Homecomingsが5月12日にメジャーデビューアルバム「Moving Days」をリリースした。
Homecomingsは畳野彩加(Vo, G)、福田穂那美(B)、石田成美(Dr)、福富優樹(G)からなる4人組バンド。2012年、京都精華大学在学中に結成され、インディーズにてこれまで3枚のアルバムをリリースしている。良質なポップスを量産する傍ら「FUJI ROCK FESTIVAL」には4度出演し、台湾やイギリスで海外ツアーを開催するなど精力的な活動を展開してきた。4人は2019年に活動拠点を京都から東京に移し、2021年5月、Official髭男dismやスカートが所属するポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャーデビューを果たした。
音楽ナタリー初登場となる今回は、メジャーデビューした現在の心境や、昨年から続くコロナ禍に新たな挑戦を試みながら制作したという「Moving Days」について話を聞いた。
取材・文 / 下原研二 撮影 / 池野詩織
京都から東京へ、コロナ禍の制作
──アルバムをひと通り聴いてみて、“変化”というのが1つのテーマになっているように感じました。それは引っ越しを意味するアルバムタイトルであったり、歌われている歌詞であったり、音楽性の変化から感じたことなのですが、2019年に活動拠点を京都から東京に移したことは関係しているのでしょうか?
福富優樹(G) そうですね。京都の中で引っ越すことはあったんですけど、京都から東京に来たことで、目に映る景色や環境がガラッと変わって。それに東京に出てきてカクバリズムにお世話になって、IRORI Recordsからメジャーデビューするというのも含めて、バンドを組んでから今までで一番の変化でした。「今の自分のその変化をちゃんとアルバムに落とし込むことができたら面白い作品になるんじゃないか」という思いはありましたね。
──今作には2019年発表のシングル「Cakes」のアルバムバージョンも収録されていますが、当時からアルバムの構想みたいなものはあったんですか?
福富 「Cakes」は映画「愛がなんだ」の主題歌として書き下ろした曲で、リリース自体特に計画的なものではなかったんですよ。「WHALE LIVING」(2018年発表の3rdアルバム)を出してすぐに映画の話をいただいて、あのタイミングでシングルを出すことになって。「Cakes」はラブソングだけど“僕”とか“私”を使わない、“彼”も“彼女”もない、というのを意識していて、同性同士の恋愛も含めてすべての人に自分のことのように思ってもらえるようなラブソングがこの世界にあったらいいなと思って作ったんです。構想と言うわけではないけど、そのときの目線だったり、曲作りの中で感じたことを忘れずにアルバムにしたいなという気持ちはありました。
──ほかの皆さんはどうですか?
福田穂那美(B) 私はずっと実家暮らしだったこともあって、京都から出たことがなかったんですよ。だから東京に引っ越してからは生活のリズムも変わったし、今までと違う町での暮らしはすべてが新鮮でした。引っ越して少し経ったらコロナ禍になって、その中でボックスセット「STAIRS」を出すことになったんですけど、集まったりができないから、みんなで曲のデータをやり取りするようになったんです。そういう新しい曲作りの方法にトライしたこともあって、アルバムの制作はスムーズに進んだ気がします。
──なるほど。コロナ禍の自粛期間は皆さんのクリエイティビティに影響はありましたか?
福富 僕たちはスタジオに集まってセッションしながら曲を作っていくというやり方がメインだったので、穂那美さんが言うようにメンバー間でデータをやり取りするようになったのは1つ大きな変化でしたね。コロナ禍の中の活動としては、毎週インスタライブをやってみたり、ボックスセットを作ったり、すき家さんのCMソングを担当させていただいたり、年末にホールでワンマンを開催したりとアウトプットの場がいくつかあったので、そういった1つひとつの出来事に救われていたのかなと思います。なのでコロナ禍だからといってふさぎ込んだりはなかったですね。
畳野彩加(Vo, G) 個人的な話で言うと、バンドとしてやることはあったけど、楽曲制作はなんの影響かわからないけど正直なかなか進まなかったんですよ。ライブができないから落ち込んでいたわけでもなくて、今までの普通が通らない世界になっちゃって「あれ、何をしようかな」と、一瞬ボヤッとしちゃったというか。なので去年の自粛期間中はすごくスローペースに曲を作っていて、その分家でゆっくりと映画を観たり音楽を聴いたりしていたから、自粛期間中のインプットからアルバムができた感じもします。
石田成美(Dr) バンドの中で私だけ栃木に住んでるんですけど、去年はコロナで東京に出かけることもなかったから、メンバーとも「こんなに会ってない期間はない」ってくらい会わなかったんです。でも、みんなが言うようにHomecomingsの活動が止まっているという感じは全然なくて、その流れに自分もぐっと入り込むことができました。それに1人だったからこそ余計に制作に集中できた気がします。
──先ほど畳野さんが自粛期間中のインプットでアルバムができたとおっしゃっていましたが、ほかの皆さんも含めどういった映画や音楽から影響を受けたのでしょうか?
福富 2020年の作品だと「ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから」と「最高に素晴らしいこと」からはめちゃくちゃ影響を受けました。僕は歌詞を書いたり曲のテーマを考えたりする役割なので、この映画2本を観ていなかったら全然違うアルバムになってたんやろなって思います。映画以外だとBlack Lives Matterの運動だったり、そこから興味を持って読んだ小説や本からの影響もあったかな。
畳野 私は「セックス・エデュケーション」というNetflixのドラマや、「モダン・ラブ ~今日もNYの街角で~」というAmazon Prime Videoのドラマのサントラをよく聴いていたので、サウンド面で影響を受けていたような気はします。
──そうやってメンバーの誰かがハマった映画やドラマは、メンバー間でシェアしたりするんですか?
福富 僕らは去年の3月までラジオ番組をやっていたんですよ(2018年4月から2020年3月までの約2年間、α-STATIONで放送されたラジオ番組「MOONRISE KINGDOM」)。そのラジオでお気に入りの曲を持ち寄ってかけたりして共有していたんですけど、その場がなくなってからはインスタライブでそのときハマってる映画などの話をしていました。
IRORI Recordsの魅力
──もう1つの大きな変化としてメジャーデビューがあると思うのですが、活動のフィールドがメジャーに移ったことで何か変化はありました?
福富 まず2019年に東京に行くことは決まっていて、年末くらいにカクバリズムにお世話になることが決まったんです。そこからどう活動していこうかってときにコロナ禍になったから、アルバム制作の進行は自分たちが思っていたよりも遅れちゃったんですけど、その中で角張(渉)さんが「ポニーキャニオンさんと一緒に出すっていうのはどう?」と提案してくださって。IRORI Recordsはメジャーレーベルの中でも、Official髭男dismやスカートみたいに良質なポップスを作っている人たちがいるというのもあって、ぴったりというか自分たちに向いているのかなという印象でした。なので自分たちが思い描いている活動をよりよい形で実現できるんじゃないかという思いもあったから、メジャーデビューだからと言って臆することなく飛び込んでいけた気はします。
──なるほど。ちなみにIRORI Recordsの魅力ってどんなところだと思います?
畳野 うーん、まだ入ったばかりで難しいですけど、やっぱりスカートとヒゲダンさんの存在が大きいです。この2組はメジャーという場でポップスをやっているし、洋楽のテイストをちゃんと音楽に取り入れているし。やっぱりポップスに特化しているという点は魅力的だと思います。
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