音楽ナタリー Power Push - 早見優×藤井隆特集
憧れの歌手をプロデュース! 藤井が考える、音楽との新たな向き合い方
藤井隆 ソロインタビュー
「やらされてる」なんてズルい言い方はできない
──SLENDERIE RECORDを立ち上げた、当初のビジョンはどんなものでしたか?
2002年に「ナンダカンダ」で歌手デビューさせていただいたとき、アンティノスレコード(藤井がかつて所属していた音楽レーベル)の社長に「あなたを観に来られる方には、コンサートというものに初めて足を運ぶ方や、ふだん音楽を聴かない方、ちびっ子だっているかもしれない。だからちゃんとしてください」って言われたんです。そのときはあんまり意味がわかってなかったんですけど、最近お客様が「当時CD買いました」と言ってくださったり、現場のスタッフの方が「幼稚園で踊りました」って言ってくださって。あの曲のおかげで、いろんなところにジャンプさせてもらえたことに気付くことができたんですね。それで僕はテレビだけでなく、音楽でも育ったんだなって思ったんです。
──なるほど。
音楽活動については正直、照れくささもあって、やらされてるぐらいがちょうどいいと思っていました。でもSLENDERIE RECORD を立ち上げた段階で「もうそんなズルい言い方はできへんな、やるならちゃんとやろう」って考えるようになったんです。レーベルとしてはまず、吉本の芸人さんの中で「歌ったらいいのにな」って思う人を誘ってCDを出そうと考えていました。
──SLENDERIE RECORDではこれまでレイザーラモンRGさん、椿鬼奴さんと組んだユニット「Like a Record round! round! round!」の楽曲や藤井さんのソロ作品を発表しましたが、当初のビジョンは実現できていますか?
自分がイメージしていたことは実現できてますね。実は7月に出したミックスCD「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」は早見さんのアルバムリリースが決定した際、ミッシェル・ソーリーさんが「自分のリリースもあったほうが一緒に回ったり活動しやすいですよ」って言ってくださって、それがきっかけになったんです。自分にはなかったアイデア。と言うのも、改めて昔の作品を聴き返すことがあんまりなかったんです。やっぱり照れくさかったり、決して甘いとは言えない思い出もあるので。それをミッシェルさんが「やったほうがいいですよ」ってドンと言ってくれて、心強かったですね。
──そしてご自身のミックスCDをリリースしたのち、早見さんの新作をプロデュースすることになったと。
早見さんの楽曲は「PASSION」も「Tonight」も「ハートは戻らない (Get out of my life)」も大好きで、今回のプロデュースを通して「『夏色のナンシー』だけじゃなく、ほかの楽曲もすごくいいんですよ」っておこがましいですが伝えたかったんですね。くれぐれも言っておきますけど、「夏色のナンシー」も大好きですよ(笑)。
──はははは(笑)。
早見さんの事務所の社長さんとお話ししたとき、「早見はリリースこそしてないけど、肩書きは歌手なんですよ」とおっしゃって、僕もまったく同感だったんです。去年の11月に行ったライブ(参照:藤井隆&tofubeatsのWリリパ大成功!早見優、新井ひとみらゲスト共演も)で早見さんの楽曲が流れたんですけど、若いお客様もすごく楽しんで聴いてくれて。それを見た社長さんも好感を持たれたみたいで、そこで「CDを出しませんか」ってお話をいただきました。
──早見さんの事務所の社長さんは重要なキーパーソンみたいですね。
もちろん。レコーディングのとき、スタジオでリズムを刻んでらっしゃって。その姿を見たときはすごくうれしかったし、「絶対ちゃんとしよう」って身が引き締まりました。早見さんはもちろんのこと、社長さんがイヤがるようなことはしちゃいけないって。すごくお世話になったので、少しでも恩返しできたらいいですね。
ドラマのリハ中なのに、ホロホロと涙が出てきて
──リミキサーの人選も藤井さんが担当されたそうで。
会社の人やミッシェルさんにもたくさん相談しましたけど、最終的に決めたのは自分ですね。すごく楽しかったです。3人ともとってもチャーミングで純粋なんですよ。リミックスをお願いしたときもすごく喜んでくれたし、出来も最高やったし、早見さんもすごく気に入ってくださって。発注して最初に返してくれたのがokadadaくんだったんですけど、早見さんもおっしゃってた通り、楽曲からトロピカルハウスのアレンジを提案してくれて、さすがでした。「Caribbean Night」は中原めいこさんのオリジナルももちろん好きですけど、僕はこのリミックスが大好きです。DE DE MOUSEさんが手がけてくれた「誘惑光線・クラッ!」は「オリジナルでは緑や赤の誘惑光線みたいな感じだったんですけど、リミックスではLEDの輝きというか、触っても火傷はしないけどずっと直視したら目をやられる……みたいなイメージにしてください」って伝えたんですね。それでドラマ撮影のリハーサル中にデータが届いたんですけど、こっそり抜けてヘッドフォンで聴いてみたら、あまりにイメージ通りの出来だったもんで、ホロホロと涙が出てきて……全然そんな歌ちゃうのに(笑)。
──リミックスのイメージも藤井さんから指示されるんですね。
ついついいろいろ言いそうになるんですけど、A&Rから「リミックスというのは本来、その人の作品が好きだからお願いするのであって、お任せするものなんですよ」ってアドバイスをいただいて。なので最初はざっくりと「夜の早見優さん」というテーマだけ伝えて、連絡くださった方にはさらに詳しく説明しました。サブタイトルはおのおのに考えていただいたんですけど、「GET UP」の「dawn on the river mix」とか、繊細な感じがあっていいですよね。
──「夏色のナンシー」はリアレンジが施されたバージョンになります。
この曲は新たに録り直すことが決まってました。今回のリミックス曲の中では、一番密にやりとりしたのがSeihoさんでしたね。曲を一度解体したりして、すごく難しかったそうで。イントロがなかったり、2コーラス目が終わったあとのサビだと「恋かな」のあとの「Yes!」がなくなってて驚きました。サブタイトルも「Redefined by Seiho」っていう“新定義”みたいなタイトルを付けてくれて、すごいなと思いました。
──リミックスした3曲のボーカルは、オリジナルバージョンをそのまま使用したんですよね?
そうです。ボーカルのマスターが残っているというのはすごいですよね。当時早見さんが所属されていたトーラスレコードさんはもうないので、今は事務所がマスターテープを管理されてるそうです。
どんな場所にいても異物感しかないんです
──最初におっしゃっていた「照れ」は克服できましたか?
まだありますけど、今さら「照れてる」って言うのもズルいし、やってるってことは「好きなんでしょ?」って話ですからね。でもお笑いも音楽も、自分はどんな場所にいても異物感しかないんです。例えばこうしてお話をするにしても、テレビや舞台の仕事をしながらCDを出して、しかも早見さんのプロデュースをするって言ったら「ど、どういうこと?」ってなりますよね(笑)。それでもどんな活動でも、僕とすっごく真剣に向き合ってくださる方がいらっしゃるんです。
──音楽の現場にもそういう方がいたと。
はい。吉田豪さんやRHYMESTERの宇多丸さん、tofubeatsさんが「もう1回歌いませんか」って言ってくれたし、ミッシェルさんも「ライブをやろう」って誘ってくれて。さらに制作で力を貸してくださった西寺郷太さんや冨田謙さん、エンジニアの兼重哲哉さん、ライブを観に来てくださったお客様……応援してくれる人がたくさんいて、本当にありがたかった。それでもう一度、精一杯やってみようって思ったんです。去年発表したアルバム「Coffee Bar Cowboy」(参照:藤井隆「Coffee Bar Cowboy」特集 藤井隆×西寺郷太(NONA REEVES)対談)は「笑う人は絶対いるからそれはしょうがない、受け止めてくださる方にきちんと向き合おう」って思いながら全力で取り組んだんですけど、すごくうれしいお言葉や反応を頂いてとても驚きました。「Delicacy of Love」は「Coffee Bar Cowboy」を聴いてくださった方には、絶対手に取っていただきたいですね。
──責任を持って音楽活動に取り組んでいらっしゃるわけですね。
賛否の“否”が怖いです(笑)。自分だけの“否”はあって当然ですが、早見さんを巻き込んでいる「Delicacy of Love」の“否”は少ない方がありがたいですね(笑)。
──今後の活動も楽しみです。
そうですね。まだ動き始めたところですけど、レーベルメイトを増やしていって、SLENDERIE RECORD主催イベントもやってみたいです。
- 早見優 ニューアルバム「Delicacy of Love」2016年8月24日発売 / 2000円 / よしもとアール・アンド・シー / YRCN-95260
- 「Delicacy of Love」
- Amazon.co.jp
収録曲
- 溶けるように kiss me
- 誘惑光線・クラッ!(DE DE MOUSE back to night mix)
- GET UP(APOTHEKE dawn on the river mix)
- Caribbean Night(okadada "love is the destiny" remix)
- 夏色のナンシー(Redefined by Seiho)
- 恋のブギ・ウギ・トレイン
- 藤井隆 DJミックスアルバム「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」2016年7月13日発売 / 2500円 / よしもとアール・アンド・シー / YRCN-95259
- 「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」
- Amazon.co.jp
収録曲
- アイモカワラズ
- ディスコの神様 feat. 藤井隆(Carpainter remix) / tofubeats
- YOU OWE ME(Radio Edit)
- I hold you tight
- 幸福インタビュー
- 素肌にセーター
- 未確認飛行体
- 赤と黒
- Socket
- 代官山エレジー
- I'M IN with YOU
- 究極キュート
- discoball
- make over feat.乙葉(On The TAKASHI ver.)
- SAVE ONESELF
- STAR BRIGHT LOVE
- わたしの青い空
- I just want to hold you(RAM RIDER REMIX)
- T&T Remix version / T&T(島田珠代・藤井隆)
- 1/2の孤独
- 月と砂漠と
- タメイキ
- 未来-Sex-
- drive me crazy
- 地球に抱かれて
- Sa ら Sa
- ある夜 僕は逃げだしたんだ
- OH MY JULIET!
- Quiet Dance(TAKASHI SOLO BPM124ver.)
- ナンダカンダ
藤井隆(フジイタカシ)
1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開した。その後さまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」、同年10月には初のベストアルバム「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL」を発表。2016年7月には初のDJミックスCD「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」をリリースした。8月24日にSLENDERIE RECORDより発売した早見優21年ぶりの新作「Delicacy of Love」ではプロデュースを担当している。