黒子首|「いいアルバムができなかったら解散」結成から3年の軌跡を多彩なサウンドに昇華した1stアルバム

黒子首(ほくろっくび)が1stフルアルバム「骨格」をリリースした。

感情を震わせるアコースティックギターのサウンドを多彩なアレンジでポップスへと昇華し、聴き手の心の輪郭を美しくなぞっていく楽曲で話題を集めるスリーピースバンド・黒子首。結成から約3年の活動における1つの到達点として作り上げられた本作には、バンドのアイデンティティを鮮やかに提示しながら、未来に向けた大きな可能性をも感じさせる全12曲が収録されている。

音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、バンドの成り立ちや活動の中で強固なものとなった音楽性について、そして「解散の覚悟を持って臨んだ」という本作の制作にまつわる話をメンバー3人にじっくりと聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 曽我美芽

堀胃さんの曲はもっとたくさんの人に聴かれるべき

──黒子首は2018年7月に結成されたそうですね。

黒子首

堀胃あげは(Vo, G) はい。同じ学校に通っていたみとと女の子のドラマーに、卒業後に私から声をかけて。そのメンバーで1年くらい活動をした後、最初のドラムの子が脱退したので、みとから紹介されたそい(田中)を加えて今の形になりました。みとを選んだのは、ベースの音というよりは佇まいかな。かわいくて、クールな要素もあるっていう。

みと(B) 一緒にバンドをやるまではほぼしゃべったことがなかったんですけどね。

田中そい光(Dr) ジャケ買いされた、みたいな(笑)。

みと 私はボーカルの声の好き嫌いが激しいんですけど、初めて入ったスタジオで聴いたあげはちゃんの声がすごくいいなって思ったんですよ。曲自体も、自分がベースを弾きたいなと思えるものだったし。なので、すぐ「やります」って返事しました。

──そいさんは声がかかったときはどう思いましたか?

田中 私はもともと、別のバンドをやってたんですよ。でも、そっちを辞めて黒子首でやっていこうと決めたので、「私が入ったからには」みたいな使命感はありましたね。「絶対に売れてやるぜ」と思って。

──黒子首に可能性を感じたということでしょうか。

田中 そうですね。「このバンドなら行ける!」って。学生時代から堀胃さんの存在は知っていて、「タダモノじゃねえな」ってずっと思ってたんですよ。それくらい音楽で目立っていたから。ただ、堀胃さんの曲はもっとたくさんの人に聴かれるべきなのにな、とも感じるところはあって。そういう意味でも私にドラムを叩かせてほしいと思っていたので、チャンスが巡ってきたからにはもうやるしかないぞと。

──結成当初の音楽性はかなりダークなものだったようですね。

堀胃 そうでしたね。ただただ自分の精神を安定させるためだけに曲を作っていたところがあって。曲作りは自分の中を掘っていく作業の一環、みたいな感じでした。だから周囲からはポップスとして表現したほうが伝わるんじゃないかっていうことをさんざん言われていたんですよ。メンバーはもちろん、出演したライブハウスの人にも言われていました。

田中 私は昔から純粋にポップスが好きだったので、黒子首としてもそういうものをやったほうがより面白いんじゃないかなっていう気持ちがあったんですよね。

堀胃 で、いろいろポップスを勉強していくうちに、私もちゃんとポップスを好きになることができたので、自然と表現の形がそっちに変化していったんですよね。最初は「どうなのかな?」っていう思いも若干あったけど、そこまで大きな戸惑いはなかったですね。

みと 明らかに曲の雰囲気は変わっていきましたけど、私はダークなものもポップなものもどっちも好きなので、全然いいなって感じでした。

バンドとしてよりいいものを生み出すための柔軟さが大事

──ちなみに皆さんはそれぞれにどんな音楽的ルーツをお持ちなんですか?

田中 私はもう邦楽大好き人間で。ここ数年は洋楽もめちゃくちゃ聴いてますけど、ルーツという意味で言えばAqua TimezとかMr.Childrenとかですね。

みと 私はもともと吹奏楽部だったのでオーケストラや歌劇が好きです。あと、ここ数年はずっとR&Bが好きですね。今のベースプレイにもそのあたりは生かされている……かもしれないです。

堀胃 かも(笑)。

田中 謎めいてる(笑)。

──堀胃さんのルーツは?

堀胃あげは(Vo, G)

堀胃 私は音楽よりも映像作品に影響を受けることが多くて。名前の“あげは”は本名で、両親が映画の「スワロウテイル」から取って名付けたんです。なので、あの作品からの影響が一番大きいと思いますね、音楽的にも。ちょっとスモーキーで霧がかってるような映像の雰囲気が好きだったゆえに、自分の性格とも相まってずっとグルーミーな曲を作ってきたのかもしれないです(笑)。

──現在、黒子首の楽曲は具体的にどのように作られているんですか?

堀胃 私がメロと歌詞をアコギで作って、それを2人に投げる形ですね。で、主にそいがアレンジしてくれたものをスタジオで合わせるっていう。……いつの間にかそいがアレンジにかなり関わってくれるようになった感じでしたね。

田中 「もっとこうしてみない?」みたいな意見を言うようになったところから始まり、どんどん口出しする部分が増えて、挙句の果てにはアレンジを打ち込んで送り返す、みたいな。

堀胃 けっこう具体的な形になって返ってくるもんね(笑)。みとも「こういうベースが合いそう」とか、ごく稀に意見を言ってくれることがあります。

みと(B)

みと 「こういう感じで弾いて」ってそいに言われるのも全然いいんですけど、自分なりのイメージがあるときは言いますね。わりと大きな声で言います(笑)。

──アレンジに関してはどんな部分を大事にされていますか?

田中 一番大事にしてるのは世界観ですかね。最初の頃は音楽的な感覚でアレンジのイメージを伝えていましたけど、最近は映像のイメージや色味を共有するようにしてます。「サビではこういう景色が見えてて、カメラがバッと引いていくことで映像が広がっていく感じだよね」みたいな。

堀胃 うん。そのイメージが3人の間でバッチリ合うときもあれば、逆に「え!?」って感じのアレンジが返ってくることもあるんですけどね。ただ、自分のイメージとは違ったものであっても、それにドキドキできれば自分の想像を超えたということだと思うので、採用することにしています。バンドとしてよりいいものを生み出すための柔軟さが大事かなって。

曲が求めてる音を全部入れてみた

──過去の音源を聴かせていただくと、当初は3人だけの音にこだわっていたような印象があって。でも、徐々にアディショナルな音も積極的に取り入れるようになりましたよね。

田中 そうですね。極限まで減らした3人だけの音で表現するアレンジは、去年リリースした2nd EP(「旋回」)やシングル(「時間を溶かしてお願いダーリン」)まででけっこう出し尽くしたような感覚があって。自分たちとしてやりたいことが全部やれたと言いますか。で、そこからさらに多くの人に聴いてもらいたいってことを考えたときに、3人だけの音にこだわるという思考を一度捨てて、曲が求めてる音を全部入れてみようって思えたんですよね。で、今作は仮のエレキや鍵盤なんかを入れたデモを作成して、サポートの江渡大悟さんと秦千香子さんがイメージを汲み取って形にしてくださいました。

堀胃 自分で曲を作ったときに、いろんな楽器が鳴ってるイメージを持つことはこれまでも多かったんですけど、以前は3人でやるしかないと思っていたし、3人だけでどれだけ面白くできるかにこだわっていたところがあったんですよね。でも、いざほかの音を入れてみたら、「あ、もっとよくなるじゃん!」ってことに気付いて(笑)。「じゃ、どんどん入れたらいいのでは」って思うようになったんです。

田中そい光(Dr)

田中 ライブの再現性みたいな部分を考えることはありますけど、まあ音源は音源、ライブはライブってことでいいんじゃないかなと。

堀胃 みとはけっこう迷ってたけどね。意外と3人の音に一番こだわってたから。

みと うん。3人でやることこそが面白いと思ってたので、最後の最後まで「3人だけでやらないの?」って思ってました。でも、今はほかの音を入れてよかったなって思っています。そこはやってみないとわからなかったことだと思うので。

──結成から約3年、EP「夢を諦めたい」でのCDデビューから約2年。その歩みを今、振り返ってみるとどうですか?

堀胃 バンドとして変わりたいという思いを持ってポップスを作ることを強く意識していた時期はあったんですけど、振り返れば途中からは意識せずともちゃんとポップスが作れるようになったところがありますね。特に「時間を溶かしてお願いダーリン」のあたりからは、もう勝手にポップスやってるわって気付きました(笑)。

──あの曲は3人だけの音で構築されてますけど、めちゃくちゃポップですからね。そう考えると、意識的に欲していたポップス的要素は堀胃さんの中にもともと存在していたものだったのかもしれない。

堀胃 そうかもしれないです。もともと、ポップスのことがちゃんと好きだった説があります(笑)。知らず知らずのうちに自分の血に流れてたっていう。