いろんな音を入れてみたかった「Selfy charm」
──3曲目の「Selfy charm」はイガラシさんの作曲です。
シノダ 今までになかった切り口の曲だし、めちゃくちゃ好きですね。
ゆーまお 今日は褒めまくるね。
シノダ (笑)。デモの段階でも「作り込み方が変わったな」と思った。以前のイガラシくんの曲に比べるとビジョンがすごく具体的だったんですよ。音数もしっかり入っていて、「この音は入れたい」「この音はどうしようか考えている」という感じで。編曲は僕がやったんですけど、イガラシくんのデモを整理する作業が主だったし、制作の工程もかなり変わりましたね。
イガラシ 作曲を始めた頃は、バンドで曲を作るというのはメンバーにぶん投げることだと思っていたんですよ。デモを作るときもなるべく素材を少なくして、それぞれに考えてもらって、一緒に作るほうがいいなと。その考えが変わったわけではないんだけど、「Selfy charm」を作ったときは、たまたまいろんな音を入れてみようと思って。ちょうどその時期にバンドサウンドじゃない音楽をよく聴いてたんです。宇多田ヒカルさんとかcadodeとか。そういう質感の音を入れたかったのかもしれないです。結局、全然そういう質感にはなってないんですけど(笑)。
──トラックメイク的なサウンドも似合いそうですよね、この曲。
シノダ そうですね。デモの段階ではクラブでも流せそうな感じでしたし。レコーディングではもちろん生楽器で演奏しているので、バンドらしい音になってますけどね。
ゆーまお ドラムのレコーディングは30分かかってないです。
シノダ そう、めちゃくちゃ早かった。作曲者がイガラシくんなのでドラム録りは基本的に2人でやりとりしていて。俺はボーッとしてたんだけど(笑)、「(ドラム録りが)終わった」という声が聞こえてきて、「え? そんなわけなくない?」って。
イガラシ (笑)。さっき言ったようにもともとは打ち込み的なサウンドだったんですけど、ゆーまおがそのテイストをちゃんと汲み取って叩いてくれて。安定感があるからこそ、ハイハットのちょっとしたニュアンスの違いとか、サビに向けた強弱の付け方がすごく効いてくるんですよね。そこはめちゃくちゃ信頼してます。
──歌詞について、イガラシさんとシノダさんでやり取りはあったんですか?
イガラシ まったくないですね。
シノダ 勝手に書きました(笑)。初めてデモを聴いたときに、すごくキレイだなと思って。おしゃれさ、装飾的な要素もあるなと思って、そこから「美ってなんだろう?」という歌詞を書いてみようという着想を得て。美醜についての歌詞になりましたね、結局。
──現代的でもあり、永遠のテーマでもありますね。
シノダ 誰もが抱くコンプレックスですからね。たとえばSNSのタイムラインを眺めていて、すげえキレイな人の動画や写真が流れてくるとハッと手が止まる瞬間があって。ただ自撮りって「DTMかよ」ってくらい加工されてるものもあるじゃないですか。
イガラシ 自撮りの加工をDTMって捉えてるんだ? めちゃくちゃ面白いんだけど(笑)。
シノダ (笑)。それくらい作り込んで、その人が納得できる世界観の写真をアップしてるんだろうなと。そういう人たちにものすごい数のフォロワーがいるのもわかるんですよね。「彼女は音楽を追い越した」というフレーズがあるんですけど、スマホで流れてくる写真は光の情報だから音よりも速いので、俺らがどんなにがんばっても物理的に負けちゃうというか(笑)。でも、その写真の中には劣等感を克服したいという気持ちだったり、創意工夫が込められてるんだろうって、そういうことを想像しながら書いた歌詞ですね。
wowakaという人間に対する曲「さくらのいつか」
──シングルの最後に収められているのは、シノダさんの作詞作曲による「さくらのいつか」です。この曲はwowakaさんに向けて書かれたんでしょうか?
シノダ そうですね。「4人それぞれが作曲した曲を入れる」と決めたあと、「オン・ザ・フロントライン」「センスレス・ワンダー[ReREC]」「Selfy charm」の3曲ができて、僕の曲だけが上がってない状態になったんです。候補曲はいっぱいあったんだけど、なんかしっくりこなかった。自分の曲で起承転結の“結”を担いたいという思いがあったし、4人の曲がそろったシングルでもあって……それを踏まえて、wowakaという人間に対する曲を書いてみようと。彼を失ったこと、喪失感とどう向き合うかという歌詞は「curved edge」「ハイゲイン」などでも書いてきましたけど、今回は今一度wowakaのことを思い返したり、彼を失った季節を振り返る歌を作りたかったんです。言葉として適切か難しいんですけど、よく書けたなと思いますね。キレイな曲だし、いい歌詞で……この曲を世の中にドロップするのは攻撃的なことでもあるのかなと思うけど、「それもひっくるめての音楽だから」という気持ちもあって。ギリギリにできた曲なんですけどね。
──wowakaさんがいなくなって5年という時間があったから書けた曲ですよね。生々しいサウンドも素晴らしいなと。
シノダ 「ジャガーノート」(2023年リリース)という曲を作った頃から、特に自分の曲に関してはスリーピース感のあるサウンドでレコーディングしたいという気持ちが強くなってきて。さらに「センスレス・ワンダー」の“ReREC”を経て「3人でいいものを録れる」という実感が沸いてきたし、「さくらのいつか」も3人でやっている意味合いを強く出したかったんですよね。なのでギターに関しても過度なダビングはやっていないし、終始1本しか鳴ってないと思います。
──確かに。イガラシさんは「さくらのいつか」に対して、どんな思いがありますか?
イガラシ この曲は、自分的にはあまり直視できる感じじゃないんですよね。
シノダ そうなのか。「直視できる曲じゃない」って、初めて聞いた。
イガラシ デモが送られてきたときもほとんど感想を返さなかったんで。「いい曲なのはわかりました」っていう。こういう曲は今までなかったし、もしシノダが書いていても止めていたと思います。「さくらのいつか」を聴いた人は本当にいろんな感情になるだろうし……「シノダがこの曲を書いて、出したいって言うんだったらそれでいい」とは思いましたけどね。
ゆーまお 俺がこの曲を受け入れられた理由は、「3人でバンドをやることの地が固まってきたから」というのもあると思います。ただ、こういう曲は1曲だけでいいんじゃないかなという思いもあるんですけどね。
──メンバーの中でも受け止め方が違うんですね。
シノダ そうですね。メンバーもそう思っちゃうくらいだから、たぶん「さくらのいつか」を聴いて食らっちゃう人もいっぱいいるんだろうなと。これはあくまでも自分の話なんですけど、「食らってしまう人がいたとしても、それでもいい曲が書けてしまったんだよな」という気持ちがあるんですよ。リスナーの皆さんの反応がどうなるかはわからないけど、「絶対にいい曲だから聴いてほしい」という思いが強くなってしまって。
──間違いなくリリースするべき楽曲だと思います。4曲とも素晴らしいし、次のアルバムに全部収録されていてもいいのでは……。
イガラシ それはうれしい意見ですね(笑)。
ゆーまお シノダはもともとシーケンスとかも盛り盛りの曲を作りがちだったんだけど、次のアルバムはけっこう逆になりそうな気もしています。
シノダ もっとソリッドにしたいという気持ちはありますね。「センスレス・ワンダー[ReREC]」「さくらのいつか」もそうですけど、ロックバンド的なサウンドが今のモードなので。ただ、まったくそうじゃないアルバムになるかもしれないので、まだわからないです(笑)。
ライブ情報
HITORI-ESCAPE TOUR 2024 10-NEN-SAI
- 2024年4月7日(日)三重県 M'AXA
- 2024年4月12日(金)京都府 磔磔
- 2024年4月18日(木)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room
- 2024年5月6日(月・振休)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2024年5月12日(日)石川県 Kanazawa AZ
- 2024年5月26日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2024年6月1日(土)岩手県 the five morioka
- 2024年6月2日(日)宮城県 darwin
- 2024年6月7日(金)東京都 LIQUIDROOM
- 2024年6月14日(金)兵庫県 神戸VARIT.
- 2024年6月16日(日)香川県 DiME
- 2024年6月21日(金)新潟県 CLUB RIVERST
- 2024年6月30日(日)北海道 cube garden
- 2024年7月4日(木)鹿児島県 SR HALL
- 2024年7月6日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2024年7月7日(日)熊本県 熊本B.9 V2
- 2024年7月13日(土)広島県 SIX ONE Live STAR
- 2024年7月15日(月・祝)大阪府 BIG CAT
HITORI-ESCAPE TOUR 2024 10-NEN-SAI~EXTRA STAGE in OKINAWA~
2024年9月1日(日)沖縄県 桜坂セントラル
ヒトリエ「Versus Series」
- Vol.1
2024年4月20日(土)大阪府 BIGCAT
ゲスト:キタニタツヤ - Vol.2
2024年6月6日(木)東京都 LIQUIDROOM
ゲスト:秋山黄色 - Vol.3
2024年8月21日(水)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
ゲスト:THE KEBABS
シノダ47都道府県弾き語りツアー「シノ鉄」
- 2024年7月12日(金)岡山県 城下公会堂
- 2024年8月31日(土)沖縄県 桜坂セントラル
and more
HITORI-ESCAPE 2024 10-NEN-SAI~日比谷超絶野音~
2024年9月15日(日)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
上映会情報
ヒトリエ デビュー10周年 両A面シングル リリース記念
「HITORI-ESCAPE 2024 ~10-NEN-SAI~」二夜連続シアター上映会
第1夜
2024年6月27日(木)東京都 ユナイテッド・シネマ豊洲
18:00開映
<内容>
- 「HITORI-ESCAPE 2024 ~10-NEN-SAI~」DAY1[赤]ライブ映像〈全曲完全収録版〉上映
- メンバーによるスペシャルトークショー
第2夜
2024年6月28日(金)東京都 ユナイテッド・シネマ豊洲
18:00開映
<内容>
- 「HITORI-ESCAPE 2024 ~10-NEN-SAI~」DAY2[青]ライブ映像〈全曲完全収録版〉上映
- メンバーによるスペシャルトークショー
※各日とも1回限り上映
※新譜・両A面シングル即売会実施(購入者特典付き)
プロフィール
ヒトリエ
wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人により結成されたバンド。ボカロPとして高い評価を集めていたwowakaがネットシーンで交流のあったシノダ、イガラシ、ゆーまおに声をかけ、2012年に活動をスタートさせた。2013年11月に開催したワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表した。その後も精力的なリリースとライブ活動を展開するが、2019年4月にwowakaが急逝。残るメンバーは3名体制で同年9月より全国ツアーを敢行した。2021年2月に新体制で初のフルアルバム「REAMP」を発表。2024年6月にメンバー4人それぞれが作曲を手がけた楽曲を収録したシングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」をリリースし、9月に初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブを行う。