「あいつはこんなに難しい曲を歌ってたのか」
──2019年6月に行われた「wowaka追悼 於 新木場STUDIO COAST」ではシノダさんがボーカルを担当し、スリーピース編成で約1時間のライブを敢行。さらに9月から11月にかけて全国ツアーも行われましたが、3人でヒトリエの曲を演奏することに対しては、どんなことを感じていますか?
イガラシ 一番何かを感じているのは、シノダでしょうね。
シノダ 俺だけ今までとはまったく違うことをやってるからね。いつも「音が足りねえな」とは思ってるんですが、4人でやっていた曲をスリーピースの音に落とし込んで、それをカッコよく聴かせるという楽しさもあって。歌に関しては、まず、ビックリしましたね。「あいつはこんなに難しい曲を歌ってたのか。信じらんねえヤツだな」と。僕も曲を書いたり、歌ったりしていたことがあるんですけど、「こういう発想は自分にはないな」と思って。例えば「歌うことを考えたら、こんなに(歌詞の)文字数をぶっこまないだろ」とか。そんな曲ばっかりだから「これは俺にはやれないな」っていう……いや、やってるんですけど。
イガラシ ハハハ(笑)。
──曲を作っているときは、ライブで演奏して歌うことを考慮してなかったのかも。
シノダ たぶん。もちろんライブで歌うことはわかってるんだけど、思い付いたことは形にしたくてしょうがなかったんだろうなと。
──イガラシさんはどうですか? スリーピースでヒトリエの曲を再構築することについて。
イガラシ ヒトリエの楽曲の構造的に、ベースという楽器をオン / オフの装置みたいな使い方にしていることが多いんですよ。一般的には「ドラムとベースがずっとあって、上モノとしてギターが鳴っている」だと思うんですが、ヒトリエはそうじゃなくて、基本的にギター2本があって、ベースが出たり入ったりしてるんです。「ベースはイントロでは弾いてるけど、Aメロは何もやってない」とか。それはwowakaの曲の特徴の1つだと思いますが、そのアレンジのまま3人でやると、曲が成り立たない瞬間が出てくるんです。ギター2本で構成されていたフレーズをベースでカバーしたり、アンサンブルを再構築しなくちゃいけないところもあって。それは今も続けているところですね。
──ゆーまおさんにも聞きたいのですが、3人でステージに立つと、ドラムの位置から見える景色も大きく変わったんじゃないですか?
ゆーまお 確かにそうですね。最初はどう振る舞えばいいかわからなかったんですよ。wowakaがいなくなって、突然目の前の景色が開けたことに戸惑ってしまって。結論から言うと、そのことで自分が変わる必要はなかったんですけどね。ただ、ライブの雰囲気は少しずつ変わっているかもしれない。4人のときはどこか緊迫した空気感が出ていたというか。ライブの本分は「みんなで楽しく盛り上がれればいい」ということかもしれないけど、その反面、演奏に聴き入って、まったく動けないこともあるじゃないですか。ヒトリエはそういうムードを出していた印象があったし、それをやれている実感もあったんです。でも、3人でライブを始めて……“できる、できない”ではなく“とにかくやろう”という気持ちだったんですが……ツアーを経験し、フェスに出させてもらう中で、4人のときとは違うアプローチになってきたというか。なんて言うか、開けたライブをしないと勝負できない感覚が俺の中にはあって。お客さんの表情を見ていても、ちょっとずつヒトリエのライブの空気感が変わってきていることを感じましたね。まあ、それも自然な変化というか、自分たちも「開けたライブをやろう」と話し合ったわけではないんですけどね。
──おそらくライブ会場に足を運ぶオーディエンスの感情も、4人のときとは違うでしょうし。
ゆーまお そうですね。うれしい気持ちで来てくれる人もいるだろうし、悲しい思いを抱えている人もいると思うんですよ。実際、泣いている人も目にするので。その関係性の中で、3人のライブの基本形みたいなものができて、次のライブに臨めたらいいなと思ってます。
今の自分たちが提示できるカッコよさを突き詰めたい
──ベストアルバムのリリース後に予定されていた全国ツアーは新型コロナウイルス感染拡大の影響で残念ながら中止となってしまいましたが、10月5日には初の生配信ライブが行われます。音楽的な発展も含めて、この先はどんな活動をしていきたいですか?
イガラシ 音楽的な発展というところまでは、まだ考えられないですね。2019年に3人でツアーを回ったときはまだ混乱していたし、とにかく「自分たちとお客さんが集まる場を作りたい」という気持ちが先行していて。演奏がどうこうというより、感情が優先していたんですよね。
ゆーまお うん。
イガラシ それを踏まえて、今思っているのは……ベストアルバムに「ローリンガール」のライブ音源(「ローリンガール」2016.2.18 at下北沢GARDEN)が入ってるんですけど、それを聴いたときに「こんなにカッコよかったんだ!?」と感じて。当時、何を心がけて演奏していたか記憶にないし、それくらい4人でライブを行うことが“日常”だったんですが、わかってるつもりだったけど改めてこんなにもカッコよかったんだなと。今は3人になって、同じようにはできないですが、「こういう感動をこれからも作りたい」と思ったんです。今後に向けて、今の自分たちが提示できるカッコよさを改めて突き詰めたい。まずはそこから、という感じですね。
ゆーまお 2019年までは勢いでライブをやっていた部分もあって。3人で演奏することにもっと説得力を持たせないといけないし、ガムシャラにやるだけではなく、冷静に見つめ直す時間も必要なのかなと。3人でコミュニケーションを取りながら、そこをやっていきたいですね。
シノダ まあ、なんでしょうね……バンドを続けていく、これからもやっていくという気持ちはあるわけで、そう決めた以上、進んでいくしかないんですよね。ただ、具体的にどうこうというのは、正直自分もよくわかってなくて。カッコよくないことをやっちゃいけないというか、「常にカッコいいことをやっていこう」というのがwowakaと僕らのスローガンなので、そこを曲げずにやりたいとは思っています。すげえ当たり前のことなんだけど、今言えるのはそれだけですね。
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