は声優・女優などマルチに活動してきた堀内。2018年10月からは「ボイたまプロジェクト」というコンテンツで、朗読劇や配信番組などを通して、同志たちと切磋琢磨してきた。

2021年3月10日、堀内はシンガーソングライターの新津由衣の力を借りながら完成させたアルバム「ナノ・ストーリー」でついにデビューを果たすことに。自身の内面と向き合い作り上げたというデビュー作の裏側や、声優アーティストとして叶えたい夢について話を聞いた。

取材・文 / 清本千尋 撮影 / 須田卓馬

曲を書き始めた理由

──堀内さんは2014年の3月にさくら学院を卒業しました。当時「声優アーティストになりたい」とお話ししていましたが、ついに夢が叶いましたね。

堀内まり菜

そうなんです。本当にうれしいです。

──さくら学院を卒業してすぐは学業を優先しながら声優の活動をしていましたよね。高校は音楽系の学科だったとのことですが何を専攻していたんですか?

ミュージカルですね。ダンスや歌、演技などミュージカル俳優として必要なことを学んでいました。中3のときは、ステージでも表現したいし、アニメの二次元の世界の中でも表現したいという思いがあって、声優にもミュージカル俳優にも同じくらい興味があったんです。だからまずミュージカルについて学ぶことにしました。高校生の頃はSNSもやっていなかったので、父兄(さくら学院ファンの呼称)の皆さんにプライベートのことをお伝えできる機会がなくて。きっと「堀内まり菜は普段何をしてるんだろう?」と思ってたんじゃないかなと(笑)。

──堀内さんはデビューアルバムで全曲の作詞作曲を手がけています。作詞や作曲を始めたきっかけを教えてください。

さくら学院の楽曲は中学生の自分にぴったりな等身大の歌詞だったので、思っていた気持ちを歌うことでファンの皆さんに伝えることができたんです。でもグループから卒業したら、今考えていることを表現する場所もなくなってしまって、この思いをどこに吐き出そう?と考えたんです。それで「さくら学院のときに等身大の気持ちを歌っていたように、自分の気持ちを歌詞にして歌ったらいいんだ」と思って、高校生の頃に歌詞を書き始めました。いつか曲も作れるようになったらそれに乗せて歌いたいなと思いながら。

自分らしい歌を歌える場所

──最初はどんな思いを歌詞にしていたんですか?

実は中学生の頃から嫌なことや思うことがあったらノートに書き出すということをずっとやっていたんですよ。それを書き出すことで気持ちが楽になるので。今でもその習慣は続けています。

──そうだったんですね。7曲目の「ココロインク」のような自分との葛藤を描いた歌詞はその延長にあるような気もします。

そうですね。「ココロインク」は自分の中にあった「変わりたい」という思いが一番強い曲です。自分が真面目すぎてつまんないやつだなと思ったりしていた時期があって。

──そう思っていたのはいつ頃なんですか?

高校3年生から大学1年生になるあたりですね。芸能活動をちゃんと続けていくか、それとも一旦辞めてほかのことをやってみたほうがいいのか考えていた時期でもあって。

──その悩みから解放されたきっかけはあったんですか?

うーん、身近な友達とかマネージャーさんからもらった言葉ですかね。自分の中で、昔の自分のほうがよかったのかなと思うことがあったんです。それに対して「別に昔と今で変わらないし、それを気にしているほうがもったいないよ。そのままでいいよ」って言ってもらえたことで吹っ切れたというか。「菜心歌」の歌詞がまさに、そのやり取りの中で行き着いたことを書いているんです。「私は私にしかなれないんだ」と悟って1つ諦めがついたみたいな。それで一歩前に進んだ経験があったんですよね。

──なるほど。諦めたというか、それは認められなかった自分のことをようやく認められたとも取れるなと思いますが。

そうですね。本当に周りの方の優しさに救われてそうなれたと思います。認められたという話でいうと、私が参加している「IDOL舞SHOW」というプロジェクトがあるんですけど、その初ライブが一昨年あって、そこで初めて私を知ってくれた人がTwitterをフォローしてくださって、メッセージもたくさんいただいて。今の私を好きになってくれた人がいたことも自信につながりました。

──デビューの話があったのはいつ頃なんでしょうか?

2019年の年末ですね。私をプロデュースしたい人がいるというありがたいお話があって、2020年から本格的にデビューへの準備が始まりました。大学を卒業するタイミングでデビューするチャンスを与えていただいて、これまでの努力や活動を見てくれていた人がいたんだと感謝の気持ちでいっぱいです。あとやっぱりLantisからデビューできることもうれしくて。

──Lantisは声優アーティストが多数所属しているレーベルですもんね。

はい。私は声優アーティストとしてデビューするならば、水樹奈々さんのようなカッコいい歌を歌えるようになりたいと思っていたんです。でもその一方で自分にそれができるかなという不安もあって。そんな中Lantisからデビューが決まり、自分で曲を作らせていただけることになって、私らしい歌を歌える機会をくださったことがうれしかったです。

妖精さん、ついに会えたね!

──1stアルバム「ナノ・ストーリー」は、去年1年かけて新津由衣さんと一緒に完成させたんですね。

はい。2020年の年始に由衣さんと顔合わせをして、4月から一緒に楽曲を作り始めました。

──さくら学院時代から“まり菜ワールド”はあったように思うんですが、「ナノ・ストーリー」には堀内さんが描いてきたであろうその世界がギュッと詰まってるなと思いました。曲順通りに聴くとまるで絵本のページをめくっているかのように物語が続いていく印象があって。

まさにそうです! そういうふうに感じてもらえてうれしい!

──アルバムの冒頭を飾る「ナノ・ハナ」はどんなところから生まれた曲なんでしょうか?

「ナノ・ハナ」は初めて自分で作った曲なんですけど、歌詞も高校時代に書いた言葉がベースになっています。夢で見たすごく輝いている世界を表現したいってずっと考えていたんですけど、現実ではそれをやりきる気力がなくて燃え尽き症候群みたいになっちゃって。そんな自分にびっくりしながら書いた歌詞ですね。

──燃え尽きてしまった感覚を歌詞にしたと。でも最後は「迷い続けてた自分も」ココロを信じられたらいいな」と締めくくっていて、しっかり前向きになっているところがいいなと思いました。豪華なアレンジでアルバムの展開が楽しみになる1曲目ですが、アレンジに関しては堀内さんからアレンジャーにイメージを伝えるんですか?

アレンジは新津さんがやってくれたり、新津さんからアレンジャーさんに依頼してくれたりで、自分とアレンジャーさんの直接のやり取りはまだないです。

──なるほど。そう聞くと、新津さんが堀内さんの門出を祝いたくてこういう華やかなアレンジにしたのかなとも思えてきますね。この曲で特に気に入っているところはありますか?

Bメロですね。由衣さんとの曲作りはお互いにフレーズを提案しあって完成まで持っていくんですけど、Bメロは自分から最初に提案したものがそのまま使われたんです。特に1Bは最初からこの歌詞だったので一番しっくり来ています。

──2曲目の「ヴァイオリン幻想曲」はその名の通りバイオリンの音色が印象的な曲です。堀内さんとバイオリンと言えば、2010年に出演された舞台「金色のコルダ」を彷彿させますね。

堀内まり菜

そうです! 私が演じたのはリリっていうバイオリンの妖精だったんですけど、私の心の中に今でもずっといて。私の中にいる妖精さんは自分がつらいときに「大丈夫だよ」「できるよ」っていつも励ましてくれるんです。「ヴァイオリン幻想曲」はその妖精さんと私が音楽を通じて会話をして、音楽の喜びを分かち合うみたいなイメージで書きました。

──ということは、歌詞にあるカギカッコの中は妖精さんの言葉なんですね。

はい。あとバイオリンの音色も妖精さんの声として入っています。

──長年一緒に過ごしてきた妖精さんのことをこうして歌にできてどんな気持ちになりましたか?

「ついに会えたね!」みたいな感じでした。今までは「声はするけどどこにいるんだろう?」と思いながら一緒に過ごしてきて、ようやく対面できたなと。

──歌詞の中では、出会えてもまだ妖精さんを追いかけているんですね。

そうなんです。さっきお話していただいたようにこのアルバムはストーリー仕立てになっているんですが、まだ2曲目なので、「ヴァイオリン幻想曲」の中の私はまだ「私は私にしかなれない」と気付いていないんですよね。好奇心に満ちあふれている私を表現しました。