音楽ナタリー Power Push - Helsinki Lambda Club
目指せ1万枚!? グッとくる“最強のB面集”
UK.PROJECTが2014年に行ったオーディション企画「Evolution! Generation! Situation!」で最優秀アーティストに選出され、同レーベルよりインディーズデビューを果たしたHelsinki Lambda Club。8cmシングルや“福袋シングル”など特殊な形態でのリリースで話題を集めた彼らがついに1stフルアルバム「ME to ME」(ミートゥーミー)を完成させた。
「ME to ME」はヘルシンキメンバーが敬愛するアナログフィッシュの下岡晃(Vo, G)をプロデューサーに迎えて制作された1枚。音楽ナタリーでは今作の発売を記念して、ヘルシンキの橋本薫(Vo, G)、自主企画「ドリームシャワー」にゲストとしてヘルシンキを招いたことから交流が始まったというCzecho No Republicの武井優心(Vo, B)、ヘルシンキのミュージックビデオを多数手がける加藤マニによる鼎談を企画し、Helsinki Lambda Clubというバンドについて、そして「ME to ME」について、ざっくばらんに語り合ってもらった。
取材・文 / 清本千尋 撮影 / 上山陽介
ヘルシンキは中間っぽいバンド
橋本薫(Helsinki Lambda Club) Czecho No Republicと初めて競演したのは2年前の福岡の「FX」っていうフェスでしたよね。
武井優心(Czecho No Republic) うん。そのとき俺はヘルシンキのライブを観られなかったんだけど、俺以外の男メンバーが観て「すごくよかったから、今度何か一緒にやれたらいいんじゃない?」って言っていて。俺、薦められると「いやいや……」ってなっちゃう天邪鬼なタイプなので、そのときは観なくて。で、しばらく経ってからYouTubeで「Lost in the Supermarket」のMVを観ていいバンドだなと思いました。
橋本 あのMVを録ってくれたのがマニさんで、そのとき初めて僕らはマニさんに会ったんですよね。
加藤マニ そうですそうです。早朝のスーパーで撮影しました。開店時間が近付くと容赦なくお店のスタッフが営業準備を始めるから大変でしたよね。
橋本 武井さんとは今年の夏にチェコの企画「ドリームシャワー」に呼んでもらって初めて話しました。打ち上げでもっといっぱい話したかったんですけど、その日はもう1件ライブが入っていて打ち上げに出れずで……。
武井 そうだったね。メンバーからのプッシュもありつつ、この機会に観られるならうれしいなと思って「ドリームシャワー」にヘルシンキを呼んで。ヘルシンキは洋楽っぽさと日本のロックっぽさを併せ持った数少ないバンドで、そういうバンドを数多くの人に見せるべきだと思ったので呼びました。
橋本 そこを汲み取って呼んでいただけたなら本当にうれしいですね。
武井 イマイチ土壌がないシーンだから理解してもらいにくいけど、でもいいものはいいと思うんだよね。Helsinki Lambda Clubはゆるいバンドじゃないですか。このゆるさが多くの人にスタイルとして認めてもらえたらいいなと思うんですよね。だけどゆるさをだらしなさに感じる人もいるからよさを伝えるのが難しい。俺はヘルシンキみたいなサウンドが好きだから「こういう意図があるんだな」って理解するけど、もっとガチガチに練習して、曲のつなぎとかも完璧にしたパフォーマンスを求める層もたくさんいるからさ。
加藤 2人共やってることにはゆるさがあるんだけど性格は真面目な気がしています。洋楽的なバンドだったら、いやジャンルで限定されることではないかもしれないけど、もっと激ゆるな人たちいるじゃないですか。
武井 そうかも。ゆるい感じでありながら実はめっちゃ冷や汗かいてたりね。あるある(笑)。
橋本 ありますねえ(笑)。僕が音楽をやる上でずっと思ってることがあるんですけど、もともとロックは海外のものであって、それを日本語でやるのであれば折衷案っていう言い方が正しいのかわからないけど、その両方の要素を持った音楽をやりたくて。
武井 ヘルシンキっていろんな面でほどよいっていうか、中間っぽいバンドだよね。
橋本 中間っぽいバンド(笑)。その通りだと思います。まあ悪く言うといろいろ中途半端な気もするんですよ。そのバランスの取り方が難しいなと思いながらゆるゆるやってますね。武井さんとかも本当はもっとコアなことをやろうと思えばできるじゃないですか。洋楽志向なものとか。
武井 まあね。
橋本 ですよね。僕は音楽好きな人がニヤリとする部分がありつつ、音楽に詳しくない人も楽しめる音楽を作れたらいいなと思ってこういうスタイルの音楽をやってるんです。だけどさっき自分で言ったようにそれが時として弱点にもなるなというのもわかっていて。弱点をアイデンティティとして捉えてもらうにはどうしたらいいんだろうっていうことを常々考えてます。
カッコいいより“グッとくる”ことが大事
加藤 ちょっと乱暴な言い方になるけど、チェコは洋楽的な楽曲を“日本人向けに料理する度”が高いんでしょうね。わりとJ-POP寄りというか。優心くんがあえてそっちに持っていってるんでしょうけど。ヘルシンキの場合、薫さんがUSオルタナとかUKロック寄りの味付けをしてる。で、より本格派というか、現地に近い海外の味を出してるのがyahyelとかDYGLとか。そうした、ただ英語の歌詞というだけではない、スタンスや音像が洋楽インディーに近しいバンドも今また注目され始めている昨今の日本の音楽シーンについてお二人はどう思ってますか?
武井 うん。彼らみたいなサウンドが注目を集め始めている感じはすごく面白いなって思いますね。
橋本 完全洋楽志向なバンドは聴いていてカッコいいし、ライブで踊れるって楽しいなと思うけど、プラスαの感情……楽しい、高揚するとか以外の感情って、僕の場合は言葉で得るものが多かったから、自然と日本語で歌うバンドになりましたね。音楽をやろうと思った頃に熱心に聴いていたのがくるりとかandymoriとか、そういう日本語で歌うロックバンドの楽曲だったので。言葉に力があるというか、ワンフレーズで心にドンとくるものに惹かれてきたからか、そっちのほうがグッとくる。僕は音楽を聴いて楽しいっていう感覚よりも、“グッとくる”というところを重視したいから、日本語で歌いたいなって思っていて。日本語だとより感情が乗りやすいし。
武井 確かにヘルシンキの曲にandymoriの影響を感じるね。
橋本 andymoriの無国籍感というか、シンプルでスタンダードなことをやってそうだけどどこにもなかった感じが好きでした。
加藤 優心くんが日本語で歌うのはなんでですか?
武井 いろんな言い回しがあるじゃないですか。日本語なら意味だけじゃなくて、自分の口調が出せるから。
加藤 語尾とかもそうですよね。“よ”とか“だ”とか“ね”とか。それだけで“らしさ”が出せるのは日本語の強みかもしれないですね。
武井 あとは単純に英語で歌詞書くのが大変だから(笑)。
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収録曲
- This is a pen.
- Skin
- NEON SISTER
- メサイアのビーチ
- Justin Believer
- Morning Wood
- lipstick
- 彷徨いSummer Ends
- 声
- 目と目
- マニーハニー
Helsinki Lambda Club(ヘルシンキラムダクラブ)
橋本薫(Vo, G)、稲葉航大(B, Cho)、佐久間公平(G, Cho)、アベヨウスケ(Dr, Cho)からなる4人組バンド。2013年夏に千葉で結成され、2014年にはUK.PROJECT主催のオーディションで応募総数約1000組の中から見事最優秀アーティストに選出された。その賞品として同年12月に2曲入りの8cmシングル「ヘルシンキラムダクラブのお通し」でUK.PROJECTからインディーズデビュー。2015年3月に1stミニアルバム「olutta」を発表した。楽曲のテイストはUSインディーに由来するものが多く、2016年10月には“ニューオルタナティブ”と謳った1stフルアルバム「ME to ME」をリリースする。
Czecho No Republic(チェコノーリパブリック)
武井優心(Vo, B)と山崎正太郎(Dr, Cho)を中心に2010年3月に結成。メンバーチェンジを経て、現在は武井、山崎、八木類(G, Syn, Cho)、タカハシマイ(Cho, Syn)、砂川一黄(G)の5人で活動している。2010年11月に初のCD作品「erectionary」をタワーレコード限定でリリース。同作が高い評価を受ける中、2011年10月に初のフルアルバム「Maminka」を発表した。2013年10月に2ndフルアルバム「NEVERLAND」で日本コロムビアよりメジャーデビューし、2014年10~12月にはフジテレビ系アニメ「ドラゴンボール改」のエンディングテーマとして「Oh Yeah!!!!!!!」が全国でオンエアされた。2015年9月に3rdアルバム「Santa Fe」を発表。2016年7月には4thアルバム「DREAMS」を発売した。
- Czecho No Republic
- Czecho No Republic(チェコノーリパブリック)メジャー4thアルバム『DREAMS』2016/7/20発売|日本コロムビア
- Czecho No Republicの記事まとめ
ライブ情報
- Czecho No Republicワンマンツアー「Welcome to the Hotel Flamingo Tour」(※終了分は割愛)
- 2016年10月28日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2016年10月29日(土)鹿児島県 SR HALL
- 2016年11月6日(日)大阪府 BIGCAT
- 2016年11月12日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
加藤マニ(カトウマニ)
企画、撮影、編集までのすべてを自身で手がける映像クリエイター。キュウソネコカミやCzecho No Republic、ゆるめるモ!など幅広いジャンルのアーティストのミュージックビデオを手がけている。自身もPILLS EMPIRE、lowtide、バレーボールズというバンドに所属し、音楽活動も行っている。