音楽ナタリー Power Push - 早見沙織
ライブモードのミニアルバムでつなぐ 私の“これまで”と“これから”
早見沙織ワールド全開の「雨の水平線」
──その「雨の水平線」は、1曲目の「ふりだし」とは対照的な、しっとりとした透明感のあるバラードです。
「ふりだし」は、誰が見てもわかるくらいド直球にバババーって自分の気持ちを書いた感じなんですけど、「雨の水平線」も、ある意味で私のストレートな気持ちというか。自分の内面にあるイメージだったり情景だったり、あるいは心の動きみたいなものをそのままドーンって乗っけたような楽曲かもしれないですね。わりと早見ワールド全開な感じで。
──その早見ワールドには、どこかもの悲しい雰囲気が……例えば「雨音に溶け出した 悲しみのその温度」というのは涙の比喩でしょうし。
悲しさもあるかもしれないですね。
──ただ、悲しさはあっても、最終的に「そっと立ち上がったら いつもの日々へ帰る」と、現状に復帰する歌でもありますよね。その点で、「ふりだし」とテーマが共通している部分もあるのかなって。
ちょっと近いかもしれないですね。「雨の水平線」は日常から離れて、1人の時間でもいいし1人の空間でもいいですけど、言ってみれば自分だけの世界にこもる歌なんですよね。そこでエネルギーをチャージして、また日常へ戻っていく。そのチャージの仕方は人それぞれだと思うんですけど、そういう自分を回復させる過程を描きました。
早見沙織の歌の原型は、早見母によって作られた
──3曲目の「Secret」と4曲目の「eve」は、ご自身でもおっしゃったようにいずれもジャジーな曲ですが、雰囲気はだいぶ違いますね。
違いますね。先ほどお話に出た「ESCORT」の延長で、そういう曲をもっと増やそうってなったときに、同じジャンルに収まる曲であっても、その中で振れ幅を出したいなって。
──「Secret」はゴージャズで艶っぽい大人のジャズナンバー、一方の「eve」はとにかくハッピーでアプローチもややポップス寄り。やはり対照的です。
歌うときの気持ちもまた対照的なんですよ。まず「Secret」は、曲ができたときはみんなで「難しい曲だねー」なんて話してたんですけど、レコーディングやライブで歌えば歌うほど、どんどん体になじんでいったんです。逆に「eve」は、初めてプリプロしたときにメッチャ楽しい気持ちになったんです。まだ曲に慣れてないのにすごく元気のある曲、元気をもらえる曲だなと。なので、どちらも印象深い曲です。
──その対照的な2曲を、きちんと歌い分けてらっしゃる。先ほどジャズボーカルのレッスンのお話を伺いましたけど、それ以外に何か特別な歌のトレーニングをなさったりは?
私の歌の原型を作ってくれたのは、たぶんうちの母です。母自身もすごく歌が好きでジャズボーカルのレッスンに連れて行ってくれたこともそうだし、あと私が幼稚園に入る前くらいから歌い方はもちろん、歌のニュアンスとかもいっぱい教えてくれたり直してくれたりしたんですよ。なので、もう小学生くらいのときにだいたい固まったというか、そのときから今みたいな感じで歌ってました。
キャラソンを歌うことで“歌の表情”に気付けた
──それって、めちゃくちゃ歌がうまい子供だったってことですよね?
うまいかどうかはさておき、歌い方はあんまり変わってなくて。ただ、面白いのは、その間に声優の仕事を始めて、キャラクターソングを歌うようになっているんですよね。私にとってキャクターソングはそれまでの歌とはアプローチの仕方が全然違ったので、それを経ている分、昔とは多少変わっているかもしれません。
──具体的には?
歌い方のベースは一緒なんですけど、キャラクターソングの場合、普段の自分は絶対にしないような歌い方も要求されるんですよね。例えばものすごく癖を付けたり、しゃべってるように歌ったり、声色をガラッと変えたり。でも、歌ってるのは私だから、私本来の歌い方も同時に存在していて、その両方をどのくらいのバランスで配合すればいいのか。つまり、そのキャラクターと早見沙織が歌い方を巡ってずーっとせめぎ合ってるんですよね。どんな曲であっても、キャラクターソングを歌うときはそのことを考えながら歌ってきたので。
──やっぱり、キャラソンであっても早見沙織性はどこかに残したいですか?
いや、その逆で、なんか出てきちゃうんですよね(笑)。早見性を全開にしても通用するキャラクターもいれば、まったくそうではないキャラクターもいるので、まずは全開かそれに近い状態で歌ってみて、そこから早見性を抜いていって微調整するみたいな。いつもそんな感じです。
──その経験が、現在のアーティスト活動にフィードバックされているような感覚は?
ありますね。キャラクターソングって、キャラクターの表情に紐付いている気がして。例えば無表情なキャラクターだと歌もずっと無表情で、普通だったら盛り上がるパートもフラットに歌ったりして、楽曲とのギャップが生まれるような作り方をすることが多いんですけど。
──「化物語」シリーズで演じてらした斧乃木余接などは無表情キャラの典型ですね。
そうですね。そういう “歌の表情”の付け方みたいなものは、キャラクターソングを歌う前は全然考えていなかったし、キャラクターソングを歌っていなかったら今も気付いていなかったかもしれません。あとは、やっぱりアウトプットするということに対してとても意識的になったというか。キャラクターソングは、当たり前ですけど、ある設定に基づいたキャラクターを媒介にして、そこに自分の引き出しを絡めてリスナーさんに「どうぞ」ってお出しするわけですよね。でも早見沙織として歌うときは、自分自身をパカッと切り開いて、その中から歌を取り出すような感覚なので、より“自分の歌”というものを意識するようになりましたね。
次のページ » 早見沙織が提供できるライブの楽しさ
- 1stミニアルバム「live for LIVE」2016年12月21日発売 / ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
- CD+Blu-ray盤 [CD+Blu-ray+特典CD2枚] 7344円 / 1000636464
- CD+DVD盤 [CD+DVD+特典CD2枚] 6264円 / 1000636465
- CD盤 [CD] 1944円 / 1000636466
CD収録曲(共通仕様)
- ふりだし
[作詞:早見沙織 / 作曲:ヤナガワタカオ / 編曲:渡辺拓也] - 雨の水平線
[作詞:早見沙織 / 作曲:早見沙織・矢吹香那 / 編曲:前口渉] - Secret
[作詞・作曲:川崎里実 / 編曲:大久保薫] - eve
[作詞・作曲:矢吹香那 / 編曲:前口渉]
Blu-ray / DVD収録内容
- Overture –Live Love Laugh–
- NOTE
- やさしい希望
- 水槽
- MC1
- ふりだし
- その声が地図になる
- 雨の水平線
- あるゆらぐひ
- HAYAMInst.
- レンダン
- MC2
- Secret
- ESCORT
- eve
- MC3
- 僕らのアンサー
- where we are
- Installation
- MC4
- LET'S TRY AGAIN
- ブルーアワーに祈りを
- MC5
- 星になって –ENCORE–
- MC6
- To years letter –ENCORE–
特典CD(DISC 1)収録曲
- Overture –Live Love Laugh–
- NOTE
- やさしい希望
- 水槽
- ふりだし
- その声が地図になる
- 雨の水平線
- あるゆらぐひ
- HAYAMInst.
- レンダン
特典CD(DISC 2)収録曲
- Secret
- ESCORT
- eve
- 僕らのアンサー
- where we are
- Installation
- LET'S TRY AGAIN
- ブルーアワーに祈りを
- 星になって –ENCORE–
- Installation(Acoustic) –ENCORE–
- To years letter –ENCORE–
早見沙織 MINIアルバム「live for LIVE」発売記念 アコースティックライブ
2016年12月25日(日)
東京都 ゲートシティ大崎 アトリウム
早見沙織(ハヤミサオリ)
東京都生まれの声優・ボーカリスト。2007年の声優デビュー後、アニメ「セキレイ」の結、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の鶴見知利子、「物語」シリーズの斧乃木余接、ゲーム「ラブプラス」シリーズの高嶺愛花など、毎シーズン主要キャラクターの声を数多く務め、またそれらキャラクター名義で歌う膨大なキャラクターソングにおいて、その歌唱力を高く評価される。2015年8月に自身がヒロイン役を担当するアニメ「赤髪の白雪姫」のオープニングテーマにして自作詞曲「やさしい希望」で待望のアーティストデビューを果たし、翌2016年2月には自作詞・自作曲による両A面シングル「Installation / その声が地図になる」を、5月には初のフルアルバム「Live Love Laugh」を発表。同年秋にこのアルバムを引っさげて全国3会場を回るツアーを開催する。そして12月、そのツアーのために書き下ろした楽曲を集めた1stミニアルバム「live for LIVE」をリリースした。