Homecomings「i care」特集|「バラバラのままでも手を取り合える」福富優樹(G)×畳野彩加(Vo, G)が新作で伝えたいこと

Homecomingsが配信シングル「i care」をリリースした。

Homecomingsにとって2022年第2弾となるシングル「i care」は、テレビ東京系ドラマ「ソロ活女子のススメ2」のエンディングテーマとして書き下ろされた1曲。1人でしか味わえないぜいたくな時間を過ごすため“ソロ活”をする主人公を描いたドラマに寄り添うように、「なにを選んでも、それでいいからね」と歌いかけるさわやかなナンバーに仕上がっている。音楽ナタリーでは福富優樹(G)と畳野彩加(Vo, G)の2人にインタビュー。バンドにとって約3年半ぶりとなった全国ツアー「Somewhere In Your Kitchen Table」を通して見えてきたものや、「i care」の制作秘話や楽曲に込めた思いについて話を聞いた。

また特集の後半には、メンバー4人に「Somewhere In Your Kitchen Table」について振り返ってもらったツアーダイアリーを掲載する。

取材・文 / 下原研二

ひさびさの全国ツアーで得たもの

──ツアー「Somewhere In Your Kitchen Table」も後半戦ですけど、ひさしぶりに全国を回ってみていかがですか?(※取材は3月下旬に実施)

福富優樹(G) 東名阪以外の土地を回るのは約3年半ぶりなので、公演ごとに感覚を取り戻してる感じですね。もちろんコロナもあるのでライブ終わりにごはんに行けなかったりと違いはあるんですけど、Homecomingsは移動が楽しいバンドやったなというのを思い出しました。

畳野彩加(Vo, G) ライブもどんどんよくなってきているんですよ。お客さんは声を出せないし、大きなリアクションもできない状況ですけど、拍手だけで伝わってくるものがあって。待っていてくれたんだなというのが感じられるからうれしいです。

福富 この間、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの25周年ライブに彩加さんがゲスト出演するということで観に行ったんです。コロナ禍になってお客さんの中でもライブの見方が1周も2周もしていて、いつもなら合唱が起こるパートを拍手で盛り上げている感じがすごくよくて。その変化は僕たちのライブにもあって、もともとシンガロングが起こるようなバンドではないけど、拍手の感じが変わったというか、拍手で気持ちを表しているのがわかるんです。それは去年のワンマンでもちょくちょく感じていたんですけど、今回のツアーでより強く実感していますね。いい演奏をすると拍手が長かったり、前やったらあんまり拍手が起きなかった曲でも、拍手を通してリアクションを送ってくれているというか。そういうのあるよね?

畳野 うんうん。

福富 前やったら歓声で感情を伝えていたところ、今は拍手にいろんなものがこもっている感じがするというか。コロナ以前は拍手や声援が気持ちいいという感覚があったんですけど、今は気持ちが伝わってくるし、コミュニケーションっぽい感じがして新鮮なんですよね。

福富優樹(G)

福富優樹(G)

──やりづらさは感じてないですか?

畳野 特にないですね。歓声を上げることができなくてもお客さんが自分たちなりに楽しんでくれているのがステージまで伝わってくるんですよ。マスクをしているから表情は見えないけど、温かい雰囲気がダイレクトに届いてくる感じがあって。アジカンのときもそうですけど、こちらがストレスを感じたりとか、「何か違うな」みたいな違和感は不思議となかったです。逆に拍手だけで気持ちが伝わってくるというのは今まで感じられていなかった部分ではあるので、そこに新しい発見があったというか。

──いい雰囲気の中でツアーを回れているんですね。ちなみに印象に残っているステージはありますか?

福富 金沢は僕と彩加さんが生まれ育った街やし、京都はバンドが始まった場所だから、お客さんもほかとは違った熱があったかも。特に京都はバンドにとってホームタウンになったなと感じました。京都はホームではあるんですけど、ライブでそう感じることはあまりなかったんですよ。でも今回はお客さんから「おかえり」と言われているような気がしました。

畳野 拠点を東京に移してから京都でワンマンをガッツリやるのは初めてだったからというのもあるかもしれないですね。今回のツアーで初めて私たちのライブを観た人もいると思うんですけど、みんながHomecomingsのことをちゃんと知ってくれている、そんな印象を勝手に抱いてしまうくらい笑顔で迎えてくれて。私たちは京都発のバンドだし、何度もライブをしてきたけど、今回でようやく京都のバンドとして認められたような気がします。

日本におけるアナログ盤のセールスを見直す

──ツアー会場ではメジャーデビューアルバム「Moving Days」(2021年リリース)のアナログ盤の先行販売も行われました。Homecomingsのファンはレコード好きが多いイメージがありますけど反応はいかがでした?

福富 「Moving Days」のアナログ盤は自分が欲しいから作ったというのが大きいんですけど、各会場で好評だったみたいです。ライブのMCでよく話すんですけど、僕らの音楽がアナログレコードに触れるきっかけになればいいなと思っていて。今回のツアーでたくさんの人が買ってくれているということは、その役割を果たせているってことかもしれないからうれしいですね。

「Moving Days」ジャケット

「Moving Days」ジャケット

──先行販売したのには何か理由があったんですか?

福富 海外アーティストのレコードは売り切れたらわりとすぐに再プレスがかかるけど、日本の場合はすぐに売り切れて手に入らないというのがカッコいいみたいな風潮がある気がするんです。在庫がある=余っているからカッコ悪い、みたいな。それは作る側にも売る側にもあるような気がしていて、僕はそういう考えがあまり好きじゃない。とはいえ自分も長年タワーレコードで働いていたこともあって、お店の事情もわかるんです。だからHomecomingsは常にお店に並べるのが無理でも、ライブの物販ではずっとレコードが買えるみたいな流れを作れたらいいなと思っていて。今回「Moving Days」のアナログ盤を先行販売しているのは、そういうのを試している部分もあるんです。僕らの過去タイトルのアナログ盤は全部売り切れているから、レコードがちゃんと売れるんやったら物販と通販限定とかで再販してもいいかもなって。最近レコードで音楽を聴き始めたという人は前のタイトルは買えてないと思うので。

福富優樹と畳野彩加が考える、アナログ盤の魅力

──メジャーデビューのタイミングでファンになったという人も多いでしょうし、アナログ盤の再販はうれしいと思います。ちなみにHomecomingsは活動初期からアナログ盤をリリースしていますけど、その魅力はどういう部分にあると感じていますか?

福富 僕はCDやMDで音楽を聴いてきた世代だけど、大学で京都に引っ越してきたらレコード屋さんがいっぱいあったんですよ。それにodd eyesがMETROというハコでやっていたイベントでは、出演者がフロアライブをして、その友達のレコード屋さんが出店していたり、出演者が私物のレコードを売っていたり、感染ライブラリーといって本とかレコードを貸し出したりしてたんです。それは大学1回生だった当時の僕にとっては衝撃的で、そのときの「レコード屋さん=カッコいい場所」みたいなイメージがずっと残っていて。そこに自分も足を踏み入れたいというのがきっかけだったと思います。あと僕は「音がいいからレコードを聴きたい」みたいな感じではなくて、レコードを回して針を落とすと音楽が流れるという一連の操作であったり、大きなジャケットを眺めながら音楽を聴いたりするところに魅力を感じているんだと思う。

畳野 私もレコードを聴き始めたのは大学生の頃ですね。数はそんなに持っていないんですけど、京都の中古レコードショップを回るのが好きで。今でもいいなと思った新譜はレコードで聴きたくなります。トミーが言うように、やっぱり物として欲しくなるんですよ。CD世代というのもあると思うんですけど、家で聴くならパソコンからじゃなくて何かを通したいというか、レコードを再生するその作業自体も好きなんです。そういう部分に惹かれているのかも。

畳野彩加(Vo, G)

畳野彩加(Vo, G)

福富 うん。世代感はあるかもしれないね。僕たちの場合、サブスクが普及したのが大学を卒業して何年か経ってからなので、それまでは気になる作品があってもCDを買ったり、レンタルしたりしないと聴くことができなかった。だからその名残がずっとあるのかもしれないです。僕もサブスクは利用していて、レコードが手元にある作品をサブスクで聴くときはいいんですけど、レコードやCDを持っていなくてサブスクだけのときは90%で聴いているというか、残りの10%が欠けてる感じがするんです。時代遅れなのかもしれないし、不思議な感覚なんだけど、その10%を埋めるためにわざわざフィジカルを買っているのもしれない。

畳野 制作物としての魅力があるというか。自分たちも作る側だから、ジャケットや歌詞カード、盤面のデザインからそのアーティストのこだわりを感じるんです。そういうのを手に取ることで、やっと気持ちが埋まるというか、ちゃんと聴いたって感じがするのかなと思いますね。