平井堅が12月4日にニューシングル「#302」をリリースした。
本作の表題曲「#302」は、TBS系金曜ドラマ「4分間のマリーゴールド」の主題歌であるミディアムバラード。物語をドラマチックに彩る主題歌としての役割を果たしながらも、ドラマとは独立したラブストーリーを持つ。近年の平井のバラードの特徴である、音数を削ぎ落としたミニマムでアコースティックなナンバーだ。
平井が音楽ナタリーのインタビューに登場するのは、配信シングル「いてもたっても」の発売時(参照:平井堅「いてもたっても」インタビュー)に続いて今年2度目。彼にとっての2019年とは? 最近の音楽の好みは? そして来年、2020年のデビュー25周年に向けての抱負は? 飾らない言葉のうちにさまざまなヒントを忍ばせつつ、たっぷりと語ってくれた。
取材・文 / 宮本英夫
今年は悶々としていた
──今年もそろそろ終わりですけれども、どんな印象ですか? 平井堅の2019年は。
本当に、あっという間という感じですね。
──そうですか? 春には「Ken's Bar」の20周年ツアーもありましたし(参照:平井堅、あいみょんや亀田誠治迎えて「Ken's Bar」20周年イヤー締めくくる)。
そんなこともありましたね(笑)。
──まずは今年を振り返る話から始めようと思ったんですけどね(笑)。
今年のことで言うと大事に至らずに済んだんですが、ケガや病気をしたことがパッと思い出されますね。健康のありがたみを噛み締める1年でした。
──制作面ではどうですか?「いてもたっても」と今回の「#302」と、今年は2作リリースしてます。
その2プロジェクトと、来年に出せればいいなと思うものの制作をしていて、あとはわりと悶々としていた気がします。「今後、人としてどうやっていけばいいんだろう?」みたいなことを考えたりして。そんなことを考えることが多い1年だった気がします。
──でも、いい曲ができたので。いい年だと思います。
いやいや。ありがとうございます。
「お酒と歌」は一番歌にしやすい
──「#302」は、同じラブソングでも明るくてポップな感触の「いてもたっても」とはまた違いますね。アコースティックギター主体のピュアなバラードです。
そうですね。ただ楽曲としては、「いてもたっても」「#302」とスイートなラブソングみたいなものが2曲続いたので、個人的には正統な歌手活動だったなという印象があります。オーセンティックなことをやって、次に馬鹿みたいなことをする、それが自分のルーティンのようになっているんですよね。オーセンティック、オーセンティックと来てインド人(参照:平井堅がインド人にまぎれて踊る!超大作PV)、みたいな。
──あはは(笑)。確かに。
「そろそろ狂ったこともしたいな」という気持ちもちょっとありますが。でも一生懸命やりました。
──今回は、マンガ原作のドラマ主題歌ですか。
はい。でもドラマに即してという感じだけではなく、別個のラブストーリーを紡ぐつもりで作りました。毎話毎話展開が速いけど、視聴者は結末を知らないドラマなので。それにべったり即して作ると、何も言ってないような、ふわっとした曲になっちゃいそうで。ドラマと共存しつつ独立したものにしたいなと思ったんです。
──これはこれで、ワンシチュエーションの物語になっていますよね。舞台はカラオケボックスです。
誘われて、カラオケに行って、キスをして(笑)。時間で言うと2、3時間ですね。人にもよると思いますが。
──まあ2時間勝負でしょうね(笑)。もともと何かあったんですか? ストーリーのもとになるような体験とか。
正直言うと、頭をかすめたのはよく行ってたカラオケボックスで、その店がなくなったんですよ。数えきれないほど通っていたので「寂しいな」という気持ちがあって、そのカラオケボックスでの体験や、郷愁や、景色みたいなものをぼんやり思い浮かべてるうちに、こういうストーリーを思い付いたんです。夕景の公園通りを抜けてカラオケボックスに行って……という妄想から作りました。だから、実話を引っ張り出して調味料を振りかけた感じかな。この「ぶっきらぼうな声」の店員さんも、本当にいたんですよ。なぜか僕にだけ愛想の悪い店員さんだった(笑)。
──自分にはなくても、身近な誰かにありそうなストーリーだなと。
こういうドラマ、ありますよね。カラオケボックスもスナックもそうですけど、“お酒と歌”というのはドラマを秘めてると思います。個人的には一番歌にしやすい風景ですね。というか、僕の日常はそれしかない(笑)。それ以外何もしないから、それしかネタがないんですけど。
──「いつか僕が彼を忘れさせる」。前の彼氏と別れたばかりの女性に対する、男のセリフがいいですね。ピュアな言葉。
一応、ピュアなつもりなんですけどね。卑怯でもあるけど。
──ずるくはないですよね。そのへんの塩梅がいいなあと。
でも「どっちもずるい」みたいな感想もあったんですよ。作者ってわりと何も考えずに書いてるから、そんなこと考えもしなかったけど「確かにそうかも」と。
──ああ。確かに彼女のほうが誘ってる感じもなくはない。いろんな解釈ができる曲ですね。
自分としては、より濃度の高いものをと常に思って書いてはいるんですが、それが聴き手にどう伝わるかはわからないですね。情景描写にしても、「防犯カメラ」という言葉が出てきますが、そういうあまりJ-POPにはない言葉や、ワン&オンリーのシチュエーションというものを目指してはいます。
──なるほど。ところで「#302」というタイトルはどこから?
これはカラオケボックスの部屋番号をタイトルにしようと思ったときに……「3階が多かったかな」という記憶があって、別に「#305」でも「#306」でもよかった。特別な意味はないんです。
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ヒゲダンとKing Gnuを歌いました