音楽ナタリー Power Push - HEY-SMITH

新体制で初めて制作した“2秒で好きになる”アルバム

プレイヤーじゃなくてバンドマン

──猪狩さんがYUJIさんをバンドに入れようと思った決め手はなんだったんですか?

猪狩 電話のタイミングがよかったっていうのが一番でかいですね。「ご縁やなあ」と思いました。それまで10人ぐらいとスタジオ入ってたんですけど、YUJIのベースはほんまに最悪でしたね(笑)。でもYUJIはみんなと面識があるし、「いいヤツやからコイツにしとこか」っていう。楽器は練習したら誰でもできるし、バンドをやる上で人間関係が一番大事だと思うので。

イイカワケン(Tp)

イイカワケン(Tp) YUJIは本当にいいヤツですよ。いつもヘラヘラしてるいいヤツって感じ。

YUJI 今マイナス面しか出てないですよね?(笑)

イイカワ YUJIって基本的にあんまりガツガツ来ないタイプなんですよ。でも1度「熱いな」って思ったことがあって。俺は最初サポートメンバーとしてYUJIと同じタイミングでバンドに加入したんですけど、HEY-SMITHに正式に入るかどうかけっこう悩んでたんですよ。正式加入を決めたきっかけっていうのがYUJIの「ケンくんはほかのバンドのことを話しているときより、HEY-SMITHのことを話しているときが一番熱い目をしてます」っていう言葉で。ガツッと言ってきてくれたんで、僕の中ではビビッと来ましたね。まあそれ以降はあんまり熱い話聞いてないですけど(笑)。

──イイカワさんはLONG SHOT PARTYやG-FREAK FACTORYなど、HEY-SMITHに入るまでにさまざまなバンドを経験されていますが、その経験を踏まえて「HEY-SMITHに入りたい」と思ったのはなぜですか?

イイカワ いわゆるバンドができるって思ったからですね。さっき猪狩がYUJIに対して「いいヤツだから入れた」って言ってましたよね。プレイのうまさで音楽を突き詰めるんじゃなくて、やっぱりバンドって人間関係でもってるんで、一緒の船に乗って、一緒に人生を共にして、苦楽を共有するっていうのがよさだと思うんです。そういう、バンドをやりたかったんで「それができるなら!」っていうので、HEY-SMITHに入ろうと思いましたね。

猪狩 ケンくんはほんまバンドマンって感じやからな。管楽器やってる方って、バンドマンよりプレイヤーっていう言葉が合う方が多いんですよ。俺はバンドマンって基本的に破天荒なヤツだと思うんですけど、管楽器の方は破天荒じゃないというか、普通でおもんないイメージがあって。そういうヤツらとはやりたくないなと思っていたんです。なんせバンドをやりたいから、やっぱりバンドマンじゃなきゃ困るし。その点でケンくんは思いっきりバンドマンだったんですよね。俺よりだいぶ年上やけど、飲みの席で「目にタバスコ入れよう」とか、よくわからないことを言ってきたり。

イイカワ 違う、レモン。

猪狩 どっちでもいいわ(笑)。ツアー中に酒に溺れていく様を見て、「ああ、コイツは典型的なバンドマンやな」と。最初はサポートメンバーとして入ってもらってたけど、最初から一緒にやりたいなと思ってましたね。でもまあ、まだそんなに時間を共にしてないっていうのもあったし、1回ツアーを全部回ってからどんなヤツか知りたいなっていうのもあって。

かなす(Tb)

──同じくサポートメンバーだったかなすさんはどのようなきっかけで加入されたのでしょうか?

猪狩 かなすはもともとFEELFLIPにいたし、10年以上前から知ってて友達だったんです。パフォーマンスとか腕前はずっと観てきてわかってたし。でも俺、基本的に女とバンドやる気がなかったので、かなすには「いい管楽器の人いない?」って言っていろんな人を紹介してもらってて。ケンくんもかなすを通じて会ったし。かなすもずっと、プレイヤーじゃなくてバンドマンになりたかったんですよね。そういう話は前々から聞いてたし、かなすは最初から「私が入りたい!」とか言ってましたけど、「いや、女はちょっと」みたいな感じで流していて(笑)。でもいろんな人とスタジオ入って、結果なんだかんだでかなすが一番よかったっていう。ちゃんとツアーを経て、ライブも移動も打ち上げもいっぱい時間を共にして、男と変わらんなあってことで、だんだん大丈夫やなって思ってきた感じです。

HEY-SMITHっていうツールを使ってるだけ

──メンバーチェンジを経て、HEY-SMITHは2管から3管のバンドになりました。音の雰囲気もだいぶ変わりましたね。

猪狩 そうですね。始めた当初からずっと「トロンボーンを入れたいな」っていうのは言ってたんですけど、オリジナルメンバーの5人で初めてCDを出したタイミングで「新しいメンバーを入れるのはもうやめよう」「5人でできることをするのがバンドだ」と思って。でも俺としてはトロンボーン、トランペット、テナーサックスっていう3管のハーモニーが一番好きっていうのもあったし、メンバーの脱退を経てHEY-SMITHを新しくするってなったときに「3管はマストやな」って自分の中では思ってました。

──ではある意味仕切り直しだったんですね。

満(Sax)

猪狩 そうですね、3管にするにはいいタイミングでした。思ってた通りハーモニーもいいし、ケンくんとかなすがうまいっていうのもあって、前より演奏レベルも格段に上がりました。メンバーが半分変わって、しかもボーカルが変わって成功してる日本のバンドって俺は見たことがないんですよ。だからまだ誰もやってないウルトラCを決めてやりたい気持ちもありますね。「メンバー変わってもいけるぞ!」っていう。

──今回のアルバム「STOP THE WAR」を初めて聴いたときに、以前にも増して「踊りやすそう!」という印象を受けました。

イイカワ 前のアルバムより、ホーンとギターとベースが密接に絡むようになってるから、バラバラじゃなくてスッと集まって聞こえる分、踊りやすいのかもしれないですね。僕の印象ですけど、今回は前のアルバムに比べるとギターの主張が強くなったかなって思いますね。

猪狩 そうかも。やっぱ3管あるから、すごくホーンが目立つんですよね。俺は基本的にリフとかソロはギターと管楽器の取り合いやと思ってるんです。ギターがカッコよかったらホーンはなしやし、ホーンがカッコよかったら「じゃあこっちはバッキング弾くよ」みたいな。そういう感じやから、はっきりと「はい、ホーンよりこっちのほうがいいでしょ」ってカッコいいギターフレーズを出しておかないと通らないんですよね。

──バンド内で高め合っていってるんですね。

猪狩 よく言ったらそうですね。俺は別にHEY-SMITHはチームやから、チームのためにはがんばるけど、基本的には自分が一番目立ちたいんです。でもメンバーはみんな同じ気持ちやと思うんですよ。俯瞰で見てチームとしてこっちのほうがカッコいいからっていうところで譲ることはあるけど、やっぱり自分が一番カッコいいと思ってるし。

──猪狩さんはずっと前からその発想があるんですか?

猪狩 ずっとそうです。HEY-SMITHっていうツールで遊んで、カッコいいギタリストになりたいだけだから。俺は基本的にバンドマンっていうものであって、HEY-SMITHを使ってるっていう感じ。

イイカワ 僕もそうですね。

YUJI 俺もです。

猪狩 それでみんなが有名なトランペッターになったらいいし、有名なボーカリストとかベーシストになったらいいし。だからまあ「ONE PIECE」ですよ。ロロノア・ゾロが世界一の剣豪を目指しているように、みんなそれぞれ夢があるけど、チームの一員として一緒に戦っていると(笑)。

ニューアルバム「STOP THE WAR」2016年5月18日発売 / CAFFEINE BOMB ORGANICS / Fried Rice Inc.
「STOP THE WAR」
初回限定盤 [CD+DVD+フォトブック] 3132円 / CBR-75
通常盤 [CD] 2592円 / CBR-76
CD収録曲
  1. Instream
  2. Stop The War
  3. Dandadan
  4. Don't Worry My Friend
  5. 2nd Youth
  6. Alive And Lucky
  7. Truth Inside
  8. Let Me Fly
  9. Radio
  10. What They Hide
  11. Summer Breeze
  12. Before We Leave
  13. States Of War
  • Bogey Loves(ボーナストラック)
初回限定盤DVD
  • 「Stop The War」ミュージックビデオ
  • 「Stop The War」ミュージックビデオメイキング映像
HEY-SMITH(ヘイスミス)
HEY-SMITH

猪狩秀平(G, Vo)を中心に結成されたパンクバンド。2006年に大阪を拠点にライブ活動を開始し、2009年に1stミニアルバム「Proud and Loud」でCDデビュー。2010年の1stフルアルバム「14 -Fourteen-」を経て2011年にリリースした2ndフルアルバム「Free Your Mind」はオリコン週間インディーズランキングで1位を記録する。2012年には「FUJI ROCK FESTIVAL '12」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」といったフェスに参加したほか、coldrain、SiMとの合同ツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」を開催した。2013年5月、2年ぶりのフルアルバム「Now Album」を発表し47都道府県を回るレコ発ツアーを大成功に収める。2010年より自主企画イベント「OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」を主催しており、2014年9月には大阪・泉大津フェニックスにて初の野外開催を成功させた。2015年1月に同イベントの模様を収録したDVD「Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」をリリース。メンバーチェンジを経て、現在は猪狩秀平、YUJI(B, Vo)、満(Sax)、Task-n(Dr)、かなす(Tb)、イイカワケン(Tp)の6人体制で活動を行っている。2016年5月には新体制で初めてレコーディングしたアルバム「STOP THE WAR」を発売した。