ナタリー PowerPush - 日笠陽子
自称「恥ずかしがりの緊張しい」声優 一大プロジェクトの看板を背負う
声優・日笠陽子がこの5月、「日笠陽子ソロプロジェクト」という看板を引っさげてCDデビュー。同月テレビアニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマにしてデビューシングル「美しき残酷な世界」を、6月には劇場用アニメ「ハル」の主題歌「終わらない詩」を立て続けにリリースした。
そして今月、プロジェクトの集大成となるアルバム「Glamorous Songs」を発表。「コラボレーションアルバム」と銘打たれた同作には小室哲哉、永野椎菜(TWO-MIX)、Tom-H@ckら、豪華クリエイター陣が名を連ね、プロジェクトのボス・日笠陽子と音楽によるコラボレーションを展開している。
2009年、アニメ「けいおん!」のキャラクターでエンディング曲「Don't say "lazy"」のメインボーカルを務めて以来、ボーカリストとしても注目を集め続けてきた日笠がこれまで積極的に音楽活動を展開してこなかったのはなぜか? そして今、満を持してデビューする理由とは? 話を聞いた。
なお特集後半では、アルバムリードトラック「Glamorous days」のPV監督を務めた長濱博史と日笠の対談を掲載。テレビアニメ「惡の華」から引き続き2人がタッグを組んだ理由、日笠陽子のもとにライトスタッフが集結するワケなどを語り合ってもらった。
取材・文 / 成松哲 インタビュー撮影 / 佐藤類
「私、掘ったところでホントになんにも出ませんよ」
──日笠さんのファンには「何を今さら」って言われそうなんですけど、今回のコラボーレションアルバム「Glamorous Songs」を聴かせていただいて、改めて「日笠さんって歌うまいな」って思ったんですよ。
へっ!? ……あ、ありがとうございます。
──なのでこのインタビューでは「Glamorous Songs」の話を聞く前に、ボーカリスト・日笠陽子のできあがるまで、要は音楽遍歴を聞こうと思っていて。
その企画、大丈夫ですか!? 音楽遍歴なんて何もないし、私、掘ったところでホントになんにも出ませんよ(笑)。
──でもリスナーとしてのキャリアは当然ありますよね?
実はそれも……。「音楽が好きです」って言う方に比べると、ものすごく薄い音楽リスナーだったというか……。
──生まれて初めて買ったCDってなんですか?
もうその段階から記憶があいまいで……。確かSPEEDの「STEADY」? 小学生だったかなあ、中学生だったかなあ。
──そのときSPEEDの何に惹かれたんでしょう?
流行ってたから?(笑) その後もT.M.Revolutionさんは好きで聴いていましたけど、そのほかは純粋に聴くのが好きだったかというと……。ちょうど世代的に中学生、高校生の頃、カラオケボックスの全盛期だったので。自分が覚えて歌うために流行っている曲を聴く、みたいな感覚でいた気がしますね。
──じゃあ歌うのはお好きでした?
近くのカラオケ屋さんが昼の12時に開くんですけど、休みの日は友達と開店と同時にお店に入って夜の7時くらいまで歌い通したりしてました。ただ、実は恥ずかしがり屋の上に緊張しいで(笑)。学校行事とかで舞台に上がったりするのはホントにイヤでしたね。心を許せる人しかいないカラオケボックスっていう限られた空間じゃないと歌えなくて。だから、当時の私が今の私を見たら「なんかこの人とんでもないことしてるなあ」って思うんじゃないですかね?
──あはははは(笑)。
いまだに家族の前とかでは絶対に歌わないですもん。それはお芝居についてもそうで。イベントなんかで「あの作品のあの場面のセリフを言ってみてくださいよ」みたいなことを言われるじゃないですか。普通に「いやですっ!」ってなりますからね(笑)。「恥ずかしいんでムリですムリです」って。でもお芝居も歌もマイクの前だとなぜかできちゃう。自分でも不思議なことに。
役者とキャラクターソングの不思議な関係
──ただ、それってマイクの前に立つようになって、つまり声優としてキャリアをスタートしてから気付いたことですよね。
そうなりますね。
──じゃあその前の段階の話。恥ずかしがり屋で緊張しいだったのになぜ声優になろうと? イマドキの声優さんがキャラクターソングを歌っていることは知っていたんじゃないかな、とも思うんですけど。
いや、その感覚はなかったですね。私が養成所に入った頃って今ほど皆さん歌ってはいなかったので。だから後輩なんかを見てると「ああ、声優さんは歌う時代なんだなあ」「時代は変わったんだなあ」って思いますけどね(笑)。で、声優になろうと思った動機は、あんまりカッコよくないんですけど、勘というか、ふわっと、というか。「面白そうだし好きだからやってみよっ」みたいな感じでしたね。もうちょっとカッコつけて言うなら「やっぱり好きなことにウソはつけなかったから」って感じかなあ(笑)。
──そしてアニメのメインキャストに起用されるようになったら「キャラクターソングを」って話が舞い込むようになったわけですよね。「あのキャラの声やってください」「ムリです」の日笠さんが、キャラクター名義で、とはいえみんなの前で歌声を披露することを選んだのはなぜ?
けっこう不思議な関係なんですよ。役者とキャラクターソングって。アニメ関連の歌を歌うときはマイクと私の間にキャラクターが立ってるんです。で、そのキャラを通してマイクに声が乗っている感じがしていて。それにキャラクターって自分の分身であり、子供なんですよ。だから守らなきゃいけないし、子供である以上、出す声も感情も私じゃない。その子じゃなきゃダメなんですよね。
──逆に言えば日笠陽子という人の歌じゃなくて、アニメキャラという人の歌だからこそ歌えた?
そうなんでしょうね。
- コラボレーションアルバム「Glamorous Songs」 / 2013年7月17日発売 / PONY CANYON
- 初回限定盤[CD+DVD] / 2800円 / PCCG-01345
- 通常盤[CD] / 2300円 / PCCG-01346
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CD収録曲
- Glamorous days
(作詞:稲葉エミ / 作曲・編曲:Tom-H@ck) - BALLOON
(作詞・作曲:渡辺翔 / 編曲:渡辺和紀) - Rhythm Linkage
(作詞・作曲:永野椎菜 / 編曲:永野椎菜、熊本克也) - Through the Looking-Glass
(作詞:leonn / 作曲:小室哲哉 / 編曲:渡辺徹) - Reclusive
(作詞・作曲・編曲:Powerless) - Neo Image
(作詞:こだまさおり / 作曲:前澤寛之 編曲:yamazo) - めざまし時計
(作詞・作曲:YADAKO(Myu) 編曲:Masse(Myu))
初回限定盤DVD収録内容
- Glamorous days(Music Video)
- Glamorous days(Music Video)
絵コンテ動画比較版
- Glamorous days
日笠陽子(ひかさようこ)
神奈川県出身の女性声優、ボーカリスト。テレビアニメ「けいおん!」の秋山澪役など、数多くの人気作で主役級のキャラクターの声を多数担当。また、メインボーカルを務めた「けいおん!」のエンディング曲「Don't say "lazy"」がゴールドディスクを獲得し、自ら考案したギャグ「てへぺろ(・ω<)」が流行語となるなど、アニメ業界外でも注目を集める。2013年5月「日笠陽子ソロプロジェクト」を立ち上げ、デビューシングル「美しき残酷な世界」をリリース。6月には2ndシングル「終わらない詩」を、7月には小室哲哉らが参加するコラボレーションアルバム「Glamorous Songs」を発表した。