羊文学 ロングインタビュー|不安や葛藤の中、力強く響かせる“自分自身をハグする12曲” (2/4)

鉄を切るベース

──「Addiction」は塩塚さんの抑えめのボーカルと、その後ろで鳴っている爆音のバンドサウンドのコントラストが印象的です。

塩塚 ハイパーポップだったり、女の子が宅録でぽつぽつ歌ってるような音楽を最近はよく聴いていて。そのぽつぽつなんだけど、裏は激しかったり複雑だったりする展開を意識して作ってみました。

──歌詞に「So take me somewhere Preferably off the phone-screen.」とありますが、これは?

塩塚 私、スマホ中毒なんですよ。中学生の頃は授業中に隠れてブログを読んだりしていて、それが今でも続いているから自分でも「何してるんだろう」と思って(笑)。

──なるほど。ちなみに、なぜ中毒性を曲のテーマにしたんですか?

塩塚 歌詞はあまり深く考えずに書いたんですよ。私はスマホで歌詞を書くんですけど、気付いたらネットサーフィンをしていることがよくあって。それで「なんでスマホの画面ばかり見てるんだろう?」と思ったのかな。あとスマホ中毒なのに連絡は全然返さないし(笑)。

羊文学

──そういうタイプなんですね(笑)。僕はこの曲から「飾らない」「自然体」というメッセージも受け取りました。

塩塚 それは私の深層心理が表出してきたんだと思います。最近、いつどこにいても誰と話していても、同じような自分でいようと決めて暮らしているんですよ。「みんなソフトにいこうよ」という気持ちが歌詞に表れたのかもしれないですね。

──リズム隊のお二人はサウンド面でどんなことを意識しましたか?

フクダ 僕の中でこの楽曲はエモーショナルなオルタナティブロックという印象で。日本だとbloodthirsty butchersやeastern youth、海外だとDinosaur Jr.やPixiesのような音像を意識しました。あとは羊文学が昔、下北沢のBASEMENTBARやTHREE、SHELTERでライブをしていた頃を思い出すような初期衝動がサウンドアプローチ、プロダクションの中に組み込まれているなと思います。

──初期衝動を呼び起こしたいと思ったのはなぜ?

フクダ 特に狙っていたわけではなくて、それはアルバムの制作が終わったあとに気付いたんです。初期の楽曲で言うと「トンネルを抜けたら」「雨」「踊らない」なんかは、自分の手癖やゴースト込みでレコーディングしていて。でも最近はそういった要素を削ぎ落として、ドライでダーク、無機質な音像を意識していたんです。今回は“等身大”という歌詞のイメージともリンクさせるという意味でゴーストを入れてみたり、感性で叩くエモーショナルさを取り入れてみたりして。その結果、少し初期衝動を感じるサウンドになったんじゃないかなと気付きました。ただ、次はもっと多くの人に聴いてもらうためにも、また別のアプローチが必要だなと思っていますね。

塩塚 へえ、そうなんだ。

──初めて聞きました?

塩塚 はい。私は制作のとき、2人には「もっとキモくないといやだ(笑)」みたいな抽象的なリクエストを一方的に出しているだけなので、こうやって取材をしてもらうと、2人ともいろいろ考えてるんだなって思いますね(笑)。

──(笑)。その抽象的なオーダーで求めている音が理解できるんですか?

フクダ まあ長年一緒にやっているので。

塩塚 (笑)。

フクダ フロントマンってひと癖もふた癖もある人が多いじゃないですか。感覚的なオーダーに対して、自分の中の引き出しを広げてフレーズに落とし込む作業はがんばってるほうかなと思います(笑)。

塩塚 確かに。私は「もっとうるさくして!」としか言わないので(笑)。

河西 私はこの曲はシューゲイザーパンクみたいなイメージがあって。ボーカルはフワフワしているし歌詞もちょっと弱気なんだけど、演奏は全力みたいな感じだから、ベースは鉄を切るような音を目指して弾きました。

河西ゆりか(B)

河西ゆりか(B)

──鉄を切る?

河西 スマホ中毒の曲なので、スマホを壊すようなイメージです(笑)。

ギリギリの状況を軽やかなサウンドに

──4曲目の「GO!!!」は前に進む力強さを歌った曲ですけど、展開やコーラスワークからは遊びの要素も感じられます。

塩塚 グルーヴ感のある曲が欲しかったんです。この曲は「more than words」に登場した友達と「人生とは?」みたいなことを話す中で、「アウト・オン・ア・リム」という本の存在を知って。その本は女の人がスピリチュアルの世界に潜り込んでいって自分が生きる意味を見つけていくみたいな内容なんだけど、私もちょうど自分の運命についてよく考えていたんです。嫌なことがあると友達と「これは試練なんだ!」とか言ってたんですけど、それにもだんだん耐えられなくなってきて(笑)。気付いたら「自分でやる」という強い思いを歌詞にしていました。そのときは精神的にギリギリで、友達と話し合いながら「それでもやるしかない」という気持ちになっていたんです。だから「more than words」と同じような気持ちを、また違うアプローチで表現した感じですね。

──ちなみに、そのお友達に楽曲を聴かせたりするんですか?

塩塚 その子には「GO!!!」と8曲目の「honestly」の打ち込みのデモを送りました。そしたら「この歌詞で歌われている通りの人が実際にいたらボロボロかもしれないけど、軽やかな曲調に乗ってるのがいいね」と言ってくれて。私もそこは気に入ってる部分だったのでうれしかったです。

羊文学
羊文学

自分たちの自信になる曲が作れた

──「永遠のブルー」はNTTドコモのCMソングとして今年の春にリリースされた曲で、そのさわやかさや瑞々しさに羊文学の新たな一面を見たというか。「our hope」を通過したからこそできた曲なのかなと思いました。

塩塚 「永遠のブルー」は自分が好きな少年マンガをイメージしながら書いた曲なんです。アニソンを作るとしたらこんな感じなのかなと想像したりして。ただ、こういうまっすぐでさわやかな曲はメロディが単純だとダサくなっちゃうから、いいポイントを探すのには苦労しましたね。

──なるほど。

塩塚 羊文学として打ち出したいサウンドではないんですけど、結果的にいい曲ができたんじゃないかなと思います。それにライブで演奏すると楽しいし、お客さんの反応もすごくいいんですよ。こういう曲を作れたのは自分たちの自信にもなるし、ライブでも「この曲があるから大丈夫でしょ」みたいな気持ちになります。

シャウトの正体は

──6曲目のパンクナンバー「countdown」には男性のシャウトが入ってますけど、これは誰なんですか?

塩塚 あれはTOMMY(ファッションと音楽のコンセプトショップ・BOYのオーナー奥冨直人)さんの声です。羊文学のシャウトと言えばTOMMYなので(笑)。

──ああ、やっぱり。LIQUIDROOMで羊文学の単独公演が行われた際、奥冨さんは「ドラマ」の演奏に荒々しいシャウトで参加していましたね。

塩塚 そうそう。「countdown」は何をやっても少し物足りない感じがあったんです。あるとき、私たちが出演したフェスにTOMMYも古着屋さんとして出店していて。これはチャンスだと思って、TOMMYを楽屋まで連れて来て「ここで叫んで!」とお願いしました(笑)。

──演奏面でこだわった部分はありますか?

フクダ ドラムで言うと少年ナイフのような80年代の女性バンドのパンクサウンドを意識しましたね。ガレージ、ロカビリーまではいかないけど、そこの塩梅を保った感じのリフは印象的なんじゃないかなと。あとはTOMMYさんが来るところも反骨心が出ているし。

塩塚 TOMMYが来るところ(笑)。

フクダ (笑)。パンクやオルタナティブロックを意識したサウンドになっていると思います。

次のページ »
AIと恋をしたら