黒子首|「いいアルバムができなかったら解散」結成から3年の軌跡を多彩なサウンドに昇華した1stアルバム

「これがダメならもう1人でやりますんで」

──そういった音楽的な方向性の変化に伴い、シーンでの注目度も高まってきているようにも思うのですが、そのあたりの手応えはどうですか?

田中 結成当初から長いスパンで立てている活動予定表みたいなものがあるんですけど、意外とちゃんとその通りに進んでいるなって思いますね。「Champon」のミュージックビデオを公開したくらいからは、今まで以上にたくさんの人へ届くようにもなりましたし。最近ライブをやると、「あ、こんなに聴いてくれる人が増えたんだな」って実感できて、我々自身が一番ビックリしてるかもしれないです。

みと 先日、クラウドファンディングをやったんですけど、その結果を見たときは「ワー!」ってなりましたね。

──1stフルアルバムリリースに向けての支援を募ったんですよね。目標額の3倍以上が集まっていました。

みと もしかしたら目標達成できないかもしれないから、そうしたら自分でも支援しなくちゃダメかなって思ってましたからね(笑)。ほんとにありがたかったです。

──最高のタイミングでのアルバムリリースと言えそうですね。その仕上がりに関してはどう感じていますか?

堀胃あげは(Vo, G)

堀胃 こんなにも自分の曲たちを好きになれたことが今までなくて。アルバムに収録した12曲全部にめちゃめちゃ自信ありますね。自分でも毎日聴いちゃってるんで(笑)。

みと 私も今までで一番聴いてますね。新たな課題が見えた部分もありましたけど、でもすごくいいアルバムになったと思います。

田中 もし自分が中学生のときにこのアルバムと出会ってたら、「このバンドに一生ついていく!」って思ったと思います(笑)。「こういうバンド待ってたぜ!」って客観的にすごく思いますね。

堀胃 ホントにいいアルバムができてよかった。うまく作れなかったらもう解散しようってくらいの覚悟で臨んでいたので。そこは3人で最初に確認し合いましたね。「これがダメならもう1人でやりますんで」みたいな(笑)。

田中 もうビクビクでしたよ。堀胃さんにジュース買ってきたり、肩揉んでみたりしつつ。

堀胃 いや、そうじゃないでしょ(笑)。

──バンドにとって1stアルバムが大事なものであることは間違いないですけど、なぜそこまで背水の陣とも言える気持ちになっていたんでしょうね?

堀胃 いろんなことに葛藤しながら、戦いながら3人でやってきた感覚があったので、結成から3年とは言え、バンドとして過ごす日々の密度がものすごかったんですよ。体感としてはもう10年くらいやっている感じがするというか。だから「そろそろ結果を出さないと」みたいな感じで、勝手に1人で焦っていたんでしょうね(笑)。でも、そういう思いがあったからこそ、1日も止まることなく、ひたすらにアルバムの制作に向き合うことができたんだと思いますね。

ダークな感情を書いた歌詞が皮肉的な救いになれば

──アルバムに収録された曲は、最近作られたものがメインになっているんですか?

堀胃 最近作った曲ももちろんありますけど、以前に作っていたものもけっこう入っているんですよ。例えば「夜の下」は、私が上京したばかりの4年ぐらい前にできていた曲で。それを今回、歌詞を練り直して仕上げたりとか。

田中 「熱帯夜」は2年前くらいにできていたんだけど、アレンジに1年くらいかかったりもしたしね(笑)。今回のタイミングでやっと形にできた曲も多いです。

──アレンジは本当に多彩ですよね。バンドとしてもさまざまなトライができたんじゃないですか?

堀胃 そうですね。大きなトライで言えば、9曲目の「swimming cat」ですかね。初めてドラムにループを使って、人が叩いてない音とかも盛り込んでるんですよ。今までの曲では人間味のある生々しい音にこだわってたんですけど、この曲は全然違った方向性になっているので、かなりバンドとしては勝負したかなって思います。

田中 アレンジの構想に2年くらいかかってますしね。メンバー間での曲のやり取りはDropboxを使ってるんですけど、こないだ見たら「Swimming cat」だけでファイルが50個くらいありましたから(笑)。

堀胃 50回やり直したってことだね(笑)。最終的にサポートの方の協力で形にすることができました。

みと(B)

みと 「magnet gum」なんかも今までにはない感じの音になっていると思います。ブラスを使ってるのが個人的にはすごく好きですね。

──ダンスミュージックにトライしている「Driver」も新鮮な聴き心地ですよね。

みと そうですね。私はあんまりスラップをしないんですけど、「この曲はブイブイやろうよ」ってことになって。スラップをしています。

田中 ダンスミュージックを作ろうというコンセプトで、ほぼほぼセッションで作ったんですよ。

堀胃 3人で意見を出し合いながらね。スタジオ内でアレンジが完結するのはけっこう珍しいかもしれないです。すごく楽しい作業だし、バンドとしてはそれがベストのような気もするから、セッション的な曲はこれからも増やしていきたい。あと「Driver」では「自分はこういう曲も作れたんだな。こんな声が出せるんだな」っていう発見もあったりして。

──曲のタイプに合わせて、いろんなボーカルの表情が見えるのも本作の特徴ですよね。

堀胃 声に関しては、歪んだところだけが私の特徴だと思っていたので、今までは声をつぶしてまでそこを出すようにしてたんですよ。でも、もっと違った表現があってもいいよなと思って、今回はいろんな声を出してみたんですよね、意識的に。

田中 かわいらしく歌ってる曲があれば、「どっからその声出してんだろう?」みたいな曲もありますから。ポップスとしての歌い方みたいな部分は、たぶん我々の知らないところでいろいろ研究していたんでしょうね。

──あとは歌詞の強さも黒子首の大事な要素ですよね。ネガティブでダークな部分を吐き出したうえで、最終的に光を見せてくれる描き方がリアルだなと。

堀胃 歌詞を書くうえで一番大事なのは思いやりかもしれないですね。ちょっとダサいですけど(笑)。

──その思いやりは聴き手へのものですか?

堀胃 そうです。同時にそれは自分に対しての思いやりでもあって。ダークな感情を書くことで、「こんなことを心の中で思ってもいいんだ」って皮肉的な救いになったらいいなっていう思いがあるんですよね。ただ、コロナ禍を経験したことで、今までよりも前向きな歌詞が増えたような気もします。きっといろんなことでつらかったからこそ、あったかい言葉を言ってもらいたかったんでしょうね、自分自身が。

田中 11曲目の「あなうめ」は特にそうだよね。今までの堀胃さんでは言わなかっただろうなっていう言葉がたくさん詰まっている。私もこれを聴いて優しい気持ちになりました。

みと あと、「マーメイド」の歌詞でも今までとはちょっと違った色味を感じたところもありましたね。

田中 あー確かに。歌詞の面でも今回はいろんな変化を感じてもらえるとは思いますね。

黒子首というジャンルが作れたらいいな

──アルバムのタイトルが示すように、本作でバンドとしての強固な“骨格”を作り上げた黒子首。ここからはそこにどんどん肉付けをしていくわけですよね。

堀胃 そうですね。このアルバムが作れたことで、ポップスを引き続きやっていきたい気持ちが大きくなりました。それと同時に、ポップスだけでは終わらず、極限まで研ぎ澄ませた魂を演奏に込める熱い部分も忘れずにいたいなって思ったところもありましたね。

──アルバムで言えば、ラストの「静かな唄」はまさにそういった激情を感じさせてくれる曲ですよね。

堀胃 そうですね、うん。そっちの表情も大事にしていきたいです。

田中そい光(Dr)

田中 そのうえで個々のキャラクターがもっともっと入り混じった曲も作っていきたいですよね。例えば、みとの好きなR&Bっぽい要素が入ってきてもいいわけだし。本当の意味で黒子首を突き詰めていく……そのきっかけになるアルバムが作れたので、ここからは「これ、誰も聴いたことないよね」って曲をどんどん作っていきたいです。

みと うん。何々っぽいとかそういうのではなく、黒子首というジャンルが作れたらいいなと思います。

──8月に予定されているレコ発ツアーも楽しみですね。

堀胃 めっちゃ楽しみです! まだどういう形でやるかは考え中なんですけど、このアルバムの曲たちを早くみんなの前で演りたい。

田中 お客さんに会えるのも楽しみだしね。

みと 私は今までのライブではあんまり前を向けなかったんですけど、最近はだいぶ前を向けるようになって……。前を向くようになったら、ライブがさらに楽しくなりました(笑)。

田中 最近のみとは、すごく楽しそうだもんね。

堀胃 うん、いい顔してる(笑)。

田中 ステージ上の自分たちだけで完結させず、お客さんたちもしっかり巻き込んで最高のライブにしたいと思いますね。

ライブ情報

黒子首1st Album“骨格”release tour「新骨蝶」
  • 2021年8月11日(水) 東京都 下北沢LIVEHOLIC
  • 2021年8月23日(月) 愛知県 CLUB UPSET
  • 2021年8月24日(火) 大阪府 ESAKA MUSE
黒子首 タワーレコードインストアライブ
  • 2021年8月4日(水) 東京都 タワーレコード渋谷店 5F
  • 2021年8月25日(水) 大阪府 タワーレコードNU茶屋町店
黒子首