音楽ナタリー Power Push - Hi-STANDARD

難波章浩が語る、今のハイスタ

「まだまだ可能性あるな!」って思ってもらいたい

──「俺は今でもハイスタのデモを作ってる」っていう話は2000年代によく難波さんから聞いてましたけど、その頃のデモを持ち込まなかったのは自分の中で何かが違ってたんですか? 

うん、感覚的に。当時作ったものをやっても今のハイスタじゃないでしょうって思って。それで今回はできるだけみんなでジャムったね。あくまでも今の3人で作ったものをやりたかったんだよね。だからエモいんだと思う。

──いろんなノウハウとか経験が身に付いてるぶん、1990年代や2000年代よりも今のほうが強いかもしれないですね。

難波章浩(Vo, B)

それは思う。だから世の中の「ああ、もうやりたいこともできないなあ」って嘆いてるおじさんたちにも「まだまだ可能性あるな!」って思ってもらいたい。そう、「ANOTHER~」は被災地に向けて歌った曲でもあるんだよね。「町の灯りもみんなの上に灯っていく」(訳詞)っていうのは被災地のことで、復興でがんばってる人たちにも「よっしゃあ、がんばろう!」って思ってもらいたかったんだよ。

──ああ、確かにそういう読み取り方もできますね。でもハイスタの歌詞っていろんなふうに受け止められますよね。あと、この曲の歌詞で面白いのは、「これはラブソングじゃない」っていう一節で。パンクに愛の歌を持ち込んだバンドが「そうじゃない」と言い切ってしまうという。

あ、さすが。実はそうなんだよね。でも、逆を言うとラブソングでもあって。かと思いきや、健くんと俺の話かもしれないし、ハイスタとみんなの話かもしれないし、いろんな人たちに置き換えられるようにしたかったんだよ。

──あまり言われてないことですけど、ハイスタの音源がまたPIZZA OF DEATH RECORDSから出るっていうのも実はすごいことですよね。

ハイスタが活動休止して、俺がツネちゃんと一緒にピザオブデスから離れたあと「そこから関係が修復されるかどうか」っていう不安がみんなの中ですごくあったじゃん?「大丈夫か? このまま離れちゃうのか?」って。そこを乗り越えてまたこうなってるっていうのがヤバいんだよね。だって「ピザ以外ないでしょ? ほかにどこ行くの?」って感じじゃん。とは言いつつ、最初に健くんが「じゃあ、どこからこれリリースしよっか?」って聞いてきたのはウケたけどね(笑)。「いや、ピザでしょう!」って言ったら、「ああ、そう?」って。ピザから出すのを当然のことのように進めなかった健くんは渋いなと思った。

──それは渋い。そういう人なんですよねえ。

そういうところあるんだよね(笑)。

「Gift Shits」と銘打たれたカバーシングル

──さて、今回のカバーシングル「Vintage & New, Gift Shits」なんですけど、そもそもなぜこれをリリースしようと思ったんですか? セールスは別としても、「ANOTHER~」の1枚だけで十分なインパクトを残す自信はあったと思うんですけど。

まあね。このシングルに入ってるThe Supremesのカバー(「You Can't Hurry Love」)も実はだいぶ昔からある曲で、8割ぐらいできてたのよ。Hi-STANDARDはThe Damned、The Who、Ramonesなんかのカバーから始まったバンドだし、(高円寺)20000Vでやった初ライブなんてカバーばかりだったぐらいだから、それをもう1回ここでやりたかったんだよね。それで「The Supremes(のカバーが)あるじゃん。せっかくライアン来るし、録る?」って話になって、最終的に「ANOTHER~」の収録曲4曲に、カバー曲を加えた計6曲を一気に録ることになったんだよね。それで俺が「6曲入りのミニアルバムにしようよ」って提案したんだけど、健くんが「いや、そこは分けよう」って。その代わりに、昔、枚数限定でリリースした7inchアナログに入ってる「Happy Xmas(War Is Over)」と「Money Changes Everything」のリマスタリングバージョンを入れて、クリスマスプレゼントっぽくしようっていう話になった。

──それが今作のタイトルにもある“Gift Shits”ということなんですね。

そう。「ANOTHER STARTING LINE」の4曲だけだと違和感のあるヤツもいるかもしれないけど、The Supremesのカバーを入れてあげれば安心するのかなって思ったから、本当は「ANOTHER~」に入れたかったんだけど、結果的にこれでよかったかな。

今のファンと新しい関係性を築きたい

──メンバー3人共そうですけど、難波さんは特にハイスタファンのことを考えますよね。

考えるねえ……今回に関してはみんなに安心してもらいたかったんだよ。活動休止してる間に俺もいろんなことでみんなを悩ませちゃったりしたし。それに、前の俺たちと一緒に生きてきた人ならハイスタのライブの雰囲気はわかるじゃん。だけど、これからはそれを知らない人たちと一緒にまた新しい関係を作らなきゃいけないでしょ? そのためには新曲が絶対に必要だった。去年、ハイスタで3本のライブをやったけど、昔の曲をやってるだけじゃそうはなれないと思ったんだよね。

──去年のライブを通して、今のファンと新しい関係性を築きたいという気持ちが芽生えたと。

そうそうそう。古いも新しいもなく、みんなでまた一緒にスタートしたい。

──今、日本のパンクの歴史に新たな数ページが書き加えられますね。

歴史に残らないのがハイスタなんだけどね(笑)。いいんじゃない? 今までみたいに知る人ぞ知るって感じで。でも「知る人ぞ知るでいい」って言ってるヤツらがチャートで1位になっちゃうのがウケるよね。可能性感じちゃうよね。「これから音楽どうなるの!?」ってみんな言ってるじゃん。でも、そんなことで悩んでる場合じゃないでしょ。素敵なことやって、素敵な生き方して、異質な音楽作ればヤバいことになるんじゃん? 俺も今、こんなふうにして普通にインタビュー受けてるけどさ、やっぱりこれまで乗り越えてきたことが普通じゃないもん。

──それは本当にそう思います。

そこを乗り越えて、人として成長して、いい感じになれたからこういうことができるんだなっていうのが自分でもわかったし。こういうふうになるのが本当に夢だったからね。もう1度ハイスタをやるなんて到底無理なぐらい、わけわからない時期もあったわけじゃん(笑)。

──確かに(笑)。

そんなところまでいってたのに今こうなってるんだからすごいよね……世の中には困難がたくさんあるけど、それも乗り越えられるぜっていう気持ちはほかの2人も持ってるんじゃないかな。

またびっくりさせたい

──さて、ちょっと気が早いかもしれないですけど、来年の予定を教えてもらえませんか?

今も週1でスタジオには入ってるから、まあ曲作りを続けるだろうね。その間に生まれてくるものを形にして出したいけど、今のところ「これをやろう」っていうのはないかな……でも、またびっくりさせたい。

──散々びっくりさせておいて、まだ足りないんですか(笑)?

だってまだ始まったばかりだから。これからも楽しませたいなとは思います。

──まあ3人が何を考えてるのかはわかりませんけど、こっちは16年も待ったんだから、この際いくらでも待ちますよ。

そうだよね(笑)。待ってて!

難波章浩(Vo, B)
カバーシングル「Vintage & New, Gift Shits」2016年12月7日発売 / PIZZA OF DEATH RECORDS / PZCA-80 / 1296円
「Vintage & New, Gift Shits」
収録曲
  1. I Get Around
  2. You Can't Hurry Love
  3. Money Changes Everything
  4. Happy Xmas(War Is Over)
公演情報
GOOD JOB! RYAN TOUR 2016
  • 2016年12月3日(土)岩手県 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO
    <出演者>
    Hi-STANDARD / GOOD4NOTHING
  • 2016年12月5日(月)宮城県 石巻BLUE RESISTANCE
    <出演者>
    Hi-STANDARD / GOOD4NOTHING
  • 2016年12月6日(火)宮城県 仙台PIT
    <出演者>
    Hi-STANDARD / locofrank
  • 2016年12月8日(木)新潟県 新潟LOTS
    <出演者>
    Hi-STANDARD / 04 Limited Sazabys
AIR JAM 2016
  • 2016年12月23日(金・祝)福岡県 福岡 ヤフオク!ドーム
    <出演者>
    Hi-STANDARD / ONE OK ROCK / MAN WITH A MISSION / 10-FEET / 東京スカパラダイスオーケストラ / BRAHMAN / Crossfaith / WANIMA / HEY-SMITH / The BONEZ / HAWAIIAN6
  • AIR JAM 2016
Hi-STANDARD(ハイスタンダード)
Hi-STANDARD

難波章浩(Vo, B)、横山健(G, Vo)、恒岡章(Dr)からなるパンクロックバンド。1991年から活動を開始し、都内を中心にライブ活動を展開。1994年にミニアルバム「LAST OF SUNNY DAY」をリリースし知名度を高める。1995年に「GROWING UP」、1997年には「ANGRY FIST」という2枚のフルアルバムをメジャーレーベルから発表。これらの作品は海外でもリリースされ、好セールスを記録した。また、この時期には海外でのライブ活動も開始。1997年には主催フェス「AIR JAM」をスタートさせ、日本のパンクロックシーンに大きな影響を与えた。1999年に自主レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」がメジャーから独立し、第1弾作品としてアルバム「MAKING THE ROAD」をリリース。同作はインディーズとしては当時異例のミリオンヒットを達成した。その後も国内外で精力的なライブ活動を続けたが、2000年の「AIR JAM 2000」を最後に活動休止。メンバーはそれぞれソロやバンドで音楽活動を続けた。

約11年におよぶ空白の時間を経て、2011年4月に難波、横山、恒岡がTwitter上で3人同時に「9.18 ハイ・スタンダード AIR JAM。届け!!!」とツイート。そして翌5月には、9月18日に横浜スタジアムで東日本大震災の復興支援を目的とした「AIR JAM 2011」の開催と、Hi-STANDARDがライブを行うことが明らかになる。国内外15組のアーティストが出演したこのフェスで、ハイスタはヘッドライナーとして11年ぶりにライブを実施した。2012年2月にはこの日のライブを収めたライブDVD「Live at AIR JAM 2011」を発売。同年9月には宮城・国営みちのく杜の湖畔公園みちのく公園北地区風の草原で「AIR JAM 2012」を2日間にわたり行った。2016年10月に事前告知なしで突如16年半ぶりの新作「ANOTHER STARTING LINE」をリリース。同年12月にカバーシングル「Vintage & New, Gift Shits」を発表し、レコ発ツアー「GOOD JOB! RYAN TOUR 2016」、4年ぶりの「AIR JAM」を開催する。