平井堅が42枚目のシングル「ノンフィクション」をリリースした。TBS日曜劇場「小さな巨人」の主題歌に使用された今回の表題曲は、平井のしっとりとした歌声が印象的なフォーキーなナンバーに仕上がっている。また7月12日には約12年ぶり2枚目のベストアルバム「Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2」が発売される。本作にはシングルコレクションのほかに、CD「歌バカだけに。」をパッケージ。彼が敬愛するアーティスト10組による書き下ろし楽曲が収められる。音楽ナタリーでは両作品に込めた思いを平井に話してもらった。
取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / Yusuke Yamatani
感じていたこと、言いたかったことを素直に書いた
──まずはシングル「ノンフィクション」について伺います。この曲はどのようにして作られたんでしょうか?
「日曜劇場」の主題歌を担当するのは3回目なので、「これまでとはちょっと違ったことをしたいな」と思っていたんです。今までは「日曜日にテレビを見ているサラリーマンの方が元気になるような曲を」というオーダーが多かったので、今回もそういう感じかなと思っていたら、「暗くてもいいです」というお話だったんです。偶然その頃プライベートで重い出来事があり、僕自身「人生ってなんなんだろう」と考えざるを得ない日々が続いていて。「明日があるからがんばろう!」みたいな曲は書きたくなかったから、「あ、よかった」と。実際に脚本を読んだら、決してスカッとするだけじゃないお話だったので、「今自分が思っていることをそのまま書いてみよう、気に入ってもらえたらラッキーだし……」ということで、そのときの自分の情緒というか、感じていたこと、言いたかったことを本当に素直に書いた感じです。
──「描いた夢は叶わないことの方が多い / 優れた人を羨んでは自分が嫌になる」と、歌い出しからかなりネガティブで、タイアップ曲にしてはちょっと珍しいタイプの楽曲だと思いました。もっとも平井さんには「巡れど巡れど闇は闇」と歌う「告白」(ドラマ「Wの悲劇」主題歌)という名曲もありますが。
「ちょっとこの言葉は……」とか、そうとう修正が入るだろうなって覚悟していたんです。ここは言われるだろうな、という箇所をなんとなく想定して、変な話「ここはこう書き換えよう」とか考えながら書いたんですけど、一切そういうことはなくて。もちろん「もっといい言葉がないか」みたいなクリエイティブな注文なら全然いいんですよ。「この言葉はコンプライアンス的によろしくない」みたいなことを言われるのが一番嫌なんです。でも今回はそういうのがなかった。それには感謝していますね。
──1番はほぼバックがアコギだけで、2番からバンドサウンドになりますけど、ハーモニカが入っていたりして、全体にフォークっぽい作りになっていますね。
作ったときは最後までギター1本でいっちゃいたいぐらいの気持ちでした。脳内竹原ピストルというか(笑)。音数は少なくて言葉が強い、フォークソングのイメージですね。僕が歌うと声が違うからそうはなりづらいんだけども、スピリットとしては、フォーク歌手がギターをかき鳴らして歌っているような。なので「音数は極力少なく」とプロデューサーの亀田(誠治)さんにお伝えしました。曲を作ったときのエモーションをなるべく守りたいと頑なに思いながらレコーディングしていた気がします。
──それに呼応するように、ミュージックビデオはエモーショナルな出来になっていますね。
舞踏家の工藤丈輝さんに出演していただいたんですけど、もともと僕が彼のファンだったんです。別に奇をてらうつもりはなかったんですけど、彼自身もおっしゃっているように、彼の踊りそのものが生きる喜びと苦しみみたいなものを理屈じゃなく体で表現しているので、そのヒリヒリ感みたいなものが絵力として出ればいいなと思って。「歌詞を聴きすぎるとシンクロした動きになっちゃうから、あえて歌詞は聴かずに踊った」とおっしゃってました。基本、自由に感じるがままに踊るものだそうで。それなのに踊りが曲にすごくシンクロしているから、さすがだなと思いました。
80年代のアイドル歌手みたいな気持ちで
──「ノンフィクション」には「響き消える笑い声 一人歩く曇り道」「鞄の中で鳴る鍵 仲間呼ぶカラスの声」という歌詞が出てきて。日常の中にある叙情的な事象を畳みかけて情感を倍加させるのが平井さんの素晴らしいところの1つじゃないかと勝手に思っているんですが、最後のサビのあとだけ違うんですよね。「信じたい嘘 効かないクスリ 帰れないサヨナラ」と、矛盾と言うか相反するものが並んでいる。何か意図はあるんでしょうか?
意図はないんですけど、それまでの情景描写については、そのあとに出てくる「僕はあなたに あなたに ただ 会いたいだけ」というフレーズの説明として、どうしようもなく寂しくなって誰かに会いたくなる瞬間を僕なりに考えました。ある人のことを思って書いた歌なんですけど、その人に会いたいと思ったときは、僕自身がどうしようもない孤独感に苛まれる瞬間で。ご指摘のところは矛盾と言うか、僕の中では全部つながってるんですけど、結局「やるせなさ」とか「どうしようもなさ」みたいな感情を入れたかったんだろうなと思います。最近はコンプライアンス、コンプライアンスと僕もよく言われますけど、人間ってそう正しくは生きられないものじゃないですか。
──「やるせなさ」という感情には平井さん自身の強い思いがありそうですね。
はい、「やるせない」とか「ままならない」ということが好きなのかも。例えば芸能人の不倫の報道でも、正しさばっかり求められて。ゴシップ大好きだから超見ちゃいますけど(笑)。「それを人が裁くってどうなんだ?」とは思うんですよ。僕だって矛盾を持ってるし、「こうしたいけどこうできない」というところに、皮肉にも人間らしさとか魅力ってこぼれ落ちているものだと思うんです。そこを歌ってなんぼというか、やっぱり歌謡曲というものは俗だと思うので。もちろん清廉潔白な歌があってもいいと思うけど、今の時代、そういう俗な感情を曲のどこかに落とさないと、僕は嘘っぽくなるような気がするんですよね。
──正しく生きることを求められてしまう世の中で、そうはできない人のほうが実は多いんじゃないかと僕も思います。この曲には、そういう人たちが聴いたときにほっとするような効果がもしかしたらあるのかもしれません。例えば「惰性で見たテレビ消すみたいに 生きることを時々やめたくなる」という歌詞なんて、僕自身日常的に感じていることですし。
そうですね。背中を押すというか撫でるというか、そういう歌になればいいなと思っています。
──カップリングの「Brand New Bike」は「ノンフィクション」とは対照的に明るいナンバーですが、作詞も作曲もご自分ではないし、バランスを取ったんでしょうか?
ここ最近ずっと、シングルだと前作も前々作も自分の作詞作曲で、前作に関してはカップリングまで自作だったんですが、今年はスケジュール的に慌ただしくて。3月にシングル「僕の心をつくってよ」を出して、この「ノンフィクション」の制作が、自分で言うのもなんですけど、今振り返ってもちょっとおかしかったなと思うくらい大変だったんです。それでカップリングも作らなきゃということになって、正直時間がないというか、もう1曲書くのはしんどいと思ったのもあります。ベストアルバムにパッケージされる「歌バカだけに。」もそうですけど、提供曲を歌だけで楽しむプロジェクトも好きなので、今回は作者としては「ノンフィクション」に集中しようと思いました。作編曲の田中直くんと作詞の藤林聖子さんには「『ノンフィクション』が重いから、軽い感じの曲を」とお願いして。
──曲のアイデアは平井さんから出したんですか?
完全にお任せでした。曲はちょっと前に書いてもらって気に入っていて、いつか歌いたいなと思っていた曲なんですよ。藤林さんに過去に書いてもらった詞はわりとエッチなのが多かったんですけど、今回はえらくさわやかで。曲を聴いたときに旧山手通りをチャリンコで走っている少年が浮かんだらしいです(笑)。僕としてはもう、1980年代のアイドル歌手みたいな気持ちで「歌います!」って。
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平井堅っぽさ、を模索した
- 平井堅「ノンフィクション」
- 2017年6月7日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤 [CD]
1350円 / BVCL-818 -
通常盤 [CD]
1220円 / BVCL-819
- 初回限定盤収録曲
-
- ノンフィクション
- ノンフィクション(less vocal)
2017 Special Live!! 「THE STILL LIFE」 at 日本武道館 April 2017
- style
- ソレデモシタイ
- 魔法って言っていいかな?
- Unfit In love
- 僕の心をつくってよ
- ほっ
- Missionary
- かわいいの妖怪
- KISS OF LIFE
- ノンフィクション
- 通常盤収録曲
-
- ノンフィクション
- ノンフィクション(less vocal)
- 魔法って言っていいかな?(VaVa Remix)
- 平井堅「Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2」
- 2017年7月12日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤A [4CD]
4990円 / BVCL-807~10 -
初回限定盤B [3CD+Blu-ray]
4990円 / BVCL-811~4 -
通常盤 [3CD]
3990円 / BVCL-815~7
- 初回限定盤A 収録曲
-
DISC 1「Single Collection 1995-2002」
- Precious Junk
- 片方ずつのイヤフォン
- 横顔
- ドシャブリ
- Stay With Me
- HEAT UP
- Love Love Love
- 楽園
- why
- LOVE OR LUST
- even if
- Miracles
- KISS OF LIFE
- Missin' you ~It will break my heart~
- Strawberry Sex
DISC 2「Single Collection 2002-2008」
- 大きな古時計
- Ring
- LIFE is... ~another story~
- style
- 瞳をとじて
- キミはともだち
- 思いがかさなるその前に…
- POP STAR
- バイマイメロディー
- 哀歌(エレジー)
- 君の好きなとこ
- fake star
- キャンバス
- 君はス・テ・キ♡
- いつか離れる日が来ても
DISC 3「Single Collection 2009-2017」
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
- いとしき日々よ
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- ソレデモシタイ
- おんなじさみしさ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- Plus One
- TIME
- 魔法って言っていいかな?
- 僕の心をつくってよ
DISC 4 Special Disc「歌バカだけに。」
- READY FOR YOUR LOVE[作詞・作曲・編曲:tofubeats]
- ブランケット[作詞・作曲:草野正宗 / 編曲:亀田誠治]
- Dance with you[作詞・作曲:TOKO / 編曲:トオミ ヨウ]
- やってらんないぜ[作詞・作曲:横山剣 / 編曲:屋敷豪太]
- 一番初めての恋人[作詞・作曲・編曲:槇原敬之]
- Don't感・Don't恋[作詞・作曲・編曲:石野卓球]
- Emmm...[作詞・作曲:BONNIE PINK / 編曲:村田陽一]
- Gift[作詞・作曲・編曲:LOVE PSYCHEDELICO]
- ネガティブボーイ[作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ]
- 歌[作詞・作曲・編曲:KAN]
- 初回限定盤B、通常盤収録曲
-
DISC 1「Single Collection 2006-2010」
- バイマイメロディー
- 哀歌(エレジー)
- 君の好きなとこ
- fake star
- キャンバス
- 君はス・テ・キ♡
- いつか離れる日が来ても
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
DISC 2「Single Collection 2011-2017」
- いとしき日々よ
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- ソレデモシタイ
- おんなじさみしさ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- Plus One
- TIME
- 魔法って言っていいかな?
- 僕の心をつくってよ
DISC 3 Special Disc「歌バカだけに。」
- READY FOR YOUR LOVE[作詞・作曲・編曲:tofubeats]
- ブランケット[作詞・作曲:草野正宗 / 編曲:亀田誠治]
- Dance with you[作詞・作曲:TOKO / 編曲:トオミ ヨウ]
- やってらんないぜ[作詞・作曲:横山剣 / 編曲:屋敷豪太]
- 一番初めての恋人[作詞・作曲・編曲:槇原敬之]
- Don't感・Don't恋[作詞・作曲・編曲:石野卓球]
- Emmm...[作詞・作曲:BONNIE PINK / 編曲:村田陽一]
- Gift[作詞・作曲・編曲:LOVE PSYCHEDELICO]
- ネガティブボーイ[作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ]
- 歌[作詞・作曲・編曲:KAN]
- 初回限定盤B付属Blu-ray収録内容
-
「Music Video Collection of Singles 2006-2017」
- バイマイメロディー
- 哀歌(エレジー)
- 君の好きなとこ
- fake star
- キャンバス
- 君はス・テ・キ♡
- いつか離れる日が来ても
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
- いとしき日々よ
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- ソレデモシタイ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- Plus One
- 魔法って言っていいかな?
- 僕の心をつくってよ
- Ken's Bar 2017
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- 2017年7月7日(金)山梨県 河口湖ステラシアター
- 2017年7月8日(土)山梨県 河口湖ステラシアター
- 平井堅(ヒライケン)
- 1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションで入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも3作発表。2016年7月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「THE STILL LIFE」をリリースした。2017年6月にTBS日曜劇場「小さな巨人」の主題歌「ノンフィクション」を42枚目のシングルとして発表。同年7月には平井が敬愛するアーティストが書き下ろした全10曲入りのスペシャルディスク「歌バカだけに。」をパッケージしたベストアルバム「Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2」を発売する。