ナタリー PowerPush - 秀吉

草食系ニューカマーが素朴で力強い新作を語る

逆に、何も起きない感じを歌にしたらどうかなって

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──今作の「コンサート」は、前のミニアルバムから約8カ月という短いスパンですよね。

柿澤 前作の「へそのお」を出したときに、次も割と早めに出したいと思っていて。前作は1stなのでそれまでの時間が詰まってるじゃないですか? でも今回は1曲を除いてその後に作った曲なので、最初は1stに込めた何年か分のモノを超えられるかなって思ってたんです。

──ええ。

柿澤 でも次第に違う考えになって、リリースまでの短期間を込めた作品ができればなって思って。例えば、8カ月間で歌にできるような出来事って普段なかなか起こらないじゃないですか? でも逆に、その何も起きない感じとかを歌にしたらどうなのかなと思って。自分でもいろいろと発見はありましたね。

──疾走感のあるアップなナンバーも多いし、静けさを含んだスローな曲もあって。その振り幅が秀吉の持ち味ですか?

柿澤 作っていたときは意識していたわけではなくて、6曲揃ったときに、これはアルバムとして流れがよさそうだ、バランスが取れてるって思って。6曲作って、もっと偏った感じだったらもう少し作ってたかもしれないですね。

町田 僕もスタジオで一緒に作りながらやってたので、そういう感じはありましたね。

本当はカート・コバーンみたいな声が出したいんですけどね(笑)

──まず「コンサート」という曲について聞きたいんですけど、これはアルバムのタイトルにもなっていますよね。

柿澤 もともとはアルバムタイトルというのは意識せず、まずひとつの曲として作ってコンサートって付けたんです。でも今作全体のイメージとして、ライブ感というか生っぽい要素を出したいと思っていたので、それに合いそうだなということで。

──でも、“コンサート”っていう言葉なんですが、おそらく皆さんだったら“ライブ”、なんじゃないかと思うんです。

柿澤 そうですよね。確かにライブとかギグとか、いろんな言い方はあると思うんですけど、もうちょっと広い意味で何かないかなって思ってて。「コンサート」はコンサートに対しての考え方を歌った曲だったりするし、もっと音楽の“演奏会の話”みたいな感じで聴いてほしくて。語感や雰囲気の良さもあるんですけど、広い意味でコンサートって付けたんですよ。

──コンサートに対する考え方、とは?

柿澤 自分もイチ音楽ファンですから、好きなアーティストはいっぱいいて。で、その人たちのライブを見に行ったときの感覚を書いた感じなんです。

──ちなみにどんなアーティストが好きなんですか?

柿澤 最近はクラムボンのライブに行きました。あとはくるり、SUPER BUTTER DOGが好きです。いろんなジャンルでの音楽好きがいると思うので、いろいろな捉え方をしてほしいですね。

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──あとはアルバム全体を通して、柿澤さんの思春期の想いなのか、今の柿澤さんがそれを振り返っている目線なのか、すごく気になったんですけど。

柿澤 曲を書いたときは今の目線から当時を振り返ってるんですけど、それは聴く人に委ねたいと思っています。

──やはりその10代の景色が浮かんでくるっていうのは、ワケがあったりするんですか? 当時の自分がすごくキラキラしたものとして残っている、とか。

柿澤 それもありますし、ドロドロした部分も今ならキラキラして見えるって感じですね。時間が経過したっていうのもあるし、その当時特有の感じ方もありますし。

──柿澤さんの声質ってすごく優しいですよね。サウンドは激しくても、それに乗る声がすごくソフトだなって。

柿澤 もっと本当はカート・コバーンみたいな声が出したいんですけどね。一時期、本当にウワーってやってたんですけど、それは無理してたのかもしれないです(笑)。

──町田さんと濱野さんは、柿澤さんの曲に対してどんな印象を持っているんですか?

濱野 基本的に前の「へそのお」もそうでしたけど、変なタイトルばっかり作るんですよ。でもそれって自分の中には絶対にないもので、確実に秀くんの歌詞とメロディには勝てないなっていうのがありますね。言っちゃえば……ファンですね。

柿澤 ……それはちょっと複雑ですね(笑)。

濱野 おい(笑)。でも結局ライブって何度も同じ曲やるわけじゃないですか。それで飽きる曲だったら嫌なんですけど、全然飽きないんですよ。

町田 僕は不思議な感覚で、一緒にバンドを始めたし、好きになっていくものの流れや、作ってきた曲とかも全部知ってるんで。単純に一緒に作ってるって感覚ですね。好き嫌いっていうよりは、これで何ができるかっていうことを考えてます。

ファイナルでは、これがツアー回ってきた成果だっていうモノを出せたら

──レコ発ツアーも7月17日から始まりますね。

柿澤 前回のツアーではできなかったこととか、はっきりとはわからないんですけど何かあるような気がするので。それをやりつつ、見てくれた人に何か、その日が特別な日になるような演奏を1本1本届けられたらと思います。

町田 アルバムツアーってことで、アルバムがより自分の糧になるようなツアーになればいいなって。

濱野 毎回ライブで思うことなんですけど、自分も楽しめるライブで、かつ見に来てくれた人も楽しめるライブができれば一番いいのかなって。最初は自分から楽しんでいきたいなと思います。今回も20数カ所回りますけど、それぞれの土地で楽しんで、ファイナルではドカンと。これがツアーを回ってきた成果だっていうモノを出せたら、アルバムツアーとしては成功なのかなと思います。

柿澤 距離的には今までで一番広く回るツアーですからね。その間に制作も同時進行でやっていきますが、また全然変わったものができていくと思います。

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ミニアルバム『コンサート』 / 2009年7月15日発売 / 1780円(税込) / ラストラム・ミュージック エンタテインメント / LACD-0159

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CD収録曲
  1. 夜風
  2. コンサート
  3. 虫の音
  4. くもり
  5. あさなぎ
  6. 道草の唄
秀吉(ひでよし)

群馬県で結成された3人組ロックバンド。地元を中心に精力的なライブ活動を展開し、柔らかく美しいメロディライン、しなやかさと力強さを併せ持つアレンジが高い評価を受ける。2007年に自主制作アルバム「アワイオト」をリリース。2008年11月にはデビューミニアルバム「へそのお」をリリースし、全国ツアーも開催。次世代を担うバンドとして、幅広い層から注目を集めている。バンド名の「秀吉」は、柿澤秀吉(Vo,G)の本名から命名。