音楽ナタリー Power Push - 平井堅
5年ぶりアルバムに込めた、闘いの軌跡
僕はミュージシャンじゃない
──失礼かもしれませんけど、平井さんには“ミュージシャン”というより“歌手”というイメージがあって……。
はい。僕もそう認識してます。
──それでバンドマンとのコミュニケーションが難しかったりするのかな?と思って。
そうかも。僕は基本的にミュージシャンじゃないんですよね。作詞作曲もたまにする歌手、って感じで、音楽を歌としか捉えてないから、音楽の話ができないんです。もちろん多少はわかるけど「The Beatlesのあのリフが……」とか言われても全然わかんないし、ミュージシャンあるあるっていうか、ミュージシャンたるものこれに反応しなきゃいけない、みたいなものは一切通ってないから。そういう引け目もあって、ミュージシャンと会うのが基本苦手なんですよ。「ここキュンとしたいんで」とか、観念的なことしか言えないし、「このsus4のとこなんだけど……」とか言えないから(笑)。
──昔どこかのインタビューで読んだんですけど、デビューが決まったときに「曲も僕が書くんですか?」っておっしゃったんですよね。
そう。始まりがそうですからね。作詞作曲って訓練を積んだ人がやることだと思ってたから。もしくは尾崎豊さんみたいな、思春期にどうにもならないモヤモヤを言葉でつづってた人じゃないと、って。僕、そういうのなんにもないし、詞なんて書いたことなかったし、メロディは譜面を読める人が作るものだと思ってて、楽譜はいまだに読めないし、まさか曲を書く人生になるなんて思ってもみませんでした。
──どうやって作曲するんですか?
一応ピアノでコードは覚えましたけど、まあ鼻歌です。詞から書いて、ほぼ同時にメロディを付けて、だいたい仕上がってからコードをあてるって感じ。
──詞先なんですね。
ここ10年以上そうです。詞先というか同時というか……“ラララ”で作らないって決めていて。今のところは詞先が楽なんです。曲先だと2回苦しむじゃないですか(笑)。「かわいいの妖怪」「ソレデモシタイ」「おんなじさみしさ」「グロテスク」あたりはいただいた曲に詞を付けたんですが、これがすごく難しくて……。自分で曲から書くほうがうんと楽でした。あと、テーマがしっかりしないと書かないようにはしてます。ふわふわしたままやると本当にふわふわしたまま終わっちゃうことが多いので。何か強い感情とか強い景色とか強い人とか、そういうものが浮かぶまではペンを持たないようにしてます。その分、書き出すとすんなり書けるんですよ。
安室奈美恵に同性への嫉妬を歌わせたら面白そう
──さっき韻を踏むという話をされてましたけど、「かわいいの妖怪」もかなり踏んでますよね。
この曲と「驚異の凡才」はハナっから“毒”枠というかピリ辛枠で。ある種、なんでもいいって言うと乱暴だけど、ジャリっとした砂みたいなものを投げ込めればいいので、どれだけキレるか、どれだけ毒付くかみたいなところで、わりと楽しく韻を踏みながら、ケラッケラ笑いながら書きました。男ウケが生きがいの女を揶揄した歌ですね。「寒さは苦手カーディガン妖怪」ってフレーズを書いたときは自分で爆笑してましたもん。「俺最高!」って。ちなみに“カーディガン妖怪”は木嶋佳苗容疑者についての本を読んでるときに思い付きました。なんかカーディガン着てそうだなって思って(笑)。
──わはは!(笑)
友達に僕なんかより全然才能があって、アンテナが鋭くて発想も斜め上の人たちがいて、実は彼らの面白すぎる話を参考に曲を書くことが多くて。「男ウケだけでできてる女をケチョンケチョンに言って、最後は応援するような曲書けばいいじゃん」とか、すごくいろんなアイデアをくれるんです。
──ナイス意地悪ですね。「グロテスク」みたいな自己嫌悪的なマインドも?
それもあるけど、この曲は安室奈美恵さんと一緒に歌うということで、彼女のことを考えて書きました。彼女はカッコいいこと、かわいいことはすでにやりまくってきた人なので、彼女に歌わせるには何が面白いかなって考えて……。同性への嫉妬みたいな醜い感情ってあんまり歌ったことなさそうだし、しかも彼女が歌ったらカッコよくなるんじゃないかと。「笑い方が死ぬ程嫌い」とか「あのコの甘ったるい声を かわいいと褒め称えてみる」とか、安室奈美恵が歌うと面白いんじゃないかなっていう、ちょっとプロデューサーっぽい視点で作りました。大変だったけど、楽しいコラボレーションでしたね。
次のページ » 流行歌を作っていきたい
- ニューアルバム「THE STILL LIFE」/ 2016年7月6日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4050円 / BVCL-731~2
- 通常盤 [CD] / 3240円 / BVCL-733
CD収録曲
- Plus One
- 魔法って言っていいかな?
- 告白
- かわいいの妖怪
- 桔梗が丘
- Missionary
- ソレデモシタイ
- 驚異の凡才
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- ON AIR
- おんなじさみしさ
- グロテスク feat. 安室奈美恵
- TIME
- それでいいな
初回限定盤DVD収録内容
<STUDIO LIVE 2016>
- 君の好きなとこ
- LIFE is...
- POP STAR
- 魔法って言っていいかな?
<MUSIC VIDEO>
- 告白
- 桔梗が丘
- グロテスク
- ソレデモシタイ
- 君の鼓動は君にしか鳴らせない
- ON AIR
- Plus One
平井堅(ヒライケン)
1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションに入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも3作発表。2016年7月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「THE STILL LIFE」をリリースした。