ヒトリエのニューシングルはメンバー全員作曲の4曲収録、メジャーデビュー10周年の攻撃開始

ヒトリエの両A面シングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」が6月5日にリリースされた。

表題曲のうち「オン・ザ・フロントライン」は、ゆーまお(Dr)が作曲を手がけたアニメ「無職転生II~異世界行ったら本気だす~」第2クールのオープニングテーマ。もう1曲の「センスレス・ワンダー[ReREC]」は今は亡きwowakaの作曲で、2014年に彼らのメジャーデビュー曲として発表された「センスレス・ワンダー」の再レコーディングバージョンだ。さらにイガラシ(B)作曲の「Selfy charm」、シノダ(Vo, G)作曲の「さくらのいつか」も収録され──つまり本作は、wowakaも含む全メンバーが作曲した楽曲を収めたシングルということになる。

今年メジャーデビュー10周年を迎えるヒトリエにとって、今回のシングルが持つ意味はどんなものなのか。音楽ナタリーではシノダ、イガラシ、ゆーまおにインタビューを行い、シングルのコンセプトや各曲に込めた思い、メジャーデビュー10周年に向けた現在の心境を語ってもらった。

取材・文 / 森朋之ライブ写真撮影 / 西槇太一

最近は自分たちをカッコいいと思うようにしてる

──今年はヒトリエにとって、メジャーデビュー10周年の記念すべき年です。10周年を迎えたことについてどう感じていますか?

シノダ(Vo, G) 不思議な感じですね。メジャーで10年も続けてこられたんだなという気持ちもあるし、「俺が迎えている10周年はシーンの中でも格別に突出しているんじゃないか」と思うこともあって。

イガラシ(B) メジャーシーンに10年いるって普通じゃないし、ありがたいなと思います。ヒトリエとしても大変だったし、世の中的にもいろいろあったじゃないですか。音楽業界自体も変わってきてる中で、こうやってメジャーで活動させてもらえてるのは本当に貴重だし、すごく感謝しています。

──当然「よくぞここまでがんばってきた」という自分たちに対する思いもありますよね?

イガラシ それは大前提という感じですかね。10周年を迎えたことと、バンドが続いていること自体が別のこととして自分の中にあるというか。

シノダ そうだね。正直、「バンドを続けるのは無理なんじゃないか?」と思ってたこともあったから。

シノダ(Vo, G)

シノダ(Vo, G)

ゆーまお(Dr) うん。シノダが歌い始めて5年になるので、年数的には半々なんですよね。ただ後半の5年はコロナもあったし「どうする?」って悩んでる時期もあったので、かなり密度が違ってた気がして。前半の5年はライブの本数もすごかったし、「濃い時間を過ごした」と記憶が補完されちゃってるんですよ。

イガラシ 実際、年に100本くらいやってたからね。

ゆーまお 後半5年はひたすら大変だったというか。「よくやってきたな」と思います。

──4人のときも3人になってからもカッコいいですけどね、ヒトリエは。

ゆーまお そういうふうに言ってもらう回数も増えているんですよ、ありがたいことに。

シノダ なので最近は自分たちをカッコいいと思うようにしてます(笑)。この3人でやり始めたときは、とてもじゃないけどそんなふうに思えない状況でしたからね。「これでいいんだろうか?」という思いをどうしても拭えなくて。10周年を迎えて、ようやく辻褄があってきたというのかな。人から「カッコいい」と言われることに対しても、「もしかしたら、そうかもしれない」と思えるようになってきました。

ヒトリエ

ヒトリエ

破壊的な感覚を曲にしたかった

──ではニューシングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」について聞かせてください。このシングルにはシノダさん、イガラシさん、ゆーまおさん、そしてwowakaさんがそれぞれ作曲した計4曲が収録されています。

シノダ 「4人全員の曲を入れよう」というところからスタートしている部分もありますね。ゆーまおが作曲した「オン・ザ・フロントライン」をリリースすることが決まって、1月に配信リリースしていた「センスレス・ワンダー[ReREC]」を入れることになって。だったら俺とイガラシくんも曲を書いて、4人の曲が入っているシングルにしようと。10周年のタイミングで出すCDシングルだし、世に放つにあたって攻撃力が高いものにしたいという。

──なるほど。表題曲のうち「オン・ザ・フロントライン」はアニメ「無職転生II~異世界行ったら本気だす~」第2クールのオープニングテーマです。この曲はどのように作っていったんですか?

ゆーまお 曲の原型はけっこう前からあったんですよ。最初に作り始めたときは破壊的なものというか、アドレナリンが出て頭が回転しているときの感覚だったり、火事場の馬鹿力みたいなものを曲にしたいと思って。そのときのデモが「アニメに合うんじゃないか」という話になって、選んでもらったという流れですね。「無職転生II」の主人公もいつもピンチ気味で、それをなんとか自分の力で乗り越えていて。

シノダ ずっと切迫してるからね。

ゆーまお そうなんだよね。とんでもなく強い魔法を撃てる天才なんだけど、うまくいくことばかりではないところもあって。「オン・ザ・フロントライン」も「この曲は強い魔法だ」という解釈で作っていきました。

「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」アニメ盤ジャケット

「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」アニメ盤ジャケット

──ゆーまおさんの破壊的な衝動とアニメの世界が合致したと。そもそもどうして“火事場の馬鹿力”みたいな曲を作ろうと思ったんですか?

ゆーまお ウワーッてなりながらがんばるのは嫌いじゃないんです、もともと。ムキになってやるみたいなこともよくあるし、その感覚で曲を書いてみたいなと。

──「オン・ザ・フロントライン」はフィジカル的な強さもありますが、一方ではすごくポップな楽曲でもあって。そのバランスが絶妙ですね。

シノダ ゆーまおくんはすごくポップセンスがあるし、しかも「こうすればちゃんと伝わるでしょ」みたいなところもちゃんと持ってるんですよ。丁寧な曲を書く人というか。……悪い意味じゃないよ?

ゆーまお わかってます(笑)。

シノダ この曲に関しては、全体の構成や間奏の展開なんかも彼が考えてくれて。その中で「どんどんアグレッシブにしていこう」という意思が見えたんですよね。

ゆーまお 激しくしたかったんです。ギターについては「こういうふうにしてくれ」って口頭で伝えて。

イガラシ 最初に聴いたのは2人が一緒に作業したデモ音源なんですけど、流れるようなメロディだなと思って。確かに曲調は激しいけど、メロディはストリングスできれいになぞれそうな感じがあった。移動中のサービスエリアとかでよく口ずさんでました(笑)。

シノダ 冒頭のメロディも頭に残るよね。

ゆーまお ありがとうございます。確かにメロディはポップかもしれないですね。

──歌詞に関しては?

シノダ 「無職転生II」の第2クールの主人公には、かなりショックな出来事、喪失みたいなことが待ち受けていて。そういう喪失は自分も身に覚えがあるし、「それでも続けていかなくちゃいけない」ということも経験してきた。このアニメの場合は転生した先の世界が大事なんですが、僕たちの場合はヒトリエというバンドが一番重要。つまりイコールで結べる部分が多かったんです。実際この曲の歌詞には、自分の思いの丈をけっこう書いてるんですよ。割合でいうと自分自身が6、7割、アニメが3、4割という感じなんですけど、自分たちの今の立ち位置やスタンスを提示した歌詞が書けたなと。

ゆーまお 歌詞、上手だなって思いました。

イガラシ (笑)。いつも上手ですよ。

シノダ 褒められた(笑)。

ゆーまお シノダの歌詞は、自分の心の声がそのままセリフみたいになってることが多かったんですよ。でも「オン・ザ・フロントライン」は作品にも寄り沿っているし、丁寧に書いてくれた印象が強いですね。

wowakaさんがいたらなんて言われるか

──両A面のもう1曲は「センスレス・ワンダー[ReREC]」。今年1月に配信されたシングル「10年後のセンスレス・ワンダー」の収録曲ですが、メジャーデビュー曲をもう一度レコーディングしたのはどうしてなんですか?

ゆーまお デビュー記念日はいつもライブでお祝いしてたんだけど、今年は3人で録った「センスレス・ワンダー」を出そうということになって。10年前のリリース日である1月22日に「10年後のセンスレス・ワンダー」として配信したんですけど、このタイミングじゃないと“ReREC”はできないと思ったんですよね。寂しいとかカッコいいとか、いいとか悪いとか全部ひっくるめて、3人だけでやってみようと。シノダさんのギターもほぼダビングしてないんですよ。

シノダ 普段ライブで弾いてる内容とほぼ同じですね。「センスレス・ワンダー」はライブでもずっとやってるし、そのホットな状態をパッケージングしたくて。

イガラシ 「センスレス・ワンダー」を改めて知ってほしいという思いも強かったですね。「10年後のセンスレス・ワンダー」には2014年に発表した原曲をミックスし直した音源「センスレス・ワンダー[Original Rec 2024 Mix]」も入ってるんですけど、オリジナルの曲も改めて広まってほしくて。4人で作ってきた曲であるということを忘れてほしくないし、今の形を示しつつ、元のオリジナルも聴いてほしいという。

シノダ うん。

イガラシ “ReREC”のレコーディングに関しては、さっきシノダが言った通り、ライブに近い形になってます。ギターも1人で弾き切れるし、ベースも今のライブでやっている感じで。少し音が足りなくても、ソリッドなほうがいいということですね。

──「センスレス・ワンダー」の原曲はwowakaさん、シノダさんのツインギターですが、3人になってからはwowakaさんのギターの役割をイガラシさんのベースが担っていて。

シノダ 3人でやるとなったときに「イガラシくんがやるしかないよね」って話したよね。

イガラシ しょうがないですよね、それは。特に「ギターのリフから始まって、もう1本ギターが被さってくる」みたいなアレンジの曲はベースでがんばるしかないので。

シノダ 3人という制限の中で無理矢理やる、という。スリーピースバンドのよさって、そういうところでもあると思うんですよ。

イガラシ うん。BLANKEY JET CITYのライブ盤を聴くと、全部3人だけでやってるじゃないですか。しかもグレッチのギターだから全然歪んでなくて。そういうのもカッコいいなと思ってましたからね。

シノダ しかもすごく広がりがある音だしね。音数自体は減ってるけど、そこらへんのバンドよりは多いだろ?という気持ちもあって。

ゆーまお 俺もそう思う。“そこらへん”がどこらへんかはわかんないけど(笑)。

イガラシ あと、単純にこの10年間の成長がわかる。

ゆーまお 本当にそう。10年前の「センスレス・ワンダー」のドラムのレコーディング、バカほど時間がかかったんですよ。朝までやっちゃって、みんなに迷惑をかけて。

ゆーまお(Dr)

ゆーまお(Dr)

イガラシ ヒトリエ史上、ドラム録りに一番時間がかかった曲ですね。

ゆーまお 何がダメなのか、何ができてないかもわからなくて。

シノダ みんな未熟だったから。

ゆーまお そうだよね。“ReREC”のときはドラムの音作りからレコーディングまで1時間半くらいで終わったんですよ。それが“10年”ってことかなと。

イガラシ でもwowakaさんがいたらなんて言ってたかわかんないけどね。そもそも10年前に時間がかかったのも、叩けなかったんじゃなくて、wowakaさんの要求値の高さになかなか届かなかったからで。

ゆーまお そうだった。確かにwowakaさんがいたら、なんて言われるかわかんないな……。ただ、レコーディングにかかる時間はめちゃくちゃ短くなってるんですよ。「アンノウン・マザーグース」(2017年リリース)以降は2、3テイクで決めてます、自分。

──そう言えば「アンノウン・マザーグース」を「THE FIRST TAKE」で披露したことも大きな話題になりました。あんな高難度の曲を一発撮りでやるって、すごいですよね。

イガラシ まあ、ずっとライブでやってるので。

シノダ 自然にやれましたね。

ゆーまお そうなんだよね。ライブと同じことを一生懸命やったらああなった、という感じです。