I.N.A.(hide with Spread Beaver)「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡~」インタビュー|hide没後20年、共同プロデューサーが“時間旅行”の末に見た未来

とにかくインターネットにハマっていた

──hideさんは2ndアルバムの頃からインターネットにハマっていました。I.N.A.さんも当時、インターネットはやっていたんですか?

仕事以外ではあまり使ってなかったですね。1日中コンピュータを使っていたから、家に帰ってまで触りたいと思わなくて。

──1997年に六本木のクラブ数店舗を貸し切って行われたオールナイトイベント「hide presents MIX LEMONeD JELLY」では各クラブの様子をインターネットで生中継していましたね。

あれも大変だったんですよ。NTTの業者さんがいっぱいクラブに来て、インターネットを接続する方法をあれこれ試して。そのとき、hideはとにかくインターネットにハマってたんですよね。彼は日本のプロバイダを使っていて、アメリカに行ったときにつなぎ方がわからないから日本のプロバイダに国際電話で接続してネットをやってたんです(笑)。で、100万円近く請求が来ちゃって驚いて。そりゃそうですよね、1日中アメリカから日本に国際電話でつないでネットをやってるんだもん。なんのためのインターネットだよって(笑)。

──(笑)。それってhideさんが中学時代、ギターを買ってもらったけどエフェクターの存在を知らなくて「音が歪まない」と悩んでたエピソードに近いですよね。

I.N.A.

アンプにつないだヘッドフォンで歪ませてたって話ね(笑)。まあ国際電話でネットにつないでたってのはバカだなあって思いましたけど、それくらい彼はハマってたということです。もともとXのファンクラブの会報とかも彼が企画したページが多かったし、ファンとの架け橋みたいな役割をずっとやっていたから、その影響もあったと思いますよ。「ネットでファンとやり取りができる」って。

──ちなみに3rdアルバムでは「BREEDING」のコーラスパートを電話の受話器越しにレコーディングしたそうで。

うん、やりましたね。

──「ロサンゼルスは市内通話が無料だった」と当時の雑誌に書いてありました。

ははは(笑)。まあ隣の部屋からかけてたんですけど。

──国際電話の請求がきっかけかはわかりませんが、いろいろな経験を吸収して、生かしていたんだなと。

ワクワクするような遊びが多かったですよね。レコーディングにしてもただ「ここの音を変えましょう」だけじゃなくて、「こんなことをやったら面白い」とプロセスも大事にしていたから。

──テレビ出演時も、凝った演出が多かったですよね。

hideが「ミュージックステーション」に出ると裸のネエちゃんが出てくるとかね。テレビ局の人が喜んでくれたんですよ。「hideさんが来て面白いことをやってくれる」って。テレビの制作現場にいる人たちだとそういう過激なことをなかなかできないから、すごく協力してくれたんです。

──「Hi-Ho」ではストリッパーが登場していて。当時、家族でテレビを観ていて気まずくなった記憶があります。

ははは(笑)。

2000年代に未発表曲を世に出した理由

──ちょっと話が変わりますが、1998年にhideさんの訃報をテレビのニュース速報で知ったとき、自分は中学生だったのですがとてもショックを受けました。あれから20年が経って、こうしてアーティストに話を聞いて、それを伝える側にいるわけですが、今なおhideさんの音楽が若い世代にも浸透しているさまや、hideさんにまつわるニュースの反響の大きさを目の当たりにして、感慨深い気持ちになります。

それこそ「HURRY GO ROUND」の世界じゃないですかね。僕はそう思う。hideの音楽を聴いて育ったミュージシャンがステージに立って、伝える側になって、ずっと繰り返されていくっていう……そういう歌かなって思っているんですよね。だからつながってますね、今の話も。

──hideさんが亡くなったあと、2000年代に入ってからhide with Spread Beaver名義での「TELL ME」が発表され、2002年には「In Motion」「Junk Story」といくつかの未発表曲が世に出されました。「In Motion」は同年の5月に当時横須賀にあったhide MUSEUMで、I.N.A.さんがDJをやっているときに初めてファンにお披露目したんですが、覚えてますか?

うん。外の屋台みたいなところで流しましたね。

──その音源にはギターソロが入っていなくて、hideさんの声を聴けて喜ぶ反面、バッキングだけの間奏に涙を流しているファンがいた記憶があります。そもそもI.N.A.さんがhideさんの未発表曲を世に出した理由はなんだったんですか?

理由はいろいろあるけど、まず未発表曲とデモを完全に分けたんです。デモは絶対に出さない。出したくないし、聴かせたくないと。ただの鼻歌みたいなものだから、当時の事務所やレコード会社にも言わず、僕が隠し持っていて、弟さんだけがそれを知ってたんです。何年間も音源を持っていたんだけど、いろいろ落ち着いてきたときに「おかしなところに出回らないようにしてください」って事務所に戻して。ただ未発表曲に関しては、本にも書いたけど、作っていた当時にボツになった曲もいっぱいあれば、ボツから採用になった曲もあったんですよ。そんな中で「In Motion」と「Junk Story」はもうできあがっていたんです。ただ「In Motion」のギターソロができていなかったのは、Xのレコーディングか何かで時間がなくなっちゃって、寝かせているうちに、そのままになっちゃったからで。

──未発表曲は歌詞もオケも構成ができあがっているもの、デモはそうじゃない鼻歌だけのものや曲としての構成ができていない状態のものという定義で分けていたんですね。

未発表曲に関しては、ファンの人たちがいっぱいいるからなんとか届けてあげたいなって気持ちが強かったから完成させて。差し替えるべきところ、きれいにするところはしっかりやってね。でもそれでいろいろ言われたこともあるんですよ。金の亡者とか、弟さんなんて“死の商人”みたいに言われたり。いろいろあったけど、10年くらい経って、hideのファン投票のベストで、ちゃんと「In Motion」と「Junk Story」が上位に入っていたから、ああやっぱりやってよかったなって。

──「ROCKET DIVE」は2ndアルバムの収録曲としてはボツになったけど、シングルカットされたんですよね。

そう。だからもともとは未発表曲だったんです。

hideの空気に触れたいお客さんのため

──コンピレーションアルバム「Cafe Le PSYENCE」(2005年5月発表)の収録曲「MISCAST」はX用に作った曲のソロバージョンでした。

あれはなんで作ったんだっけ。ああ、Xのステージのソロコーナー用に作ったのがもとになってるんだ。

──音源はXのライブのソロコーナーで披露したバージョンとも違うアレンジでしたね。

そうそう。当時はよく勘違いしている人がいて、俺が勝手に作って出してるんじゃないかって思ってる人がいたんですよ(笑)。別に俺が勝手にやって得することはないし、そのときは自分でバンドをやってるくらいだから、自分のやりたいことはそっちでやってましたから。「勝手にhideの作品をほじくり返して出してる」みたいに言われたりもして、一時期は外を歩くのも怖い時期があったけど(笑)。まあやってよかったって今は思います。喜んでる人も多いし。

──せっかくなのでほかの未発表曲についても聞かせてください。「DAMAGE」(2ndアルバム「PSYENCE」収録曲)のzilchバージョンが2005年にhide MUSEUMでhideさんが実際に使っていたスピーカーで流されていた時期がありました。

ありましたね。その曲は今でもDJでたまにかけてます。あと最近よくDJで流している「DOUBT」は原曲だと小さすぎて家庭用スピーカーだと聞き取れないhideのセリフが全部聞こえるバージョンで。そういうのもお客さんのことを考えた末に喜んでもらえると確信したものだけを出しているんです。それはhideがお客さんのことをすごく大切にしていたから。例えばCLUB CITTA'でバースデーイベントがあったとき、自分がDJ-INAとして出るとしても、hideの空気に触れたくて北海道とか九州とかから飛行機で来るお客さんのことを考えると、ちょっとでも喜びとか新鮮さを感じてほしいなと思ったからプレイリストに組み込んでいて。「子 ギャル」も当時からそんな感じで本当にたまに流してたんですよ。

──「子 ギャル」の初回限定盤に収録された仮歌バージョンの「子 ギャル(demo)」ですか?

うん。本当にたまーにかけてたから、レアだった。

──未発表曲とデモを切り分けたというお話がありましたが、「子 ギャル」はデモの状態ですよね?

「子 ギャル」は3rdアルバムに収録される予定で作っていた曲で、オケも歌詞もできてるけど、レコーディングができなかったんです。要するに「In Motion」とか「Junk Story」は歌が入っていたからのちに発表できた未発表曲で、「子 ギャル」は本番と同じ形でできていたけど、歌が入っていなかったからどうしても作品としては出せなかった未発表曲だったんです。

書籍

I.N.A.(hide with Spread Beaver)
「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡~」
2018年4月28日発売
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
I.N.A.(hide with Spread Beaver)「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡~」

単行本 1728円

Amazon.co.jp

内容
  1. 君のいない世界
  2. プロローグ
  3. 出会い
  4. ロサンゼルス
  5. ハードコアテクノくん
  6. 酒と泪とヒデラと消防車
  7. hideソロプロジェクト始動
  8. 2枚のシングル
  9. アンセム
  10. LAの青い空 その壱
  11. ほんとにあったヤバい話
  12. LAの青い空 その弐
  13. 未来人の片鱗
  14. LAの青い空 その参
  15. DON'T PANIC
  16. ギブソン レスポール
  17. 過酷な日々
  18. HIDE YOUR FACE
  19. LAの青い空 再び
  20. hideとzilchとX JAPAN
  21. PSYENCE
  22. 3・2・1
  23. 時代の終焉
  24. hide with Spread Beaver
  25. 未来人
  26. エピローグ

メモリアルライブイベント

hide 20th memorial SUPER LIVE「SPIRITS」
hide 20th memorial SUPER LIVE
「SPIRITS」

2018年4月28日(土)
東京都 お台場野外特設ステージJ地区

OPEN 10:00 / START 11:30 / END 19:00(予定)

出演者
MUCC / ZEPPET STORE / OBLIVION DUST / D'ERLANGER / BUCK-TICK / hide with Spread Beaver(ゲスト:PATA)

2018年4月29日(日・祝)
東京都 お台場野外特設ステージJ地区

OPEN 10:00 / START 11:30 / END 19:00(予定)

出演者
J / 氣志團 / defspiral / ZIGGY / 布袋寅泰 / hide with Spread Beaver(ゲスト:PATA)

献花式

hide Memorial Day 2018~献花式~

2018年5月2日(水)神奈川県 CLUB CITTA'

ボックスセット

「hide 1998-Last Words-」
2018年5月2日発売 / エムアップ
「hide 1998-Last Words-」

[6CD+DVD+BOOK]
14904円
MUCL-00003

購入はこちら

1998年春。hideが自ら語った最後のストーリー。永遠のメッセージを完全コンプリート。

映画

hide 20th Memorial Project Film
「HURRY GO ROUND」
2018年5月26日(土)全国公開
「HURRY GO ROUND」

あの衝撃の日から20年。なぜ彼は時代を超えても生き続けるのか。その真実に迫った究極のドキュメンタリー。

トリビュートアルバム

V.A. 「hide TRIBUTE IMPULSE」
2018年6月6日発売 / UNIVERSAL J
「hide TRIBUTE IMPULSE」

[CD] 3240円
UPCH-2162

Amazon.co.jp

hideの音楽のスケール同様、幅広くバラエティに富んだアーティストやバンドによるトリビュートアルバム。

I.N.A.(イナ)
hideの共同プロデューサー兼プログラマー。X JAPANのサポートメンバーとして日本のロック界を裏側で支えてきた音楽プロデューサーで、さまざまなアーティストのアレンジなどを手がけている。現在は東京・IID 世田谷ものづくり学校にスタジオを構え、音楽ワークショップ「電脳音楽塾」を展開している。