Homecomings特集|メジャー3rdアルバムで描く、あの街の海岸と頼りない天使 (3/3)

この2曲が並んでいることに意味がある

福富 9曲目の「torch song」は京都アニメーションの事件を受けて5年くらい前に書いた曲なんです。ライブ映像として発表したんですけど、それからはライブで何回か演奏しただけで音源にはなっていなくて。京アニが前を向いて進んでいるのに、僕たちがこの曲を演奏したり音源にしたりするのは違う気がしたというか。でも自分たちにとって大切な曲だし、今アレンジしたら絶対に違う形になるだろうなとは思っていました。そんなことを考えているときに京アニから「Tenderly, two line」のお話をいただいて。巡り合わせじゃないけど、自分たちの中で「torch song」に対して「あのときの感情で作ってそのままになっている曲」という感覚もあって、ちゃんと形にしてあげたいと思ったんです。だからこのタイミングで歌詞もアレンジも変えてアルバムに入れることになりました。

──「Tenderly, two line」は京都アニメーションが手がけるアニメ「響け!ユーフォニアム3」のキャラクターシングルに収められていた楽曲のセルフカバーで、オリジナル版は劇中キャラクターの鎧塚みぞれと傘木希美のデュエットソングとして書き下ろしたそうですね。みぞれと希美と言えばHomecomingsが主題歌として「Songbirds」を提供した映画「リズと青い鳥」の主人公でもあります。アニメの制作サイドからは何かオーダーはあったんですか?(参照:ホムカミが「響け!ユーフォニアム3」シングル参加、「リズと青い鳥」主人公のデュエット曲書き下ろし

福富 それがまったくなかったんですよ。オファー自体は「ユーフォ」3期が始まる前にいただいたんですけど、どんな物語になるかも聞かされていなくて。だから余計なことは考えずに「Songbirds」のその後を描こうと決めました。

畳野 ファンの方はもちろんだろうけど、「リズ」は私たちにとっても大きな存在なんです。長く愛されていくだろうし、そんな作品に携われたのは貴重な体験でした。だからこそ「Tenderly, two line」の制作では「Songbirds」をすごく意識して、BPMを近付けてみたり、冒頭の打ち込みの音を希美とみぞれの歩幅に合わせてみたり、「リズ」の線画の雰囲気や映像の温かさをイメージしながら作っていきました。ドラムはライブでもサポートしてくれているLaura day romanceのいそやん(礒本雄太)が叩いてくれていて、温かくて軽やかなイメージ通りの音像になりました。

──キャラソンシングルの詳細が発表された際、Homecomingsがみぞれと希美の曲を担当することに反応している人が本当に多く、「リズ」のファンにとって「Songbirds」は非常に大切な曲だったんだと改めて感じました。そのうえで「Tenderly, two line」はタイトルを含め、作品のファンであればハッとするであろうポイントがちりばめられていて、お二人がこの曲に込めた気持ちやこだわりが伝わってきました。

福富 その分悩みましたけどね(笑)。これは「torch song」の話にもつながるんですけど、曲作りをしていた5月頃に僕が連載を持っているPINTSCOPEのトークイベントで山田尚子さん(※アニメーション監督。アニメ「響け!ユーフォニアム」のシリーズ演出、映画「リズと青い鳥」の監督を担当)にひさしぶりにお会いして、たくさん話をしたんですよ。その経験があったから「torch song」を今だったら形にできると思えたところもあって。「Tenderly, two line」も同じでその出来事が具体的に歌詞になっているわけではないけど、山田さんとの会話があったから作ることができたんです。だからこの2曲が並んでいることには意味があるというか、今年出すアルバムやからこそできたことなのかなと思います。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。
左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

Homecomingsがハウスをやるなら

──では残りの「Air」「kaigansen」についても聞かせてください。「Air」はバンドサウンドから離れた、静けさを帯びたダンスミュージックに仕上がっています。

福富 個人的な話になりますけど、2020年頃から不眠症が続いていて、ひさしぶりに電子音楽を掘って夜に聴くのが習慣になったんです。コロナ禍に家でフレッド・アゲインを聴いたり、去年のフジロック(「FUJI ROCK FESTIVAL」)でロミー(The xx)のステージを観たりして。部屋の中でずっと聴いてるダンスミュージックと、フェスのように体で感じるダンスミュージックがつながったときに、どうにか自分でも形にしたくなったんです。「Air」にはプロトタイプがたくさんあって、今とは全然違う形のデモをメンバーに聴かせたらめちゃくちゃ反応が悪かった(笑)。

──(笑)。

福富 あまり真剣に取り合ってくれへんというか、「ソロでやったら?」みたいなノリで。それもさっき話してたような4人のノリというか。でも、それは僕が作るデモに説得力がなかったからやし、逆の立場やったらフラッシュアイデアで曲を持って来られても困ったかもしれない。だから「Air」は何度も作り直していて、そういう意味ではめちゃくちゃ詰めてがんばった曲ですね。

──畳野さんが「Air」をバンドの曲としてやりたいと思った決め手は?

畳野 トミーが作るデモのクオリティがどんどん上がってきて、最終的に「こんなレベルで形にできるようになったんや」と純粋にびっくりしたんです。本当に説得力のある曲になっていたし、今回のアルバムにはハウスミュージックやダンスミュージックの要素が必要だと思っていて。ボーカルについて言うと、ハウスミュージックに乗せるメロディとして合ってるのかな?と思うこともあったんですけど、Homecomingsがやるハウスとしてちょうどいい温度感になったんじゃないかなと思います。

福富 そうだね。くるりの「WORLD'S END SUPERNOVA」(「THE WORLD IS MINE」収録曲)やSUPERCARの「Strobolights」(「HIGHVISION」収録曲)のように、ロックバンドがやるダンスミュージックとしてバッチリだと思います。その温度感のようなものを説明せなあかんかったら難しかったと思うんですけど、彩加さんもそういった音楽を昔から一緒に聴いてるし、アルバムの中での立ち位置みたいなものを自然と理解してくれたのは大きかったです。「Air」と「kaigansen」は自分でもメロディの乗せ方をイメージできてなかったんですよ。トラックを渡してあとは彩加さんにお任せしたんですけど、いい曲になって感動しました。本当に天才やと思います。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

アルバムの裏テーマは?

──僕がこのアルバムで一番好きなのは最後の曲「kaigansen」で。静けさと歪さの中でエンディングを迎える構成が素晴らしかったです。

畳野 ありがとうございます。この曲は大雨の日に家で歌を録ったんですよ。普通の部屋にマイクを置いただけの環境なので大雨のザーッという音も入っているんですけど、それが心地よくてそのまま使っているんです。その宅録感のようなものが曲の持つ寂しさにつながった気がします。

──シンプルなピアノのフレーズと、遠くで鳴っているノイズも印象的です。

福富 ほな(福田穂那美[B])が作った別の曲のデモがあって。その曲のピアノのフレーズがすごくよかったんですよ。そのフレーズを抜いてテンポを変えたりして今の形になったんですけど、ほなが作曲したものがアルバムに入ってるということも含めていいなと思います。あとこれはネタバレになるんですけど、このアルバム、本当は「Tenderly, two line」までで終わってるイメージなんですよ。

──ん?

福富 「新世紀エヴァンゲリオン」はテレビアニメシリーズでは全部を語り切らずに、その後に公開された映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」でエンディングを迎えるんです。その映画は「Air」と「まごころを、君に」というお話の2部構成で、最終回をやり直すみたいな内容になっていて。本当にうっすらですけど、自分が勝手にニヤッとできるような形でその要素を入れました。“「Air / kaigansen」”みたいな感じで。

畳野 「エヴァ」やったんや(笑)。

福富 そのほかにもアルバムタイトルの「see you, frail angel.」の部分は、「カウボーイビバップ」の「see you space cowboy」から引用していたりするしね。一応、こじつけてみると「エヴァ」も“他人がいなければ自分もいない”ということを描いている気がするんですよ。「see you, frail angel. sea adore you.」は個としての自分やイマジナリーなものとしての天使を描いているけど、結局は“他人がいて自分がある”というところに戻っていく。そこには共通するものがあるんじゃないか?っていうのが裏テーマになってます(笑)。

──ありがとうございます、話を聞けて楽しかったです。ちなみに12月からのツアーでは、アルバムの曲も演奏するんですよね?

福富 そうですね。ほぼ全曲やる予定です。このアルバムを出したからこそのライブにしたいなと思ってます。

畳野 最近のHomecomingsのライブはだいぶ変わってきていて、ライブの音像がアルバムにも反映されているんです。それは今やりたいことがライブにも音源にも表れているってことだと思うから、楽しみにしていてほしいですね。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

公演情報

Homecomings oneman live "angel near you"

  • 2024年12月20日(金)京都府 KYOTO MUSE
  • 2024年12月21日(土)愛知県 NAGOYA JAMMIN'
  • 2024年12月22日(日)大阪府 Shangri-La
  • 2024年12月28日(土)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
  • 2025年1月18日(土)石川県 vanvanV4
  • 2025年1月19日(日)香川県 高松TOONICE
  • 2025年1月21日(火)福岡県 THE Voodoo Lounge
  • 2025年1月24日(金)宮城県 enn 2nd
  • 2025年1月26日(日)北海道 BESSIE HALL

プロフィール

Homecomings(ホームカミングス)

2012年、京都精華大学在学中に福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)、石田成美(Dr)、福田穂那美(B)の4人により結成されたバンド。2014年に1stアルバム「Somehow,Somewhere」をリリースし、台湾やイギリスなどでの海外ツアーや、「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演などライブ活動も精力的に展開している。2017年にはイラストレーターのサヌキナオヤと共同で、映画と音楽のイベント「New Neighbors」もスタートさせた。また2019年には活動拠点を京都から東京に移し、2021年5月にはポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからアルバム「Moving Days」をリリースしてメジャーデビュー。2023年4月にはメジャー2ndアルバム「New Neighbors」を発表した。2024年2月にくるりを迎えて地元・京都のKBSホールで開催したライブイベントをもって石田がバンドを卒業。11月に新体制後初のアルバム「see you, frail angel. sea adore you.」をリリースした。12月からはキャリア史上最大キャパシティとなる東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)公演を含む全国ツアー「Homecomings oneman live "angel near you"」を開催する。