音楽ナタリー PowerPush - 日笠陽子
ただひたすらに“カッコいい”ハードロックアルバム
日笠陽子が初のフルアルバム「Couleur」をリリースした。
今作で日笠は、小室哲哉、永野椎菜(TWO-MIX)らとの共作で話題を集めた昨年の“コラボレーションアルバム”「Glamorous Songs」でもその片鱗を見せたサウンドをさらに深化。HISASHI(GLAY)、小森茂生、CHI-MEYらが手がける、熱くヘビーながらもスタイリッシュなサウンドをバックに、エモーショナルな言葉の数々を圧倒的なハイトーンで歌い上げる、由緒正しく、そして極上のハードロックアルバムを制作した。
彼女は昨年「日笠陽子ソロプロジェクト」と銘打ち、アーティスト活動をスタート。「Couleur」はプロジェクトの新たなる幕開けを飾る1枚となる。自らの物語の新章を前にした日笠が今作を通じて目指したものとは? 大いに語ってもらった。
取材・文 / 成松哲 撮影 / 上山陽介
瓢箪から駒でジローとコラボ
──実はアルバムのお話の前に1つ伺いたいことがあるんですけど、いいですか?
はい。
──キッチンジローの件(参照:日笠陽子×キッチンジロー“空耳”メニューが登場)なんですけど。
コラボさせていただくことになりました(笑)。
──それは存じてるんですけど、意外なコラボだなあ、っていう気がしていて……。
ですよね(笑)。5月にアーティストデビュー1周年記念イベントとしてライブBlu-ray / DVD(「Glamorous Live」)の上映会をやったんですけど、そのとき「今、アルバムを制作中なんだけど、タイトルがまだ決まってないんだよね」っていうお話をさせていただいたんです。「レコーディングもこれからだから、どんなタイトルにしよう?」「今まで英語のタイトルの曲が多かったから漢字、それも四字熟語にしようかな」って話をしたら、お客さんの1人が「焼肉定食」って言い出して。
──ベタではあるけど場の空気を温めるいいボケですよね。
なのに、私が「へっ!? みるく定食?」と(笑)。
──聞き間違えるにもほどがある聞き間違えで、せっかくのお客さんのボケを潰しちゃった(笑)。
そうなんです(笑)。ただそのあとスタッフさんとの間で「せっかくお客さんとのやり取りから面白いフレーズが生まれたんだし、何か形にしたいよね」って話になって。
──そこにキッチンジローというかっこうのパートナーが現れた?
まさにそういう感じですね(笑)。「ホタテみるくコロッケ定食」という限定メニューを都内のお店で出していただくことになって。東京に住んでる人にはもちろんなんですけど、地方の人にも私のライブを観に遠征してきたときなんかに食べてもらえるとうれしいですよね。
ゆっくり時間をかけて作るアルバム
──今のコラボの話はあくまで余談というか、“話のマクラ”のつもりだったんですけど……。
でもマジ情報です(笑)。
──お話を聞いていて、その“マジ”な感じがすごいなと思って。文字通り冗談みたいなお話をきっかけに、飲食チェーンというまったくの異業種とマジのコラボ企画をスタートさせたわけだから。
それはやっぱり「日笠陽子ソロプロジェクト」が始まったおかげ、日笠陽子っていう名前を皆さんに知っていただけるようになったおかげなんでしょうね。
──実際いかがですか? 去年の5月から1年4カ月、アーティスト日笠陽子として活動してみて。
うーん……。前回のアルバム(「Glamorous Songs」)をリリースしたばかりの頃(2013年7月)は、けっこうやりきっちゃった感じになっちゃってました。ミニアルバムだったんですけど“コラボレーションアルバム”ということでコラボレーション相手、詞や曲を提供してくださったアーティストさんたちから受け取るエネルギーの量もすごかったし、私もそれに100%応えようと思ってホントにエネルギーを注ぎ込みましたから。
──でも「Glamorous Songs」をリリースして、10月に新木場STUDIO COASTで初めてのワンマンライブを開いたあとも、「Seek Diamonds」と「EX:FUTURIZE」という2枚のシングルをリリースしたり、「リスアニ!LIVE-4」みたいなフェスに出演したり、かなり精力的に活動してましたよね?
そうやって制作やライブを続けてきたので、出し切った感はあったんですが、燃え尽きちゃった感じはなかったですね。ただ次に行く体力がないというか、改めてアルバム制作に向かうための体力はちょっと足りていなかった気はします。「アルバムを作るならゆっくり時間をかけたいなあ」って思ってましたし。
──そして初のフルアルバム「Couleur」を今月リリースしました。いつ頃体力が復活しました?
いきなり復活したわけじゃなくて少しずつ体力が戻ってきて、気持ちもアガってきた感じではあったんですけど、どこか転機があるとしたら年明けですね。年末年始はけっこう大事だったかもしれない。レーベルの人たちに「1曲1曲にしっかり向き合って、作曲家さんとしっかり打ち合わせして、詞についても監修というか、ちゃんと作詞家さんと話し合いをした上で納得のいくアルバムを作りたい」っていう話をしたのが、ちょうどその頃ですから。
──ただ「みるく定食」誕生秘話を聞くに、5月の時点でまだレコーディングはスタートしてなかったんですよね?
ちょっとゆっくりしすぎちゃいました(笑)。今月のリリースを目指して年明けから制作を始めていたこともあって最初はけっこう優雅というか、ゆっくりじっくり、いい感じで制作が進んでたんですけど、やっぱり音や言葉にこだわりたかったし、実際こだわり抜いていたら、思いのほか時間がなくなってしまって……。最終的には怒濤のレコーディングラッシュって感じになっちゃってましたし(笑)。
──確かに日笠さんのブログを拝見してたら7月下旬までレコーディングをしていたみたいだし、マスタリングも8月1~2週だったんですよね。
いやあ、もうヤバかったです(笑)。でも逆に言えば、時間がタイトになってでも作詞家さんや作曲家さんとしっかり打ち合わせをしたかったし、マスタリングやトラックダウンに参加したかったし、楽器のレコーディングにも顔を出したかったんですよね。
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- 1stアルバム「Couleur」 / 2014年9月3日発売 / ポニーキャニオン
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray] 3780円 / PCCG-01417 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / PCCG-01418 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2700円 / PCCG-01419 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- 新世界システム
[作詞・作曲:CHI-MEY / 編曲:大久保友裕] - ENVY DICE
[作詞・作曲:渡辺翔 / 編曲:渡辺和紀] - Brighter day
[作詞:KAORU / 作曲・編曲:HearTribe] - Crazy you
[作詞:YADAKO / 作曲・編曲:Masse] - 美しき残酷な世界
[作詞:マイクスギヤマ / 作曲:石塚玲依 / 編曲:根岸貴幸] - 憂冥
[作詞・作曲:HISASHI / 編曲:小森茂生] - 風と散り、空に舞い
[作詞:こだまさおり / 作曲・編曲:藤井雄大] - 終わらない詩
[作詞:yamazo、稲葉エミ / 作曲・編曲:yamazo] - EX:FUTURIZE
[作詞:hataru / 作曲:奥井康介 / 編曲:中山真斗] - Pollution
[作詞:YADAKO / 作曲・編曲:Masse] - Sleepy Hungry Minds
[作詞:nadia / 作曲:前澤寛之 / 編曲:中山真斗] - Seek Diamonds
[作詞:大森祥子 / 作曲・編曲:中山真斗] - FLOWERS
[作詞・作曲:CHI-MEY / 編曲:大久保友裕]
初回限定盤 BD / DVD収録内容
- 「新世界システム」ミュージックビデオ
- 「美しき残酷な世界」ミュージックビデオメイキングクリップ
- 「終わらない詩」ミュージックビデオメイキングクリップ
- 「Seek Diamonds」ミュージックビデオメイキングクリップ
- 「EX:FUTURIZE」ミュージックビデオメイキングクリップ
- 「新世界システム」ミュージックビデオメイキングクリップ
日笠陽子(ヒカサヨウコ)
神奈川県出身の女性声優、ボーカリスト。テレビアニメ「けいおん!」の秋山澪役など、数多くの人気作で主役級のキャラクターの声を多数担当。また、メインボーカルを務めた「けいおん!」のエンディング曲「Don' t say "lazy"」がゴールドディスクを獲得し、自ら考案したギャグ「てへぺろ(・ω<)」が流行語となるなど、アニメ業界外でも注目を集める。2013年5月「日笠陽子ソロプロジェクト」を立ち上げ、デビューシングル「美しき残酷な世界」をリリース。6月には2ndシングル「終わらない詩」を、7月には小室哲哉らが参加するコラボレーションアルバム「Glamorous Songs」を発表する。その後もアニメ「ダイヤのA」のエンディングテーマ「Seek Diamonds」や、「Z/X IGNITION」のオープニング曲「EX:FUTURIZE」といった話題作を立て続けにリリースし、2014年9月、初のオリジナルフルアルバム「Couleur」を発表した。