平井堅っぽさ、を模索した
──今のお話からもつながるんですが、「歌バカだけに。」は本当に素晴らしいですね。独立した作品としてもリリースできると思うのですが、ベストアルバムにパッケージすることになったのはなぜでしょうか?
もともと「歌バカだけに。」プロジェクトみたいなものはなんとなくあったんですよ。自分は一切楽曲制作を放棄して、好きなシンガーソングライターに委ねて曲を書いてもらって歌う、という企画はだいぶ前からやりたいと思っていて。スタッフ間では話していたんですけど、自分のシングルやアルバムの制作に追われてなかなかできてなかったんです。今回ベストを出すとなったときにシングルをまとめるだけだと面白くないし、「歌バカだけに。」を単体として出すのもいいけど、「歌バカ」の証としてセットにしたらよりコンセプトが強まるかなと思ったんです。制作をお願いした人たちはもとから僕がファンだったアーティストだし、幸運にも同じ職業に就けて親交がある方ばっかりなので、長い時間をかけて、ほとんど直接お会いしてオファーしました。(石野)卓球さんだけ未だにお会いしていないのですが……。
──作家ごとのアプローチの違いが面白いし、どの曲も聴いていて楽しいです。
皆さんそもそもソングライターとして個性的な方ばかりなので、曲をジャッジするって感覚を捨てて、「来たものを歌います」という気分でした。歌うのは大変だったけど。
──どのあたりが大変でしたか?
自分で作るのと違ってまずメロディを覚えるのが大変だし、職業作家じゃないから、ほとんどのデモをご自分で歌われているわけですよ。それはすごく素敵なんだけど、やっぱり個性が強いから、「このピッチどうなってるんだろう、上に行ってるのかな? いや下かな?」みたいのがけっこうあって(笑)。僕、けっこうピッチに細かいから。でも本人に聞くのもなあ……みたいなことで、最終的には自分の解釈で行こうと。メロディがちょっと違うと怒ってる人がいるかもしれません(笑)。あと、横山剣(クレイジーケンバンド)さんの「やってらんないぜ」とかは、剣さんのデモを聴き込んじゃって「これ剣さんのままのほうがいいよな」と思ったり、そういうのはどの曲に関してもありますよね、どうしても。LOVE PSYCHEDELICOさんの「Gift」も、「やっぱこれKUMIちゃんが歌ったほうがいいよな」と思いながら。デモがすでに作品だから、カバーっぽくなっちゃうんですよ。まあカバーなんですけど、世間的には僕の声を通してお聴かせするものなので、自分なりに平井堅っぽく、平井堅っぽく……というのを模索するのにすごく苦労しました。
──平井堅っぽさを意識されたんですね。
しますよー。卓球さんの「Don't感 Don't恋」ぐらいまでぶっ飛んでると、「まあなくてもいいかな」みたいな感じもありましたけど(笑)。でも、しんどいけど楽しい作業でしたよ。もともと「歌いたい」というところから始まって今がある僕にとっては、原点に立ち返らざるを得ないプロジェクトでしたから。10組のアーティストに会って一緒にスタジオに入って、すっごく気を遣って。みんないい人なんですけどね(笑)。疲れましたけど、自分で曲を書いて歌うことも、こういうことも両方やらせてもらえるのは贅沢なことだなと、改めて思いました。
自分で悩んで自分で処理しなきゃいけない孤独な作業
──草野正宗さんの「ブランケット」は、まさに正宗さんのメロディという楽曲ですよね。
でも正宗さんは「スピッツの曲でもなく、平井くんも歌わなさそうな曲書くよ」って。飲んでるときにお願いして、「絶対やる!」ってすぐに書いてくださったんだけど、「LUNA SEAをちょっと意識した」とおっしゃってました。
──「やってらんないぜ」では、剣さん独特のコブシをある程度踏まえて、平井さんらしさとの境界線ギリギリを模索する作業があったのではないかと想像します。
よくあるじゃないですか。シンガーソングライターがアイドル歌手に曲を提供して、「ああ、これデモ聴きまくっちゃったな」とバレるくらいマネしちゃってるの(笑)。そう思われたらカッコ悪いし、だけどちょっと踏襲したいなと思うところもあって、この曲はすごく悩みました。あのコブシを全部変えてもいいんだけど、なんかちょっと「イイネ!」的なのもやりたいし。さじ加減に悩みました。
──そのご苦労の跡が感じられる気がします。
苦労の跡が出ちゃったらまずいですよね(笑)。
──いやいや、いい意味で。楽しそうに歌っていらっしゃる印象を受けたんです。
それは間違いないです。いろいろ悩みながらではありましたけど。
──でも、楽しい悩みだったでしょう?
そうですね。ただ答えがないし、悲しいかな誰も何も言ってくれない現場なので、自分で悩んで自分で処理しなきゃいけないから、孤独な作業ではありました。
──tofubeatsさんの「READY FOR YOUR LOVE」でご自身の声にAuto-Tuneをかませていたのも新鮮でした。
もっとやっちゃってもいいと思ってたんですけどね。トーフさんには「もうなんでもやっちゃっていいですよ」って言って。でもトーフさんも中田(ヤスタカ)さんも、僕の声は加工しづらかったみたいで。そんな印象でした、工程を見てると。トーフさんは以前にリミックスをやっていただいたのがきっかけで、友達同士みたいな親交はなかったんですけど音楽的なやりとりはあって、この企画のお話をする前に「歌って欲しい曲があるんです」ってプレゼンされたんですよ。
自分の声が槇原敬之に似ていると誰よりも思ってる
──「歌バカだけに。」の詳細が発表された際に、槇原敬之さんは「ANSWER」(1991年発表の槇原のシングル曲)のその後のストーリーのような楽曲を歌ってもらいたいなと思い、書かせていただきました」というコメントを寄せられていましたが、これはグッとくるエピソードですよね。
槇原さんには歌番組でご一緒したときにお願いしたんです。ハイテンションで「どういう曲にしよう?」とおっしゃるので、「いやもうなんでも……槇原さんなりのを」と言ったら「そう言えばさ、『ANSWER』すごく歌ってくれてるよね?」って。「はい、好きです」と答えたら「あれの続編を書きたいんだけど、どう思う?」と言われて、「いいですけど、それご自分で歌ったほうがよくないですか?」と話したんですけど、「あーあー、うんうん、大丈夫大丈夫」って(笑)。「だって自分で歌うのは恥ずかしいから」とおっしゃっていました。
──実は昔、平井さんの歌を初めて聴いたときに槇原さんに似ていると思ったんです。
自分でも思っています(笑)。声に違う周波数があるのも知っていますけど、誰よりも自分でそう思っていて、この10曲の中では一番本人と差がない気がしています。実は最初はもう1音高かったんですよ、槇原さんキー高いし。僕もそのキーで歌えるんですけど、そのまま歌ったらマッキーになっちゃうなと思って、そう伝えたら「うんうんうんうん、1音下げたほうが平井堅っぽくなる気がします」ってデモを作り直してくださいました。なんかやっと……っていう言い方も変だけど、似ているということを受け入れられるようになったのかもしれないですね。拒絶していたわけじゃないけど、似てるって言われることよりリスペクトのほうが全然優っているので。
──それとは逆に、KANさんの「歌」は向こうから思いっきり歩み寄っていると言うか、パロディの名手ならではの“ザ・平井堅”みたいな曲ですね。
それはKANさん自身もおっしゃっていました。一緒に飲みに行ったときにお願いしたんですけど、「僕は誰よりもいい曲を書きたい」と熱く語って、「平井くんがこうやって(右手を掲げてヒラヒラさせる)歌うのも、平井くんがここでコブシを回してここでファルセットにいくのも全部わかっている。これが平井堅だっていう曲を僕が書く!」とおっしゃって。歌入れからアレンジまで全部一緒にやったんですけど「平井堅だったらもっとこうじゃない?」とか言われて、そのディレクションを聞きながら歌うみたいな、不思議な体験でした(笑)。平井堅っぽい曲を書くのが楽しかったんでしょうね。でも、やっぱりKANさんらしさは感じます。やっと曲順が決まって、さっき改めて「歌バカだけに。」を聴いていたんですけど、なんかこうやってまとめて聴くとジーンときますね。
──平井さんがご自分で時間をかけて直接本人にオファーしたというのがいいですね。いっそう温かい気持ちで聴けます。
TOKO(古内東子)ちゃんやBonnie(Pink)には「やさぐれた感じの曲がいいんだけど」とか「ちょっとエッチな曲を書いてほしい」とお願いしたし、ケースバイケースですけど、基本的には自由に書いて遊んでください、という感じでした。アレンジも、槇原さんやトーフさんやヤスタカさんみたいに全部やる方には完全丸投げだし、剣さんやTOKOちゃんやBonnieの場合は、アレンジャーは僕が選んだり、話し合って決めたりして。ハートトゥハートって言い方もクサいけど、心が通い合う作業でしたね。
- 平井堅「ノンフィクション」
- 2017年6月7日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤 [CD]
1350円 / BVCL-818 -
通常盤 [CD]
1220円 / BVCL-819
- 初回限定盤収録曲
-
- ノンフィクション
- ノンフィクション(less vocal)
2017 Special Live!! 「THE STILL LIFE」 at 日本武道館 April 2017
- style
- ソレデモシタイ
- 魔法って言っていいかな?
- Unfit In love
- 僕の心をつくってよ
- ほっ
- Missionary
- かわいいの妖怪
- KISS OF LIFE
- ノンフィクション
- 通常盤収録曲
-
- ノンフィクション
- ノンフィクション(less vocal)
- 魔法って言っていいかな?(VaVa Remix)
- 平井堅「Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2」
- 2017年7月12日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤A [4CD]
4990円 / BVCL-807~10 -
初回限定盤B [3CD+Blu-ray]
4990円 / BVCL-811~4 -
通常盤 [3CD]
3990円 / BVCL-815~7
- 初回限定盤A 収録曲
-
DISC 1「Single Collection 1995-2002」
- Precious Junk
- 片方ずつのイヤフォン
- 横顔
- ドシャブリ
- Stay With Me
- HEAT UP
- Love Love Love
- 楽園
- why
- LOVE OR LUST
- even if
- Miracles
- KISS OF LIFE
- Missin' you ~It will break my heart~
- Strawberry Sex
DISC 2「Single Collection 2002-2008」
- 大きな古時計
- Ring
- LIFE is... ~another story~
- style
- 瞳をとじて
- キミはともだち
- 思いがかさなるその前に…
- POP STAR
- バイマイメロディー
- 哀歌(エレジー)
- 君の好きなとこ
- fake star
- キャンバス
- 君はス・テ・キ♡
- いつか離れる日が来ても
DISC 3「Single Collection 2009-2017」
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
- いとしき日々よ
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- ソレデモシタイ
- おんなじさみしさ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- Plus One
- TIME
- 魔法って言っていいかな?
- 僕の心をつくってよ
DISC 4 Special Disc「歌バカだけに。」
- READY FOR YOUR LOVE[作詞・作曲・編曲:tofubeats]
- ブランケット[作詞・作曲:草野正宗 / 編曲:亀田誠治]
- Dance with you[作詞・作曲:TOKO / 編曲:トオミ ヨウ]
- やってらんないぜ[作詞・作曲:横山剣 / 編曲:屋敷豪太]
- 一番初めての恋人[作詞・作曲・編曲:槇原敬之]
- Don't感・Don't恋[作詞・作曲・編曲:石野卓球]
- Emmm...[作詞・作曲:BONNIE PINK / 編曲:村田陽一]
- Gift[作詞・作曲・編曲:LOVE PSYCHEDELICO]
- ネガティブボーイ[作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ]
- 歌[作詞・作曲・編曲:KAN]
- 初回限定盤B、通常盤収録曲
-
DISC 1「Single Collection 2006-2010」
- バイマイメロディー
- 哀歌(エレジー)
- 君の好きなとこ
- fake star
- キャンバス
- 君はス・テ・キ♡
- いつか離れる日が来ても
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
DISC 2「Single Collection 2011-2017」
- いとしき日々よ
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- ソレデモシタイ
- おんなじさみしさ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- Plus One
- TIME
- 魔法って言っていいかな?
- 僕の心をつくってよ
DISC 3 Special Disc「歌バカだけに。」
- READY FOR YOUR LOVE[作詞・作曲・編曲:tofubeats]
- ブランケット[作詞・作曲:草野正宗 / 編曲:亀田誠治]
- Dance with you[作詞・作曲:TOKO / 編曲:トオミ ヨウ]
- やってらんないぜ[作詞・作曲:横山剣 / 編曲:屋敷豪太]
- 一番初めての恋人[作詞・作曲・編曲:槇原敬之]
- Don't感・Don't恋[作詞・作曲・編曲:石野卓球]
- Emmm...[作詞・作曲:BONNIE PINK / 編曲:村田陽一]
- Gift[作詞・作曲・編曲:LOVE PSYCHEDELICO]
- ネガティブボーイ[作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ]
- 歌[作詞・作曲・編曲:KAN]
- 初回限定盤B付属Blu-ray収録内容
-
「Music Video Collection of Singles 2006-2017」
- バイマイメロディー
- 哀歌(エレジー)
- 君の好きなとこ
- fake star
- キャンバス
- 君はス・テ・キ♡
- いつか離れる日が来ても
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
- いとしき日々よ
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- ソレデモシタイ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- Plus One
- 魔法って言っていいかな?
- 僕の心をつくってよ
- Ken's Bar 2017
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- 2017年7月7日(金)山梨県 河口湖ステラシアター
- 2017年7月8日(土)山梨県 河口湖ステラシアター
- 平井堅(ヒライケン)
- 1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションで入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも3作発表。2016年7月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「THE STILL LIFE」をリリースした。2017年6月にTBS日曜劇場「小さな巨人」の主題歌「ノンフィクション」を42枚目のシングルとして発表。同年7月には平井が敬愛するアーティストが書き下ろした全10曲入りのスペシャルディスク「歌バカだけに。」をパッケージしたベストアルバム「Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2」を発売する。