音楽ナタリー Power Push - 林原めぐみ
過去と未来、私の思いと誰かの思い すべて詰め込む「タイムカプセル」
“正方形の歌い方”を育むソラミちゃん
──「正方形を作っておけば大丈夫」という方法論はどうやって編み出したんですか?
レコード会社の方がワーッとくる以前から、キャラクターとして何かを歌うことはしていたからできたのかもしれないですね。声優としてデビューして間もなく、教育テレビ(現NHK Eテレ)の「ともだちいっぱい」っていう番組でサルの女の子のソラミちゃん役をやってたんですよ。で、モンタくんっていう男の子のサル役の田中真弓さんと一緒に番組の中で「あいさつの歌」とか「手を洗う歌」みたいな曲を歌ってたんです。セリフを織り交ぜながらケンカする歌を歌ったりとか。
──じゃあ方法論を編み出したのはソラミちゃん当時?
だと思うんだけど、どうやって編み出したんだろう? ホントに駆け出しだったから、真弓さんが歌っているのを見て「こうすればいいのかな?」って試行錯誤を繰り返していただけだし。で、いつのまにか確立されていたというか。実は「声優がキャラクターとして歌う」こと自体は別に当時から新しいことでもなんでもなくて。真弓さんたちは当たり前のように歌ってましたし、本当にお上手だったから、そういう先輩方を見て勉強して「まずは正方形を作ろう」っていうイメージができあがったんだと思います。だって別にアニメのキャラクターソングを歌うようになってからの私と、「ケンカの歌」を歌っていた私には大した違いはなくて。どっちも同じように歌ってましたから。私の中ではその曲が電波に乗って流れるのか、CDとして販売されるのかっていう違いしかなかったんですよね。
「なんて言うんだろう? ぶっ壊れ感がすごい?」
──そして、その“学び”と“怒濤のスケジュール”が生んだ楽曲の数々が収録された「タイムカプセル」なんですけど……。
1人の人間が全部歌ってることが信じられないというか、この人、完全に人格が崩壊してますよね(笑)。なんて言うんだろう? ぶっ壊れ感がすごい?
──あはははは(笑)。どの曲も本当にキャラクターに寄り添って歌ってるから、役幅が広ければ広いほど“ぶっ壊れ感”が強調されるし、実際役幅が広かった。
だから当時からのファンの方にいろんなアニメやキャラクターの思い出とともに聴いてもらいたいのと同時に、若い子たちにも聴いてもらいたいんですよね。うれしいことに「最近『名探偵コナン』の映画を観てファンになりました」って言ってくれる10代の子たちもいるので。「この歌、(「名探偵コナン」の灰原)哀ちゃんの人が歌ってるの?」って、ぶっ壊れ感を体感してもらうのも、新しい聴き方だね(笑)。面白がってくれるといいなとも思ってます。
──トラックリストにもいい意味で“ぶっ壊れ感”がありますもんね。特にDISC 2の1曲目なんか……。
ねえ!(笑) でも「夢のBalloon」は嫌がる乱馬がムリヤリ歌わされてるっていう設定の歌なんですよ。
──だからわざとスゲーヘタクソに歌ってるわけですよね。でも2枚目のCDの幕開けがこれか!って驚きはあって。2曲目の「未確認Girl」は王道アイドルポップで、3曲目の「好きと言いなさい」はかわいらしいソウルだから「この2曲のどっちかが1曲目でよかったんじゃね?」って。
笑ってもらってナンボだと思ってますから(笑)。ただこのトラックリストってディレクターに丸投げして組んでもらったものなんです。私はアニメ作品やキャラクターへの思い入れが強すぎるから、きっと音楽的ではない曲順しか思い付かないと思って。私がやったことは自分の手元にあった当時のサンプル盤をひっくり返しては「こんなCDが家にあったんだけど」ってスタッフに渡してみたり、ファンの方から聴きたい曲を募ってみたりしながら候補曲をピックアップしただけ。あとは「さあ、お前ら権利を取ってこい!」って言ってみた感じなんです(笑)。
──でも林原さんの初期のフィルモグラフィも追えるいいラインナップになりましたよね。
そこは確かに考えましたね。候補曲のうち3分の2の権利が取れなかったら、この企画はやめようと思ってましたし。「らんま」の曲はあるけど「ワタル」の曲はないみたいなことになると「タイムカプセル」として不完全ですから。ただそれがスタッフ的には大変だったみたいです。この25年、レコード会社の合併が続いてるじゃないですか。だからまず「あのレコード会社ってどこと一緒になったんだっけ?」って調べ、次に合併先で当時の事情を知ってる方を探し出し、さらにマスターテープを掘り出し……っていう感じで。
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DISC 1 収録曲
- COME TRUE…(アルバム「PULSE」より)
- Follow you, Follow me(アルバム「PULSE」より)
- Go ALONG ! GO AROUND!!(アルバム「PULSE」より)
- 夢を追いかけて(アルバム「PULSE」より)
- 星の涙ポ・ロ・ロ・ン(「宇宙英雄物語」より)
- Dear Friends(「ぽっぷるメイルパラダイス」より)
- Kaleido scope(「WILDCD」より)
- おカネがいちばん(「ルナ・ソングス2」より)
- ALCHEMY OF LOVE~愛の錬金術~(「天地無用 in LOVE」より)
- 虹色れんあい♡(「星くずパラダイス」より)
- 約束だよ(KWAK'S SONG)(「あひるのクワック」より)
- ハッピー・ハッピー(ALFRED'S WALK)(「あひるのクワック」より)
- クローバーイノセンス(「MIYUKI WORLD」より)
- ぴょこLOVE注意報(「デジキャラットにょ」より)
- Grow up~明日があるぴょ~(「デジキャラットにょ」より)
DISC 2 収録曲
- 夢のBalloon(「らんま1/2」より)
- 未確認Girl(「エリアル」より)
- 好きと言いなさい(「忍空2」より)
- 花言葉にゆれて(「絶対無敵ライジンオー」より)
- ぶらんこの歌(「七つの海のティコ」より)
- プラスα~Album Version~(「瑠璃丸伝」より)
- 騒擾楽園(パラリラパラダイス)(「魔神英雄伝ワタル3」より)
- にんじんとグリグリ(「魔道王グランゾート」より)
- シンデレラなんかになりたくない(「チンプイ」より)
- いつまでもwith you(「七つの海のティコ」より)
- あなたの風になりたい(「BAD BOYS 2」より)
- あこがれ(「ルパン三世 炎の記憶」より)
- November Rain(「らんま1/2」より)
- JUSTIS~ダンガン×ヒーローより~(「MIYUKI WORLD」より)
- HI・MI・KO(台詞入り)(「魔神英雄伝ワタル2」より)
DISC 3 収録曲
- COME TRUE…(アルバム「PULSE」より(セルフカバー))
- Follow you, Follow me(アルバム「PULSE」より(セルフカバー))
- Go ALONG!GO AROUND!!(アルバム「PULSE」より(セルフカバー))
- 夢を追いかけて(アルバム「PULSE」より(セルフカバー))
- 林原めぐみ「タイムカプセル」発売記念イベント
- 2015年7月5日(日)東京都 某所
林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中となる1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。1990年には個人名義で1stミニアルバム「PULSE」をリリースし、1990年代後半には「Give a reason」「Just be conscious」「don't be discouraged」などオリコン週間シングルランキングトップ10ヒットを記録した楽曲群を発表する。その後もコンスタントにリリースを重ね、これまでに38枚のシングル、13枚のオリジナルアルバム、3枚のベストアルバムを発表。そしてアーティストデビュー25周年を迎えた2015年6月、活動初期のキャラクターソングと「PULSE」収録曲をパッケージしたベスト盤「タイムカプセル」をリリースする。