平井堅|密室のラブソング

風が吹く草原より密室が好き

──去年JUJUさんとお話ししたときの証言によると、飲みの席で、堅さんが「やさぐれた歌をJUJUに歌わせたい」と言ったのがきっかけとか。

それは言ったと思います。

──そこで「僕が作る」的なことを言ったと。

うーん。気が大きくなってたのか、なんなのか(笑)。でもその、お互い酔っぱらってるときに「そういう歌をJUJUに歌ってほしい」というのは、そう思ってたから言ったんだと思います。そもそもそういう歌が好きなんですよね。「優しい風が吹いてあなたと一緒に歩いていく」みたいな歌より、夜中の3時にスナックで、倒れそうになりながら中島みゆきを歌ってるような、そういう歌のほうが好みというのはあるんで。

──わかります。

なんか、ディーバって闇を背負ってなんぼみたいなところがある気がするので。闇とか孤独が似合う職業だと思うんですよ、男性より。そんな気がするから、女性に提供するときはそこを出したいなと思うのかもしれない。

──そう言えば、安室奈美恵さんと一緒に歌った「グロテスク」のときもそうでした。彼女が歌いそうもないドス黒い歌詞を、あえて歌わせるみたいな。

平井堅

そうでしたね。ほっとくとそういう歌詞ばかり書いちゃうんですよ。あと、去年出した「知らないんでしょ?」という曲があるんですけど、あれも平手(友梨奈 / 欅坂46)さんをちょっとイメージして書きました。

──JUJUさんは「越えられない夜にひとりきり 床のホコリを見ていた」という一節にいたく感銘を受けたと言ってました。

それはお会いしたときも直接言われました。なんか、密室が好きなんですよね。「#302」もそうですけど、「かわいそうだよね」も部屋とかクローゼットとか、密室系ですよね。「even if」(2000年12月発売のシングル)も、あれはお店ですけど同じような感じだし。

──密室感は、平井堅を語るうえで大事なキーワードだと思います。

風が吹く草原みたいなイメージはちょっと苦手というか、食指が動かない(笑)。閉ざされた空間がすごく好きで、壁があるほうが言葉にしやすいというのはあります。

若い人はみんなカッコいい

──そしてCDにはもう1曲、「トドカナイカラ(Kan Sano Remix)」が入ります。

Kan Sanoさん、カッコよかったです。リミックスは僕の知らないサウンドプロデューサーを知るきっかけにもなるし、これがきっかけでまたお仕事ができるといいなと思います。今の若い方はみんなセンスがよくて素晴らしいなと思います。平均しておしゃれでカッコいいから、頭1つ抜けるのは大変なんだろうなと思いながら、他人事のように聴いてますが。ダサい人がいないので、むしろ若くてダサい人を聴いてみたい。

──どういうことですか(笑)。

いや、なんか、みんな均一的にカッコいいから。ここでとんでもなくダサい人が出てきたら面白くないですか?

──例えば若い世代のアーティストで、自分と近い匂いがする人はいますか?

うーん、そんなふうに自分と重ねて見ることはないですけど、みんなおしゃれだなとは思います。今は変革の最中だと思うんですけど、例えばサブスクのチャートで活躍されてる方はみんな好きですね。僕にとってはすごく心地いい時代というか、「なんでこの人売れてんの?」と思う人がいない。好き嫌いはありますけど、例えば女性ボーカルのあいみょんを筆頭にたくさんいる中で、みんな声がいいなあと思っちゃう。

働きすぎだろ

──平井さんの年内の予定としてはクリスマスイブに「Ken's Bar」の上海公演があって、来年はついにデビュー25周年を迎えます。

そうなんですよね。まだ何も決まってないですが、全国ツアーはやろうと思っています! そこまではがんばろうと……。

──そこまでは?(笑)

そのあとはちょっとお休みしたいかな。だって、働きすぎだろ?と思いません?50手前にもなって、いまだに一生懸命、チャートソングの中でがんばりすぎじゃないかな?と思うんで。

──うらやましいですけどね。

ありがたいことですけどね。でもそろそろ、ちょっと中年感も出さないと(笑)。もう少しゆっくりしてもいいのかなとか思います。

──渋くなるのはいいですけど、健康には気を付けてください。

はい。今年はケガとちょっとした手術をしましたけど、今はピンピンしてますし大丈夫です。

──ファンの皆さんは来年のアニバーサリーをお楽しみにということで。

はい。年末の「Ken's Bar」は上海だから行けないよという方も多いと思うので。来年はいろんな場所で皆さんとお会いできたらなと思っています。