林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系

林原めぐみが自身の誕生日である3月30日に、7年8カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「Fifty~Fifty」をリリースした。

本作には「新世紀エヴァンゲリオン」関連楽曲をはじめとするアニメソング、椎名林檎が楽曲提供した「薄ら氷心中」「今際の死神」、初CD化となる「恐山ル・ヴォワール」などの既発曲が幅広く網羅されているほか、2004年5月に急逝した岡崎律子の未発表曲「Mint」や、岡崎が1996年にリリースした楽曲「リグレット」のカバー、テレビアニメ「3×3EYES」のキャラクターソングとしてかつて歌った「もう1人の私」の新録“MEGU Version”、林原本人が作詞を手がけた新曲「Fifty」も収められている。ファン待望のニューアルバムはどんな思いを込めて編まれていったのか? 林原本人にたっぷりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

ちっとも“ぶり”ではないぞ

──実に7年8カ月ぶりのオリジナルアルバムが完成しました。

そうやって言われちゃうのがね、めんどくさいなって感じですよね(笑)。

──(笑)。確かにその間にもベスト盤「VINTAGE White」「タイムカプセル」「DUO」や岡崎律子さんのトリビュートアルバム「with you」などのリリースはありましたからね。

そうそう。「with you」には新録曲も入れたし。なんか7年ぶりとか言うと、その間の活動が止まっていたみたいに聞こえちゃうけど、こちとらちっとも“ぶり”ではないぞっていう。

──このタイミングでのリリースを決めたのには何か理由はあったんですか?

林原めぐみ

いや、理由は特にないですね。レコード会社に「出すぞ」と言われたので「はい、わかりました」と(笑)。なんかね、私の中での曲の幸せというのは、レコーディングが決まって、それが各作品の主題歌であれ、エンディングテーマであれ、作品を彩った瞬間に1つ到達されてる気がするんですよ。ある意味そこが頂点なの。作品と共にあり、作品とともに終わる……みたいな。

──それらをアルバムとしてまとめることにあまり執着はないと。

うん。ただ、「マルドゥック・スクランブル 排気」の主題歌だった「つばさ」のリリース時期(2012年9月)を考えれば「あーそれくらいからアルバムとしてまとめていないんだな」と、いろいろ気付くところはありました。で、それらをアルバム化することで、私にとっても、聴き手の方々にとっても心の奥で眠っていたものを呼び出すきっかけにはなるし、曲にとっては第二の人生が始まることになる。私にとってはそれがアルバムを出す1つの意味でもあるので、そういう場を持てていることが単純に幸せだなと思います。

突然届けられた岡崎律子の未発表デモ

──しかし今回はいつになくスパンが長かったので、ファンも熱望していたと思うんですよ。そういった声は届いてなかったですか?

「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」の様子。(撮影:釘野孝宏)

どうなんだろう……去年の6月にね、五十路にして初のワンマンライブ(2017年6月開催「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」)というものをやってしまったことで、ファンの方々の熱意がそこで大爆発したところがあって、その結果、よくも悪くもみんなカサカサになってしまっていた気がすると言うか(笑)。

──アルバムへの期待が一旦吹き飛ぶくらいの超ビッグニュースでしたからね。

確かに周りの人々、特に業界人の方はかなりざわざわしてましたけど(笑)。私としてはひっそりやりたかったのに。

──でも、そのライブがアルバムリリースへの1つのきっかけになったところもあったんじゃないですか? 「with you」のインタビューで、岡崎さんの故郷である軍艦島でのジャケット撮影が実現したことで「音楽をもう少し続けなさい」と言われたような気がしたとおっしゃっていましたよね(参照:林原めぐみ「with you」インタビュー)。その後、初のワンマンなどを経験したことで、ご自身の中で新たにギアが入ってアルバム制作につながっていった……そんな想像を勝手にしていたんですけど。

そうかもしれないですね。今回のアルバムには「Mint」という岡崎さんの未発表曲が入っているんですけど、その出会いを考えると導かれていたような気がすると言うか。あの曲はね、初ライブが終わったあとの打ち上げの席でangelaのKATSUくんに手渡されたテープに入っていたものなんですよ。彼の師匠がお持ちだったらしく。私としては「with you」を作ったことで、岡崎さんに対するいろんな思いを1つ整理して、そのうえで「これからは岡崎さんの新曲を歌うことはできないけど、カバーという形で、伝えていくのかな……」っておぼろげに思っていて……そうしたら突然、未発表曲の入ったカセットテープが私の手元にやって来たっていう。「そんなことってあるかね?」と思って、ちょっと言葉を失いましたよね。

──そこでもまた岡崎さんが背中を押してくれたのかもしれない。

うん。責任と言うかね、まだまだちゃんとやっていかなきゃなって改めて思ったところはありました。その気持ちがアルバムにつながっていったところはあったと思います。

1stアルバム「Half and, Half」の進化版

──アルバムリリースが決まったとき、内容について具体的なイメージはありましたか?

まず、こんなジャケットにしたいなというイメージはありました。実を言うと、2年くらい前から温めていたアイデアがあったから、最初はそれをやろうと思ったんです。でも今回は時間的な問題で実現できないことになって。「なぬー! ダメー!?」みたいな(笑)。で、その5秒後には次のプランを考え始めて、今のジャケットのアイデアが出てきたんですけど。

林原めぐみ「Fifty~Fifty」初回限定盤ジャケット林原めぐみ「Fifty~Fifty」通常盤ジャケット

──サイバーな雰囲気の林原さんと、ナチュラルな雰囲気の林原さんが並んでいるジャケットになっていますね。

私は「Half and, Half」というアルバム(1991年3月発売)を1枚目に出していまして。それは“私半分、キャラクター半分”という意味だったんですけど、今回はそれの進化版といったイメージなんですよね。当時よりも地に足が付いた分、よりどこへでも飛べるし、よりなんにでもなれる自分がいる。その一方で、年齢を重ねたことで変わった部分はもちろんあるけども、どう変わったとしても結局私は私。それを2人の自分で表現してみました。長年、私のことを応援してくださっている方はきっと「林原さんらしいな」って思ってくれるものになったとは思うんですけどね。お洋服の色がグレーと銀になっているところにも実は明確な意味があるんだけど、そこはご想像におまかせします、って言っとこうかな。

──林原さんは楽曲に込めた思いなども含め、種明かしを控えるタイプですよね。

うん。だってね、なんでもしゃべってしまうことで受け取り方の自由を奪ってしまうのはかわいそうじゃないですか。なので、いろいろ深読みしてください(笑)。リリースからしばらく時間が経って、みんながお腹一杯楽しんでもらえたなと思えたら改めていろんなことをお伝えするつもりではいますけどね。

林原めぐみ「Fifty~Fifty」
2018年3月30日発売 / KING RECORDS
林原めぐみ「Fifty~Fifty」初回限定盤

初回限定盤 [CD+Blu-ray]
3780円 / KICS-93693

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林原めぐみ「Fifty~Fifty」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3693

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CD収録曲
  1. 集結の園へ~セカンドインパクト~
  2. Come sweet death, second impact
  3. The Image of black me
  4. Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version
  5. SKY5
  6. もう1人の私 MEGU Version
  7. サンハーラ~聖なる力~
  8. つばさ
  9. 薄ら氷心中
  10. 今際の死神
  11. リグレット
  12. Mint
  13. 恐山ル・ヴォワール
  14. Fifty
初回限定盤Blu-ray収録内容
  • 薄ら氷心中(Music Video)
  • 薄ら氷心中 アナザーバージョン(Music Video)
  • 今際の死神(Music Video)
  • 青空(Music Video)
林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
林原めぐみ
東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中の1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。1990年には個人名義で1stミニアルバム「PULSE」をリリースし、1990年代後半には「Give a reason」「Just be conscious」「don't be discouraged」などオリコン週間シングルランキングトップ10入りを何度も果たす。その後もコンスタントにリリースを重ね、2017年5月には、2004年に急逝した岡崎律子のトリビュートアルバム「with you」を発表。同年6月には初のワンマンライブ「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」を開催した。2018年3月、7年8カ月ぶりとなるニューアルバム「Fifty~Fifty」をリリース。