脇汗ジャージャー
──「重量軽め」というのは、曲名を思い付くきっかけになったという町田くんの走り方にも通じますよね。腕や腿を激しく上下に動かす反重力的な運動なので、今のお話は僕としてはとても合点がいきます。
好きなシーンはたくさんあるんですけど、走るシーンはその中の1つで、かなり引っ張られて書いたところがありますね。あの走り方にすべてが出ている気がして。あれに象徴されるような恋愛って歳を取るとしなくなるけど、昔は自分もしてたなあ……って愛おしい気持ちになるんですよね、大人が見ると。若い子の目にはどう映るのかわからないけど、駐輪場で自転車を全部倒しちゃうシーンとか、かわいいなあって。
──かわいいですよね。この曲はアレンジもとても素敵です。
UTAさんとやるのは2曲目(前回は2016年5月発売の「Plus One」)なんですけど、伝えたイメージに則しつつ超えてくる方だなって今回も思いましたね。アレンジャーさんには最初にお会いしたときにワーッと話すんですけど、自分は全然音楽的には言えなくて、色とか温度とか、漠然としたイメージを伝えます。参考音源を聴いてもらうこともありますが。あと、いつもアレンジャーさんに言うのは「おしゃれでカッコいいものはもちろん好きだし憧れるけど、おしゃれでカッコいいだけのものはイヤなんです」と。ダサさというか、いなたさがどこかにないと、というのが僕のポップスの信条としてあるって話をして「90年代のヨーロッパのポップスのイメージ」という話をしたらこのアレンジが来たんです。
──コーラスのところの参考音源はもしかして松本伊代さんの……。
そうです(笑)。バレたか。「NGならNGって言って」と前置きしたうえで「『センチメンタルジャーニー』なんだけど」と言ったら、スタッフ各位「いいんじゃない?」ということで、こうなりました。
──1番のサビはさらっと終わらせて、2番の同じ箇所では後ろの音が派手に動いたり、さりげないけど耳残りのする工夫が曲の構成にも凝らされていますね。
ですよね。緩急って話もしたんですけど、UTAさんは言えば言うほど彼自身も可能性が広がるような、伸びしろのある方だなって思います。ベーシックができたときに「カッコいいんだけどカッコよすぎなくて、すごくいいですね!」って言いました(笑)。アレンジってやっぱりすごく大事じゃないですか。僕は自分ではできないくせに最近すっごくアレンジにこだわるようになって、大御所さん相手でもいろいろとリクエストしちゃうんですよね。でも気が小さいから、脇汗ジャージャーかきながら「ここが、ここが」って電話で話すんですけど、今回はあんまりなくてよかったです、心労が(笑)。
1文字たりとも妥協できない歌詞の時代
──Aメロ、Bメロ、サビと曲の進行に伴ってとてもきれいに物語が進んでいくのは、平井さんの歌の特徴ですよね。
イヤですね。もっと突飛なことをね……。
──イヤなんじゃなくて、いいところだと言いたいんですが(笑)。
今は歌詞の時代だなって思うんですよ。メロディを軽視してるってことではないけど、歌詞がいい曲が支持されるし、若い人はすごく歌詞を聴いてるなって。単純に英語が少なくなったし、タイトルではいまだにあるけど……僕自身もむちゃくちゃ日本語のタイトル増えましたしね。宇多田ヒカルさんもおっしゃっていたけど、僕もそれは如実に感じていて、自分は生粋のシンガーソングライターではないけど、歌詞はほんっとに侮れないというか、1文字たりとも妥協できない段階に今J-POPは来てるなって思うから、すごく大変ですね。いいことだと思うんですけど。
──「いてもたっても」という言葉の響きからメロディが導き出された部分があると思うんですが、言葉が出てきた段階である程度、曲のイメージも頭にあった?
ケースバイケースなんですけど、まず「いてもたっても」という言葉になんとなくメロディを付けるんですよ。ピアノが上手じゃないから可能な限り鼻歌で作るようにしてるんですけど、例えば「いてもたーってもなーんやららー」とかってバラーディなものになったらそれでいくし、ちょっと違うなと思ったら、アップテンポにして「いてもたってもいられずにー」とか、仮で何個かメロディを作って、そこからどんな物語にしたいか考えてAメロに飛んで、そこに出てくる言葉やメロディを紡いでいくというか。そういう感じでしたね、この曲の場合は。
MV込みで平井堅
──今日完成したばかりだというミュージックビデオを先ほど拝見しました。
大丈夫でした?
──(笑)。さっき言った「かわいい」とか「軽快」みたいなイメージをいい意味で覆すサイケデリックな映像で、そうこなくっちゃ!と思いましたよ。
観た人がどう思うかはホントにわからないので、とにかくがんばってるってことだけ伝われば……(笑)。ヒゲを剃ってメイクして、すごく苦労して魔法使いに扮してるんですよ。ちょっと大げさかもしれないけど、MVは曲と同じぐらい大事に思っていて。MVというものが今どれぐらいの需要があるのかわからないんだけど、とにかく平井堅にとってMVは音源と同じぐらい大事で、MV込みで平井堅なんだって、少なくとも僕自身は思ってます。男性アーティストはよりカッコよく、女性アーティストはより美しく……というJ-POPの横顔商売みたいなMVの常識をぶち壊したいというか、できる限りカッコ悪くと言ったら変だけど(笑)、MVにいくばくかのアート性を盛り込めたらな、っていう志を持って一応やってるつもりです。はい。
──アイデアは平井さんも出されたんですか?
いや、ほぼスタイリストさんと監督の中根さや香さんですね。僕はオモチャ(笑)。もちろん全部把握してるし携わってはいるけど、スタイリストさんがすごくアイデアマンで、「次はこういうビジュアルで驚かそう」みたいな、平井堅を使って面白いことをしたいという感覚を持っているので、そこに乗っかってるだけなんです。歌だけは自分が歌わないと平井堅にならないから歌いますけど、それ以外に関しては、餅は餅屋で専門の方にお任せしたほうがいいなと思っていて。もちろん自分が発案するときもあるけど、それよりはむしろ「自分は周りを燃えさせる素材でいないと」っていう感覚が強いです。チームだと思ってやってますね。
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