ナタリー PowerPush - ヒルクライム
2ndアルバムは原点回帰の意欲作!新曲に込められた“MESSAGE”とは
ヒルクライムの2ndアルバム「MESSAGE」が11月24日にリリースされる。前作「リサイタル」から1年足らずで発表される今作には「大丈夫」「ルーズリーフ」「トラヴェルマシン」といった「リサイタル」以降のシングル曲を収録しているが、全13曲中9曲はアルバムのために制作された書き下ろしナンバー。ポップなシングル曲とは趣の異なる楽曲も多く、アーティストとしてのこだわりが詰まった意欲的な作品に仕上がっている。
立て続けのシングルヒットで注目を集め、多忙を極める彼らが、新曲満載のフルアルバムを作り上げた意図とは。インタビューではデビュー前後の心境の変化も尋ねつつ、アルバムに込められた“MESSAGE”の真相を訊いた。
取材・文/臼杵成晃
君はどう思う? どう行動する?
──前作「リサイタル」が発表されたのは今年の1月ですから、1年間に2枚フルアルバムをリリースすることになります。ずいぶんハイペースですよね。
TOC 「リサイタル」は2009年のうちにストックしていた曲があったから、結果的に1年で2枚できたんですけどね。ここまでハイペースなのは、きっとこれっきりだと思います。
──最近は「アルバム」というと、嫌な言い方ですが「シングルの寄せ集め」的な作品も多いと思うんですね。シングル曲数曲にカップリングを加えて、アルバム用の新曲は2~3曲程度で「もうシングルで大体持ってるよ」みたいな。でも今回の2ndアルバム「MESSAGE」は全13曲中、既発曲は4曲であとは書き下ろし。まずはそこに驚きました。
TOC あ、そこを見ていただけるのはすごくうれしいです。
──やっぱりそこは意識して?
TOC めちゃくちゃ意識しましたね。既発曲をとにかく少なくしたかった。シングルカップリング曲は「押韻見聞録」だけ入れたんですけど、これも当初は入れる予定ではなくて。「シングル曲以外全部新曲で行こう」と思ってたんですけど、事務所の社長が「『押韻見聞録』は入れてほしい。入っててほしい」って。ラップのスキルを重視して書いた曲でもあったから、ヒルクライムを色濃く見せられるかなと。
──前作「リサイタル」はジャケットデザインなども含め、「美しいトラックにキャッチーなメロディと本格的なラップが乗る」というヒルクライムならではのスタイルがはっきり提示された作品だと感じました。今回はアルバム制作に入る上で、あらかじめ「こういう作品にしよう」という明確なイメージはありましたか?
TOC 「リサイタル」のイメージは、何年か前からずっとやりたかったものなんです。1stアルバムではまずそれを見せたかった。でも今回は、青写真は一切なかったですね。どんどん曲を作って「じゃあタイトルを決めよう」って段階になったときも、まったく思い浮かばなかったんですよ。「MESSAGE」というタイトルはスタッフのひとりが何気なく出したものなんですけど、それがすごく自分の中でバシッと来た。「君はどう思う? どう行動する?」と投げかけるような、そういうアルバムになったかなと思ってますね。耳で終わるんじゃなくて、心まで届くような。
原点回帰しながらも、スキルアップした部分を
──曲作りのプロセスはどういう流れなんでしょうか。トラックと歌詞はどっちが先ですか?
TOC トラックが先です。トラックを聴いて、そのイメージで膨らませて。それは結成したころからずっとそうです。
──サンプリング主体ではなく、ストリングスなどゴージャスな音色を多用した独特のトラックは、これも結成当初から?
DJ KATSU ヒルクライムを結成する前は、俺はDJしかやってなくて。トラックを作り始めたのは結成してからなんですよ。それまではアナログレコードのインストトラックを回して、それにラッパーが乗ってくるようなスタイルでやったりしてました。TOCのラップや歌を聴いて「こういうトラックはどうだろう」って突き詰めてるうちに今のスタイルができあがった感じですね。
──ヒップホップのビートの上で、弦をはじくピチカート音や美しいハープが鳴ってるのは結構斬新ですよね。
DJ KATSU そういうのが好きなんですよ。すごく重いビートに琴を乗せたり(笑)。シンプルなエレピなんかも好きですけど。音色選びは結構重要視してます。
──アルバム中盤の「押韻見聞録」「No.109」「デタミネーション」の流れでは、クラブでアナログ盤を使ってプレイしてた時代を想像させるような、“ヒップホップ讃歌”と言えるような楽曲が続いていますよね。「春夏秋冬」に代表されるシングル曲でしかヒルクライムを知らない人にとっては新鮮かもしれませんけど、今作のキモはここなのかなと感じました。
TOC たぶん世間一般のヒルクライムのイメージからは外れたものだとは思います。だけど「もともと俺たちはココなんだ」っていうのを、この「MESSAGE」で示したかったっていうのはありますね。ターンテーブルのレコードに合わせてラップを乗せる、普通のラッパーが通る道を俺たちも普通に通ってきた。今回のアルバムでは原点回帰しながらも、スキルアップした部分をより高いレベルで表現できたんじゃないかなと思ってます。
──でも曲自体はインディーズ時代のものではなく、このアルバムのために作った曲なんですよね。この中盤の流れは「攻めてるなあ」という印象で、一番聴き応えがありました。
TOC そうです。新しい曲ながら、泥臭さっていうか、インディーズの頃の“飢餓感”を出したかったんです。
CD収録曲
- ルーズリーフ
- BOYHOOD
- SKYDRIVE
- トラヴェルマシン
- 押韻見聞録
- No.109
- デタミネーション
- Moon Rise
- SH704i
- Shampoo
- X Y Z
- 大丈夫
- MESSAGE BOX
初回盤DVD収録内容
- 「大丈夫」Music Video
- 「ルーズリーフ」Music Video
- 「トラヴェルマシン」Music Video
ヒルクライム
TOC(MC)とDJ KATSU(DJ)からなるラップユニット。それぞれ地元・新潟で音楽活動を続けてきた2人が、「熱帯夜」というイベントを通じて2001年に出会い、イベント終幕後の2005年にユニットを結成する。ピアノやストリングスの柔らかな音像に、アクの強いビート用いたトラック、メロウなフロウといった、クラブにもJ-POPにも寄りすぎることのない新たなスタイルを追求。インディーズでの活動を経て、2009年7月にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビューを果たす。続く2ndシングル「春夏秋冬」がチャートTOP10ヒットなど、ロングセールスを記録。2010年1月にはメジャー1stアルバム「リサイタル」をリリースし、大ヒットとなった。