ほっちゃんとバラード
──ではここからは「文学少女の歌集II -月とカエルと文学少女-」を構成する楽曲についての話を。堀江さんの作品ではすっかりお馴染みの清竜人さんが、既発曲「Adieu」のほかに書き下ろしの「瑠璃色の傘を差して」を提供しています。この「瑠璃色の傘を差して」がこれまでの清さんの提供曲とは趣の違う、歌とピアノのみのバラードで。
そうなんですよ! アルバムではまた新曲を作ってほしいなと思って、前作の続編であることや、ビジュアルのイメージなどを伝えて、基本はお任せでお願いしたんです。どんな曲が来るかなと思っていたら、“どバラード”が届いて。これまではトリッキーな曲や、静かに始まってもだんだん盛り上がっていく曲ばかりだったので驚きました。
──以前、堀江さんのプレイリスト企画に清さんが参加したとき(参照:「ほっちゃーん!元気ですかー!」清竜人が選ぶ“マイベスト・堀江由衣”はバラード多め)、清さんは堀江さんの音楽について「アップテンポの楽曲もとても魅力的ですが、バラードは格別です。胸の奥の更に奥の方がきゅんと高鳴る感覚」とコメントしているんですよね。その究極形を、自分で作りたかったんじゃないかと。
あー! そういえばそうですね。書いてくださっていました。そっかあ……なるほどー。今回の楽曲も素晴らしい曲なんですけど、本っ当に難しくて。自分の歌を聴いたあとに清さんが歌ってくださったデモを聴くと、もう象とミジンコ、恐竜とアリぐらい違うんです。まあミジンコとアリにもよさはあるんですけど(笑)、バラードはあまり得意ではないし、自分の曲にもそんなに多くないので、けっこう苦労しました。清さんは毎回レコーディングに立ち会ってくださるんですけど、わりとなんでも褒めてくれるから参考にならない(笑)。
──(笑)。でも清さんは堀江由衣という人が鳴らしたまんまの歌声が聴きたかったんじゃないでしょうか。
清さん的には狙い通りなのか「今のよかったですよ」と言ってくれるんですけど、こっちは「なんかコツとかないんですか? 教えてくださいよ」という気持ちで(笑)。
──あさのますみさん作詞、大川茂伸さん作編曲という堀江さんの初期作品からお馴染みのタッグによる「スタートライン」もまた趣の異なるバラードですね。
今回、アルバム全体のイメージはあったけど、どういう曲を選べばいいのかなかなか決められなくて。そんな中でバラードは秋、冬、春の初旬という最初に思い描いたイメージに当てはまりやすかったんですよね。「スタートライン」も「瑠璃色の傘を差して」も制作の序盤にいただいたので、そのおかげでアルバム全体の道筋が見えてきたところもあります。
堀江由衣×ヨシダタクミ
──「文学少女の歌集II」は先に挙げたバラードが強く印象に残る一方で、今作が初顔合わせとなるsajiのヨシダタクミさんによる3曲もキーになっていますよね。アルバムの幕開けを飾る「月とカエル」はエッジィなギターロックで、後半の「25:00」はシューゲイザーのような雰囲気もあるメロディが複雑な楽曲です。そして「ラブアテンション」も歪んだギターが前に出た楽曲ですが、かつてギターがあまり好きじゃないとおっしゃっていた堀江さんとしては意外な……。
あはは(笑)。ヨシダタクミさんは以前私のラジオに出てくださって。そのときに冗談で「私に曲を書いてくれたりしないですかね?」なんて話をしていたんです。それで、最近もう一度出演してくださったときに「そういえば前に曲を書いてほしいって話をしてましたよね?」という話をしたら、本当に書いてくださることになって。sajiさんのMVを観ると「私もここに行ってロケしたいな」と思うようないい景色だったりするんです。私がビジュアルで目指していることと、sajiさんのMVの風景は近いなと感じていたので、音楽でも私が今目指している方向を表現してくれるかもしれない、と思って。
──なるほど。
それでお願いしたら、最初に送ってくださったのが「月とカエル」だったんです。ギターの音が前に出たロックの強さはあるんだけど、どこかさわやかな疾走感や透明感があって。「今私がやりたかったのはこれ!」と思いました。
──ギターロックでもこれが表現できたんだ、という。
そう。私は別にギターが嫌いなわけじゃなかったんだ!って(笑)。それで、本当は1曲だけの予定だったんですけど、「お忙しいのは承知していますが、ぜひなんとか……」と追加でお願いしたんです。アルバム制作の後半で、だいぶ形が見えてきたタイミングだったので「できれば、こういう曲かこういう曲を……」とお伝えしたら、書いてくださったのがまさに「こういう曲」と「こういう曲」で。
──それが「25:00」と「ラブアテンション」。
はい。「こういう曲“か”こういう曲」がいつのまにか両方になっていて、結果的に3曲書いていただきました。
──「25:00」はコードに対するメロディの乗り方がすごく複雑で、歴代の楽曲の中でも最高難度なんじゃないかと思うほど歌うのが難しそうですね。
そうですね。さわやかさと切なさと激しさが相まった曲で大好きなんですけど、どう歌えばいいんだろうっていう。ライブで歌えるのかな……と疑問に思いながらレコーディングしました(笑)。それまではなかなか、このアルバムで表現したかったさわやかさや透明感はうまく言葉にできなくて。「さわかやで透明感のある曲を」とお願いすると、本当にキラキラって音を入れられがちですけど、それは少し違うな……と思っていたんです。その言葉にできなかった感じに、ヨシダさんが作る楽曲はぴったりとはまる感じがあって。
──ヨシダさんも今後、清さんのように堀江作品に欠かせないキーマンになりそうですね。
そうですね。お忙しいとは思いますが、もしお時間ありましたらぜひこれからもお願いしたいです。
3/200曲を偶然に
──「君とさよなら」は夜に1人悶々とする、まさに文学少女的な儚さを感じます。
これも私的には珍しい曲調だなと思っていて。吉岡大地さんにも3曲書いていただいているんですが、実はこれ、200曲くらいのデモから選んだ中に、たまたま吉岡さんの曲が3曲入っていたんですよ。
──へえー。ほかは「チャイム」と「1/60フレーム」ですね。
特に「君とさよなら」は普段だったら選んでいないかもしれない曲調なんですけど、なぜか惹かれました。
──3曲も重なるとなると、偶然ではない、波長の合う何かがあったんでしょうね。「1/60フレーム」も文学少女的なコンセプトがよく伝わる、穏やかなムードの楽曲で。
そうですね。素朴な街並みの景色が浮かぶイメージで。「チャイム」と「1/60フレーム」はデモの段階ではわりと近いイメージだったんですけど、最終的なアレンジでけっこう印象が変わりました。
──アルバム全体の中で「Wake Up」だけ少し異色で、どちらかと言えば陽キャ的な。
あははは。歌詞は自分で書いたんですけど、女の子のラフでルーズな部分……ダラけたいとか眠いとか、そういう部分を表現したくて。
──いわゆる清楚な文学少女だけではない一面も描きたかった?
はい。曲調は元気なんだけど、やる気出ないなーみたいな(笑)。
──「虹が架かるまでの話」はテレビアニメ「先輩がうざい後輩の話」のエンディングテーマで、アニメの世界観ありきで作られた曲のはずなのに、この文学少女コンセプトにも違和感なく溶け込んでいるように感じます。
そうですね。「先輩がうざい後輩の話」は現代のお話だからあまり心配はしてなかったんですけど、「Adieu」(テレビアニメ「SHAMAN KING」エンディングテーマ)だけは大丈夫かなと(笑)。でも意外と馴染んでいると思います。
次のページ »
生演奏ライブで「放課後リピート」