ナタリー PowerPush - 甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)×ROY(THE BAWDIES)
ロックンロール対談
ピート・タウンゼントの心意気をカバーする
──こういうお話を伺っていると、本物のロックンロールがもっとたくさんの人に届けばいいのに、と感じるんですが、お2人は例えばヒットチャートのようなものを意識することはありますか?
ヒロト 僕はないです。ただ精一杯やるだけです。だから例えばうどん1杯「これは俺の最高傑作だ」ってうどんを作ったら、それを同じ場所で作り続けるだけ。そうするとさ、食べた人が「うまかったぜ」ってもう1回来てくれる。友達連れてくる。気がついたら行列できる。それだけでしょ。それ以外のことは考えないです。おいしくする以外の方法を何か考えてヒットさせるなんていうのは僕の中にはない。
ROY 僕らもそうですね。みんなが聴きやすいように薄めて出すみたいなことは全く思ってないですし。
ヒロト ね、あの店のほうが人気があるからあの店に近づけようとかさ、しょうゆの味変えたりとかしないよね。
ROY そうですね(笑)。ただ1つ、例えばリトル・リチャードを今の中学生にいきなりポンと渡したときに、やっぱり時代が違うせいで、もしかしたら音質とかスカスカに感じるかもしれない。そのせいで入ってこられないっていうのは残念だと思うんですね。だから今の僕らは、現代に生きてるロックンロールバンドとして、現代の感覚を入れて、今の世代の人たちにも伝わるものをやりたいっていうのは思ってます。60年代の音が好きだからそれをそのままやろうってことではなくて、あのときの熱を今の人たちに伝えたいんです。
ヒロト だからあれだよね。コピーとかカバーっていうのもそうで、曲をカバーするんじゃなくて、そこにある熱をカバーするんだよ。
ROY そうですね。
ヒロト 例えばピート・タウンゼントがウインドミル奏法で腕をぐるぐる回した、あの形をコピーするんじゃなくて、回してるときのピートの心、「この野郎!」っていうあの心意気をコピー、カバーするんだよ。だから表面的なスタイルは本当はなんでもいいんです。
お母さんにパンクロックを聴かせた
ヒロト 例えばスリーコードでエイトビートならみんなロックンロールかって言ったらそうじゃないものもあるわけ。スタイルじゃないんですよ。だから様式美ではなく、そこにある熱が大事なんですね。
ROY 僕が50年代60年代の音楽が特に好きなのもそこですね。今は音の厚みや熱さえもテクノロジーで増やせたりする。でも当時はそういうものが発達していなくて、人間の感情を爆発させることでしか伝えられない。そんな時代だから、やっぱり振り切れてる感覚が全然違うんですよね。僕の場合は、CDショップに入ったときにたまたまTHE SONICSが流れてて、そこで出会ったんですよ。昔のバンドだって知らなかったから「なんだこれは?」「すごいバンドがデビューした!」と思って「これは流行る!」って言ってたんですけどね。
ヒロト あはは(笑)。
ROY それで当時最初に思ったのは、このTHE SONICSのCDを世界中の若い人たちに配って回りたい、これを聴いたらみんな絶対衝撃を受けるのにって。でもそれが無理だったから、自分たちがこの熱を伝えられるバンドになろうって思ったんです。そのとき別にバンドやってたわけじゃないけど、自分たちがそれをやることがすごく意味のあることだって感じたんですよね。
ヒロト わかる。僕はよく食べ物に例えるんですけど「こんなうまいもの、食ったことないなら食ってみろ」っていうことなんです。だって俺、お母さんにパンクロックを聴かせたもん。
ROY あははは(笑)。
ヒロト 「お母さんこれ知らないんじゃないかな?」って。自分のお母さんが普通に毎日暮らしてるのを見て「この人これを知らないからこんな生活してるんだ」と思って聴かせたの。なんかあんまり反応なかった。
ROY (笑)。僕もサム・クックを初めて聴いたときに母親に聴かせたんです。でもうちの母親は70年代にアメリカにずっといた人なんで。
ヒロト おー!
ROY だからそのときに「いや、わかるよ。私はちっちゃい頃にあなたにこういうのを聴かせてたのよ」って言われて、そこで初めて自分がレイ・チャールズとかTHE TEMPTATIONSを聴いて育ったことに気付いたんです。親の世代が子供に音楽を聴かせたりとか、生活の近くに音楽があるのってやっぱりいいですよね。
ヒロト でも例えば今ここに並べたようなパンクロックが好きだったのは、当時1クラス50人くらいいたんだけど、僕1人だったからね。流行ってなかったんです、パンクは。ちょっと賢い子は買わないんだよ。
ROY パンクに出会ったのは、最初はレコード屋ですか?
ヒロト 僕はラジオで聴いて「なんじゃこりゃー!」と思った。その前から60年代の音楽は聴いていて「ああ、僕が好きなのは古いものなんだな」っていう感覚がどっかにあった。「ロックンロールの時代っていうのが昔あったんだな」くらいに思ってたの。だけどこれが最新シングルですって紹介されて、SEX PISTOLSが公共の電波で流れたときに、「自分も今ロックをやってもいいんじゃん!」って思ったの。そのときに僕は、それまでやってみたい職業は1つもなかったけど初めて「ミュージシャンになりたい」って思ったんだよ。
最初は「何これ?」でもいい
──それにしてもこんなにカッコいい本物のロックンロールがあるのに、どうして僕たちは少数派なんですかね。世の中の人たちは、みんななぜこれを好きにならないんでしょう?
ヒロト そんなことはわからないよ(笑)。人はそれぞれだから。確かにさっきも言ったけどさ、こんなカッコいいんだから流行るに違いないっていう感覚、それはあるよね。でもそうなんないね。
──ならないですね。
ヒロト それはでもある種のファシズムだから。すごく高い理想を掲げる人がいたとして、それを政策として推し進めていってもいい国にはならないでしょ。ただ楽しめるチャンスがあるのに見逃している人を見るとおせっかい焼きたくなる。「ちょっと聴いてみろよ」って。
ROY いきなりその人が「これすごいな!」って言わなくてもいいんですよ。「何これ?」でもいいと思う。まず足を止めるってことがすごく重要だと思います。
──それではそろそろ時間ですが、お2人とも話し足りないことなどあれば。
ROY いや、今日はヒロトさんがロックンロールに対してこういう気持ちだってことを再確認できて、もうすげえ楽しかったです。
ヒロト もう僕らは話す必要ないよね。
ROY あはは(笑)。
ヒロト 同じなんだってわかったから。よかったです(笑)。
- THE BAWDIES ニューアルバム「1-2-3」 / 2013年1月16日発売 ビクターエンタテインメント
- 「1-2-3」初回限定盤
- 「1-2-3」初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / VIZL-516
- 「1-2-3」通常盤[CD] 2800円 / VICL-63991
- アナログ盤[CD] 2800円 / SEEZ RECORDS / SEZ-3025
CD収録曲
- DANCE THE NIGHT AWAY
- LONELY MAN
- ROCK ME BABY
- I WANT YOUR LOVE AGAIN
- LEMONADE
- LISTEN
- TAKE A CHANCE
- RED ROCKET SHIP
- SHA LA LA
- CAN'T STOP GROOVIN'
- SING YOUR SONG
- 1-2-3(初回盤限定ボーナストラック)
初回限定盤 特典
- ボーナストラック「1-2-3」収録
- 限定DVD「Recording movie : a Day in 1-2-3」(45分収録)付属
- 全国ツアー第2弾発表公演のチケット先行抽選予約シリアルナンバー封入
- 特色エンボスのスペシャルパッケージ仕様
- ザ・クロマニヨンズ ニューアルバム「YETI vs CROMAGNON」 / 2013年2月6日発売 アリオラジャパン
- 「YETI vs CROMAGNON」初回限定盤
- 「YETI vs CROMAGNON」初回限定盤[CD+DVD] 3675円 / BVCL-30008~9
- 「YETI vs CROMAGNON」通常盤[CD+DVD] 3059円 / BVCL-489
- 「YETI vs CROMAGNON」アナログ盤 3059円 / BVJL-6
CD収録曲
- 突撃ロック
- 黄金時代
- 人間マッハ
- 涙の俺1号
- チェリーとラバーソール
- 団地の子供
- ホッテンダー
- 日本の夏ロックンロール
- 炎
- ヘッドバンガー
- 南から来たジョニー
- 燃えあがる情熱
初回限定盤DVD収録内容
- 燃えあがる情熱(スタジオライブ)
- 南から来たジョニー(スタジオライブ)
- 炎(スタジオライブ)
THE BAWDIES(ぼうでぃーず)
ROY(Vo, B)、TAXMAN(G, Vo)、JIM(G)、MARCY(Dr)によって2004年1月1日に結成。リズム&ブルースやロックンロールをルーツにした楽曲や熱いライブパフォーマンスが各地で噂を呼ぶ。2009年4月に発表したメジャー1stアルバム「THIS IS MY STORY」は第2回CDショップ大賞を受賞。2011年11月には初の日本武道館公演を成功に収めた。2013年1月に4thアルバム「1-2-3」をリリースし、同年2月より横浜アリーナ、大阪城ホール公演を含む59公演の全都道府県ツアーを開催。
ザ・クロマニヨンズ
1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)を中心に、2006年夏より始動。甲本と真島に小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組で、2006年9月にデビューシングル「タリホー」を発表する。その後もリリースを重ねながら年間を通してコンスタントにツアーを敢行。数々の夏フェスにも出演し、ロックファンを熱狂させ続けている。通算7枚目となるアルバム「YETI vs CROMAGNON」を2013年2月6日にリリースし、2月20日からは「ザ・クロマニヨンズ ツアー 2013 イエティ 対 クロマニヨン」をスタートさせる。