黒子首「ペンシルロケット」インタビュー|すべてを詰め込んだメジャー1stアルバムで第2章へテイクオフ

黒子首が通算2枚目、メジャーでは初となるフルアルバム「ペンシルロケット」をリリースした。

1stアルバム「骨格」のリリースから約1年3カ月。バンドとしての目覚ましい進化を感じさせる本作には、メジャーデビュー曲となった「やさしい怪物 feat. 泣き虫」や今年8月リリースのデジタルEP「ぼやぁ~じゅ」収録の4曲に、現在放送中のテレビアニメ「忍の一時」エンディングテーマとして書き下ろされた「おぼえたて」、“黒子首と斎藤ネコ”名義で制作された「question for」などカラフルな新曲群を加えた全15曲が収められている。

スリーピースバンドとしての矜持を大切にしながらも、デジタル要素や生のストリングスなど、さまざまなサウンドを取り込みながら柔軟なクリエイティビティを発揮した本作について、メンバー3人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 曽我美芽

完成したアルバムに言葉を失う

──素晴らしいアルバムが完成しましたね。まずは、その仕上がりへの手応えを聞かせてください。

田中そい光(Dr) リスナー目線で「私はこういう作品が聴きたかった!」って素直に思えるアルバムが作れた気がします。ここ最近の自分の中での裏テーマだった、エレクトリックドラムと生ドラムの同居といった部分に関してもいろいろと試せましたし、プレイヤー目線でも納得の1枚ですね。

堀胃あげは(Vo, G) 歌の面で言うと今回は「インスタントダイアリー」や「ランドリーランド」のように、コンセプチュアルに作った世界の中で主人公になりきることを楽しみながら歌うものから、自分の感情に蝕まれて支配されながら歌うものまで、いろんな振り幅を出せたと思っていて。そういう意味でも、自分が空っぽになるくらい、すべてを注ぎ込めた作品になったと思います。

みと(B) 私もベースに関していろんな挑戦ができたんですよ。エレキベースでも4弦や5弦を使い分けたし、フレットレスベースやシンセベースを使った曲もあるし。1曲1曲に対して必死になって向き合いながら作ることができたので、完成したアルバムを聴いたときは、「あ……」って言葉を失っちゃいました。

──言葉を失うほどいいものができたと。

みと そうですね、はい。

黒子首

黒子首

──1stアルバム「骨格」も傑作でしたけど、そこから約1年3カ月を経た本作には、さらなる進化を遂げた黒子首の音が詰め込まれている印象です。

堀胃 うれしいです。「骨格」のときはどの曲もポップスに落とし込み、いろんな人とよりつながれるように作っていったイメージなんです。でも、今回はその過程を経たおかげで、純粋に3人で遊び合ってるような感覚でモノ作りをできた気がします。

──引き続きポップスが太い軸になってはいますけど、決してそこに縛られていない感じですよね。

田中 そうですね。あまりあれこれ考えるのではなく、今の黒子首から自然に出てきた曲が多い気はします。アルバムのコンセプトみたいなものもまったく考えていなかったですから。黒子首というバンドは結成当初からいろんなジャンルの曲をやってきていて。それに関して大人の方からは「どれか1つにまとめたほうがいいんじゃないの?」みたいなことを言われることも多かったんですよ。そのたびに私なんかは「うっせえ!」と思い続けてきたところがあって(笑)。ジャンルとか変な意味での自分たちらしさみたいなものにこだわらないのが黒子首だと思うので、それが今回のアルバムには如実に出たんじゃないかなと思います。結果、やりたいことが多すぎて15曲収録することになっちゃったんですけど(笑)。

「クールに戦え」は第1章を締めくくる宣戦布告

──アルバムタイトルになっている「ペンシルロケット」にはどんな意味を込めたんですか?

堀胃 ひとつは“ロケット鉛筆”にちなんだ意味合いですね。新しいものをぶっ刺して、古いものを飛ばすっていう。もう1つは、実際に存在した“ペンシルロケット”というロケットの名前にちなみました。そのロケットは宇宙への第一歩として日本で初めて飛んだものなので、それにあやかって、このアルバムが自分自身や世界に対しての宣戦布告となり、自分の持っている武器を全部召喚するような1枚になればいいなという。なので、さっきも言いましたけど、今回は自分のすべてを出し切って、空っぽにするつもりで制作には臨んでいたんですよね。

堀胃あげは(Vo, G)

堀胃あげは(Vo, G)

──「骨格」のときはいい作品ができなかったら解散するつもりだったとおっしゃっていたし(参照:黒子首「骨格」インタビュー)、本作は自らを空っぽにするつもりで作ったと。毎回、アルバムはかなり大きな覚悟を持って作っているんですね。

みと あははは(笑)。

田中 大丈夫かしらね、今後の我々は(笑)。

堀胃 確かにそうですね(笑)。まあでも、人間はいつ死ぬかわからないですから。毎回、それくらいの覚悟を持って作りたいと思います。

──本作は「クールに戦え」というナンバーで幕を開けます。アルバムのエンディングに似合いそうな壮大な楽曲を、あえてオープニングに配置したのが黒子首の面白いところですよね。

田中 そうですね。この曲順はメンバー間でけっこう揉めたんですけど(笑)。

堀胃 この1曲で私自身はもちろん、黒子首の始まりから今までを体現できているような気がしていて。だから自分たちの第1章を締めくくる曲として1曲目に持ってきたんですよ。で、2曲目の「あいあい」から第2章の幕が開くイメージ。そんな意味合いで曲順は決めましたね。「クールに戦え」を1曲目にしたことが、ある種の宣戦布告でもあると思います。

田中 そうだね。今、一番聴いてほしい黒子首の形ではありますね。

みと この曲にはでっかいイメージがあったので、シンセベースと、本体にプリアンプを内蔵したアクティブのベースで弾きました。

みと(B)

みと(B)

堀胃 この曲のデカさをみとが担当してくれたってことだ(笑)。アレンジ自体、スケール感を感じられるものになったので、「みんなで戦いにいくぞ!」っていう曲になったよね。大きなステージで演奏している映像も目に浮かぶし。

田中 そうね。堀胃さんが先頭でワーッと旗振ってる画がすごい浮かぶ。

“青鬼”が象徴する人間の憎悪と負の感情

──さきほど堀胃さんがおっしゃったように、2曲目以降は黒子首の第2章と呼ぶにふさわしい新たな感触の曲が目白押しです。「青鬼ごっこ」は堀胃さんのちょっとウィスパーっぽいボーカルが光る、かなりおしゃれな仕上がりになりましたね。

田中 この曲は私がアレンジの原案をまず考えたんですけど、それをディレクターをはじめとする大人の方々がいい意味でめちゃくちゃぶち壊してくださって(笑)。ドラムの音なんかはかなり変わりました。

堀胃 最初はかなりバシバシ叩いてるイメージだったからね。

田中 うん。いい意味で全然予想していなかったものになりました。今のチームじゃないとこういう仕上がりにはならなかったと思うので、すごく感謝しています。

田中そい光(Dr)

田中そい光(Dr)

堀胃 この曲で言う“青鬼”は人間の憎悪とか負の感情を象徴していて。私の場合は音楽にまっすぐ向き合っていると、自分の中にそういう青鬼が出てくるときがあるんです。ただ、自分の好きなものに向かってがんばっているときに現れる青鬼は、逆に美しいものでもあるような気がするので、この曲では最後にその青鬼と駆け落ちするというオチにしました。けっこうドロドロした曲として作ったんですけど、いろんな方の解釈でぶち壊していただいたことで、こんなにもイケメンな曲になるとは(笑)。

みと 私はこの曲にクールなイメージを持ったので、ベースは冷静に弾こうと。ほぼずっと同じことをやっています。

堀胃 でもDメロはすごいよ。

みと あー、Dメロはそうですね。ちょっと遊んでみました(笑)。