X JAPANのギタリスト、ソロアーティストとして活躍し、1998年5月2日にこの世を去ってから20年が経つ今もなお、幅広い世代に影響力を持つhide。そんな彼の創作活動を“共同プロデューサー”という立場で支えていたI.N.A.(hide with Spread Beaver)による初の著書「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡~」が4月28日に刊行される。本書はhideと過ごした日々をI.N.A.がつづった回想録。音楽制作時のエピソードを中心にしつつ、hideの人物像が浮き彫りになる1冊となっている。
音楽ナタリーでは著者であるI.N.A.へのインタビューを実施。書籍で触れられている時期について振り返ってもらったほか、hideの没後、「子 ギャル」などの未発表曲を世に出した理由などについても詳しく話を聞いた。
取材・文 / 田中和宏 インタビュー撮影 / 西槇太一
年表作りに始まった執筆作業
──今回の書籍を出そうと思った理由を聞かせてください。
そもそも僕が自分から本を出したいと言ったわけではなくて、出版元のヤマハさんからお話があったんです。hideが亡くなったあと、1999年に僕は彼の当時のオフィシャルサイトで、hideの3rdアルバム「Ja,Zoo」(1998年11月発表)の制作過程を記した「I.N.A.'s diaRy」という日記を書いていて。その日記は「hide with I.N.A.」というブログに引っ越して、復刻改訂版を載せているんです。それを「本にしませんか?」という話をいただいていたんですけど、もう20年近く無料で公開していたものだから、今さら本にするのも気が引けて、ずっとお断りしてました。でも「音楽制作におけるテクニカルな内容をインタビューでまとめたムックを出したらどうか?」とか出版元といろいろ話をしていく中で、さまざまな案が出てきて。だったら、僕がhideとの思い出を書いたほうがいいんじゃないかって気持ちになったので今回、自分で書くことにしたんです。
──書籍を出すにあたって、I.N.A.さんしか知らないhideさんのエピソードを出すことに抵抗はありませんでしたか?
抵抗はなかったです。ヒロシくん(hideの実弟で所属事務所・ヘッドワックスオーガナイゼーション代表取締役の松本裕士氏)に最初に読んでもらって、すごく喜んでもらえたし。別に秘密にするようなことではない……もしかしたらhideちゃんは抵抗あるのかもしれないけど(笑)。僕自身は全然抵抗なかったです。むしろ「hideは天才だ、すごい才能があった」と言われているけれども、実際はすごく努力をして音楽を作っていたということをちゃんとわかってもらいたかったんです、みんなにね。
──確かにhideさんの音楽制作の裏側を知ることができる内容になっていました。
「死んじゃった」っていう悲しいお話をつづってもしょうがないですから。僕らは今、五十代でしょ。hideのファンには六十代もいるし、今では当時のファンの子供世代もいる。結婚とか子育てとか人それぞれ理由があって、hideが好きだけど離れちゃった人もいると思うんです。そういう人には自分の青春時代と重ね合わせて読んでもらえたらいいなって。
──執筆に際して、過去の資料に改めて目を通したんですか?
hideのインタビューが載っている当時の雑誌をいくつか読みました。完成した作品そのものについてhideが語っているインタビューはけっこうあったんですよ。ただ、1曲1曲の細かな制作過程に関する話はほぼなくて、その部分を知っているのは僕しかいない。そういったエピソードをファンの皆さんに知ってもらえば、今まで知られていなかったようなhideの本当の姿……なんて言うのはおかしいけど、表に出ていなかったhideの人間性や人柄、彼が音楽に対してどういう気持ちで向き合って、制作活動をしていたのかを伝えられるんじゃないかと。
──実際に読ませていただいて、20数年前の出来事とは思えないほど鮮明な記述が多くて驚きました。
そこはうまいこと書けたと思います(笑)。本を書き始めるときにまず年表を作ったんです。タイトルに「hideと過ごした2486日間の軌跡」とあるようにhideと歩んだ日々を、出会った日から全部調べたんですよ。「これはいつのことだろう?」ってところは関連する会社に問い合わせてみたり、僕のパスポートに残っている日付も確認したりして。
──年表と照らし合わせながら執筆作業を行っているとき、どんな気持ちでしたか?
面白いことに気持ちが当時の自分とシンクロしてましたね。ボーカルレコーディングが大変だったときのことを書いていると、昔のことなのに本当に1週間くらい落ち込んだり、面白い時期のことを書いているときは楽しい気分になったり。だからTwitterに「時間旅行してきました」と書いたんですけど、昔に戻ったような気分でいられました。
──レコーディングにまつわる専門用語についてもわかりやすく書かれていたので、一般的なリスナーにも理解しやすい内容になっていると思いました。
文章に出てくる用語の意味がわからないと書いたことが伝わらないので、そのあたりは読んでくれる方にわかりやすいようにしました。「電脳音楽塾」という音楽関連のワークショップで講師をやることもあるから説明するのには慣れてるんです。
──年表のほか、参照する資料だけでも膨大な数だったんじゃないですか?
資料を山積みにした感じではないですね。本の見返しに載せるんですが、トラックシートっていうレコーディングの作業を記録したメモが保管してあって。それを見れば日付と、その日に何をしたのかがわかるんですよ。なので忘れていたようなエピソードもけっこう思い出せました。楽曲については再生すればどういうふうに作っていたか全部覚えているんで、音楽そのものが記憶をたどる大きな手がかりになりました。
好きな音楽はバラバラ、でもそれがよかった
──I.N.A.さんはもともとロック以外のジャンルの音楽が好きだったそうですが、どうしてhideさんと一緒に音楽制作をするようになったのでしょうか?
僕は高校時代にブラスバンドでフルートを吹いていたんです。あとバンドでドラムもやっていて、その頃はフュージョンが好きでロックは全然聴かなかった。で、ローディの仕事をするようになって、そのあとにプログラマーになりました。そのつながりで「Xがマニピュレータを探している」っていう話が僕のところに来た。その頃、僕はXの存在を知らなくて。100万枚もCDを売っているバンドだということさえも知らず……よくそれでやらせてもらえたなと今でも思うんですけど(笑)。そういう縁があったから不思議ですよね。結果として僕とhideのコンビネーションっていうのは、彼はロックをすごく知っていて、ほかはあまり知らないと。僕はロックを知らないけどほかのジャンルは知っていて、そのマッチングがすごくよかったんですよね。
──I.N.A.さんからhideさんに好きな音楽をオススメすることはあったんですか?
hideは新しいものとか、自分がやっていないことにすごく興味を示すタイプだったんです。僕がマーチングバンドのビデオを見せたらそれが「PSYCHOMMUNITY」(1994年2月発表の1stアルバム「HIDE YOUR FACE」収録曲)という曲のアレンジに反映されたり、ミクスチャー色の強い「BLUE SKY COMPLEX」にも僕のアイデアが入っていたり。あとはやっぱり打ち込みですね。彼はすごくDTMに興味があって、「打ち込みを自分のロックに取り込みたい」と言っていたので、僕にDTMの知識があったのもよかったんじゃないかな。
──hideさんはご自身で打ち込みをやろうとしたけどうまくいかなかったようで。
当時の打ち込みは楽器を扱うというよりは機械いじりに近いですからね。今だったらスマホでもできちゃうけど、あの頃はよっぽどの専門知識がないとできなかったんで、それを覚えようとすると“曲作り”にまで到達しないんです。当時のhideは「“ドンドンドン”って入れるにはどうやったらいいんだろう?」なんていちいち考えちゃうような状態だったんで。彼が作った打ち込みのトラックは曲と呼べる状態ではなくて、本当にモチーフと言うか。「ここまでやったんだけど、できないからI.N.A.ちゃんやって!」って感じだったから(笑)。
──そもそもhideさんはどうしてDTMに興味を持っていたのでしょうか?
彼自身がXをやっていたから、ソロではバンドとは違うことをやろうとしたんだと思う。「機械を使って曲を作る」というプロセスがバンドサウンドとの差別化になると思ったのが始まりじゃないかな。
──MinistryやThe Prodigyなどにインスパイアされた部分もあったようですが。
そういうジャンルの影響も大きいと思います。興味が湧いたものを全部吸収して、hideのフィルターを通して自分のものにしてアウトプットしていくってことが必ずあったから。
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ハードディスク1GBで80万円の時代
書籍
- I.N.A.(hide with Spread Beaver)
「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡~」 - 2018年4月28日発売
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス -
単行本 1728円
- 内容
-
- 君のいない世界
- プロローグ
- 出会い
- ロサンゼルス
- ハードコアテクノくん
- 酒と泪とヒデラと消防車
- hideソロプロジェクト始動
- 2枚のシングル
- アンセム
- LAの青い空 その壱
- ほんとにあったヤバい話
- LAの青い空 その弐
- 未来人の片鱗
- LAの青い空 その参
- DON'T PANIC
- ギブソン レスポール
- 過酷な日々
- HIDE YOUR FACE
- LAの青い空 再び
- hideとzilchとX JAPAN
- PSYENCE
- 3・2・1
- 時代の終焉
- hide with Spread Beaver
- 未来人
- エピローグ
メモリアルライブイベント
- hide 20th memorial SUPER LIVE
「SPIRITS」 -
2018年4月28日(土)
東京都 お台場野外特設ステージJ地区OPEN 10:00 / START 11:30 / END 19:00(予定)
出演者
MUCC / ZEPPET STORE / OBLIVION DUST / D'ERLANGER / BUCK-TICK / hide with Spread Beaver(ゲスト:PATA) -
2018年4月29日(日・祝)
東京都 お台場野外特設ステージJ地区OPEN 10:00 / START 11:30 / END 19:00(予定)
出演者
J / 氣志團 / defspiral / ZIGGY / 布袋寅泰 / hide with Spread Beaver(ゲスト:PATA)
献花式
- hide Memorial Day 2018~献花式~
-
2018年5月2日(水)神奈川県 CLUB CITTA'
ボックスセット
- 「hide 1998-Last Words-」
- 2018年5月2日発売 / エムアップ
-
[6CD+DVD+BOOK]
14904円
MUCL-00003
1998年春。hideが自ら語った最後のストーリー。永遠のメッセージを完全コンプリート。
映画
- hide 20th Memorial Project Film
「HURRY GO ROUND」 - 2018年5月26日(土)全国公開
あの衝撃の日から20年。なぜ彼は時代を超えても生き続けるのか。その真実に迫った究極のドキュメンタリー。
トリビュートアルバム
- V.A. 「hide TRIBUTE IMPULSE」
- 2018年6月6日発売 / UNIVERSAL J
-
[CD] 3240円
UPCH-2162
hideの音楽のスケール同様、幅広くバラエティに富んだアーティストやバンドによるトリビュートアルバム。
- I.N.A.(イナ)
- hideの共同プロデューサー兼プログラマー。X JAPANのサポートメンバーとして日本のロック界を裏側で支えてきた音楽プロデューサーで、さまざまなアーティストのアレンジなどを手がけている。現在は東京・IID 世田谷ものづくり学校にスタジオを構え、音楽ワークショップ「電脳音楽塾」を展開している。