結成した当初はピアノロック的な曲が多かった
──楽曲スタイルの振り幅が広いのもヒゲダンの大きな魅力だと思います。
藤原 そうですね。活動を重ねていく中で、やりたい音楽の幅がどんどん広がってきている感じはあって。僕はピアノを弾きながら歌うスタイルですけど、曲によってはハンドマイクで歌うものがあってもいいし、シンセや打ち込みをたくさん盛り込んだものがあってもいい。エレクトロのようなダンスチューンもやりたいし、しっとり聴かせるバラードもやりたい、みたいな感じでその時々の自分たちの気持ちに応じて作ってるところはあります。
──ただ、どの楽曲にも根底にはブラックミュージックの要素を感じます。そこはメンバー皆さんのルーツということになるのでしょうか?
藤原 僕は高校時代、地元のおじさんたちがやってたコピーバンドのライブをよく観に行ってて。そこで演奏されてたEarth, Wind & Fireやスティーヴィー・ワンダーの音楽に衝撃を受けたんですよ。そのバンドにキーボードとして参加したのをきっかけに、大人の人たちにいろんなブラックミュージックの名曲を教えてもらったことが僕のルーツになってるとは思います。で、ヒゲダンを組んでからはそのルーツをほかのメンバーにも横流ししていった感じです。「この曲よかろう? ほら聴け聴け!」って(笑)。
松浦 僕らのルーツはそれぞれバラバラで、さとっちゃん(藤原)以外はブラックミュージックをほとんど聴いてこなかったんですよね。でも、バンドの移動のときにいろんなブラックミュージックを聴かせてくれたことで、「これ超いいじゃん!」ってぶちあがる、みたいな(笑)。
楢崎 僕なんかはスティーヴィーを最初に聴いたときに、「あ、CMの曲だね」くらいな感じでしたから。でも聴きこんでいくうちにどんどんハマっていって。
小笹 僕は昔からユーミン(松任谷由実)さんとかKANさんが好きだったんですけど、その音楽がどういう仕組みで作られているかということまでは考えたことがなかったんですよ。でも、ブラックミュージックをいろいろ聴かせてもらううちに、「なるほど、こういうことか!」と。
──日本のポップスにもブラックミュージックの要素が散りばめられていることに気付いたわけですね。
小笹 そうなんです。そこからいろんなブラックミュージックをディグっていった感じですね。
──自らのルーツをメンバーに広めていったということは、藤原さんの中ではヒゲダンで鳴らすべき音の方向性が明確だったんでしょうね。
藤原 いや、そこはあまり意識的ではなかったんですよ。結成した当初はわりとピアノロック的な曲が多かったですし。ただある時、ちょっとブラックミュージックの匂いのする跳ねたノリの曲やダンサブルな曲をデモとして作ってみたら、ヒゲダンの音楽としてちゃんと成立して。「これ楽しいじゃん!」って言いながら楽曲をクリエイトできた。その経験がバンドとして大きかったと思うんです。
小笹 うん。ブラックミュージックが持っているハッピーさはみんな絶対好きなはずだよなって思えたと言うか。で、そういう思考になったのと同時期に同じようにブラックミュージックを背景に感じさせるSuchmosとか星野源さんが日本でヒットするようになったんで、自分たちの信じたものは間違ってないんだなって確信したと言うか。
藤原 しかもヒゲダンの場合、ほかのメンバーのルーツであるハードロックとかヘヴィメタルなんかの要素がたまに顔を出すこともありますからね。そこがウチららしさだし、面白いところだなとは思います。
楽器を持たずに一発録り
──新作「Stand By You EP」についても話を聞かせてください。表題曲である「Stand By You」は多彩なコーラスやクラップが散りばめられた、ライブが楽しみになる1曲ですね。
藤原 はい。夏前くらいに歌入れまで終わっていたんですけど、しばらく寝かせていた曲なんですよ。で、その間に夏フェスがあり、「サマソニ」(SUMMER SONIC 2018)で観たチャンス・ザ・ラッパーに衝撃を受けて。彼のゴスペル的なハーモニーのエッセンスは僕らの曲にも入れることができるんじゃないかなって思ったんです。あと今年の夏フェスでは去年とは比べ物にならないくらいたくさんの方がヒゲダンのライブを楽しんでくださっていたんですよ。そこでたくさんの歓声を浴び、たくさんの笑顔と出会えたことで、みんなの人生をより彩れるような曲を作りたいっていう気持ちがどんどん強くなって。なので、そういった経験を踏まえて寝かせてあったこの曲のアレンジをやり直して、歌詞にも手を加えて改めて完成させたんですよね。
──歌詞では今のヒゲダンの思いがストレートなメッセージで表現されていますよね。
藤原 そうですね。今のファンのみんなへの感謝の気持ち、メンバーやチームへの感謝の気持ち、そして最近出会った人たちに対しての「知ってくれてありがとう。これからもよろしくね」っていう思いを表しました。サウンド的には、ここ1年くらいでやってきたエレクトロ的な音と、デビュー時から大事にしているピアノのリフレインをうまく1つの形に落とし込めたような気はしていて。そういう意味ではメジャー2作目として、しっかり前へと大きな一歩を踏み出せたなって思います。
──ずっと歌い継がれていくであろうアンセム感を感じました。
藤原 うん。そこをすごく大事にしていました。夏フェスをイメージすると、たぶんこの曲は夕方くらいの時間帯にやったらすごくいい景色が生まれると思うんですよ。僕らはもちろん、みんなにとっての思い出に残るだろうなって。そんな楽曲に仕上がったことが純粋にうれしいですね。
──「Stand By You」のレコーディングはいかがでしたか?
楢崎 コーラス録りがかなり新鮮でしたね。いつもは1人ひとりが小さなブースに入って録るんですけど、今回はでっかい部屋でみんな一斉に録ったんです。その場の臨場感、空気感も含めて収録するっていう。
藤原 天井にもマイクを付けたりしてね。そこに向かって一斉にハモることで、よりゴスペル感が出てると思う。
小笹 僕はこの曲のリズムがすごく気に入っていて。今回はサンプリングしたバスドラやスネアをそのまま貼り付けるのではなく、手打ちすることで生身のグルーヴ感を表現しようとしてるんですよ。これまでもループ的な楽曲はいろいろチャレンジしてきたけど、今回新たな手法を取り入れたことで、結果としてものすごくカッコいい仕上がりになったと思います。
藤原 そういう意味ではシンセも、アナログシンセの実機を借りてきて全部手弾きしてるんです。人の手のニュアンスって尊いものだなって実感もあったし、ソフトシンセと実機の音の違いも見つけられたし、非常に勉強になりましたね。
松浦 ライブではライブならではのアレンジを考えているので、その違いも楽しんでほしいなって思いますね。音源とは違う盛り上がりをどうしたら生み出せるかを考えて、次のツアーで表現したいと思います。
──本作の4曲目には「Stand By You」のアコースティックバージョンも収録されていますね。こちらは教会で一発録りされたものだとか。
藤原 そうなんですよ。今回、このバージョンを入れられたこともすごくうれしくて。ピアノと歌とハーモニーだけで表現することによって、この曲の違った魅力に自分たち自身でも気付けました。
松浦 この3人(小笹、楢崎、松浦)はレコ―ディングのときには楽器を持ってないですからね。そういう状態で一発録りをする機会なんてまずないから、メッチャ緊張した(笑)。
楢崎 アコースティックバージョンというより、ほぼ合唱ライブバージョンだからね(笑)。
──常々コーラスをたっぷり盛り込んで、メンバー全員が歌えるからこそ、こういう表現もできるわけで。ヒゲダンの非常に大きな武器だと思います。
藤原 うれしいです。一層磨きをかけていくようがんばります!
バンドとして成長できている感覚
──2曲目の「FIRE GROUND」はTVアニメ「火ノ丸相撲」のオープニング主題歌として書き下ろされたものですね。
藤原 「ノーダウト」のときもそうでしたけど、タイアップはコラボレーションでありたいという思いが強いので、今回も熱量の高い作品とOfficial髭男dismがどう寄り添うべきなのかはかなり考えました。結果、ファンクとハードロックを融合できたら面白いんじゃないかなってことで、この曲が生まれました。歌詞も含め、自分たちのやりたかったことをほぼ100%、ガツンとやらせてもらえてうれしかったです。
楢崎 ベースはレッチリ(Red Hot Chili Peppers)のフリーをかなり意識しまして。指弾きのバチバチした感じを出すように心がけました。
小笹 ギターもかなりアグレッシブです。ミックス後のギターの音がこんなにデカいのもヒゲダン史上初めてだと思うので新鮮です(笑)。
──そしてもう1曲は「バッドフォーミー」。こちらもタイアップが付いていて、ドラマ「グッド・バイ」の主題歌としてオンエアされました。
藤原 この曲は今年の頭には生まれていたもので、それをドラマの監督さんが気に入ってくださったんです。できあがっていた曲自体がドラマの世界観としっかりリンクしているということだったので、基本的にはそのままで。でもドラマの主題歌として聴きやすいもの、そしていいスパイスとなるような描写を入れ込むことを意識して最終的な形にしていきました。そういう意味では、この曲でもしっかりといいコラボレーションができたかなと思っています。
──本作のリリース後、11月7日には年をまたぐ全国ツアーがスタートします。
藤原 はい。今回はライブハウスとホールをどちらも回るツアーなので、それぞれの楽しみ方を意識しつつ、最高のエンタテインメントになるようなアレンジ、セットリスト、演出にこだわりたいですね。何度でも観たいと思ってもらえるようなライブを作れるようがんばります。
楢崎 ここまでの活動を通してバンドとして成長できている感覚があるので、ライブでもより遊べるようになっているんですよ。最近はベースを弾いている自分にもちょっと心の余裕みたいなものを感じますし。そういう意味では、今の俺たちなら確実にみんなと一緒に熱い温度のライブが作れるはず。なのでこのタイミングを逃さず、今のOfficial髭男dismを目撃してほしいですね。
小笹 僕らはポップバンドと言いつつもライブはけっこうロックだったりもするので、ライブハウスではそういう表情も近距離で体感してもらえると思います。また、ホールでは会場が大きくなることで今までやりたくてもできなかったことがようやく実現できるようにもなると思います。そういう部分にも期待していただきたいです。
松浦 僕ら4人はもちろん、今のヒゲダンに関わってくれているチームはめちゃくちゃ熱いんですよ。なので絶対に素敵なライブ、最高のライブになることは間違いないです。ぜひ遊びに来てください!
- Official髭男dism「Stand By You EP」
- 2018年10月17日発売 / ポニーキャニオン
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初回限定盤 [CD+DVD]
2376円 / PCCA-04716 -
通常盤 [CD]
1296円 / PCCA-04717
- CD収録曲
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- Stand By You
- FIRE GROUND
- バッドフォーミー
- Stand By You(Acoustic Ver.)
- 初回限定盤DVD収録内容
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「Official髭男dism one-man tour 2018 LIVE DVD」– selected from 2018.07.05 中野サンプラザホール –
- ノーダウト
- Second LINE
- Tell Me Baby
- Driver
- 相思相愛
- たかがアイラブユー
- 115万キロのフィルム
- 犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!
- ESCAPADE
- 発明家
- ツアー情報
Official髭男dism one-man tour 18/19 -
- 2018年11月7日(水)神奈川県 Yokohama Bay Hall
- 2018年11月10日(土)北海道 cube garden
- 2018年11月17日(土)香川県 DIME
- 2018年11月18日(日)愛媛県 松山サロンキティ
- 2018年11月22日(木)島根県 松江 AZTiC canova
- 2018年11月24日(土)鳥取県 米子 AZTiC laughs
- 2018年11月25日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2018年11月28日(水)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2018年12月1日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2018年12月2日(日)福島県 郡山CLUB #9
- 2018年12月9日(日)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2018年12月15日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2018年12月16日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2019年1月11日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2019年1月12日(土)鳥取県 米子市文化ホール
- 2019年1月18日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2019年1月19日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2019年1月24日(木)東京都 NHKホール
- 2019年1月26日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2019年1月27日(日)鹿児島県 SR HALL
- 2019年2月2日(土)島根県 島根県民会館 大ホール
- Official髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)
- 藤原聡(Vo, Piano)、小笹大輔(G)、楢崎誠(B, Sax)、松浦匡希(Dr)の4人からなる“ピアノPOP”バンド。2012年に結成され、2014年に行われたコンテスト「V-air あまばん グランプリ大会 2014」でグランプリを獲得する。2015年4月に1stミニアルバム「ラブとピースは君の中」をリリースし、CDデビュー。2018年4月より放送されたフジテレビ系月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」に主題歌として「ノーダウト」を提供し、一躍話題を集めた。同月には1stアルバム「エスカパレード」と、メジャーデビューシングル「ノーダウト」を同時リリースした。10月に新作音源「Stand By You EP」を発表し、11月から2019年2月にかけて全国ツアー「Official髭男dism one-man tour 18/19」を開催する。